十代の性典 | シネマ、ジャズ、時々お仕事

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日々の生活のメモランダムです。

1953年 大映 監督 島耕二 脚本 須崎克弥、赤坂長義
(あらすじ:ネタバレあります)
かおる(沢村晶子=後に美智子)たち高校3年の女生徒は性教育の授業中。ふと校庭に目を走らした沢村は体育授業中の下級生の英子(若尾文子)と目が合った。その体育を生理中で見学していた房江(南田洋子)は気分が悪くなり、無人の教室へ。机上に置かれた若尾の制服のポケットから、南田は無意識のうちに財布を抜き取ってしまうが、後をつけてきた同級生(久保明)に見咎められた。久保は口止め料代わりに南田にキスを迫ったが、騒ぎを聞きつけて教師が現れ、南田、若尾らと共に説諭される。被害者の若尾が説諭されたのは財布の中に匿名のラヴ・レターがあったからだ。だが、先輩・沢村に同性愛的感情を抱く若尾にとってはいい迷惑。やがて、送り主の工藤(江原達怡)が名乗り出たが、若尾は相手にしない。だが、沢村には芸大生の新田(長谷部健)という親公認のBFがいた。ある日、若尾は沢村と長谷部とのデート現場を目撃し、大ショックを受ける。その長谷部は芸大仲間(北原義郎、品川隆二ら)とブルジョアの娘・麻子(津村悠子)の部屋に屯していた。津村は長谷部に気があるようだが、長谷部は沢村のことしか眼中にない。だが、沢村にはかつてレイプされたことがトラウマになり、長谷部の求愛を受け入れることが出来なかった。南田は万引き事件の後、登校しづらくなり、繁華街を徘徊中に1万円の入った封筒を拾う。貧しい父子家庭でその日の食事代にも事欠く南田は、その中から1千円を電気代として使ってしまい、罪の意識に苦悩する。南田の父親(東野英治郎)は、家庭訪問に来た教師から万引き事件の顛末を聞き、二度と家に入れないと激怒。物陰からその様子を窺っていた南田には帰る家がなくなってしまった。やむなく、彼女は親友で魚屋で働く町子(小田切みき)を頼り、おでん屋に住み込んで働くことにする。1千円を前借し、拾った金を全額、警察に届けるつもりだ。一方、長谷部は沢村との仲を進展させようと、彼女を芸大仲間との諏訪湖へのスケート旅行に誘う。その朝、逡巡した沢村は、結局、若尾や江原とテニス・コートへ。だが、彼女の浮かない表情を見た若尾の励ましで、遅れて、諏訪湖へ向かう。沢村の出現に大喜びの長谷部に、津村は冷たい視線を送っていた。夕刻、山荘に戻った沢村の着替え姿を見て、長谷部は欲情し、彼女を抱きしめようとした。その瞬間、過去のトラウマが蘇り、彼女は外に飛び出す。慌てて後を追おうとした長谷部を津村が制止し、愛を告白して身を投げ出した。夜になっても沢村は戻らず、長谷部たちの必死の捜索も空しく、翌朝、凍死体で発見される。うなだれる長谷部に牧師を務める沢村の父(千田是也)は、自殺に至るまでの心境がつづられた沢村の日記を差し出した。娘の心の闇に気付かなかった責任は私にもあるという千田は、長谷部、若尾と共に沢村の冥福を願って祈りを捧げた。遅れて教会に現れた津村は若尾に、山荘で拾った沢村の十字架ペンダントを差し出した。4月、今度は新3年生になった若尾たちが性教育を受けることになった。若尾の胸元には沢村の形見である十字のペンダントが光っていた。
(感想)
