Roses of Picardy(ピカルディーの薔薇) | シネマ、ジャズ、時々お仕事

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Rose of Picardy と言えば、デイヴィッド・オースティンが開発した新作の、一重のイングリッシュ・ローズですが、Roses of Picardy の方は1916年、第一次世界大戦真っ只中のイギリスで生まれたスタンダード歌曲です。
元々、この曲は、フランスに駐在していたイギリス軍将校フレデリック・ウェザリーが書いた歌詞に、イギリスの作曲家ヘイデン・ウッドが曲を付けたものです。ウェザリーは世界大戦中、北部フランスはピカルディー地方に長期間逗留し、現地の未亡人と恋に落ちたのですが、やがてイギリスに帰国することになり、その別れを惜しんでこの詞を書いたと言われています。しかし、「季節が過ぎて薔薇が枯れ、2人の道が離れても、ピカルディの薔薇はいつまでも心の中に」という歌詞は、故郷から遠く離れた異国に駐留する兵士たちによって歌い継がれているうちに、不倫の別れという意味合いが薄れ、むしろ残してきた妻や恋人に対する想いに転化していき、やがて、数少ないヨーロッパ生まれのスタンダード曲として、スウィング時代のアメリカに上陸するに至ったと言われています。
恐らく、オリジナルではバラッドとして歌われることを想定していたのでしょうが、行軍中の兵士たちによって愛唱されていくうちに、だんだんテンポが上がり、アメリカに上陸した頃には、一般にスウィンガーないしミディアム・バウンス辺りで歌われ、あるいは演奏されることが常になったようです。

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以前にも「私的名盤」で紹介したことがあるフランキー・レインの「Jazz Spectacular」は、バック・クレイトンらNYの腕利き中間派ジャズメンの好サポートを得て、ジャズ・シンガーとしてのレインの真骨頂を示した傑作だと思いますが、ここでレインは完全にスウィンガーとしてこの曲を取り扱いながら、歌詞の持つ哀愁感を少しも損なっていない点が素晴らしい。この辺りが、スウィフト・テンポで歌う場合、原曲を単なるフェイクの素材にしてしまい、歌詞の意味や味わいをないがしろにしてしまう、いわゆる「ジャズ・シンガー」との大きな違いだと思います。これだけの名盤を長年、廃盤にしているソニーの担当者は何を考えているんでしょうかねぇ。

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私がご贔屓のバディー・グレコも、同様に、スウィンガーとしてこの曲を歌っています。オリジナルはCBS(現SME)の傍系レーベル・エピックに入れたアル・コーン指揮のビッグ・バンドとの共演盤「Let's Love」に収録されていますが、現在、このオリジナル盤を入手することは難しいので、16曲入りのベスト盤シリーズ「16 Most Requested Songs」として10年ほど前に発売されたCDを推薦しておきます。このベスト盤、いくつかの曲については、オリジナル盤とミックス違い、あるいは、ひょっとしたらテイク違いのものが含まれているようで、熱心なグレコ・コレクターには見逃せない1枚でもあります。私的には、「Let's Love」の直前に、同じアル・コーンの編曲・指揮によるトロンボーン・アンサンブルをフィーチュアして録音した「I Like It Swingin'」がグレコの最高傑作だと思うのですが、どういうわけか、近年、再発が進むエピックのグレコ盤の中でも、これら2枚の存在は忘れ去られてしまっているようです。収録時間を考えると、2枚を2 in 1スタイルでカップリングすることも十分に可能だと思われるのですが…。

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ところで、この曲は、ヨーロッパ全体でも愛唱されたようですが、とくにフランスでは「DANSONS LA ROSE」という題名でフランス語の歌詞が付けられ、イヴ・モンタンの十八番として広く知られるようになりました。後年のステージでは、彼はこの曲を愛妻、シモーヌ・シニョレに捧げるナンバーとして歌うことがお約束になったようです(ハハハ)。有名な81年のオリンピア劇場ライヴでは、少しテンポを落しつつ、歌詞を一語一語噛み締めるような歌唱を聴くことが出来ます。初めてこのライヴを聴いたときには、この曲はスウィンガーとして歌われるのが当然だと思い込んでいたので、「どこかで聴いたことがある曲だなぁ」と疑問を覚えてしまったほどです(藁)。このライヴ、NHK-BSで放映されたこともあり、その際の映像がネット上で出回っているようです。極上のエンターテインメントをぜひご堪能下さい。