James Setouchi

2024.9.7  経済・社会

 佐々木信夫『老いる東京』角川新書2017年3月

 

1 著者 佐々木信夫 1948年岩手県生まれ。早大院政治学研究科修了。法学博士。東京都庁企画審議室などに16年勤務。聖学院大学、中央大学などで教える。専門は行政学、地方自治論。政府の第31次地方制度調査会委員、日本学術会議会員、大阪府市特別顧問など。著書『東京の大問題!』『大都市とガバナンス』『都知事』『東京都政』『都庁』『地方議員の逆襲』『新たな「日本のかたち」』等多数。日本都市学会賞、NHK地域放送文化賞受賞。(角川新書の著者紹介などから)

 

2 目次 

はしがき/第1章 なぜ〝第3の東京論〟なのか/第2章 人口減少による構造的な問題/第3章 東京の構造をどう変えるのか/第4章 老いる東京〝少子高齢化〟の罠/第5章 東京の働き方改革、人間福祉/第6章 劣化する東京の〝都市インフラ〟/第7章 ニュータウンの落日、再生/終章 これからの日本をどうする/あとがき

 

3 コメント

 日本は2008年から人口減少に転じている。子どもの誕生は年間100万人を割り込んでいる。団塊の世代は2025年にはすべて75歳を超える。2040年ころをピークに65歳以上の人口は減るとの見通しだが、そこまでの15年間の難所を乗り越えないといけない。この中で、東京問題のとらえ方は、

 

(1)国際社会における東京の地位を問題視する見方。世界都市はおろか、すでにシンガポールやホンコンに抜かれ、極東アジアの一拠点都市へと相対的地位が下がりつつある。→東京が日本経済の機関車となり投資を増やし規制を緩和しGDPを拡大すべきだ、という見方。

 

(2)国内社会にける東京の地位を問題視する見方。東京への過度の一極集中が止まらず、このままだと日本の半分近くが東京圏に呑み込まれてしまう。→人口も企業も地方に分散すべきで、首都機能・大学・起業の地方移転を進め、若者のUターン、Iターンを促進しよう、とする見方。

 

(3)「老いる東京」「劣化する東京」を問題視する見方。大都市は豊かだ、とこれまで問題が放置されてきたが、この先最大のリスクをはらむのが東京だ。大都市は郊外・終焉地域から限界集落化がすでに始まっている。地方自治体では市民税が激減、少子化で多くの空き家が発生。20年もすると東京は3人に1人が高齢者。年金の給付水準が切り下げられたら、高齢者難民が大発生する。→東京を経済都市としてのみ見るのではなく、1300万人が暮らす生活都市として見、各種の対策を取っていくべきだ、とする見方。

 

 著者はこの第3の見方を提唱する。(以上第1章)

 

 日本の人口の適正規模は、21世紀末に予測される8000万人かもしれない。AIなどでカバーし現在の500兆円水準の経済力を維持できるだろうか(p.51)。74歳まで現役と見るべきか(p.55)。鈴木都政は東京マイタウン構想で区部に新宿、臨界など7つの副都心、多摩や立川にも5つの核を形成しようとした。国土庁はもっと広域でとらえ横浜、幕張、埼玉の副都心などへと首都圏を広域分散して多核多心型にした(p.75)。石原都政は都心集中政策に切り替え、都心を高層化した(p.82)。2020年を境に東京は人口絶対減少社会に入る。社会保障が重点政策になり、同時に劣化した社会資本(首都高や学校など)を取り代える必要もある(p.89~P.90)。空き家問題(p.161)、木造住宅密集地域の問題(p.170)、ニュータウンの落日の問題(第7章)もある。→47都道府県制から10州2都市州の日本型の州制度に移行し、地方分権を進め、大阪を副首都とすべき、と著者は提言する(終章)。

 

(感想)

 問題の所在はよくわかる。東京にも具体的な人間が生活しているのだから、金儲けだけではだめで生活に注目すべきだという問題提起はその通りだろう。が、対策については丁寧にはこの本では述べられていない。道州制に移行したとき、例えば四国州の人口は現在約400万人で非常に高齢化の進んだ州ということになるが、これで財政再建もでき実際に住民にとって幸せな社会が築けるか? というところがポイントだろう。北海道州や東北州も同様。(ちなみにデンマークの人口は550万、フィンランドは500万人弱。)

 

 かつて東京は世界の1000万都市の中で最も豊かで最も安全な素晴らしい都市だった。他は、富裕層がいれば貧民地区があり犯罪(富裕層を拉致するとか)も多発する、というのが「普通の国」の「グローバル・スタンダード」だった。東京もいずれそうなってしまうのか? それはいやだ。

 

 東京一極集中は明治以降の現実だが、もはやもたないのでは? ドイツは地方が充実している。フランスも花の都パリに集中するように見え、実は地方が充実している。新幹線等の高度インフラを日本列島中に張り巡らせて結局はグローバル資本に全て搾取されるのではなく、もっと安心して落ち着いて暮らせる社会に移行していくべきでは?

 

(都市・地方・経済・格差・貧困・税金・社会)橋本健二『階級都市』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、三浦展『東京は郊外から消えていく!』、増田寛也『地方消滅』、増田・冨山『地方消滅 創成戦略編』、藻谷浩介『里山資本主義』、井上恭介『里海資本論』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』、佐々木信夫『老いる東京』、阿部真大『地方にこもる若者たち』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、服部茂幸『アベノミクスの終焉』、榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『(株)貧困大国アメリカ』・『沈みゆく大国アメリカ』、湯浅誠『反貧困』、青砥恭『ドキュメント高校中退』、関水・藤原『限りない孤独 独身・無職者のリアル』、三浦展『下流社会』、アマルティア・セン『貧困の克服』、ムネカタミスト『ブラック企業の闇』、今野晴貴『ブラック企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』・『タックス・イーター』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、暉峻淑子『豊かさとは何か』