「十代の性典」は自他共に認める若尾文子の出世作ですが、「性典女優」というレッテルを貼られたことがよほど不本意だったのか、大女優となってからの彼女に対して「性典」の2文字はNGワードとなり、インタヴューなどで下手にこの映画の話題に触れると、怒って帰ってしまう…という噂がまことしやかに語られるようになりました(藁)。実際、4本撮られたこの「十代の性典シリーズ」、ヴィデオにもVTRにもならず、白黒スタンダード作品ということもあって名画座にもめったにかからない…否、若尾文子が上映許可を出さないんじゃないか、ということは若尾ちゃんが他界しない限り、スクリーンでは観られないんじゃないか(苦笑)、とまで言われてきた作品だったのですが、今回、めでたく彼女の存命中にもかかわらず(ハハハ)、神保町シアターの「乙女映画特集」で観ることが出来ました。私もスクリーン初見、16ミリ・プリントの状態はまぁまぁといったところで、傷や欠落は少ないのですが、古い大映作品特有のサウンドトラックの劣化が目立ち、音声には終始、ジーっというヒス・ノイズが入る状況でした。
さて、この映画、実は若尾ちゃんのクレディットは、沢村晶子、津村悠子に次ぐ3番目、彼女の次が南田洋子という序列。ストーリー的にも、特定の主演を立てるという感じではなく、島監督もほぼ完全に東京撮影所の若手女優陣のグループ劇的な撮り方をしています。しかし、出番はそれほど多くないものの、若尾文子の可愛らしさは他の3人とは段違い! ほっぺたぷくぷくで、歯並びを矯正する前の愛くるしい美貌もさることながら、「もう、おねえさまったら!」という舌足らずの台詞が男心を直撃(ハハハ)。「も・おーん、お・ねーさま・あ」という、男心を蕩かせる後寄りアクセントはこの時点で既に全開です。封切後、彼女が瞬く間にアイドル女優の座に昇りつめて行ったのもむべなるかな。ある意味、彼女以上に期待されていた南田洋子が日活の引き抜きに応じて早期に大映を去ったのも、このまま大映にいては絶対に若尾ちゃんの上には立てないことを悟ったからではないでしょうか。もっとも、せっかく移った日活でも、松竹からやってきた北原三枝や芦川いづみ、それに子役から台頭してきた浅丘ルリ子という、美人女優に囲まれて、B級映画に出番を追いやられてしまうことになったのですが。
第一クレディットの沢村晶子(後に美智子と改名)は、物語の後半、スリップ姿になって胸の谷間をアップにするという、当時としては最大級の露出に挑戦していますが、若尾ちゃんオーラに抗することは出来ず、続編では出番なし子、結局、短期間で女優を辞めてしまったようです。この人、ちょっと見久我美子を彷彿とさせるなかなかの美人で、演技も新人としては上々の出来だったと思うのですが、まぁ、時代が味方しなかったということでしょう。同じことは、その沢村晶子の恋人役・長谷部健にも言えます。細身の二枚目で、北原義郎や品川隆二を差し置いて、目立つ役柄を宛がってもらっているのですが、短期間で脱落。後輩の川崎敬三とキャラがダブることもあって、居場所がなくなったのかもしれません。何でも、川崎敬三は東京撮影所長だったラッパ・ジュニアのお気に入りだったとか。男子生徒役の久保明と江原達怡は、その後、共に東宝に移って、青春映画で活躍することになります。
この映画、脚本が現場で大分手直しされたのか、gooのデータベースにあるあらすじと、本編のストーリーがかなり違っています。南田洋子は、1千円のカタに夜の街で春を売ることもなく、おでん屋の住み込み女中になって、前借に成功、負の遺産を全て帳消しにしてしまいますし(藁)、津村悠子は沢村晶子の自殺の後、体調を崩して自室に引きこもりますが、長谷部健の子供を妊娠したということは明示的には語られず、彼女は沢村の葬儀にも平然と(しおらしそうな顔はしていましたが(ハハハ))顔を出して、千田是也たちに詫びを入れています。恐らく、初稿段階では「性典」のイメージを出すために、ことさらエキセントリックなストーリーを考えていたものが、現場ないし会社上層部の意見で、かなりマイルドなものに改訂されたのではないでしょうか。こういうことは、やはり、実際に本編を見てみないとわかりませんからねぇ。というわけで、残るシリーズ3作についても、早期のスクリーン上映希望。