読書会資料
グレート・ギャツビー
スコット・フィッツジェラルド
担当:N
20250607
1 フィッツジェラルドの生い立ち
2 気になった・議論したいところ
3 2について調べたこと
4 参考文献
1 フィッツジェラルドの生い立ち
(高橋美知子 「F. Scott Fitzgerald の作品における人種表象」『福岡大学研究部論集』 A:人文科学編 13 (5), 107-113, 2014-01などによる)
スコット・フィッツジェラルドは、1896年9月24日、ミネソタ州セント・ポールに生まれる。
父エドワードは家具職人、アイルランドとイングランドの血を引く、カトリック教徒。
母モリーは実業家のマッキラン家出身、アイルランド系、カトリック教徒。
スコット誕生から2年後、エドワードは失職、ニューヨーク州に引っ越し、エドワードはP&G社(日用品メーカー)で働き始めるが、1908年に解雇される。一家は、セント・ポールに戻り、マッキラン家の援助を受けて暮らすことになる。セント・ポールでは高級住宅地に住み、裕福な友人と交流を持つも、彼らとの経済格差を感じていたフィッツジェラルドは、一生消えることのない劣等感を抱く。
少年期はカトリック系の学校で学ぶ。セント・ポール・アカデミーに入学するが、成績が芳しくなく、1911年ニュー・ジャージ州にある寄宿学校、ニューマンスクールに転校。そこで、シガニー・フェイ神父に出会う。神父はスコットの文学的才能を見出し、それによって本格的な創作活動を始めるようになる。
1913年プリンストン大学に入学。大学時代、ジネヴラ・キングという女性に恋をする。しかし、彼女は社交界でも有名で、裕福な家柄だった。その彼女の家でスコットは、「貧しい男は金持ちの女との結婚を考えるべきじゃない」と誰かが話すのを耳にしたと書き記している。これは後の作品に大きな影響を与えている。
1917年、陸軍入隊のため退学。戦地(欧州)へは行かず、アラバマ州のモンゴメリーで終戦を迎える。この町で後の妻ゼルダ・セイヤーと出会う。
1920年に出版された『楽園のこちら側』が評価され、「失われた世代(ロスト・ジェネレーション)」の一人として活躍していく。
以下省略
・家族を養う力がなく影が薄い父と、風変わりで息子を溺愛した母という歪な家族像
・セント・ポール、プリンストン時代を通して培われた階級意識
・カトリック教徒の家で育ったということ(20世紀前半においてマイノリティとされた、アイルランド系カトリックの文化の中で育ったことは、どのように影響しているか)
2 気になった・議論したいところ(ページ番号は野崎孝訳の新潮文庫版による。版によって頁が違うので注意。)
① アメリカの地域性 ②アメリカの名門大学は ③アメリカにおけるキリスト教
④1920年代のアメリカ ⑤冒頭のトマス・パーク。ダンヴィリニの文 ⑥ふたたびゼルダに ⑦p5父からの忠告 ⑧ジョーダン・ベイカーの容姿 ⑨p21「いま絶好のコンディションなんだから」←何が? ⑩p24トムの人種についての価値観 ⑪ジョーダン「あんたはよろしくカリフォルニアに住んで―」発言の意図は? ⑫p26トムはなぜデイズィを北欧人種だと素直に認めなかったのか? ⑬p35ルイヴィルの純潔の娘時代 ⑭p39緑色の光 ⑮p39灰の谷について ⑮p40 T・J・エクルバーグ博士の眼が意味するものとは? ⑯p61マートル「おまえはいつまでも生きられるわけじゃないぞ・・・」の意味 ⑰p81人を殺したことがある男 ⑱p98七つの徳目 ⑲p112リムジンに乗る黒人を見て、ニックはなぜ笑ったのか? ⑳p124デイズィが持っていた手紙 ㉑p147ギャツビー「いろいろなことをやってきました」彼のしてきたこと、仕事、何で富をなしたのか? ㉒p151デイズィ「なんてきれいなワイシャツなんだろう」デイズィが泣いた理由は? ㉓p152緑色の電灯、緑の灯 ㉔p159ノース・ダコタ州のジェイムズ・ギャッツ ㉕p159緑のジャージー ㉖p160神の子とは? ㉗p169トム「彼女のところは盛大な晩餐会なんだが、やつの知っている人なんか一人もおらんよ」この発言が意味するものは? ㉘p171緑色のカード ㉙デイズィの感じた恐ろしさとは? ㉚p177トムがパーティーの参加者を動物どもと揶揄 ㉛p180ギャツビー「過去はくりかえせない?」