2.3 業務内容の概要
●業務内容の概要とは
「業務内容の概要」は、「業務経歴」で示した業務のうち代表的なものについて、立場、役割、成果等を720字以内で説明するものです。
「業務経歴」は、受験する部門と異なる部門の実績についても、計上することができました。
一方、「業務内容の概要」については、受験する部門と同じものにするべきです。
例えば、上下水道部門で受験するのであれば、「業務内容の概要」も上下水道部門での実績を記入するべきです。
さらに言えば、受験する分野とも同じにするべきです。
例えば、上下水道部門の場合、水道と下水道、2つの分野がありますが、選択科目を水道で受験するのであれば、「業務内容の概要」も水道について述べるべきです。
なぜなら、試験官は、筆記試験と口頭試験を通じて、受験生が専門的知識と高等な専門的応用能力を有しているか確認するからです。
口頭試験は、「業務内容の概要」について質問されますので、口頭試験で求める専門技術と筆記試験で発揮された専門技術の分野が異なるのは不自然です。「業務内容の概要」と受験は同じ分野にするべきです。
「業務内容の概要」ですが、概要という言葉のイメージから判断すると、内容をシンプルに書けばいいと思うかもしれません。
しかし、技術士二次試験の場合は少し違います。
繰り返しになりますが、口頭試験では「業務内容の概要」について質問されますが、この試験は、受験生が専門的知識と高等な専門的応用能力を有しているかどうか確認するために行われます。
「業務内容の概要」は、「この受験生は技術士になるにふさわしい」と試験官がそう思うような内容に仕上げる必要があります。
文字数が限られているため、業務の内容をコンパクトに解りやすく説明した上で、業務を遂行する際に発揮専門的知識と高等な専門的応用能力を発揮していることを示す必要があります。
●何を書くべきか
「業務内容の概要」については、申込書に2つの記入例が示されていて、構成は以下のようなっています。
【記入例1】 立場と役割 → 業務上の課題 → 技術的な提案 → 技術的成果
【記入例2】 業務の目的 → 技術的な内容 → 立場と役割 → 成果
「業務内容の概要」のキモになる部分は、記入例1なら技術的な提案、記入例2なら技術的な内容です。
この部分で専門的知識と高等な専門的応用能力をアピールすることになります。
では、どうすれば試験官に自らの専門的知識と高等な専門的応用能力を認めてもらえるのでしょうか。
このヒントになるのがH24年度以前の技術士二次試験です。この頃は、記述試験に合格した後、技術的な業務に関する体験論文を提出する必要がありました。
具体的には以下のような指定があり、これを3,000字以内で作成するものでした。
【体験論文】
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について、実際に行った業務のうち、受験した技術部門の技術士にふさわしいと思われるものを2例挙げ、それぞれについてその概要を記述せよ。
さらに、そのうちから1例を選び、以下の事項について記述せよ。
(1)あなたの立場と役割
(2)業務を進める上での課題及び問題点
(3)あなたが行った技術的提案
(4)技術的成果
(5)現時点での技術的評価及び今後の展望
H25年度の試験制度改正以降、体験論文を提出する必要がなくなりましたが、その代わりに提出することになった「業務内容の概要」です。
H24年度以前の体験論文とH25年度以降の「業務内容の概要」について、記述内容を比べてみると、下表に示したとおりになります。「⑤現時点での技術的評価及び今後の展望」がないだけで、ほぼ同一の項目であることがわかります。
つまり、「業務内容の概要」とは、体験論文の概要なのです。
体験論文の概要なのですから、当然、「何を実施したのか」報告してはいけません。
「何を考えついたのか」を技術的に論じなければならないのです。
●結果ではなく技術的なプロセスが重要
多くの受験生は、日頃から報告書を作成していると思います。
報告書や企画書を作る場合、どのような結果になるのか、結論の部分を重点的に述べることが求められます。
このため、報告書の場合、原因究明に関する科学的分析、技術的な検討過程については、詳細に述べないのが一般的です。
しかしながら、先程も述べたとおり、「業務内容の概要」は体験論文の概要版です。
論文である以上、原因の究明、対策の検討等について述べる必要があります。
結果ではなく、結果に至るまでのプロセスで発揮された技術を論じることが求められます。例えば、以下のA、B、Cを見てください。
A 配水池築造の設計を行った。
B 複数のプランの中から最適なものを選んで、配水池築造の設計を行った。
C 配水池築造について複数のプランの中から最適なものを選ぶ評価方法を確立した。
Aは、設計を行ったという事実を述べたものです。設計指針通りに設計を行うことで、自らの専門的知識と高等な専門的応用能力応用力を発揮したとは言い難いです。
一方、Bは、複数のプランが存在していて、最適なものを選んだわけです。
この部分で自らの専門的知識と高等な専門的応用能力応用力を発揮したわけです。
しかし、Bの内容は結果を報告したものです。
「何を実施したのか」は述べていても、「何を考えついたのか」技術的に論じたことにはなりません。
最後のCは、設計ではなく、複数のプランから最適なものを選ぶ評価方法をクローズアップしたものです。
評価は、技術士法第二条の6業務の一つです。
つまり、結果に至るまでのプロセスにおいて、どのような技術を発揮したのか述べられています。
これは「何を考えついたのか」技術的に論じています。
つまり、この「業務内容の概要」は、体験論文の概要版として成立しているわけです。
業務内容の概要では、結果だけではなく、技術的なプロセスを説明する必要がありますが、なぜ、結果よりもプロセスを重視するのでしょうか?
