【前回のあらすじ】


無事に試写会イベントを終えた土方達は、裕樹の希望していた串焼き屋と、相沢のお勧めの店で軽い打ち上げをしていた。そんな中、またもや体調を崩した相沢に寄り添う主人公。愛美の想いをしっかりと受け止め、兄として接する土方。主人公に分かれた彼女を重ね見ていた相沢に付き添う愛美。それぞれの思いが交差し始めた。


※今回はちびっとだけですが艶っぽいシーンがありますので、ご注意ください。


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【Toshi Hijikata】 #23


手は繋いだまま、私は土方さんの少し後ろをついて歩いた。と、その時ふと、土方さんの後ろ髪が肩まで達していることに気付く。


同棲しながらも、二人だけの時間が限られていたからか、未だ全てが片付いた訳では無いけれど、こんな時間は久しぶりのような気さえする。


やがて、ガーデンの入口へ辿り着くと、土方さんは私の手を握ったままドアを開けた。ふわっと、少し冷たい風が頬を掠めてゆくと同時に、恋人達が思い思いに抱きしめ合ったり、キスを交わし合ったりしている姿が目に飛び込んで来る。


(みんな大胆だなぁ…)


そんなふうに周りを見渡していた時、不意に土方さんの手が離れ、すぐにその手が肩に置かれたことを意識した次の瞬間、優しく抱き寄せられた。


同じように土方さんの腰元に手を添え、またゆっくり歩き出す土方さんの歩調に合わせる。その途中、寄り添いながら楽しげに何かを話している様子の、裕樹くんと涼子を見つけるものの、声はかけずに通り過ぎ。やがて、辿り着いた一番隅のテーブルに私達は寄り添って腰掛けた。


「…お店の中から観るより、素敵ですね」

「ああ」


夜風が吹き抜けてゆく度に、乱れ髪をかき上げる仕草や、足を組み直す姿に今更ながら見惚れてしまう。


そんな中、「寒く無いか?」と、優しく尋ねて来てくれる土方さんに小さく頷いて、誘われるままにその広い胸に頬を埋める。


「…本当にお疲れ様でした」

「評価を受けるまでは気がおけないが」

「きっと、大成功しますよ。だって、あんなに頑張ったんですもん」


土方さんの優しい温もりを感じながら、これまでのことを思い返していた。初めてこの仕事のメールを受け取った時から、はや数ヶ月。相変わらず雑用を熟す日々の中で、ある日突然、土方さん達のサポートを引き受けることになったり、愛美さんという強敵が現れたり…


そのせいで、同棲中にも関わらず不安な日々を過ごしたりしていたけれど、みんなで頑張って大きな試練を乗り越えようと必死だった。


土方さんを信じてついて来て良かったと、結局はそう思える。


「それと、ありがとうございました。私を補佐に選んでくれて…」

「少しは周りが見えるようになったようだな」

「はい。これでも少しは…」


以前より、小言を言われなくなったことに少し寂しさを感じながらも、それだけ自分も成長することが出来たのだという思いもあった。


仕事に関してはまだまだ、これから覚えなければならないことが山ほどあるけれど、今回の一件に携わることにより、人間関係を深めることが出来たことは自分にとって大きな財産になったに違いない。



その後も、いつもよりも軽快にこれまでのことを話す土方さんの言葉に耳を傾けていた。その内容は、時に呆気に取られたり、ツボに入ってお腹が痛くなるくらい笑ってしまったり。私のいないところで、どれだけの苦労と、それと同じくらいの楽しさを繰り返していたのかが窺えて、改めて土方さんの人柄に惚れずにはいられなかった。


けれど、一つだけ。

疑問に思うことがあって、それについて尋ねてみた。


「相沢さんから聞いたんですけど、今回のイベント以外でも何かまた別の仕事を引き受けたりしました?」

「…別の仕事?」


ほんの少し眉を顰めながら、視線をこちらに向ける土方さんに頷き。ゲネの最中、相沢さんのサポートを務めた際に聞いた言葉をそのまま伝えると、土方さんは少し呆れたような表情で大きな溜息を漏らした。