→「もちろん、くりかえせますよ!」 ㉜p181春と秋と、年に二度訪れるあの神秘的な・・・ ㉝p182「そこ」とは? ㉞p182「神の心」とは? ㉟p192緑の「海峡」 ㊱p196デイズィの声 ㊲p197緑の革 ㊳p201ウィルスン「どうしても金がいる」なぜ? ㊴p202西部へ行こうとするウィルスン なぜ西部? ㊵p203ニックの考え 人間はしょせん似たり寄ったり、知性の相違、人種の違いといったところで、病人と健康人ほどにも違わないのじゃないだろうか ㊶p213トム「白人と黒人の雑婚」 文明の擁護者としての自負 ㊷p216トム「おれもデイズィを愛しているんだ。」どの口が ㊸p224ニックの30歳の誕生日が意味するものとは? ㊹p227ライト・グリーン ㊺p231身なりの立派な黒人 ㊻p236ギャツビーのピンクの洋服 ㊼p240デイズィの部屋から流れるピンクの光 ㊽良家の娘デイズィ デイズィとギャツビーのあいだにある眼に見えない有刺鉄線とは? ㊾p245彼女の手にふれる権利とは? ㊿p246彼女と同じような社会層 51p246デイズィの異常性とは? 52p260教会と大事だと言うマイカリスと、信仰心を失っているウィルスンの描写 53p264ウィルスン「神様は、おまえのしていることをご存じだぞ。」信仰心を失っていても、その人に宿る神の存在 54p288ルーテン(ルター)派の牧師→ギャツビーはプロテスタントか 55p288だれ一人くる者はなかった 56p291長い緑の切符 57p292共通の欠陥とは?東部の世界が持つ歪な要素とは? 58p299「海峡」と「」書きされているのはなぜ? 59p299緑の胸 60p300ニックが思いをはせた「昔の世界」とは? 61p300緑色の灯 62p300黒々と起伏している共和国の原野とは? 63p300緑色の光
3 2について調べたこと
①アレゲーニー山脈を基準に東と西で文化の違いがあった。南部のバイブルベルト。この小説が書かれた当時の地域による価値観、考え方の違いを述べるにはもう少し勉強が必要。
② ワスプからなる上流階級の男子は、アイビー・リーグの一流大学や東部の小さなエリートのカレッジ、女子の場合はセヴン・シスターズとして知られる東部の七女子大で学んだ。弁護士や医者などのエリート、議会や裁判所、実業界、軍の中枢はワスプで占められることが圧倒的に多かった。しかし、現代のアメリカではワスプの支配は急速に崩壊しつつあるのも現実だ。(『世界史の窓』というサイトから。野村達朗『「民族」で読むアメリカ』1994 講談社現代新書 p.36-38)
*ワスプとは、ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント。
アイビーリーグ
ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルヴェニア大学、プリンストン大学、イェール大学
セヴン・シスターズ
バーナード・カレッジ、ブリンマー大学、マウント・ホリヨーク大学、スミス大学、ウェルズリー大学、ヴァッサー大学(現在は男女共学)、ラドクリフ・カレッジ(現在はハーバード大学に統合)
③プロテスタントによる反カトリック運動があった。カトリックの大統領は、ケネディとバイデンだけ (日本の皇室は案外カトリックに近い 終戦工作も?)