それには理由があります。
技術士はコンサルタントの資格です。コンサルタントは顧客が抱える問題を解決する専門家です。
当然ですが、どの依頼も同じ内容、同じ条件ではありません。多種多様な問題を、自らの技術力で解決していくわけです。
「業務内容の概要」に示された業務が大成功に終わったとします。それはそれで、すばらしいことです。
しかし、この大成功をアピールしたとしても、それは、その業務と同じ内容、同じ条件であれば、同じ結果を導くことができることを示したにすぎません。
結果だけを見ても、内容、条件が変わると、適切に対応できるかどうか保障はありません。
技術士試験は、国家試験です。
国が有資格者としてコンサルタントを世の中に送り出すわけですから、試験官は、受験生がコンサルタント能力を有しているかどうか確認する責任があります。
だからこそ、結果に至るまでのプロセスが重要になります。
プロセスで発揮した技術力は、他の業務で生じている多種多様な問題解決に活用できます。
だから試験官は、受験生が業務プロセスで発揮した技術力を見極めているわけです。
●自分の業務概要で技術士になれるのか
さて、ここまで読むと、次のように思うかもしれません。
『私は論文を出したことがなし、技術的な業務に携わっていないから、業務内容の概要を書くことができない!』
大丈夫です、ご安心ください。
多くの人は、論文を書くことができるような特殊な業務に携わる機会はほとんどありません。
それにも関わらず、技術士が多く存在しています。
申込書に記入した業務が、一般的なものだったとしても、その業務に携わった当時、その組織の中で、成功として認められているわけです。
こうしたことから、結果に至るまでの技術的なプロセスにおいて、技術士法第二条の6業務(①計画、②研究、③設計、④分析、⑤試験、⑥評価)のいずれかを実施していることを示せば良いのです。
次は、立場と役割、課題、技術的提案、成果それぞれで何を書くべきか説明します。
●立場と役割
技術士という資格は、個人に与えられるものです。
弁護士、税理士、中小企業診断士等、「士業」は全て個人に与えられる資格です。通常、業務というのは複数の人が共同で行いますが、技術士は「士業」に関する資格であることから、「業務内容の概要」は、個人の技術力をアピールする必要があります。
このため、「立場」は、メインの技術者として業務に携わっていることを示すべきです。
具体的には、主任技術者、管理技術者、プロジェクトリーダー、技術総括リーダー、技術責任者等の表現を使うと良いでしょう。
また、「役割」は、その業務での個人、プロジェクトの位置付けと、自らの立場に基づいて、どんなことに携わったのか示す必要があります。
具体的には、計画、研究、設計、分析、試験、評価といったキーワードを使って、自らの業務内容を表現すればよいでしょう。
ちなみに、申込書には以下の2つの記入例が示されていています。
記入例1(立場と役割) タンク建設工事の技術責任者として、設計業務及び調整を行った。
記入例2(立場と役割) 技術総括リーダーの立場で、環境保全計画を策定した。
●課題・目的
「課題」と「目的」は、その業務を何のために実施したのか述べる必要があります。
多くの場合、目的は課題を遂行することなので、目的と課題は同じ内容になります。
ただし、目的は1つでも、課題は複数存在する場合があります。
例えば、目的が安全な水を供給することだったとします。
この目的を達成するためには、原水中の①濁質、②細菌、③異臭味物質を除去する必要があります。この場合、目的は1つでも、課題は3つ存在するわけです。
さらに、安全な水を供給するためには、ヒト・モノ・カネが必要です。技術者、水道施設、予算を確保する必要があります。
これらが不十分な状況であれば課題になります。
このように、目的は1つでも課題は複数存在する場合があるわけです。
そう考えると、目的と課題は似たようなものですが、目的は課題よりも大きなものと捉えれば良いでしょう。
