ある殺し屋の鍵 | シネマ、ジャズ、時々お仕事

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1967年 大映 監督 森一生 脚本 小滝光郎
(あらすじ:ネタバレあります)
脱税事件の容疑者・朝倉(内田朝雄)は仮釈放となり、公判対策として政財界の暗部を暴露する朝倉メモを作成中。係わり合いを恐れた政界の黒幕・方城(山形勲)は、子飼いの土建会社社長・遠藤(西村晃)に内田の暗殺を4千万円で依頼。西村は1千万円をピンハネして3千万円で暴力団組長・石野(中谷一郎)に下請けに出し、中谷は子分・荒木(金内吉男)に2千万で孫請けさせた。金内は凄腕の殺し屋・新田(雷蔵)に1千5百万円で殺しを持ちかけたが、雷蔵は拒否。雷蔵の表の顔は日本舞踊の師匠。内田の情婦で芸者の秀子(佐藤友美)は偶然にも弟子の1人だった。佐藤は雷蔵に気があるが、雷蔵は素知らぬ振り。結局、中谷の出馬で雷蔵は殺しを2千万円で請負い、依頼金のピンハネに失敗した金内は浮かぬ顔。内田はホテルの一室に篭り、周りは私服刑事が取り囲んでいた。雷蔵は地下のプールで内田が泳ぐ時間を狙った。プールで佐藤と出くわすハプニングがあったものの、雷蔵は水面にビーチボードを浮かべて寝そべっていた内田の心臓をを水中から一刺し、即死させる。だがホテルの外では待っているはずの金内がいなかった。やむなく雷蔵は一人で用意されたクルマに乗って脱出を図ったが、ブレーキが利かない。中谷と金内の裏切りを知った雷蔵は、崖から転落寸前に脱出。その転落事故の新聞記事を読んだ中谷は死体が見つかっていない点に一抹の不安を覚えたが、金内は一笑に付した。その頃、雷蔵は薄暗い稽古場で一心不乱に日本舞踊の稽古を続けていた。雷蔵は、金内が佐藤に惚れていることを知り、彼女を使って金内をおびき出した。金内を痛めつけて中谷を組の事務所に誘き出した雷蔵は、あり金を根こそぎ奪った上、黒幕の名を詰問したが彼らは口を割らない。雷蔵は自分がやられたのと同様の手口を使い、中谷と金内の乗ったクルマを崖下に突き落として炎上させた。一方、西村は内田の死後、佐藤にレジデンス(マンション)を買い与え、二号にしていた。雷蔵は内田の顧問弁護士・菊野(伊東光一)を洗ううちに、彼が西村経営の土建会社に出入りしていることを掴む。一方、西村も佐藤の話から雷蔵が殺し屋であることに気付き、身辺の警戒を強める一方、佐藤を囮に使って雷蔵を踊りの会に呼び出し、部下を使って雷蔵を狙撃させたが、まんまと逃げられてしまう。西村が佐藤のマンションを足繁く訪ねていることを知った雷蔵は、ある晩、警護の目をかすめ、屋上からロープを伝ってマンションのバス・ルームに侵入。西村を脅して金を引き出し、黒幕の名を詰問しようとしたが、西村は口を割らないばかりか、隙を見てその場にあったカミソリで首を切って自殺してしまう。だが、その時、伊東から西村宛に電話がかかり、事件の黒幕が山形だったことがわかる。検察の捜査が身辺に迫った山形は、深夜便で欧州に発つ予定だった。空港に向かおうとする雷蔵に佐藤は同行をせがむが、雷蔵は「金でどちらにも転ぶような女に用はない」と言い捨てて、その場を去る。やがて、何かに気付いた佐藤は、どこかに電話を入れているが、何を話しているかはわからない。一方、取材記者に化けた雷蔵は、万歳三唱の際のフラッシュの炸裂に乗じて、山形を針で瞬殺。だが、混乱に紛れて脱出した際に、金を隠したコイン・ロッカーの鍵を落としてしまう。現場に舞い戻った雷蔵は、何とか鍵を発見したが、時間を浪費したために、ロッカーに辿り着いたときには、警官隊がロッカーの捜索を始めていた。佐藤はロッカーに爆弾が仕掛けられているというニセ電話を警察に入れたようだ。雷蔵が望遠レンズで覗き込むと、警官隊は雷蔵のロッカーを空け、中のバッグから金を取り出すところだった。口元に微かな笑みを浮かべた雷蔵は、無言でその場を立ち去るのだった。
