⑫R2技術士試験の解答例(浄水場の強靭化)(選択Ⅲ-2)(一部修正) | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問題】Ⅲ-2

-2 水道事業では、外部環境として、原水水質の悪化、水需要の減少及び自然災害の頻発化への対応等の多くの課題を抱えている。また、内部環境として、水道事業の基幹施設である多くの浄水施設で老朽化が進んでいる。このため、今後の水道水の安定供給に向けた浄水施設の更新や機能強化が求められている。

(1)浄水施設に関して、上記の要因を考慮した多面的なそれぞれの観点(水質、水量、強靭)について複数の課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち、強靭の観点に関して、近年の自然災害を踏まえ、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対して浄水場で実施する場合の複数の解決策を具体的に示せ。

(3)前問(2)で提示した解決策に新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

 

 

【解答例】

1 浄水施設における課題

安全な水道水を安定供給するため、浄水施設の更新・改良に際して、以下の課題に取り組む必要がある。

(1)水質に関する課題

工場排水の流入、かび臭物質の発生等により、水源水質が悪化している地域が存在する。一方、水需要者の安全・安心のニーズは高く、水質基準は厳格化する。このため浄水処理の強化が課題になっている。

また、浄水施設の老朽化が進むことにより、水処理機能に支障が生じ、水質が悪化する。このため施設の更新等による水質の安全確保が課題になっている。

(2)水量に関する課題

地下水の枯渇、取水井の閉塞により、必要な水量を確保できない施設が存在する。このため水源の変更、施設の更新等による水量確保が課題になっている。

また、人口の減少や節水機器の普及により水需要が減少し、給水量に対して能力が過大な浄水施設が存在する。このため施設のダウンサイジングや統廃合による効率化が課題になっている。

(3)強靭に関する課題

 大地震が発生した際、地震動による構築物の損壊、液状化による埋設物の浮上、津波による浸水被害を受ける可能性がある。南海トラフ地震等の発生確率が高くなっており、震災対策が課題になっている。

また、近年、集中豪雨が頻発しており、浸水災害、土砂災害等により浄水施設が被災するリスクが高まっている。このため風水害対策が課題になっている。

 さらに、河川における汚染物質の流出事故、電力や薬品の供給停止等により浄水処理不能に陥るリスクがある。このため事故対策が課題になっている。

2 強靭に関する最重要課題とその解決策

 地震は最も甚大な被害が発生する可能性が高い。このため浄水場における震災対策を最重要と位置付け、以下にその解決策を示す。

(1)施設の補強

 想定される地震動レベルと施設の重要度を踏まえ、適切な方法で耐震補強を行う。構築物は、耐震診断に基づき、適宜、耐震壁等を整備し、液状化が予想される場合は、杭基礎の設置、地盤改良等を行う。機械・電気・計装設備は、強度計算に基づき、適宜、アンカーボルト等の固定具を設置する。場内配管は、継手種類と埋設土壌から耐震性の有無を判断し、適宜、耐震管による布設替えや伸縮可とう管の設置を行う。

また、津波による浸水被害が想定される場合は、防水壁、防水扉の設置等を行う。

(2)施設の更新・統廃合

 浄水場の更新にあわせて耐震化を図る。既存施設が活断層付近に位置する場合、土砂災害リスク等も勘案し、施設の移設を行う。複数の浄水場が存在する場合、施設を廃止した際の効果、費用、潜在的なリスクを総合的に評価し、適宜、施設の統廃合を進める。

(3)バックアップ体制の確保

 浄水施設が被災した場合に備え、他の水源や浄水場との間に相互連絡管を整備し、バックアップ体制を確保する。広域連携の観点から隣接都市間を結ぶ相互連絡管についても検討する。停電に備えた代替電源としてガスタービン式の自家発電設備等を整備する。

