⑩R2技術士試験の解答例(キャリオーバー)(選択Ⅱ-2-2)’ | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問題文】--

河川表流水を水源とする浄水場において、横流式沈殿池からのフロック流出が問題となっており、改善が求められている。あなたが、この改善業務を担当責任者として進めるに当たり、以下の内容について記述せよ。

(1)調査、検討するべき事項とその内容について説明せよ。

(2)業務を進める手順とその際に留意するべき点、工夫をするべき点を含めて述べよ。

(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。

 

 

【解説】

問題文ではフロック流出とあれますが、この現象はキャリオーバーと呼ばれています。

キャリオーバは、不十分な凝集沈降により、軽量なフロックがろ過池に流れ込むことです。

キャリオーバした軽量フロックは微細です。ろ過池の砂層を通過します。

ろ過水濁度が上昇します。

ろ過水濁度が0.1度以上になると、クリプトスポリジウムの除去が不確実になり、流出するリスクが高まります。

また、キャリオーバにより、ろ過池の閉塞が進み、ろ過継続時間が短くなります。

ろ過池の洗浄回数が増えれば、当然、非効率になりますが、排水処理からの返送水が凝集不良に拍車をかけることになります。

こうしたことから、キャリーオーバ対策は重要になります。

ところが、設計指針と維持管理指針にはキャリーオーバについて、その現象、原因、対策について体系立てた説明がされているわけではありません。

この解答例も「浄水の技術」、新聞の情報、関係者からの意見等を踏まえて、まとめたものです。

 

【解答例】

1 フロック流出に関する調査・検討内容

沈澱池からのフロック流出を改善するため、以下のことについて調査・検討を行う。

(1)基本情報の調査

施設を構成する構造物と設備の形状、構造、能力、仕様、建設年度等の情報を整理する。原水と凝集・沈澱処理後の水について、水質(濁度、水温、pH、アルカリ度)、水量、薬品注入率等の情報を調査する。

(2)原因の調査

沈澱池からフロックが流出する原因は、凝集障害と沈殿障害に大別できる。

凝集障害は、①原水の変化(藻類増殖によるpH上昇、降雨による濁度上昇、雪解け水による水温及びアルカリ度の低下)、②撹拌混合の異常(機械式のGT値、迂流式の流速の過不足)、③凝集剤等の異常(誤注入、品質不良、薬品注入配管閉塞)等により発生する。

沈殿障害は、①不適切な表面負荷率、②短絡流の発生(傾斜板等の沈降装置、整流壁の破損)、③沈澱不良(沈降装置内部に藻類増殖)等により発生する。

フロック流出の原因を特定するため、各工程のフロックの状態を確認し、薬品の使用状況、ジャーテストの実施方法、撹拌混合装置、薬品配管、薬品注入装置、沈降装置、整流壁等について調査・点検を行う。

(3)対策の検討

調査・点検の結果、撹拌混合、薬品注入、ジャーテストが不適切な場合は変更・調整を行い、施設や薬品に異常が確認された場合は清掃、補修、取替を行う。

凝集障害の原因が原水水質の場合、高塩基度PAC、pH調整剤、凝集補助剤等の薬品を使用する。原水が低温、低濁度の場合、適宜、マイクロフロックによる直接ろ過に変更する。

沈澱障害の原因が表面負荷率の場合、沈降装置の設置、他浄水系統への切替による処理水量抑制を行う。藻類が原因の場合、塩素注入や遮光板の設置を行う。

 

2 業務の手順と留意点・工夫点

 業務は上述の(1)〜(3)の手順で実施する。

基本情報の調査は、図面や資料の確認だけではなく、現場確認を行い、その結果を業務に反映する。

原因の調査は、系列毎に実施し、系列間の差異を把握する。調査は凝集沈澱池に限定せず、着水井、ろ過池、必要に応じて排水処理施設も含めて行う。

対策の検討に当たっては、水安全計画を策定し、管理基準を遵守できるよう適切な対策を選択する。新たな薬品の使用や直接ろ過への変更は、実証実験を行った上で最も有効な方法を採用する必要がある。

 

3 関係者との調整方策

関係者間での対面協議に加え、メール審議やリモート会議を実施する。成果物への要求事項、追加・削減するべき作業等について明確かつ効果的な意思疎通を行い、関係者の利害を調整しながら業務を進める。

 

【感想】

今年の選択Ⅱ-2(原稿用紙2枚)の2問は難しかったですね。

選択Ⅱ-2-1は、リスクマネジメントでした。問題自体は災害対策に関するものでしたが、リスクマネジメント、特定、分析、評価、対応という言葉の羅列に面食ってしまいます。

また、この選択Ⅱ-2-2は、キャリオーバに関する問題です。

平成22年の技術士試験で、キャリオーバという言葉を使ってその原因と対策について出題されていますが、今回はさらに難問でしたね。

とういわけで、令和2年度は、選択Ⅱ-2の出来が合否を左右したのだと思います。

 

※ ひとつ前を見たい方は こちら をどうぞ。

 

【参考】

●試験対策

※ 技術士合格法のテキストを見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和2年の予想問題と解答例を見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 令和元年の試験問題と解答例を見たい方は こちら をどうぞ。

※ 【技術士対策】のコラムを読みたい方は こちら をどうぞ。

 

●必須科目対策に必要な下水道の基礎

※マネジメントサイクルについては こちら をどうぞ。

※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。

※「持続と進化」については こちら をどうぞ。

※「資源の循環」については こちら をどうぞ。

※「水の循環」については こちら をどうぞ。

※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。

※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。