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1966年 東宝(宝塚映画) 監督 佐伯幸三 脚本 井手俊郎
(あらすじ:ネタバレあります)
岐阜羽島近郊の田舎町にある中学校に赴任してきた伊能琢磨(加山雄三)は小使いの石黒(沢村いき雄)の案内でいきなり芸妓の新太郎(星由里子)と彼女の姉貴分・才太郎(池内淳子)と知り合う。池内は胃痙攣の持病持ちで、その発作に出くわした加山は、いきなり髪の毛をむしられてしまう。沢村に紹介された下宿には、妙に色っぽい出戻り娘・三保子(稲野和子)がいた。稲野がこれ見よがしに見せ付ける媚態に、真面目人間の加山はどぎまぎする。翌朝、初出校した加山は、いきなり校長(東野英治郎)のスリッパを無断借用してしまう失態を演じた。教頭(山茶花究)は、校長は腹が小さいと陰口を叩く。どうやら、校内には校長派と教頭派の派閥対立があるらしい。親元から届いた鰹節を手に東野宅にご機嫌伺いに行った加山は、誘われるままに池内の経営する置屋へ。しかし、PTA会長・花山(田崎潤)が現れると、小心者の東野は慌てて押入れに隠れてしまう。実は田崎は池内の旦那なのだが、それを知らない東野は池内に惚れていた。しばらくして、校内では体罰肯定派の体育教師・野口(渥美清)や坂本(久保明)と否定派の東野とが対立。加山は体罰否定派に立ったが、ある日、授業中に教え子の玉田(二瓶康一=後の火野正平)が隣町の中学校生徒に襲撃され、喧嘩を止めるために彼らを叩きのめしてしまう。東野、山茶花に説諭された加山だったが、渥美は加山に親近感を抱くようになる。一方、加山は同僚女教師・山中(原恵子)が渥美の姪であることを知って驚く。加山は原に自分の転任は前任校での体罰が問題化したためだと明かした。彼の体罰反対論は、若い久保に自分の二の舞を演じて欲しくないからだった。だが、寄り添う2人の姿を見た久保は、想いを寄せる原と加山の仲に嫉妬し、ある晩、泥酔して加山に殴りかかる。やがて、校医(浜村純)が池内の部屋から密かに持ち出した東野のラヴ・レターが山茶花の手に渡る。山茶花は噂を町内に流し、東野の排斥を狙った。しかし、田崎は教職員を集めた宴会を主催し、その場で東野を擁護する論陣を張って騒動を収めた。一方、二瓶の姉・艶子(沢井桂子)から加山は恋愛相談を持ちかけられ、思い切って相手の男の胸に飛び込めとアドヴァイス。道で寄り添う2人の姿を見かけて、今度は星が大嫉妬。泥酔して池内を困らせる。勝手に原が思いを寄せる相手は自分とうぬぼれていた加山だったが、何と沢井は彼のアドバイス通り他の男との結婚を決めてしまう。さらに、稲野の再婚が決まり、加山は下宿も追い出される体たらく。渥美の家には待望の女児が誕生し、東野と山茶花の仲も修復された。加山の後押しで、久保と原の交際も順調に進み始めた。結局、取り残されたのは加山一人。だが、岐阜羽島駅で新婚旅行に旅立つ原を見送った加山は、駅前で星の車を見かけた。パンクで見送りに間に合わなかったというのだ。星に加山が失恋を告白すると、なぜか星の顔が綻んだ。やがて、カーラジオから流れるツイストに合わせて、車外に出た星と加山は夢中になって踊り始めた。
(感想)
一言で言えば、加山雄三主演の「坊っちゃん」です。製作サイドも坊っちゃんのイメージを強調させようとしたのか、下宿での加山に妙に古風な和装をさせたりしていましたが、後半になると息切れしたのか、ギターを抱えて自作の歌を口ずさむ「若大将」に逆戻りしてしまいましたぁ(ハハハ)。5人もの美女(池内淳子、星由里子、稲野和子、沢井桂子、原恵子)に想いを寄せられながらも、結局、最後に残るのは星由里子というのも「若大将」でのお約束通り。ただ、最後の20分で次々に女性たちが加山の許を去って行くという展開は、「若大将」では見られないもので、少しびっくりしましたが(藁)。
5人の女性の中で一番綺麗なのは、文句なく、当時、美人女優としての最盛期にあった星由里子でしょう。「春らんまん」(68年)なんか、彼女が綺麗過ぎて、いささかトウが立った司葉子や白川由美、新珠三千代などの「往年の美人女優」には気の毒な結果になったほどですから。しかし、私的には口元の黒子がいやらしい「お色気ボンバー」こと稲野和子の媚態を推したい(ハハハ)。こんな熟女に、いきなり下宿の布団の上で仰向けになられて、「貴方の寝る布団でしょ、こっちへ来て」なんていわれた日には、加山雄三でなくても胸ドキドキものでしょう。この稲野、当時の東宝作品にはお色気要員のチョイ役でしばしば起用されていました。京塚昌子の経営する居酒屋の看板娘(やっぱり出戻り(藁))で、酔った加山とエッチしちゃったのは「兄貴の恋人」(68年)だったですかね。あの映画では洗い髪風にナチュラルに垂らした髪型と和服とのミスマッチが、これまた妙にエロエロでした。この人、別に肌を露出させるわけではないのに、とにかく存在そのものが「エロス!」という感じですねぇ。古風な顔立ちにミスマッチなアニメ声の組み合わせだけで、ご飯3杯は行けます!(ハハハ)。 このエロスな佇まいは絶対にキョービの女優さんには出せない味でしょうねぇ。
暴力系体育教師(藁)役の渥美清の東宝出演は珍しい。契約的にはちょうど、東映から松竹へ移籍する過渡期に当たります。まぁ、東宝本体ではなく傍系の宝塚映画ということで、東映ないし松竹と話が付いたんでしょう。後年、「寅さん」のイメージが染み付いてしまい、健康上の理由もあって他の役を演じる機会を逸してしまった彼ですが、この時期にはTVドラマシリーズ「泣いてたまるか」でさまざまな役を週変わりで演じており、芸域の広さは折り紙つき。本音では寅さん以外の役も演りたかったんじゃないですかねぇ。
脇役では、子役時代の火野正平が見事な演技を見せています。坊主頭の17歳であるにもかかわらず、台詞回しも、妙にふてぶてしい演技態度も、正に後の火野正平そのもの! 星由里子に誘われてバイクで郊外に出掛けたことを渥美清に咎められ、何食わぬ顔で「餅喰っただけ」と答える彼のアップに「嘘こけ!」と突っ込みたくなったのは私だけではないでしょう(爆)。
あまり上映機会のない作品ですが、コメディーとしてなかなかの佳作。封切当時の評判も良かったようで、翌年「続・何処へ」という(ベタなネーミングだ!)続編が森谷司郎監督で撮られていますが、そっちの方では「若大将」同様、星由里子が酒井和歌子に交代。火野正平の代わりには、後に声優として有名になる古谷徹が顔を見せています。