また、河川上流域の汚水処理場の被災や津波による水源水質の悪化に備え、予備水源や可搬式の膜ろ過装置等を確保することも検討する。

(4)応急体制の確保

BCPを策定し、被災時に限られた人員で業務を遂行できる体制を整える。災害対応マニュアルを作成し、定期的に防災訓練を実施する。応急復旧用の資機材や予備品を備蓄する。

3 解決策により生じるリスクとその対策

前述の解決策を実行することで、災害事故時においても浄水施設の機能を維持することができる。

ただし、解決策を実施するためには、膨大な費用と期間が必要である。支出の抑制を優先して脆弱な施設を整備すれば安全性が損なわれることになる。

この対策として、複数の選択肢を検討し、総合的な評価に基づき最適な方法を選択する。計画的に事業を推進するため、アセットマネジメントを実施し、これをPDCAサイクルにより継続的に改善する。

 

【解説】

浄水施設の更新・改良に関する問題は、平成23年度、平成30年度に出題されています。令和2年度の問題は、更新にあわせた浄水場の強靭化が主題でした。

公共施設の強靭化については、平成30年12月に国土交通省が「国土強靭化基本計画」の見直しを行っています。

「国土強靭化基本計画」では、限られた資源で効率的・効果的に取組を進めるため、15のプログラムを選定しています。

今回の見直しにより、「上水道が長期間供給停止になる事態を回避する」というプログラムが新たに加わりました。

さらに、平成31年2月には厚生労働省が「水道における緊急対策の実施について」を通知しています。

これは巨大地震の発生や異常気象の頻発・激甚化を踏まえ、震災対策の一層の強化と、特に重要な水道施設について土砂災害・浸水災害・停電対策を講じることを要請したものです。

このように近年、国は強靭化に関する取組を強化しており、このことが今年の試験で当該テーマが出題された背景になっていると思われます。

ちなみにですが、強靭の意味については、こちら をどうぞ。

また、この問題は、近年の自然災害を踏まえて最も重要な課題の解決策を述べることを求めています。先程の厚生労働省の通知内容を踏まえると、自然災害のなかでも地震、土砂災害、浸水、落雷への対応が重要になります。

このため、地震や風水害に関する防災・減災対策を体系的に説明することが、解答を作成する際のポイントになります。

 

令和2年の問題は、浄水施設の水質、水量、強靭に関する課題のうち、強靭について詳述するものでしたが、過去を振り返ると水質に関するものが出題されています。

このため今後の試験対策として、高濁度原水、クリプトスポリジウム、かび臭物質、トリハロメタン等の消毒副生成物への対応等、浄水施設の水質的な課題について勉強することをお勧めします。

これら物質のうちかび臭物質と消毒副生成物は、高度浄水処理を行う必要があります。このため、粉末活性炭処理、粒状活性炭処理、オゾン・活性炭処理の内容とこれらを実施する際の留意点について整理しておけば良いでしょう。

また、配水施設の強靭化も重要です。浄水施設の場合は、構築物の耐震化や防水壁の設置等、既存施設の補強が主な論点になりますが、配水施設の場合は、管路の占める割合が高いことから、管路更新がメインになります。

このため、管路更新計画の策定、重要給水施設管路の耐震化等について説明できるようにしておくべきです。

これに加えて、基幹管路のループ化や二重化、応急給水体制の確立についても言及できるよう内容を整理しておけば良いでしょう。

 

※ ひとつ前を見たい方は こちら をどうぞ。

 

【参考】

●試験対策

※ 技術士合格法のテキストを見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和2年の予想問題と解答例を見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和元年の試験問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 【技術士対策】のコラムを読みたい方は こちら をどうぞ。

 

●必須科目対策に必要な下水道の基礎

※マネジメントサイクルについては こちら をどうぞ。

※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。

※「持続と進化」については こちら をどうぞ。

※「資源の循環」については こちら をどうぞ。

※「水の循環」については こちら をどうぞ。

※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。

※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。