James Setouchi
2026.4.21(火)
『孟子』24 告子章句下9 富国強兵よりも大切なもの
1孟子曰く、
2「今の君に事(つか)うる者曰く、『我、能(よ)く君の為に土地を辟(ひら)き、府庫を充たす』と。
3今の所謂(いわゆる)良臣は、古(いにしえ)の所謂、民の賊なり。
4君、道に郷(むか)わず、仁に志さざるに、之を富まさんことを求む。是(こ)れ桀(けつ)を富ましむるなり。
5『我、能く君の為に与国(よこく)を約し、戦えば必ず克(か)たしむ』と。
6今の所謂、良臣は、古の所謂、民の賊なり。
7君、道に郷わず、仁に志さざるに、之が為に強戦せんことを求む。是れ桀を輔(たす)くるなり。
8今の道に由(よ)り、今の俗(ぞく)を変ずることなくば、之に天下を与(あた)うと雖(いえど)も、一朝も居(お)る能(あた)わざるなり」と。
(語句)
1孟子:戦国時代の儒家。孔子の継承者を自任。
2君の為に土地を辟(ひら)き、府庫を充たす:戦国時代は富国強兵・領土拡張を目指す諸侯が多かった。「土地を辟く」は「侵略する」か「開墾する」か両説ある。安井息軒(江戸時代の儒者。森鴎外に『安井夫人』という小説がある。)は、本節は、前半で富国、後半を強兵を言っているから、「土地を辟く」は「開墾する」が正しい、としている(小林勝人)。
3今の・・、古(いにしえ)の・・:尚古史観(しょうこしかん)であるから、今は堕落していて、古の方が尊いと考えている。 民の賊:人民に対する盗賊。
4桀(けつ):夏王朝最後の王。暴虐だったと言われる。
5与国(よこく)を約し、戦えば必ず克(か)たしむ:仲間の国と盟約を結び(同盟し多国籍軍を結成し)、戦争をすれば必ず勝たせる。戦国時代は群雄割拠だが権謀術数(けんぼうじゅっすう)をめぐらせ合従連衡(がっしょう)して同盟国を作っては戦争を繰り返した。孟子の言論活動はそのような厳しい国際情勢の中で行われたのであって、決して「お花畑」での議論ではない。
7強戦:無理やりに戦争をする。戦争を強行する。
8今の道に由(よ)る:今のやりかたに従う。 今の俗(ぞく)を変ずる:今の悪風を変革する。 一朝:わずか一日。 居(お)る:君主の位に居る。
(訳)
1孟子が言うには、
2「今の君に仕える者が言うには、『私は、君の為に土地を開墾し、王宮の蔵を充たすことができます』と。
3(だが、そのような)今のいわゆる良臣は、いにしえで言えば、人民から盗む盗賊だ。
4君が正しい王道政治の道に向かわず、仁に志してもいないのに、彼を富ませようとしている。これは暴虐で有名な桀王の悪銭を富ませようとしているのと同じだ。
5(また今の臣下が言うには)『私は、君の為に同盟国と軍事同盟を結び、戦争をすれば必ず勝たせることができます』と。
6(だが、そのような)今のいわゆる、良臣は、いにしえで言えば、人民を損なう盗賊だ。
7君が正しい王道政治の道に向かわず、仁に志してもいないのに、彼のために無理矢理の戦争を強行しようとしている。これは暴虐で有名な桀王の悪政を助長しているのと同じだ。
8今のやりかたに従ったままで、今の悪風を変えることがないなら、今の悪しき君に天下を与えたとしても、わずか一日もその位に居続けることはできないのである」と。
(コメント)
今の官僚や政治家は、「経済通だ」「外交通だ」「軍事に強い」など、結局「富国強兵」に役に立つ「人材」であれば出世し、「有能な官僚だ」「仕事のできる大臣だ」などと言われているのだろうか? だとすれば孟子が出てきて「ちょっと待った!」と言いそうだ。
孟子は、肝心なのは「富国強兵」ではなく、君を「仁の王道政治」に向かわせることだが、それをせず、「富国強兵」をするのは、民に対して盗賊行為を行い、かの暴虐な紂王の悪政を助長するのと、同じことだ、と言う。今の世を孟子が見たら、同様に激怒するだろう。人民・民衆から盗賊のように奪ってカネもうけと戦争をするのではなく、「仁の王道政治」をやりなさい。君主を励ましてそうさせなさい。それが臣下(今なら政治家、官僚)のあるべき道だ。
前節と同趣旨。
「民から奪う盗賊」と言うが、奪っている盗賊自身もまた民だったりする。有力な民が無力な民から奪う。だがそれも「仁の王道政治」ではない。
「天下の窮民」である「鰥寡孤独」を大切にせよという孟子の叫び声が聞こえてくる。