【前回のあらすじ】
土方との同棲生活が始まり、幸せすぎる日々が続くのかと思いきや。土方に好意を寄せる女性が現れる。仕事上での付きあいであることを伝える土方だったが、彼女の不安は尽きなかった。一方、裕樹と涼子は話し合いを経て、改めて自分たちの想いを伝え合ったのだった。
#1
#2
#3
#4
#5
#6
#7
#7-1
#8
#9
#10
#11
#12
【Toshi Hijikata #13】
その後、土方さんと裕樹くんは、相変わらず忙しく動き回り。私も、涼子も自分の仕事に追われる日々を過ごす中。
せっかく同棲生活が始まったと言うのに、土方さんは会社や現場に泊まり込むことが多くなり、私は土方さんの家で独り暮らしをしているような感覚でいた。
そして、いつものように一日の業務を終えて家に戻ろうとしたその時、裕樹くんが疲れきった顔で戻って来たことに気付く。
(あれ、土方さんは?)
自分のデスクに腰掛け、いつもならすぐに次の仕事に取り組む彼がしばらくの間、目頭を押さえこんだまま。
(…………)
何となく気になって彼の元へ歩み寄ると、虚ろな視線と目が合った。
「大丈夫?何だか、ものすごく疲れているみたいだけど…」
「…こっちもいろいろあってな」
「そうなんだ…土方さんは一緒じゃないの?」
そう問いかけると、彼は椅子に大きく凭れ掛かりまた大きな溜息をつく。
「大きな声では言えないが、今回のプロデューサーから無理難題を押し付けられててさ」
「…どんな?」
「口にするのも面倒臭いんだけど…」
そう言うと、私達は二人分のコーヒーを淹れた後、ミーティングルームへと向かった。
ソファーに向い合せに腰を下ろし、お互いにコーヒーを一口飲んでテーブルに戻すと、彼はソファーに寄りかかるようにして話し始める。
「土方さんから何も聞いていないみたいだな?」
「仕事に関しては…あまり…」
「そうか」
それでも、プロデューサーの娘さんのことを話すと、彼は少し訝しげに眉間に皺を寄せた。
「そいつがまた厄介なんだよな…」
「えっ…」
彼の話だと、土方さんは私のことを堂々と話してくれたらしいのだけれど、そんなのはお構い無しとでも言うように必要以上に声を掛けて来るらしい。
土方さんの立場上、この仕事に携わった者として、その好意を無下にも出来ないとのことだった。
「それでも、これは仕事上での付き合いなんだから、お前が気にする必要は無い」
「うん、土方さんからも…そう言われた」
「なら、あの人を信じて待っていればいい」
「…でも」
無意識にそう呟いて、慌てて我に返る。
「ううん、何でもない!」
「他にも何かあるのか?」
「俺を信じて待っていて欲しいと、言ってくれたんだけど…」
そう言って俯くと、彼はまたやれやれとでも言いたげに小さな溜息をついて、静かに口を開いた。
「不安なのは分かるけど、あの人の彼女になったんだ。これぐらいのことでめげてたら、この先やって行けないぜ」
「…そう…だね。なんか、疲れているのにごめんね…こんな話…」
「いや、もう慣れてるから」
彼は苦笑しながらソファーに横になり、その後も今までの仕事の事を簡潔に話してくれた。
実は、そのプロデューサーの娘さんの意向により、二人に顔出し出演依頼の話が持ち上がっているらしいのだ。
「じゃあ、二人してテレビに出演するかもってこと?」
「何かを演じたりする訳では無く、今回携わっているドラマの宣伝を任されただけだ」
「そ、それでも凄い!」
目を見開いて身を乗り出す私に、裕樹くんは困った様に微笑う。
「俺達は裏方だって、何度も言い聞かせたんだけどさ…」
確かに、土方さんにしても裕樹くんにしても、人気俳優並みの容姿を持ち合わせているわけで。その娘さんがそんなことを言いたくなる気持ちは分かるけれど…
「だから、あの時怒っていたんだね…土方さん」
いつだったか、この場所で土方さんと裕樹くんが話しているのを廊下越しに聞いてしまったことがあった。
(あの時からずっと、理不尽な悩みを抱えていたんだ。それなのに、私…)
土方さんを待ちきれず、先にリビングで寝てしまったあの夜…
───やっぱ、これだな。
私を慈しむように抱き寄せながら、これ以上ないほどの優しい声で囁いてくれたんだった。
「裕樹くん」
「ん?」
「私ってバカだね」
「何を今更」
