今から30年以上前の話ですが、テクニカルライターになりたいと思っていた時期がありました。テクニカルライターというのは、当時だと、おおむね、ソフトウェア(もちろん、それだけではありませんが)のマニュアルを書く人を指していました。
その頃はパッケージソフトを買うと、分厚いマニュアルが付属していたものです。クルミ製本の、いかにも「本~っ!」ってやつです。
アキバでVZエディタの「本~っ!」と、3.5インチフロッピーがハダカでシュリンクされただけのパッケージを買って帰った時の高揚感は、今でも覚えています。
『これでやっと、自宅のパソコンで文章が打てるぞ!』
VZエディタはもうありませんが(ないよね?)、その規模のソフトやマニュアルなら、今なら数秒でダウンロードできます。
パソコンやアプリケーション・ソフトウェアのMMI(マン・マシン・インターフェース)も洗練 ・統合されてきて、付属マニュアルという「本~ っ!」も(ないことはないけど)、あまり見かけなくなりました。パッケージソフト自体、珍しいものになりつつあります。
最初に転職した会社では、千数百頁以上のシステム・マニュアルを……書いたわけではないけど(書いたのは外注さん。きっちり仕事をする方々でした)、マニュアル開発の社内窓口になったこともありました。シソーラス作りから始まって、なかなか大変な仕事でしたが、実態はアメリカで開発されたシステム・マニュアルの翻訳でした。
まあそれで、テクニカル・ライティングの本などを読んだりもしていたのですが、その中の一冊に「マニュアルは文学作品ではない」という一節があって、その一節だけが、ずっとひっかかっていました。
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DTP技術とwebサービスの発展により、曲がりなりにも自炊で書籍を作れるようになって、文フリなどにも出させてもらっている昨今ですが、また「マニュアルは文学作品ではない」が気になってきました。
ほんとにそうなの? って話です。
アタリマエだろ! といわれそうですが、別にマニュアルが文学であってもいいんじゃないか、なんて思っています。
くだんのテクニカル・ライティングの本にも、「マニュアルが文学作品であっては『ならない』」とまでは、書かれていなかったと思います。
いや、書いてあったのかな。
この一節が書かれていた本の書名や、一節が書かれていたところの文脈は完全に記憶からトンでいますので、フレーズだけがぼくの中で一人歩きしています。
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自分都合で解釈を進めることにしまして、そこまでは書いてなかったとすれば、「マニュアル文学」なんていうのもあってもいいかも……などとも思います。まあ、その前に文学(リタラチャ)ってなによ? ということを、とりあえず、はっきりさせておかなければなりません。
母親の形見の真っ赤な電子辞書、広辞苑 第7版によれば、文学とは「言語によって人間の外界および内界を表現する芸術作品」と、簡潔な説明があります。「言語による」は外せないでしょう。芸術となると……また、芸術とは何か……となり、キリがありません。
いろいろ定義はあると思います。文フリでは、文学とは「オノレがそう信じるところのもの」とされています。
自分なりに愚考してみるのですが、今のところは、文学って「鑑賞することで鑑賞者(つまり読者)の意識に何らかの変化をもたらす、言語で構成された装置」ではないかと思っています。
そのように考えると「マニュアルは文学作品ではない」こともなく、「マニュアルは文学作品にもなりうる」のではないでしょうか。
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「初学者のための魔法の基礎」は、ちょっとばっかり、そんな思いを込めて書かせてもらったものです。まだ在庫が若干残っていますので、来年のSF(少シ不思議)フリマで頒布する予定です。出店前にはまたこのブログで告知いたします。
これが鑑賞者の意識に何をもたらすかは未知です。ただ、読んだからといって魔法が使えるようになるわけではないと(笑)、お断りしながら売っています。
(内容については、こちら→)
「ZenPad」は、ただいま作成中のオラクル・ブックです。上のような思いから、先にマニュアルを書いてしまいました。リリース時期は未定です。
マニュアルの内容は、ZenPadとは何で、どうやって使って、何を目指しているのかを、タメ口で説明している30頁あまりの冊子です。これは鑑賞者にZenPadのユーザー意識をもたらすために作った装置です。
本体の方は200頁くらいになると思いますので、セットで頒布しようかと考えています。
(ZenPadについては、こちら→)
以上結局、PRになっちゃいましたが、最近の作品の、創作背景のお話でした。
白橋升@遊星出版 店主敬白
PS.
書いていて思い出しましたが、ヨハン・ヨハンソンの「IBM 1401 A USER'S MANUAL」というアルバムは、一部、マニュアルそのものが音楽という芸術になっています。




















