技術士合格法(4.1 資格試験に求められる3つの力)(R6.3.11更新) | 技術士を目指す人の会

技術士を目指す人の会

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

4 合格者に求められる能力

 

4.1 資格試験に求められる3つの力

資格試験に合格するためには、「3つの力」が必要です。

それは知識力、説明力、応用力です。

知識力は、情報を記憶して、それをいつでも示すことのできる能力です。

あらゆる能力の基礎です。

多くの情報を記憶していれば高い知識力を有していることになります。

技術士二次試験における知識力は、試験本番で必要になる重要情報を記憶する能力を意味します。

説明力は、自らの知識を解りやすく説明する能力です。

私たちは、顧客や上司と仕事をします。

必ず他者と仕事をするわけですから、どの世界で生きていくにも説明力は必要です。

技術士二次試験における説明力は、記述式試験で必要になる文章力と、口頭試験で必要になるプレゼンテーション能力を意味します。

応用力とは、基本的な情報や過去の事例を、別の事柄や問題に適応させる能力です。

技術士二次試験における応用力は、知識力と説明力を活かして、試験本番に対処する能力です。

言い換えると、記憶した解答をそのまま書くことができない状況下で、制限時間内に題意に沿った解答にアレンジする能力です。

 

これら3つの力は、どれか1つでも欠けていると合格することはできません。

全て一定のレベルに到達する必要があります。

幸いにも、これらの3つの力は、努力によって高めることが可能です。

本ブログでは、効果的かつ効率的に3つの力を伸ばす方法を説明します。

 

 

(1)知識力

知識とは情報です。知識を身につけるためには、情報を記憶する必要があります。

具体的には、①用語とその意味、②導入方法(計画、分析、評価、設計を行う際の検討事項)、③維持方法(運転、点検、調査、更新する方法と留意点)等です。

これら情報は、設計指針、維持管理指針、法律、ビジョン、過去問の解答等に記されています。

このため、これらを読んで、内容を理解して、記憶する必要があります。

ただし、試験に合格することが目的であれば、設計指針や維持管理指針に書かれている内容の全てを記憶する必要はありません。重要なものだけを記憶すれば大丈夫です。

何が重要な情報かについては、「5 情報の整理」で詳述します。

 

(2)説明力

●説明力があれば優位

技術士二次試験は、筆記試験と口頭試験で構成されています。筆記試験で必要なのが文章力、口頭試験で必要なのがプレゼンテーション能力です。

私たち理系は、数字には強いですが、文章を作るのが苦手です。説明しすぎて長文になるところがあれば、逆に、言葉足らずで真意が伝わらないところもあり、全体的に読みにくい文章になってしまいがちです。

しかしながら、これはある意味チャンスです。

なぜなら、周りの受験生に比べて解りやすい文章を書くだけで、合格に近づくことができるからです。

技術士試験は国家試験です。年度によって合格率にバラつきが生じることは、有資格者のレベルに差が生じることに繋がるため、社会的な影響を及ぼすことになります。試験機関も採点官もこうした事態は避けたいため、合格率は毎年同じような数値にしたいはずです。

しかしながら、記述式の試験の解答は、受験生によって書く内容はバラバラです。採点基準が設けられていたとしても、容易に点数を付けられないはずです。

そう考えると、採点というのは絶対的なものではなく、相対的なものにならざるを得ないのです。目標となる合格率があって、上位から合格者を決定していると思われます。

そうなのであれば、周り受験生の解答が解りにくい文章で作られている中、解りやすい文章を提示するだけで、相対的な評価が高まるはずです。

採点官は、合格率を気にしながら、大量の解答を読んで、限られた時間で採点しなければならないです。このため、イマイチの文章で、必要のない情報も含めた文字量多めの解答よりも、分かりやすい文章で、必要最小限の情報を示したスッキリした解答の方が評価は高くなります。このため、文章力を身に付けることが合格に直結するわけです。

では、どうやって文章力を身に付けるのでしょうか?