改めて、土方さんのことを信じて私に出来ることを頑張るということを話すと、彼は薄らと微笑んで体を起こし冷めたコーヒーを飲み干した。
「なんて、俺も人の事を言えないけどな。涼子から全部聞いたんだろ?」
「うん。それと、沖田さんの過去もね…」
二人の哀しい過去に触れて、自分もいろんなことを考えさせられたことを告げると、彼は自分の手を包み込むようにして私に悪戯っぽい微笑みを向けた。
「でも、今度こそこの手で幸せにしたいって思ってる」
本当に大変なのはこれからかもしれない。
でも、今の相手ならどんな苦境が立ちはだかっても大丈夫だと思える。
「気を付けて帰れよ」
「うん、ありがとう。そっちも頑張ってね」
ここでの作業を控えていた彼を見送り、残ったコーヒーカップを見つめながら、今現場で頑張っているであろう土方さんに想いを馳せた。
・
・
・
*土方SIDE*
PM 10:34
「お疲れ様でした」
役者やタレント達が、次々にそう口にしながらスタジオを後にしていく。
(…ったく、やれやれだ)
何度テイクを繰り返されたことだろう。
この手の現場はあまり経験が無いのだが、素人の俺でも一度言われたらもう少しマシにやって退けられそうなことが出来ない奴もいる。
それでも、今日の分の収録を終えることが出来たことに安堵の息を漏らす。
「いつも、お待たせしてすみません…」
「いや…」
俺より若いディレクターが、いつものように同じ台詞を投げかけて来る。芸能界とは、こんなものなのかと、くだらなく思うのは俺だけだろうか。
そうこうしているうちに、プロデューサーの新谷から例の件について尋ねられた。
「どうだい、そろそろやる気になってくれたかい?」
「…くどいようですが、本来なら俺達は裏方だから表に出なければならないという規約は無い。なので、断りたいところだが…」
(…くそっ…)
「そこまで求められているのなら、引き受けるしか無いでしょう」
「じゃあ、改めて二人にお願いするよ」
「…はい」
仕方なくそう答えると、彼はすぐに携帯を取り出し先方に連絡を取り始めた。
(…今夜こそあいつの元へ帰れそうだ。)
腕時計を見やりその場を後にしようとしたその時、
「もう、終わってたんだぁー!早めに来て良かったぁ」
(…そりゃ、良かったな)
例の彼女が現れ、まだ通話中の父親の傍で大声で騒ぎ立てている。未だに、自ら世間知らずだと言いふらしていることに気付いていない。
「土方さん、これからどこかへ連れてって下さい!」
「今夜は無理だ」
「えー、どうして?」
「答える義務は無い」
素っ気なく言い放つと、少し驚いたような表情をされるものの、すぐに微笑み、「怒った顔も素敵ですね」と、返される始末。
(…………)
それでも、この仕事が終わるまでの付きあいだと割り切り、ぎこちない笑みを作る。
そして、ようやく話し終えた新谷が娘を呼び寄せ、例の件について話し始めると彼女の顔がみるみる輝き始めた。
「きゃあぁあ、もうめちゃくちゃ楽しみ!ありがとう、土方さん」
(…面倒なことになったな…)
必要以上に纏わりつかれながらも、俺はただ、あいつの元へ帰ることだけを考えていた。
・
・
・
PM 11:45
何となく裕樹くんと話したからか、家に戻っても寂しさが半減されたような気がする。
それでも、昨日も一昨日も会えない日々が続いていたから、今夜こそはあの優しい温もりに包まれたいと思っていた。
~♪
受信したメールを開くと、“今夜も帰れないかもしれない”とだけ認められている。
「しょうがない…よね。でも、帰って来るかもしれないし…」
そう呟きながらも、やっぱり寂しさが込み上げてきて…
片思いしていた時のようなもどかしさを感じながら、私はただ、土方さんの帰りを待ち続けた。
~あとがき~
芸能界ってよく分かりませんが、浮き沈みが激しい世界だと思うので、生き残っていくのに大変だとは思いますが…。
プロデューサーの娘が、裏方でいるのは勿体無い…とでも、言ったのでしょう土方さんと裕樹くんが、自ら関わった作品の宣伝者として、俳優らと共にメディアの中へ…。
もう、まったくの勝手な想像ですけど;
ヽ(;´ω`)ノ
これからどないなるのやらっ
また、良かったら覗きに来てやって下さい
ちなみに、今…
俊太郎さま花エンド後の…
露天風呂の続きを秘かに書いております
書きながら、ぐふふと思っている私って
(///∇//)
いやしかし、
お風呂って……ドキドキしますなぁ