⑪R2技術士試験の解答例(配水区域の再編)(選択Ⅲ-1)' | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問題】Ⅲ-

 配水区域を設定する際は、水源や浄水場の位置及び地形、水需要の実態等を考慮するが、これまで給水区域は、水需要の増加に伴い段階的な拡張を行ってきたことから、個々の配水区域は様々な問題を抱えており再編が必要になっている。配水区域の再編に際しては、配水区域内の水質の均等化に加え、水量・水圧のコントロールが容易となるように考慮するほか、管路事故や災害時にも対応が容易であることも求められる。これらを踏まえて下記の問いに答えよ。

(1)配水区域の再編に当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。

(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

 

 

 

【解答例】

1 配水区域の再編に際しての課題

配水区域は、施設と管路で構成され、その再編に当たっては以下の課題に取り組む必要がある。

(1)水質の均一化

 人口減少等により水需要が減少している地域では、配水量に対して配水池容量や管路口径が過大になり、水の停滞により残留塩素濃度が低下する。一方、浄水場周辺の地域では、塩素剤の注入過多により残留塩素濃度が高くなっている。このため配水区域の水質の均一化が課題になっている。

(2)水量・水圧の適正化

 大口需要者からの給水申請に際して、配水管の口径が過小な場合は水量不足が生じる。配水池の容量が過小な場合、配水量の急増により配水池の水位低下を招く。配水区域内の水圧が高い地域では、ウォーターハンマにより給水装置等の故障が発生する場合がある。水圧が低い地域では、水利用に支障をきたし、直結給水範囲の拡大が困難になる。このため配水区域の水量・水圧の適正化が課題になっている。

(3)災害・事故対策の充実

 配水池やポンプ所等の施設が地震等において被災すると、長期間に渡って広い範囲で断水が発生する。配水管において漏水事故や赤水が発生した際、適切な場所にバルブが設置された管網が形成されていなければ、断水や水質悪化の影響範囲が大きくなる。このため災害・事故対策の充実が課題になっている。

(4)省エネルギーの推進

 団地開発や市町合併に伴い配水区域を段階的に拡張・継承した地域は、ポンプ所が多くなり、エネルギー使用が非効率になっている。このため水道施設の再構築による省エネルギーの推進が課題になっている。

2 最重要課題とその解決策

水道は、重要なライフラインであり、非常時においても給水への影響を最小限にする必要がある。このため前述の課題のうち災害・事故対策の充実を最重要と位置付け、以下に解決策を示す。

(1)配水区域の設定

配水区域は、水需要予測の結果と消火水量を考慮し、災害・事故時においても給水への影響が最小限になるよう、適切な広さを持つように設定する。

(2)配水管網のブロック化

 断水や赤水の影響範囲を最小限にするため、配水管網のブロック化を図る。ブロックは、事故対応等を円滑に実施できるよう、管網シミュレーションを行い、最適な広さに設定する。ブロックの広さに応じて適切な数の流入点を設け、流入点には、バルブと常時監視用の流量計、圧力計を設置し、漏水の早期発見、早期復旧を行うことができる体制を整える。

また、隣接するブロック間で相互融通を行うことができるよう連絡管を設ける。

(3)基幹管路のループ化・二重化

 基幹管路の事故は、給水に甚大な影響を及ぼすことから、バックアップ体制を確保するため、基幹管路のループ化や二重化を図る。さらに隣接した配水区域間との間に相互連絡管を整備することも有効である。

また、ループ化、二重化、相互連絡に際しては、既存施設の有効利用の観点から、既設管内布設工法の採用について検討する。

(4)水道施設の移設や統廃合

活断層近傍、浸水区域、土砂災害警戒区域等、災害リスクが高い場所に建設された施設は、更新にあわせて安全な場所に移設する。他に安全な施設が存在する場合、施設の余裕度を勘案して、施設の統廃合を進める。移設や統廃合ができない場合、水道施設の耐震化、防水壁、土砂流入防止壁の設置等を行う。

3 解決策により生じるリスクとその対策

前述の解決策を実行することで、災害事故時においてもライフライン機能を維持することができる。

ただし、解決策を実施するためには、膨大な費用と期間が必要である。支出の抑制を優先して脆弱な施設を整備すれば安全性が損なわれることになる。

この対策として、複数の選択肢を検討し、総合的な評価に基づき最適な方法を選択する。アセットマネジメントを実施し、施設を計画的に更新・改良するとともにPDCAサイクルにより継続的に改善する。

 

【解説】

再編は、編成し直すという意味です。

このため、インフラの再編は、更新することが前提になっています。

ただし、単に更新するだけでは、再編になりません。

再編は、再度、編成し直すわけですから、インフラの構成や能力を変更する必要があります。

例えば、管路の更新をする際、同じ口径で耐震化したとしても、同じ口径でステンレス管を採用して長寿命化しても、それは再編ではありません。

例えば、施設の耐震補強をしても、更新に合わせて耐震化しても、それは再編ではありません。

管路の口径を変えたり、形態を変えたり、施設の大きさを変更したり、施設数を変更して、はじめて再編と呼ぶことができます。

このことに留意して、解答作成する必要があります。

 

※ ひとつ前を見たい方は こちら をどうぞ。

 

【参考】

●試験対策

※ 技術士合格法のテキストを見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和2年の予想問題と解答例を見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和元年の試験問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 【技術士対策】のコラムを読みたい方は こちら をどうぞ。

 

●必須科目対策に必要な下水道の基礎

※マネジメントサイクルについては こちら をどうぞ。

※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。

※「持続と進化」については こちら をどうぞ。

※「資源の循環」については こちら をどうぞ。

※「水の循環」については こちら をどうぞ。

※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。

※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。