「あの話か…」

「…あの話って?」

「断った」

「こ、断ったって…」


ほんの少し距離を置いて、まじまじと土方さんの顔を覗き込むようにして見やると、土方さんは視線を明後日の方向へ向けながら面倒くさそうに、でもしっかりとその理由を話してくれた。


「…そんなことが」

「そこまでの義理は無いしな。それに、モデルなど俺に勤まる訳がない」

「ぷッ…」


そんな一言に笑いを堪えきれずにいると、土方さんは組んでいた足を下ろし、私の肩から手を外してゆっくりと立ち上がった。


「…笑いごとじゃねぇ」

「ご、ごめんなさい…」


それでも、そんな少し困ったような顔が可愛くて、歩き始める土方さんの腕に寄り添い、夜景の見える場所まで移動してゆき。


次いで、カントリー調な手すりに凭れ掛かり、視界に広がる夜景を見下ろす。





「でも、モデルなら喋らない分、今回より楽だと思いますけど」

「…何も分かっていないようだな」

「へ?」


今度は呆れたような視線を受け、すぐに夜景へと視線を戻す土方さんの横顔を見つめた。


「喋れない分、表情や立ち姿一つで表現しなくてはならない。そんな様々なバリエーションを持ち合わせていなければ勤まらない、専門職の一つだ。素人が簡単に首を突っ込むものじゃない」

「…な、なるほど」


その短い解説だけで納得してしまう。


「まだまだ、勉強不足ですね…私」

「それに、本来は企業をサポートする立場だということを忘れるな」


今回は特例だと念を押され、最もだと思いながらも、愛美さんが土方さんを推したくなる気持ちにも頷ける。


こんな出来る男の人が見せる極上の表情に、きっと多くの人が魅せられ、「もっと見たい」と、思うだろうから。けれど、内心では断わってくれて良かったと思う自分もいる。


「それでも、愛美さんは土方さんを諦めないんだろうな…」

「まだ不安なのか?」

「いいえ、そうじゃなくて…そうじゃないんですけど…」


俯いた次の瞬間、背後からふわりとした優しい温もりが伝わって来ると同時に抱き寄せられた。


「…あっ」

「その件に関しては、はっきりと伝えた筈だが」

「し、信じていないとか、そういう訳じゃなくて…その、やっぱり…」


(えっ…)


胸元に添えられていた手の平の温もりを感じつつ、甘い吐息が首筋に落ち、ゆっくりと辿り上がって来たその端整な唇により耳元を擽られ。


「…っ…」


そんな悪戯な温もりに戸惑いを感じながらも、求められるままにその想いを受け止めて間もなく、再び熱い吐息が耳元を掠めた。


「俺は、お前が思っているほど器用じゃない。むしろ、不器用だと思っている…」

「土方さん…」

「だから、いつの間にか誰かを傷つけていることもある」


本音であろう言葉を聞くのはいつぶりだろう。私は、そんな土方さんに向き直り、その逞しい胸に頬を埋め、スーツの襟元にしがみ付いた。


更に強く抱き竦められながら、今、誰よりも必要とされていることに気付かされる。


「だが、自らが選んだ道を後悔したことは一度も無い」

「…っ……」

「お前を選んだことも」


絡め取られる指先。

低く囁くような声。

優しい温もり。


その全てに身も心も癒され始めたその時、ふと、指先に柔らかい感触を受け止め、それが唇だと気付くまでに時間は掛からなかった。


私はただ、その胸元に頬を寄せたまま…


「…私、ずっと自分に自信が持てなくて。土方さんの隣にいても釣り合わないんじゃないかって…そんなことばかり考えてて…」


愛美さんが現れてからは特に、そう感じていたことを告げると土方さんは、諭すように囁いた。


「気付いていないだけだ」


(…っ……)