残念ながら、文章力は、ある日突然、天から授かるものでもありません。本を読めば自然と身に付くものではありません。文章を実際に作らなければ文章力は鍛えられません。

このため、できるだけ多くの文章を作る必要があります。

ただし、いくつかコツがあるので、本書で紹介していきます。

 

●文章力を身に付ける方法

ここで、重要なことを言っておきます。

フレーズを憶えれば、文章力は身に付きます。

文章というのは、いくつかのフレーズと単語の組みあわせによって作られています。

このため、過去問の解答例を読み込んで、そこに使われているフレーズを憶えて再現すれば、文章力は確実にレベルアップします。

文章力がアップするきっかけになるフレーズが何になるかは、人によって異なりますが、手っ取り早いのは文頭を意識することです。

文頭のフレーズ、つまり、接続詞の使い方を理解できれば、文章力がアップします。

 例えば、以下の文章を見てください。

 

 近年、全国的に大規模地震が多発している。

 しかし、当該事業体の配水池の耐震化率は低い水準だった。

 このため、3か所の主要配水池の耐震化を図る必要があった。

 しかし、配水池は1池構造だったため、耐震補強は極めて困難だった。

 このため、1か所の配水池を増設し、既設配水池を耐震化した上で、配水池間に連絡管を整備し、1池構造の配水池を2か所廃止した。

 

この文章の文頭は「近年→しかし→このため→しかし→このため」となっています。この文頭のフレーズを使うことにより、「現状→課題→対策→問題点→対策」という流れで文章を作ることができます。

課題と対策、問題点と対策を示すことができれば、論理的な文章になります。

このように文頭のフレーズを憶えることで、その一文で自分が何を伝いたいのかハッキリします。

話を上手く展開することができるようになり、読み手の理解しやすい文章を作ることができるようになります。

最終的に不必要な接続詞をカットすれば、さらに読みやすい文章になります。

先ほどの接続詞だらけの文章は以下のようになります。

 

 全国的に大規模地震が多発し、南海トラフ巨大地震の発生も懸念されている。水道事業体が有する配水池の耐震化率は低く、耐震化を進める必要があった。

 ただし、当該事業体の配水池は1池構造が多く、施設を休止して耐震補強を行うことができず、このことが問題になっていた。

 この対策として、配水池間を結ぶ連絡管を整備し、耐震性の低い配水池を廃止した。

 

内容は同じですが、接続詞と改行場所を変更することで、分かりやすくなったと思います。

こうしてブラッシュアップした解答が完成したら、これをお手本にして、別の解答を作ると効率的です。

こうした解答を作成する際のコツについては、「6 解答の作成」で詳述することにします。

 

(3)応用力

●問題文をよく読む

応用力とは、基本的な情報や過去の事例を、別の事柄や問題に適応させる能力です。

数学等の場合、簡単な問題を解くことができるようになった人が、難易度の高い問題を解くために育むべき能力を意味します。

記述試験における応用力は、次の通りです。

「試験本番で、質問されたことに答える能力」

質問されたことに答える、これは当然のことなので、簡単にできるように見えます。

ところが、私たちは、いつの間にか自分の知っていることを書いてしまいがちです。

結果、文章は良いのに質問には答えていない解答が出来上がってしまいます。

なぜこのようなことが起こるのかというと、質問されたことを十分理解できていないからです。

このため、質問されたことに答える前に、まずは問題文をよく読んで、質問されたことを理解する必要があります。

問題文をよく読むためには、質問の部分にアンダーラインを引くべきです。

どの部分が題意になるのか目で見て分かるようにします。

その上で、質問されたことが何なのか正確に理解します。

質問への回答を考えます。

箇条書きで良いので、質問と回答が一対になるように整理します。

これを踏まえて文章を作成します。

こうしたプロセスを経て作った解答が合格レベルとして認められるようになります。

質問されたことに答えるためには、よく読んで、理解して、整理して、書く必要があります。

このことの重要性を再認識してください。

また、H25年度の試験制度改正以降、問題文の記述内容が数項目で示されるようになりました。

問題文に指定がある以上、それに沿って解答することが極めて重要になります。

事前に過去問を読み込んで、問題文に使われている用語の意味を理解しておく必要があります。

例えば、下表のような形で、問題文に使用された用語の意味を整理しておくと良いでしょう。

 

表 問題文に使われた用語の意味

選択Ⅲの問題文

日本の水道は,水道の普及率が急上昇した高度経済成長期に,水道施設の整備が進んだが,現在,安全性・安定性やサービス水準等の質的な面で十分といい難い施設も多くある。また,その当時に整備された施設の多くが耐用年数を迎え老朽化している。このような状況の中で,将来にわたって,給水の安全性・安定性を維持していくためには計画的に水道施設の改良・更新を行い,施設の再構築を進めていくことが必要となる。これらを踏まえて下記の問いに答えよ。

(1)水道施設の再構築計画を立案するに当たり,技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。

(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。

問題文の用語

用語の意味

水道の普及率が急上昇した高度経済成長期

「高度経済成長期」は、戦後、日本において好景気を迎えた時期で、概ね1955~1970年の期間を意味する。この15年間で水道の普及率は36%から81%に上昇した。

質的な面で十分といい難い施設

「質的」は、水道水質の安全性、水圧の確保性、災害時における供給の安定性、水道施設の健全性等を意味するもので、こうした条件を満足できない施設が存在する。ちなみに、「質的」の対義語は「量的」で、需要に対して供給の安定性を意味し、こうした条件を満足した施設は多く存在する。

