昭和歌謡あれこれ Vol.27 4分半の小説 稲垣潤一『ロング・バージョン』(解釈付け足し) | 茶々吉24時 ー着物と歌劇とわんにゃんとー
諸所の事情で、しつこくも本日3回目の更新です。てへぺろ


私がパーソナリティを務めさせていただいている
エフエムあまがさきの番組
「昭和通二丁目ラジオ」木曜日。

昭和の歌をお送りする番組です。
今年度から、昭和歌謡のちょっと不思議な歌詞を掘り下げたり、
その曲の思い出を語る時間を設けています。

子ども時代にはよくわかっていなかったけど、
今この歳になって聞くと面白い「昭和の歌詞」を
番組内で深堀りするコーナー。
今日は、稲垣潤一さんの『ロング・バージョン』に注目しました。

稲垣さんといえば『ドラマティック・レイン』、
『夏のクラクション』『クリスマス・キャロルの頃には』。
この三曲はほとんど歳時記か季語のようになっていて、
梅雨の時期と夏の終わり、そしてクリスマス前には、
ラジオなどでよくお聞きになることと思います。

しかし、稲垣さんが歌った名曲は他にもいっぱいあるのです。
中でも私が稲垣・バラードの頂点だと思っているのが、
『ロング・バージョン』なのです。

『ロング・バージョン』はもともと
稲垣さんの2枚目のアルバムに収録されていた曲でしたが、
ヨコハマタイヤのCMに起用されたこともあり、
シングルカットされました。
1983年11月1日リリースです。

それでは歌詞を見ていきましょう。
以下、勢いがつくと敬称略になるかも知れません。
失礼します。

『ロング・バージョン』
 作詞:湯川れい子  作曲:安部恭弘 編曲:井上鑑

約束しないと責めて
泣き疲れた姿勢のままに
いつか軽い寝息の君は
急にあどけない顔して

※ さよなら言うなら今が
  きっと最後のチャンスなのに
  想いとうらはらな指が
  君の髪の毛かき寄せる 



作詞の湯川れい子さん。
数多くの楽曲を手がけておられますが、その中で
同じく稲垣潤一『雨のリグレット』、
諌山実生『月のワルツ』、
ラッツ&スター『街角トワイライト』などが
大好きです。
ずっと、美しくあでやかで聡明なお姉さまと思っております。
けだるい大人の恋を描いているのに、
汚らしい感じがしない。
もともとは別の方が歌う予定だったらしいのですが、
稲垣潤一の声との相性抜群。
一編の小説のようです。

「約束」とは何か。
次にいつ会うか、という単純な話ではなく、
二人の将来について、
結婚するとかしないとか、そういう話なんでしょう。
女性は未来の約束が欲しい。
相手にしてくれない男性を泣きながら責め、
そのまま寝てしまった女性の寝顔に焦点がしぼられています。

だいたいにおいて、男性の不実を責めている時、
女性は美しい顔をしてはいないはず。
般若のような顔をしているかもしれないし、
涙と鼻水でぐちゃぐちゃかもしれません。
つい先ほどまで、そんな顔をして自分を責めていた女性の、
あどけない寝顔を見て、男性はついつい女性の髪の毛に触れてしまうんですね。

そうしながらも男性の心の中は冷めていて、
「別れるなら今日しかないんだけどな」
なんて思っているわけです。
それなのに相手の髪の毛に触れたりして、
今後もこの関係が続くだろうと予想できます。

さて、二番を聞くと、二人の関係が一気にわかります。


コピーのシャガール壁に
白いシーツ素肌に巻いて
君はあの日遊びでいいと
酔った俺の手をつかんだ

◎ シングル・プレイのつもりが
  いつか気づけばロング・バージョン
  似たもの同士のボサノヴァ
  ちょっとヘヴィーめなラブ・ソング

そうさ窓の下は
乾いた都会の荒野

※ くりかえし
◎ くりかえし




壁にかかっているのがシャガールの複製画というところに、
二人の明るくない未来が暗示されている気がします。
すでに女性は素肌に白いシーツを巻いた状態?!
ここがちょっと謎ですよ。
場所が気になるところです。
彼女の家?それともホテルの一室なんでしょうか。
いずれにしても女性は「遊びでいい」と言ったのだから、
もともと男性にはその気はなかったはず。
なのに、シーツだけを身にまとった女性に手をつかまれる…。
解せない。
女性が服を脱いでシーツを身にまとうまで、
彼は何をボーッとしておったのだ?
何もせず帰ってしまえば面倒なことに巻き込まれないで済んだのに。
それとも女性は最初から作戦を立てていて、
一旦彼を酔い潰してからこういう状況に仕組んだのかもしれない。

女って恐ろしくて悲しい。
もともと相手が自分を愛していないのはわかっていて、
それでもいいです、と関係を迫る。
もしかしたら、そのうちどうにかなると思ったのでしょうか。
それとも本当に遊びでもいいと思ったのでしょうか。
のちに自分が相手を責めることになるなんて、
このときの彼女は思いもよらなかったのかも。

シングル・プレイという言葉は、
最近は一人で遊ぶゲーム形態をさす言葉のようですが、
この歌の場合は
「一度だけの遊び」という意味なのでしょう。
ずるずる「ロング・バージョン」になってしまったと、
男性が自嘲しております。

「ボサノヴァ」を音楽ジャンルだと解釈すると
よくわからないのですが、
言葉本来の意味「新しい傾向」「新しい感覚」と捉えると、
似た者同士のボサノヴァ
も意味が通じますね。

彼女が住むタワーマンションからか
(昭和の時代にタワーマンションがあったかどうかは不明)
ホテルの部屋から見下ろした景色なのか、
ここは都会なんですね。

じっくり考えたら、
オトコはサイテーだし、
オンナのほうもどうなのよ、と思う。
どっちもどっちの男女のお話。
あ、それこそが
似たもの同志のボサノヴァってことね!

上にも書きましたけど、稲垣潤一のあの声だから
この男女を薄汚いと感じずに、
サラッと聞くことができるのですよ。
都会の男女のけだるい大人の愛。
この歌がボサノヴァのリズムで歌われるのがまた素敵。

それでは、美しい小説のような歌詞を
稲垣さんの歌声で確認してください。

Youtubeからお借りしました。
アップ主さま、ありがとうございます。




聞いているうちに、
同じく稲垣潤一『エスケイプ』も良い歌だったなぁと
思い出してきました。
ああ、カラオケ行きたい!


【別の意見 2018/10/12追記】
いつも読んでくださっている方が、
一番の歌詞について面白い意見をくださいました。
約束をしない男性を泣きながら責めるような状態で、
女性がそのまま男性の目の前で眠るなんてことがあるだろうか、と。
その方は、可能性として考えられるのは、
怒りすぎて気絶したか、寝たふりをしたかのどちらかだとおっしゃるのです。
このご意見には膝ポンしました。
私は「寝たふり」説に一票!
その場合「あどけない顔」は演技なわけです。
そうとも知らず、男性がついつい髪の毛に触った瞬間、
きっとその女性は内心ガッツポーズしていたんでしょうね。
「よし!まだ別れないぞ!!」って。
こわーい!



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