④1920年代のアメリカ社会
著作権の関係で略(NHK『映像の世紀』を御覧下さい。非常に有益。)
⑤『楽園のこちら側』の登場人物
⑥ゼルダとは1919年に婚約
⑧1920年代に流行した女性の体型は、若々しく両性具有的な男子生徒のような容姿、胸も腰も膨らみのない女子生徒のような容姿と当時のファッション誌にあり、ベイカーは当時の理想の女性像を表している。それと相反する形で描かれているマートルと、彼女を情婦とするトムに込められた意図は? トムにとってデイズィはトロフィーワイフ。
(今村楯夫「マートル・ウイルソンの悲劇―ギャッツビーの影で」
『英米文学評論』 48 55-79, 2002(東京女子大学英米文学研究会)に考察がある。)
⑨コンディションとは、ゴルフをプレイするコンディションらしい。村上春樹訳より
⑩『有色帝国の勃興』という本は、実際には存在しないが、当時の優生思想を訴えた学者による意見を基にしている。(前掲髙橋美知子の論文に指摘がある。)
⑪p56のキャサリンのセリフ トムとマートンはデイズィを捨て西部に行くという、マートンが抱いている夢 ベイカーはこのことを知っていて、該当する発言をしたと考えられる。かなりの情報通か? トムはさえぎる。
⑫北欧人種の優位性を説くノルディシズム 白人間の差別 ホワイト・エスニック アイルランド系、イタリア系、ポーランド系などの移民は、アングロサクソン系とは別のものとしてみなされた。(前掲高橋美知子)
また、waspであるトムは、カトリックであるデイズィに対して偏見を抱いていた。
フィッツジェラルドについて。彼が生まれ育った、セント・ポールはカトリック教徒が多い地域だった。しかし、後に移り住んだ東部では、WASP的なアメリカとの間にギャップを感じたと考えられる。
⑮灰の谷はアメリカの繁栄の裏で増殖する負の側面を表している(前掲今村楯夫の論文)
原文では、初出で「a valley of ashes」と不定冠詞を用いて表現されていることからも、当時灰の谷は珍しいものではなく、どこにでもあるものだったと言える。(高橋 美知子「ウィルソン夫妻と灰の谷 都市と郊外の狭間を読む」( 日本英文学会第71回九州支部大会2018年10月20日 九州女子大学における発表)に指摘がある。)
⑱七元徳(しちげんとく)とは、カトリック教会の教義における7つの基本的な徳をいう。カトリックの「七つの美徳」(ななつのびとく)とも呼ばれる。
古代ギリシアの知恵、勇気、節制、正義の4つの枢要徳に、『新約聖書』のパウロの手紙に見られる信仰、希望、愛の3つの徳を加えたものである。
七つとしているのは、野崎訳だけ。原文はどうなっている?・・ヘブライズムとヘレニズムを融合したカトリック正統の立場で語っているのか、真のキリスト教ではない邪教(ギリシア=多神教)の臭いがあると福音原理主義の立場で語っているのか?
⑲裕福な黒人が貧しい白人を使っている。ここはNYだ。トムの言うとおりにはならない。
⑳この手紙の内容、小説では明らかにされていないが、2013年の映画(ディカプリオ主演)には、ギャツビーがデイズィにあてて、自分は無一文であること、成功するまで待っていて欲しいと言った内容だった。
㉑ウルフシェイムと結託して、汚いお金を稼いでいると予想される。
㉒ギャツビーのワイシャツ。英国製。デイジーの憧れの品? あれだけのワイシャツを持っているギャツビーではなく、トムと結婚した自分の判断を後悔したから泣くのか?
㉔出身地
ギャツビー ノース・ダコタ州
トム シカゴ イリノイ州
デイズィ、ジョーダン レイヴェル ケンタッキー州
ニック 中西部
主な登場人物は、みな西部人(アレゲーニー山脈を境に分けられる)
㉖神の国アメリカにおける、アメリカンドリームを体現した存在であるギャツビーを「神の子」と称したのか? だが、拝金主義のバビロンの子でしかないのでは?
(なお、この「神の子」については様々な人が問題化している。)
㉗馬を持つあたり上流階級と予想される。その晩餐会においてギャツビーの知り合いはいない、つまり彼は浮いた存在であるとトムは言っている。P159彼の家を船だとする噂は、文字通り彼が浮いていることを表している。
㉜おそらく春分と秋分の日のこと。これとは別に夏至について書いている箇所もある。陽ののぼる時間を意識させているのはなぜか?
㉞純潔でいることは神秘的な力を持つのか?
㊱デイズィの声について、ギャツビーは「あの声はお金にあふれているんです」といったが、それに対するニックの感想は、シンバルの歌声、あれは金の音であった・・・と言っている。
moneyとmetalで金の意味が違う?原文はどうか?(何人かの人がネット上でも注目している。)
“Her voice is full of money,” he said suddenly.
It was full of money--that was the inexhaustible charm that rose and fell in it, the jingle of it, the cymbals’ song of it. . . . high in a white palace the king’s daughter, the golden girl. . . .