なお、申込書には以下の2つの記入例が示されています。
記入例1(課題) タンクの普及促進、異なる技術基準の調和
記入例2(目的) 地球温暖化の実現
●技術的提案・技術的内容
「技術的提案」、「技術的内容」は、受験生がその業務を遂行するに当たって、「何を考えついたのか」技術的に論じるものです。
これが、「業務内容の概要」のメインになります。
自らが業務に携わったわけですから、考えついたことを簡単に説明できると思うかもしれません。
ところが、実際に「技術的提案」、「技術的内容」を作ってみると意外と難しいです。
「何を考えついたのか」ではなく、「何を実施したのか」について述べてしまいがちです。
例えば、業務を遂行する際、予算が不足したことが問題になっていたとして、この対策としてコスト縮減が可能になる工法を導入したとします。
この場合、申込書にこの工法の内容を記してしまいがちです。
しかしながら、これは行ったことを報告しただけであり、考えついたことを論じたわけではありません。
「何を考えついたのか」技術的に論じるためには、結果に至るまでの検討プロセスをクローズアップする必要があります。
業務を遂行する際、必ず技術的な問題点があったはずです。
何が問題点になっていたのか着目すれば、自ずと「何を考えついたのか」を整理することができます。
先程の例で言うと、新たなコスト縮減工法を導入する際、製品の品質を下げれば、コストを縮減できます。
当然ですが、誰もこんなことを望んでいません。コストを下げても品質を確保できる方法が求められます。
これが問題になるわけです。
例えば、材料を薄くしても強度を維持できるデザインを検討します。
それがうまくいったのであれば、目的を達成できます。この場合、出来上がったデザインは結果です。
デザインを考えつくまでの試行錯誤が「設計」というプロセスになります。
また、デザインの候補が複数あったとします。最適なものを選択する必要があります。
どのようにして選択するのかが問題になります。この場合、決定したデザインそのものは結果で、その選択を行うための「評価」がプロセスになります。
このように、「技術的提案・技術的内容」は、技術者が抱えていた問題点をクローズアップして、その問題点を解決した行為を、計画、研究、設計、分析、試験、評価として記述すればいいわけです。
なお、申込書には以下の2つの記入例が示されています。
記入例1(技術的提案) 材料の技術的評価と世界初の導入。自動溶接導入による統一化・合理化
記入例2(技術的内容) 低炭素に関する先進モデルの構築
●成果
「成果」は、課題を遂行した結果、目的を達成した結果です。例えば、予算不足への対応が課題だったのであれば、設計時の創意工夫によりコスト縮減を行ったことが成果です。具体的な縮減額を示せば良いでしょう。また、組織内で高い評価を受けたのであれば、そのことを述べてもいいでしょう。
ただし、これは技術士の試験です。技術的成果の記述を求められているわけですから、こうした成果以外のことに言及することも重要です。
例えば、この業務で培った技術的なノウハウを他の業務に応用することにより、効率的に検討を行うことが可能になることを述べても良いでしょう。また、コスト縮減だけではなく、例えば、地球環境保全に貢献できたのであれば、このことを技術的に述べても良いでしょう。
なお、申込書には2つの記入例が示されており、以下のようなっています。
記入例1(成果) 異なる技術基準の調和、高品質なタンク建設
記入例2(成果) 環境保全計画の各国からの高い評価、地球温暖化防止への貢献
●作成手順
業務内容の概要は、①業務の決定、②ザックリ考える、③文章化、④真剣に考える、⑤編集という5つのステップで作成することになります。
業務内容の概要は、想像以上に時間がかかります。
申込期限の1か月前から作成に着手し、1週間前までに全ての作業を完了することをお勧めします。
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