James Setouchi

2024.9.8

 

法・政治・農業

 

    山田正彦 『売り渡される食の安全』 角川新書2019年8月

 

1 著者 山田正彦 1942年~。長崎県生まれ。早大法学部卒。牧場経営、弁護士、国会議員、農林水産大臣などを経験。現在はTPPや種子法廃止の問題点を明らかにすべく現地調査、講演、勉強会などを行う。著書『タネはどうなる?!』『アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった!』など。(新書の著者紹介から)

 

2 目次 

はじめに

第一章      「国民を二度と飢えさせない」―先人の思いが詰まった種子法はなぜ廃止されたのか

第二章      海外企業に明け渡された日本の農業

第三章      自分の畑で取れた種を使ってはいけない

第四章      市場を狙う遺伝子組み換え、そしてゲノム編集の米

第五章      世界を変えたモンサント裁判

第六章      世界で加速する有機栽培

第七章      逆走する日本の食

第八章      日本の食は地方から守る

おわりに

 

3 内容から少し

 種子法は、1952年制定で、栽培用の種子を採取するためにまく種子となる「原種」と、原種の大もとである「原原種」を栽培・生産し、一般の稲作農家へ供給していくことを各都道府県に義務づけるものだ。都道府県の公的研究機関が研究を行い、予算は国が担う。(24頁)人々の大変な努力の上に、日本では気候や風土に合わせて素晴らしい米が生産され、人々の生活の根幹を支えてきた。が、2018年4月、あっさりと廃止されてしまった。(34頁)結果として、民間企業(外資を含む)が参入して、単一の品種が一律に作付けされることになるだろう。(36頁)

 

 背後にはモンサント社(アメリカ)の政治的な動きがあった。一代限りでしか使えない1品種を売り込み、知的財産権の保護をタテにとって、借金漬けになった農家を大企業に隷属させることが進む。(第二章)

 

 しかも、本丸は自家採種の禁止だった。種苗法を改正し、種子を企業から購入し続けないといけない仕組みにする。(第三章)

 

 実はモンサント社の遺伝子組み換え作物(大豆やトウモロコシなど)は、ラウンドアップ(これもモンサント社)という除草剤に強い。遺伝子組み換え作物とラウンドアップとをセットで売り込んで、モンサント社は急成長した。だが、遺伝子組み換え作物やラウンドアップは体に無害なのか? またラウンドアップに負けないスーパー雑草がすでに出現している。モンサント社はラウンドアップをさらに強化した農薬を開発した。除草剤だけではない。害虫を殺す毒素を組み込んだ作物もある。近年はアジアの米を狙っている。モンサント社だけではなく多国籍アグリ企業は日本をターゲットにロビー活動をして売り込んでくる。ゲノム編集食品は日本で大量に流通している。(第四章)

 

 だが、ラウンドアップの主成分グリホサートは「おそらく発がん性がある」とされ(140頁)、会社の機密文書の暴露もあり、裁判ではモンサント社は次々と敗訴、アメリカやEUではラウンドアップやグやグリホサートは有害とされ禁止される傾向にある。モンサント社はドイツのバイエル社に買収された。対して日本では野放し状態だ。(第五章)

 

 欧米やロシア、韓国では、遺伝子組み換えでなく(NON GMO)・農薬や化学肥料を使わない(ORGANIC)食品への意識が、ここ数年で急激に高まっている。中国は遺伝子組み換え作物の研究はするが流通は制限する。(第六章)日本は遺伝子組み換え食品が大量に輸入され、世界の潮流に逆走している。しかも食料自給率は極めて低い。(第七章)

 

 しかし、日本でも危機に気付き、地方では種子法に変わる種子条例を制定する動きも加速してきた。種子法復活の運動もある。(第八章)

 

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(農学・生物生産・理工系)

山田正彦『売り渡される食の安全』、堤未果『(株)貧困大国アメリカ』、神門善久『日本農業への正しい絶望法』、鈴木宣弘『食の戦争』中野剛志『TPP亡国論』、広中平祐『生きること 学ぶこと』、藤原正彦『若き数学者のアメリカ』・『遥かなるケンブリッジ』、湯川秀樹『旅人』、福井謙一『学問の創造』、渡辺佑基『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』、長沼毅『生命とは何だろう?』、福岡伸一『生物と無生物のあいだ』、池田清彦『やぶにらみ科学論』『正直者ばかりバカを見る』、本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間』・『生物学的文明論』、更科功『絶滅の人類史』、立花隆『サル学の現在』、村上和雄『生命の暗号』、桜井邦明『眠りにつく太陽 地球は寒冷化する』、村山斉『宇宙は何でできているのか』、佐藤勝彦『眠れなくなる宇宙のはなし』、今野浩『工学部ヒラノ教授』、中村修二『怒りのブレイクスルー』・『夢と壁 夢をかなえる8つの力』、植松努『NASAより宇宙に近い町工場 僕らのロケットが飛んだ』、石井幹子『光が照らす未来』、小林雅一『AIの衝撃』、益川敏英『科学者は戦争で何をしたか』、広瀬隆・明石昇二郎『原発の闇を歩く』、河野太郎『原発と日本はこうなる』、武田邦彦『原発と日本の核武装』、養老孟司他『本質を見抜く力』、梅原淳『鉄道の未来学』、近藤正高『新幹線と日本の半世紀』、中村靖彦『日本の食糧が危ない』白石優生『タガヤセ! 日本』、加賀乙彦『科学と宗教と死』