㊳1890年のフロンティア消滅宣言前、西部は一攫千金を夢見た人々の希望の土地だった。ウィルスンは自分の夢を叶えるため新天地に行きたかった。しかし、西部へ行くのにも金がいる。金持ちのトムに車を売ってもらうように懇願する一連の描写は、経済力によって決定される力関係の差を示し、無償の逃亡が叶わないことを表している。フロンティア消滅以降、もはや西部は経済的困窮からの無償かつ自由な逃亡を提供する場ではなくなっている。
(髙橋美知子「都市と郊外の挟間で The Great Gatsbyにおける「灰の谷」の物語」
(『福岡大学人文論叢』 52 (3), 773-791, 2020-12)に論及がある。
この話の中で一番共感したのが、ウィルスン夫婦だ。自分はトムやニックのような富裕層ではない。時代の流行、潮流に流され、欲望に身を任せた人が行き着く末路がここでは描かれている。
㊺身なりの立派な黒人が、マートルを引いた黄色い車を見たと証言。裕福な黒人の描写その2
㊻アメリカにおける色がもつイメージはどうなのか?
厳密には、フィッツジェラルドにとっての色のイメージを研究すべきだが。
緑
「自然、新鮮、若さ」といった生命の躍動を感じる緑。「平和、協調、安心、癒し」といった穏やかなイメージも。「未熟」さを表したりもします。
欧米では、毒、怪物など、ものものしいイメージも持たれています。死後に出る死斑が緑色だったとか、毒物・劇物が青緑色であったことが背景にあるそうです(こちらも諸説あり)。映画やゲームでゾンビや怪物の血液が緑で表現されるのは、緑に不気味さや死を感じた故の表現ということですね。「嫉妬」はシェイクスピアが『オセロ』『ヴェニスの商人』の一節で緑を用いて表現したことから“be green with envy” “green-eyed jealousy”という嫉妬に関する表現が生まれ、強くイメージとして定着しました。
ピンク
「優しさ、可愛らしさ、か弱さ、柔らかさ」など女性的なイメージが強いピンク。他にも「幸福、若さ、わがまま」などがあります。また、色っぽさや卑猥な印象もありますが、ピンクがそういった意味で受けとられるのは日本だけのようです。
欧米では、ピンクは赤ちゃんの肌の色とされ、若さや健康、新鮮さを表します。
(「緑」も「ピンク」もデザイナーの赤堀という人のブログ「世界の色のイメージを紐解こう」から。)
「共和国」? アメリカ草創期の建国のイメージか? 王国ではない。
㊽軍人を好きになってしまう若さ?人間ではなく、政府という機関の気まぐれで、世界のどこへでも吹き飛ばされていきかねない存在→地盤が不安定、上流階級としてはマイナス
階級というみえないフィルターが正常に機能している平常時であれば、ギャツビーとデイズィは出会っていなかった。戦時下の奉仕と慰安の風習が2人を出合わせた。(前掲今村楯夫)
54 ギャツビーはプロテスタントか
63 ラスト
オランダの水夫たちが見た緑の大地と、デイズィ宅の緑の灯を重ねている。
緑は、人々が抱いた夢、希望、理想を表しているのかもしれない。
アメリカ草創期の人びとの憧れとギャツビーの憧れを重ね合わせる
そして、現在のわれわれもまた・・
参考文献・資料
NHK『映像の世紀 第3集 それはマンハッタンから始まった』
髙橋美智子「F.Scott Fitzgeraldの作品における人種表象」
『福岡大学研究部論集』 A:人文科学編 13 (5), 107-113, 2014-01
髙橋美知子「都市と郊外の挟間で The Great Gatsbyにおける「灰の谷」の物語」
『福岡大学人文論叢』 52 (3), 773-791, 2020-12
高橋 美知子「ウィルソン夫妻と灰の谷 都市と郊外の狭間を読む」( 日本英文学会第71回九州支部大会2018年10月20日 九州女子大学における発表)
今村楯夫「マートル・ウイルソンの悲劇―ギャッツビーの影で」
『英米文学評論』 48 55-79, 2002(東京女子大学英米文学研究会)
越智道雄『ワスプ』中公新書1998年
野村達朗『「民族」で読むアメリカ』講談社現代新書 1994年
デザイナー赤堀氏「世界の色のイメージを紐解こう」(サイト)2018.11.29