耐用年数

「耐用年数」は、地方公営企業法に定められた法定耐用年数を意味する。ちなみに、配水池等のコンクリート構造物が60年、管路が40年、ポンプ設備が15年である。

施設の改良・更新を行い,施設の再構築を進めていく

「更新」は、古くなった施設を新しくすることで機能・能力の回復を図るもので、「改良」は、施設の改造や更新により機能・能力の向上を図ることを意味する。「再構築」は、施設の単純更新だけではなく、施設が有する潜在的なリスクを解消する移設や統廃合を含めたもの。

多面的

「多面的」は、少なくとも3項目、できれば5項目程度を計上することが求められている。

課題

「課題」とは、こうあるべきという目標があるなか、現状はそうなっていないという状況において、これを改善するための取組を意味する。この問題文の場合、「質的」な課題を抽出するもので、水道水質の安全性、水圧の確保性、災害時における供給の安定性、水道施設の健全性等である。

分析

この問題文は、複数の課題の中から最も重要なものを選ぶことになっている。「最も重要」とは、緊急性と効果・影響が高いことを意味する。つまり、「最も重要」なものを見極めるためには、緊急性、効果・影響を把握する必要があり、この行為を「分析」と定義付けることができる。

解決策

「解決策」とは、課題を遂行するための具体的な対策である。ここでは、オリジナリティーあふれるプランを示すものではなく、これまでに国が発表した施策や対策を述べればよい。

解決策に共通して新たに生じうるリスク

課題毎にその解決策は異なることから、そのリスクもそれぞれ異なる。このため、「解決策に共通して新たに生じうるリスク」とは、複合的な問題に関して相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)が発生することを意味する。その対策は、リスクの影響の重要度を考慮し、複数の選択肢を評価・検討した上で、最適な解決策を提案する。

 

●試験本番の対応

先ほど、試験における応用力とは、「試験本番で、質問されたことに答える能力」であると説明しました。

質問されたことに答えることは、当たり前のことであって、これを応用力と呼ぶのは、少し大袈裟に聞こえるかもしれません。

このことについて、もう少し説明したいと思います。

私たちは、ある一つの真実を解っているようで、実は解っていません。

それは、何か?

 

試験本番では、過去にやったことのある問題と似たものは出題されても、まったく同じものは出題されないということです。

 

どんなにたくさんの問題をこなしても、試験本番で、過去にやった問題がそっくりそのまま出題されることはありません。

どんなにたくさんの予想問題をこなしても、その全てが予想通りということもありません。

試験問題を作る側の人間は、その道のプロです。

受験生の予想を上回ってきます。このため、受験生の予想通りにはならないです。

これは当然の話なのです。誰しもわかっているはずです。

しかしながら、私たちはこの事実に目を背けてします。

過去問をやっても、予想問題をやっても、憶えた解答をそのまま書いて合格できるという幸運をゲットできるわけではない、そうであるにも関わらず多くの受験生は、憶えた解答をそのまま書くつもりで試験に挑んでいます。

予想が外れた際の準備をせずに受験すれば、当然、試験本番でピンチを迎えることになります。

 

つまり、合格するためには、予想外の問題が「想定内」になるよう、事前の準備が必要なのです。

 

応用力を身に付けるためには、試験問題を読み込むことができるよう、事前に用語の意味を理解すると同時に、解答を臨機応変に作成できるよう、事前に情報と文章を準備しておく必要があります。

要するに、試験本番で解答をアレンジするための材料を記憶しておくわけです。

ではどうやってそれをやるのか?

これについては、「7 本番力を磨くで詳述することにします。

 

※ 次を見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 一つ前を見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ テキストを最初から見たい方は、 こちら をどうぞ。

 

●二次試験の過去問と解答例

※ 令和5年度の試験問題(上水道及び工業用水道)と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 令和4年度の試験問題(上水道及び工業用水道)と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 令和3年度の試験問題(上水道及び工業用水道)と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 令和2年度の試験問題(上水道及び工業用水道)と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 令和元年度の試験問題(上水道及び工業用水道)と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 平成30年度の試験問題(上水道及び工業用水道)と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

 

●二次試験の予想問題

※ 令和5年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 令和4年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 令和3年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 令和2年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 令和元年度の予想問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

 

●口頭試験について

※ 技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の解説を読みたい方は こちら をどうぞ。

※ 口頭試験対策を見たい方は、 こちら をどうぞ。