表具は難しい
前回、「槐記」に載っている、「表具は、宸翰なら宸翰、三幅対なら三幅対と、それぞれに応じた表具のやりかが二十七通りある」という話をご紹介しました。 しかし、残念ながら、その二十七種類がどんなものか、説明もないので、いったい宸翰はどう表具するのが正式なのか、他はどうなのか、どう種類分けするのか、さっぱりわかりません。大体、この話の背景になっている江戸中期、享保頃の時には、既に近衛家のようなご大家でないと、きちんとした表具の軸は、あんまりなかったという話なんですから、この分類法は、今はとっくに絶えているのでしょう。軸の中身の話からそれますが、軸装のことを少し整理してみましょう。軸の表装は、諸説あるようですが、まあ、例によって真行草の三種に分かれると言います。軸の各部分の名前は、中身の字や画が描かれている部分が「本紙」で、絹か紙ですが、茶の湯に使われる軸、所謂、茶掛は、紙の本紙がほとんどだそうです。本紙を取り囲む一番大きな部分が「中廻し」で、その上と下の面積が「天地」又は「上下」と言います。「天地」は一緒の素材(色)で作ることになっていて、この部分を裂地でなく、紙にすることも多いようです。本紙の上と下に添えた横に細い裂が「一文字」で、これに一番良い裂地、名物裂などと呼ばれるものを使う、二番目に良いものを中廻しに使うんだそうです。上から二本ぶら下がっている裂が「風帯」で、これは原則、一文字と同じ素材にする。風帯の先端が、房になっていて、その色が白だと「露」、色が付いていると「花」と呼ぶらしい。これを「本風帯」とも言い、稀に中廻しと同じ素材にしたのを「中風帯」と言うそうです。この風帯を略して、白紙か唐紙を細く切って、その部分に貼り付けたのを、「押風帯」か「張風帯」と言って、実は茶掛には、侘びているということが好まれて、これが案外多いようです。軸の上部に、ぶら下げる重みのために埋め込んだ半円形の木を「表木」、それに付けた、軸をぶら下げるための紐が「掛緒」、それに付けてある掛軸を巻くための紐が「巻緒」です。軸の下の部分に埋め込んだ木が「軸木」で、その両横の出ている部分が「軸」です。掛軸のことを省略して、つい軸と言ってしまいますが、本当の軸は、この部分を指し、素材としては、象牙、陶器、金属、水晶、木、竹など各種ありますが、茶掛では、木(漆塗も含め)と竹以外はあまり喜ばれません。軸は、実は何種類も形があって、利休形だの遠州形だのあります。掛軸の見えない部分、裏側全体の紙を「総裏」と言います。 さて、掛軸の真行草とは、要するに、一文字が、本紙の上と下だけでなく、周囲をぐるりと取り囲んでいるのが真、上と下だけにあるのが行、一文字がない(省略された)のが草です。実は、茶掛の表装は行がほとんど全部と言ってよく、真行を裱褙(ひょうほえ)、幢褙(どうほえ)、輪褙(りんほえ)など小難しく呼ぶ方法もあるようですが、本によって解釈や分類も違うようなので、あまり踏み込まない方がいいでしょう。真行草の他にも、天地も中廻しも風帯も何もなく、全部をベロっと表装したものを「丸表装」と言いますが、朝鮮、中国の表装に多いようで、茶掛には、まず見られません。特殊なものに「唐表具」があります。天地、中廻し、押風帯など全て同じ色で統一し、その区分を細い裁り金の線で、書いたものです。これも茶席では、ほとんど見られません。 こんな話はご存知の方も含め、皆様、退屈な話が続いてすみませんが、次回ももう少し表具の話を。 萍亭主