1972年 松竹 監督 井上梅次 脚本 井上梅次
(あらすじ:ネタバレあります)
5メイツのリード・ヴォーカル、リル丘野(范文雀)が歌うライヴ・ハウスの楽屋で友人の花絵(槇摩耶)が自殺を図った。一命を取り留めた槇は、父親・加藤博士(土紀洋児)が自分と清水(加島潤)との結婚に反対していると訴えた。加島の父親は土紀と製薬会社の研究所で所長・副所長との関係だが不仲だった。土紀は槇に経営コンサルタント・松村(巽千太郎)との縁談を推しているという。范は女たらしの巽を誘惑して証拠写真をネタに縁談を壊そうと計画。巽が屯しているナイトクラブへ。そこには巽がホステス・アケミ(赤座美代子)と別れ話の真っ最中。赤座は「殺してやる」と范に捨て台詞を吐いてその場を去った。首尾よく巽のマンションに入り込んだ范は、裸にされる寸前、写真の隠し撮りに成功して、ほうほうの体で逃げ出した。だが、翌朝、槇からの電話で范は巽が殺されたことを知る。間抜けな刑事・旗(森次浩司=後に晃嗣)をだまして犯行現場に潜入した范は、加島が石膏像で殴られた後に、絞殺されたことを知る。だが、そこに安本警部(藤村有弘)が現れ、范は追い出される。しかし、巽と一緒にマンションを訪れたことがわかり、范は警察に逮捕されてしまう。5メイツのメンバー(山村圭二、岡田光弘、伊原洋一、仲子大介、朝倉宏二)らは護送の隙を狙って范を逃がし、彼女は通りかかった私立探偵・沼野(入川保則)の車で逃亡。入川の話から、巽が産業スパイであり、ライヴァル会社課長(村上不二夫)から5千万円で土紀から情報を引き出した後、横恋慕した槇との結婚を土紀に承諾させようと、今度は情報漏洩をネタに強請っていたことを知る。范は入川の伝手でストリップ小屋の支配人(柳沢真一)に小屋の楽屋に匿われた。小屋に捜査にやってきた森次は、踊り子に化けた范にまんまと騙されてしまう。その晩、何者かに襲われた范は入川に助けられ、男らしいその態度に惚れ込んだ范は彼と唇を重ねてしまう。范は巽のマンションに赤座が入居し、部屋探しをしていることを知り、ある晩、部屋に忍び込んだが、そこに森次が出現。慌てて飛び込んだドレッサーの中には赤座の刺殺体があった。やがて、土紀と加島が相次いで自首したが、2人とも石膏像で殴ったとしか証言せず、真犯人ではないことがわかる。范は村上が真犯人を知っていると考え、ライヴ・ハウスに彼を誘い出したが、彼が犯人の名を口に出そうとした瞬間、何者かが照明を消し、その隙に村上も刺殺されてしまった。范は、彼女に惚れた森次から貰った振り子時計を見ているうちに、巽の部屋の振り子時計が狂っていたことを思い出した。巽が土紀から入手した秘密書類は時計の振り子の中にある。范は入川に連絡したその足で巽の部屋を訪ねたが、既に時計は何者かに持ち去られていた。愕然とする范。だが、一味のトラックの荷台には張り込み中の森次が潜り込んでいた。一味は鹿島槍の山荘へ。森次の連絡で遅れて山荘に到着した范は森次と秘密書類の奪還に成功したが、一味に見つかってしまう。一味の首領は何と入川だった。すべては金と情報を独り占めしようとする彼の陰謀だった。森次と共に山荘の柱に范は縛り付けられていたが、縄抜けの妙技を持つ森次は難なく縄をほどき、得意のスキーで脱出。入川ら追っ手に得意の空手と柔道で奮戦したが、何せ多勢に無勢。しかし、そこに5メイツのメンバーが到着。入川ら一味は一網打尽となる。一件落着に喜ぶ警察署次長(フランキー堺)の眼前で范は森次との婚約を宣言。場所柄もわきまえず熱いキスを交わす2人に藤村は苦り切るばかりだった。
(感想)