(感想)
前作「ある殺し屋」は、元々、増村保造監督が自分で演出するために、白坂依志夫の弟子で、当時、増村監督が監修していたTVの「ザ・ガードマン」などに大量の脚本を提供していた石松愛弘と共作したシナリオが実に良く書けており、演出が時代劇のヴェテラン・森一生に代わっても、その皮肉でクールな味わいが少しも損なわれていない、見事な傑作でした。森監督や主演の雷蔵も手応えを感じたようで、間髪を入れずにこの続編が撮られることになりましたが、スケジュールの都合で増村監督の関与は「構成」にとどまり、脚本は大映東京の専属ライターだった小滝(小瀧とも)光郎が手がけています(原作は正続ともに藤原審爾の短編)。そのせいか、シナリオ・ライターの腕の違いと言ってしまえばそれまでですが、ちょっとストーリーの起伏に乏しい展開に終わってしまっていることが残念。時間軸を交錯させた前作のような工夫もなく、ラストでのどんでん返しもやや先が読めてしまうなど、前作と比べれば星1つくらい減点ですかね。まぁ、それでも、雷蔵の数少ない現代アクション物の佳作として、高く評価されるべき作品であることは事実です。
前作では、雷蔵の寝首を掻こうとする野川由美子と成田三樹夫の小悪党コンビ(藁)が、たまらなく良く、彼らのお間抜け振りが全体のアクセントとなっていましたが、本作では成田三樹夫のポジションに当たる荒木役の金内吉男に成田ほどの存在感がなく、さらに、ストーリーの展開上、前半だけで姿を消してしまうので、後半、雷蔵の前に立ちはだかるのが佐藤友美だけになってしまうのが残念。佐藤友美は得意の日本舞踊を披露する一方、プール・シーンでは黄色のビキニになって見事なプロポーションを見せつけ、堂々のクール・ビューティーぶりを発揮していますが、前作の野川由美子と比較されると、演技力、とくに凄みの点で少々、分が悪いですね。一方、新劇出身の金内吉男は、「マグマ大使」の声を担当するなど、元々、声優畑を中心に活動していたようですが、この60年代後半の一時期は、映画やTVでの「顔を出す」仕事にも意欲を見せていたようで、NHK大河ドラマ「竜馬が行く」でも土方歳三役を演じていました。私にも、耳にこびりついていた「マグマ大使の声」が、大河ドラマから聞こえてきたことに違和感を持った、かすかな当時の記憶があります(藁)。ただ、結局、この転身は成功しなかったようで、70年代以降は、再び、NHKのドキュメンタリーなどでのナレーションが仕事の中心となったようです。その意味で言うと、雷蔵の遺作となった「博徒一代血祭り不動」での、情けない子分役辺りが俳優としての彼の代表的な作品になるんでしょうかね。ただ、この人、声優だけあって台詞の響きが見事過ぎで(藁)、あまり三下ヤクザ程度の小さな役が似合うような人ではないと思うんですが。
プール・シーンでは、雷蔵も水泳パンツ姿になりセミ・ヌードを披露しています(ハハハ)。雷蔵の裸がこれだけ長くスクリーンで見られるのは、64年の「無宿者」以来でしょうか。ただ、その「無宿者」では、大映きっての筋肉派(藁)藤巻潤とトゥー・ショットになっても、それほど見劣りしない、想像以上に筋骨隆々とした上半身だったのに、3年後の本作では、すっかり筋肉が落ちて、やせこけてしまっていることがスクリーンからはっきり見て取れる、ファンにとってはいささかつらいシーンになっているのが残念です。恐らく、この時点では、雷蔵の身体は既に癌細胞に深く蝕まれていたのでしょう。大映上層部も彼の健康状態を危惧したのか、本作の封切以降、「雷蔵はもう現代劇には出さない」ことを決定。シリーズ第3作目の企画を持っていった森監督は撮影所長に一蹴されてしまったそうです。