「お前の内にあるものを見出すことも、俺の仕事だと思っている」


これまで抱いていた不安が、徐々に解消されてゆくような気がした。そして、これからも互いを支え合っていけばいいという、土方さんの想いを聞いて、嬉しくて。


同時に、相沢さんからも同じようなことを言って貰えた時のことを思い出す。


「とりあえず、」

「…?」


視線を上げると、いつもの自信に満ちたような視線と目が合い、土方さんの低く掠れたような声が首筋に落ちた。


「帰ったら覚悟しておけ」

「え…」


(そ、それって…)


そろそろ戻るぞ。と、言って先を歩き始める土方さんの背中を追い掛け、またその逞しい腕に寄り添い。帰ったら駄目出しが待っているのか、それとも…


そんな私の不純な想いを感じ取ったのか、土方さんは薄らとした微笑みを浮かべ言った。


「そんなに抱かれたかったのか?」

「え、いや…だから…」


しどろもどろになる私を見て、声を出して笑う土方さんにふくれっ面を返した。その時、


「あれ、来てたんですね!」


涼子の声がしてそちらへ視線を向けると、こちらへ歩み寄って来る裕樹くんと涼子の姿を見とめた。そして、しばらくの間4人で語り合った後、私達はガーデンを後にしたのだった。


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*沖田SIDE*


AM:1:06


いつものようにみんなを見送り、藍田さんも送り出そうと声を掛けると彼女は少しはにかんだような笑みを浮かべた。


「あの、店長…」

「ん?」

「少し、付き合って貰えませんか?」

「…付き合うって」


何を付き合わされるのかと、勝手に想像し始めたその時、彼女は荷物を椅子に置きカウンターへと戻ると再びこちらへ視線を向けた。


(あ、そういうことか…)


「味を確かめて貰いたくて…いいですか?」

「勿論」


即答すると、すぐに看板を店の中へ移動させ、全ての支度を終わらせてカウンター席へと腰を下ろした。次いで、目前に差し出されるグラスを手にし、ゆっくりと口に含む。





「………」


彼女の刺すような眼差しを受けつつ、素直な感想を告げた。


「…少し、カルバドスが足りない気がする」

「そうですか…」

「でも、エンジェル・フェイスをこんなに美味しく作れたのなら、上出来だと思うけれど」

「いえ、また修業し直します。付き合ってくれてありがとうございました」


そう言って、後片付けをし始める彼女に苦笑を返す。麻奈も、同じように挑戦し続けていたことを思い出し、また懐かしさで胸がいっぱいになってゆくのを感じた。



やがて、片付けが終わり彼女を見送ろうとして、いつものバイクが無いことに気付く。


「あれ…」

「バイク壊れちゃって…修理に出している間は、歩くことにしたんです」


じゃあ、また明日。と、言って、踵を返す彼女を呼び止めた。


「…送って行こうか?」

「え…」

「いや、最近このへんも物騒だし…」


立ち止まりこちらを振り返る彼女の、少し驚いたような目から視線を逸らし、返事を待っているとゆっくりこちらへ歩み寄って来る、彼女の嬉しそうな瞳と目が合った。


「…そう言ってくれないかなって、思ってたんです」


(え…)


「あ、何て言うかその…やっぱり、夜道は怖いんで…」


お願いします。と、言って僕の隣に寄り添うように並ぶ彼女に微笑み、一駅分の距離を一緒に歩き始める。その間、主にカクテルの話をしていたが、桜並木が近づくにつれ、話題は花見へと変わって行った。