范文雀は初期の「プレイガール」(12チャンネル)に“ハン・ザ・摩耶”とかいう珍妙な芸名で顔を出していたお色気要員の添え物女優だったのですが、スポ根ドラマ「サインはV」(TBS)のジュン・サンダース役でレギュラーを掴むと一挙に大ブレーク。続く「アテンション・プリーズ」(同)でも唯一、連続してレギュラーに起用され、今をときめくアイドル・スターに躍り出ました。これら番組のスポンサーだった不二家もチョコレートのCMに彼女を起用。膝上30センチ近いのではないかと思われる超ミニスカート(その頃はマイクロミニなんて言葉はありませんでした)でチョコレートを口に咥えていた彼女の艶姿を覚えている方も多いと思います。歌手デビューも果たした彼女は、しばらくはTVドラマのレギュラーも絶えず、映画界にも目を付けられて、主演映画「可愛い悪女シリーズ」を撮ることになりました。本作はそのシリーズの2本目で、彼女にとっては最後の劇場公開主演映画となりました。というのは、翌年、彼女はTVドラマで共演した寺尾聡と電撃結婚。アイドル人気が一挙に冷却してしまい、彼女をブラウン管で見る機会もあっという間になくなってしまったからです。寺尾との結婚生活は、結婚に対する周囲(とりわけ宇野重吉を始めとする寺尾の親族)の反対もあって、短期で破綻。再び芸能界に舞い戻ってきた彼女は、多岐川裕美との「さそり」やTV「Gメン75」などで印象的な役柄を演じていますが、結局、二度と主役スターの座にカムバックすることは出来なかったからです。当時の寺尾聡は、親の七光りでTVドラマの脇役として、森川正太や赤塚真人と同格の冴えない「下宿人役」を演じる程度の俳優で、私も「なぜ、范文雀ほどの女優がこんなチョイ役と…」と思ったほどです。それに、民藝の重鎮・宇野重吉を父親に持つ御曹司と広島の中華料理屋の娘の結婚には軋轢も多かったのでしょう。とはいえ、プロレタリアート演劇の民藝を主宰する宇野重吉が「家柄が違う」と結婚に反対したのいうのは、とんでもないアイロニーですが(ハハハ)。生活的にも困窮したのか、短い結婚生活の末期に、寺尾・范夫婦は「バファリン」のCMに揃って出ていました。髭面で下を向いている寺尾に范がバファリンを飲ませるそのCM、何か見ているだけで寂しくなるような生活感が滲み出る雰囲気だったことを覚えています。まさか、この寺尾聡が「ルビーの指輪」で芸能界の大スターに躍り出るとはねぇ。
さて、彼女の唯二の劇場公開主演作「可愛い悪女シリーズ」ですが、いずれも大スター主演作の併映作品(1作目が岩下志麻・浅丘ルリ子の「嫉妬」、2作目が田宮二郎・渡哲也の「追いつめる」とのカップリング)で、典型的な低予算B級映画でした。加えて、監督が予算厳守の井上梅次ということで、初めから「TVドラマの拡張版」と割り切った演出(ハハハ)。彼女とモロボシダンこと森次浩司、それに入川保則、藤村有弘辺りまでが顔と名前が一致する人(藁)。それ以外は、ほとんどが松竹の大部屋で、正直、誰が誰やらよくわからない状況ですが、井上監督自らがペンを執った脚本が、初めから真犯人がミエミエのわかりやすい展開(ハハハ)になっているせいもあって、謎解きの点で知らない役者ばかりが出てくることがマイナスになることはありません(爆)。まぁ、范文雀の下着姿が3回も出て来るし、ダレそうになると、突然に彼女がストリップ小屋に現れて、裸の踊り子さんに囲まれるなど、後の「2時間ドラマ」で、9時55分になると畑中葉子(ないし泉じゅん)のハダカ(!)を出すという恒例のパターンを確立させた井上梅次監督の面目躍如という感じの作品ではあります。私的には、決して嫌いな映画ではありません(ハハハ)。
范文雀は、アイドル人気の最盛期ということもあって、堂々と主役の演技をしていますが、今日の眼で見ると、やはり主役としては華が今ひとつ足りないかなぁ、という感じを受けます。良く似たキャラの梶芽衣子辺りと比べると、観客を惹き付けるオーラが少し不足気味なんですよ。それと、3回も出て来る歌唱シーン、メロディーを外さないように恐る恐る歌っているという感じの歌いっぷりは、21世紀の今の耳で聴くのは少々しんどいです(藁)。
警察署次長役のフランキー堺の特別出演は、恐らく、地味な俳優ばかりでは客を呼べない、と判断した井上梅次監督が慶應閥で依頼したのでしょう。どうせなら、彼のドラム演奏シーンも見たかったなぁ。