満開の桜の木の下。

時折、吹く風により花びらがちらちらと舞い降りて来る。


そんな中、彼女が不意に立ち止まり呟いた。


「…夜桜もいいですね」

「ああ」

「何となく、儚げな感じもするけど…」


そう言いながら、落ちて来る花びらを手の平に受け止める彼女の、どこか寂しげな瞳に釘づけになり。ふと、目が合い、すぐに視線を逸らした。


「正直、桜を見ると……なんか人恋しくなるんですよね」

「…どうして?」

「多分、別れの季節だからかな…とか、思うんですけど」


こちらからの問いかけに、彼女は少し困ったように微笑いながら答える。


春は、出逢いと別れが同時にやってきて、期待と不安が綯交ぜになるからなのだという、彼女の想いを聞いて、大概の人が同じように思うだろうことを伝えた。


そんな僕の言葉に彼女は納得したようで、柔和な微笑みを浮かべながらまた桜の木を見上げる。


「でも、今は…」

「今は?」

「…いえ、何でもないです」


そう言って、彼女はまたゆっくりと歩き始めた。僕は、彼女が呑みこんだ言葉が気になりつつも、その後ろ姿を追いかける。



桜並木を抜けた後も、しばらく他愛もない話で盛り上がり。やがて、マンションに辿りつくと、彼女は柔和に微笑みながら言った。


「…送ってくれてありがとうございました」

「何だかんだと、話してたらあっという間だったな」

「そうですね」

「じゃあ、また明日」

「はい、お休みなさい」


踵を返し、その場を立ち去ろうとした。刹那、彼女の声に呼び止められ足を止めた。


「あの…」

「……?」


振り返ると、やっぱり何かを言いたげな彼女の不安そうな瞳と目が合い。次いで、少し照れたように俯きながら、僕に気を付けて帰るように声を掛け、いつものように胸元で小さく手を振って来る。


僕は、何か腑に落ちないながらも微笑み返し、彼女に見送られながら家路へと急いだ。


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「も、もう…」

「もう、なんだ?」


ベッドの上。

土方さんの、少し抑えたような吐息が私の肩に落ち、


「…もう、私…」


必死に堪えるも、限界を感じて土方さんの腕に凭れ掛かり…


「もぉぉぉぉ、マジで無理ですぅぅ!」


半泣きしながら叫ぶように懇願すると、土方さんは溜息を漏らしながら、私の膝上に乗ったままのタブレットを奪い取り、呆れたように言った。


「限界か…」

「もう、眠くて眠くてッ。何をどうしているのかも分からなくなりそうな…」

「今夜中にチェックだけでも終えたかったんだがな」


そう言うと、土方さんは自分と私のタブレットをベッド脇に置き、明かりを小さくして、そっと抱き寄せてくれる。


私は、抱き寄せられるまま、甘えるようにその胸に顔を埋めた。次いで、肩に添えられている手の平が、徐々に背中を辿って腰元へと流れ、シャツの中へ直に潜り込んでくるのを感じ…


「ん…っ…」


ふと、細められた色っぽい視線と目が合った。刹那、受け止めたとろけるようなキスにより、鈍い痺れが背筋を駆け抜けてゆき、自分からも手を伸ばしてしまっていた。


「眠いんじゃないのか?」

「…ほんとに、意地悪ですね」


(こんなふうにされて、普通でなんていられない…)


背中にあった手が離れるのを感じてすぐ、その首元に両腕を回して引き寄せる。


「ずっと、こうして貰いたかった…」


聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう伝えると、土方さんは答える代わりに額に、目蓋に優しいキスをくれた。


「…いいか」


それでも、確認してくる土方さんに頷いて、ゆっくりと上に覆い被さって来る土方さんを受け入れる。その抱擁は、いつもよりも深く、時折、眉を顰めながら愛撫する土方さんを目にして、改めて“愛されている”喜びを感じていた。




【#24へ続く】





~あとがき~


時間に追われ、仕事優先の日々を送っていた二人。とりあえずだけれど、久々の二人だけの時間をマッタリと過ごす。


土方さんを読んだり、書いたりしていると…あー、Sだけど時折見せる優しい部分に、やっぱついて行きたくなるんですよねハート


現代版で、しかも…主人公が彼女という立場なので、どこまで本編の土方さんを引きずっていけるか…いっつも、言動には気を使っているつもりなのですがw


難しいー!沖田さんもあせる

一人称が、「僕」だしw

ショートヘアだしww

藍田さんにはタメ口だし…


艶がの土方さんや沖田さんを意識しながらも、動かす時に思い浮かべるのは、私の好きな俳優さんや女優さんなのであせる


どこか、オリジナルとして割り切って貰えたら…なんて、思ったりもしてます汗


今回も、お粗末さまでしたあせる