<艶が~る、二次小説>


沖田の店で裕樹に告白した涼子からSOSメールを受け取り、急遽駆けつけた主人公。その後、もう一度裕樹と会うことを決心した涼子を見守りながら、一夜を明かした。そして、土方と同棲生活を迎えることになった主人公が出会ったのは…。


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【Toshi Hijikata】#11



あれから、お昼過ぎ頃に車で迎えに来てくれた土方さんと二周ほどして荷物を運び終わった後、簡単にパスタでも食べようとお湯を沸かし始めて間もなく。


土方さんの携帯が鳴ってすぐ、何やら不機嫌そうに話しながらリビングを後にする土方さんを見送る。


(…日曜なのに仕事の電話かな?)


それからしばらくしてスーツ姿で現れた土方さんは、「野暮用が出来た」と、言って大きな溜息をついた。


「…ったく」

「仕方がないですね…」

「相手次第だが、遅くなるかもしれない」

「分かりました…」

「だが、」


視線を逸らした瞬間、土方さんの温かい指先が私の頬に触れ、「なるべく早く戻る」と、言って柔和な笑みをくれる。


「あ、はい…あの、夕飯は?」

「一応、用意しておいてくれ」

「はいっ」


終始不機嫌そうな顔が気になったのだけれど、その背中を見送って沸きかけたお湯に塩を入れてぐらぐらと煮える鍋の中にパスタを均等に入れた。


(今回は、急遽ディレクションも担当することになってしまったと言っていたからなぁ…)


抱えている仕事の悩みなどは分からないけれど、中間管理職であることから抱える問題も多いのだろう。


「と、いうことは…もしかしたら…」


土方さんとコンビを組んでいる裕樹くんも呼ばれている?


いずれにせよ、その仕事が上手くいきますように、一刻も早く土方さんが帰って来てくれますようにと思っていた。



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PM:3:16


(今夜は何にしようかな…)


遅いランチを済ませ、買い出しをする為に隣町にある商店街を歩いていると、


「○○さん」

「え…」


私を呼ぶ聞き慣れた声に辺りを見回していると、道の反対側で手を振っている沖田さんを見つけた。


「沖田さん!」


車の来ないのを確認して、そちらに駆け寄ると沖田さんはいつもの笑顔で、「お久しぶりですね」と、声をかけてくれる。


紫のTシャツの上に大人っぽい黒いカーディガンを重ね着し、ネイビーデニムに黒いレザーアップブーツ姿の沖田さんに新鮮味を感じながら、どうしてここにいるのかを尋ねてみた。


「ちょっと、用事があって。○○さんこそどうしてここに?」

「あ、じつは…」


照れながらも今日から土方さんとの同棲生活が始まったことを話すと、沖田さんはまるで自分のことのように喜んでくれた。


「あと、私…沖田さんに聞きたいことがあったんです」

「聞きたいこと?」

「はい」

「何だろう?」

「いや、その…大したことでは無いのですけど…」


「それなら、あそこで話しませんか?」と、言う沖田さんの目線の先にある喫茶店を見やり、笑顔で頷くと私達はその店へと足を運んだ。


その喫茶店は、とてもアンティークで落ち着いた雰囲気で、綺麗なランプの飾りがそこここにあり、私達は窓際の席に向い合せになって腰掛けると、沖田さんは視線を私の背後に向けながら、「実は、さっきまでここにいたんです」と、言って微笑む。


「え?!それってどういう…」


「お帰り、そしていらっしゃい」


低く落ち着いた声の主を探すと、ゆっくりとこちらに近づいて来る30代前半くらいの男性と目が合った。


「あなたは…確か、」

「え?」

「あの日、コンビニの前で偶然会った時、沖田さんと一緒にいた人ですよね?」


私の問いかけに、その男性は一瞬目を丸くして沖田さんと私を交互に見やる。


「そうです」

「見間違えじゃなかった…」


沖田さんの言葉にほっと安堵の息を漏らすと、男性も私を思い出したように「ああ、」と言いながら沖田さんの隣に腰掛け、


「あの時の…」

「はい、あの…私、沖田さんにはよくお世話になってて…」


改めて挨拶をして、これまでの付き合いなどを話すと、男性は「俺も、彼には世話になっているんですよ」と、言って悪戯っぽく微笑んだ。


「え、それはどういうことですか?」

「それは…ですね…」


沖田さんが言いにくそうに言葉を濁していると、


「店長、お客様が」

「分かった、今いく。じゃ、ごゆっくり」

「ご注文はもうお決まりですか?」


男性と入れ替わるようにしてやってきた店員さんに紅茶と珈琲を頼み、カウンター席に座っている常連客らしき人の元へと戻って行った男性を見つめていると、


「彼は、お付き合いしていた女性のお兄さんなんです」

「へ?!お、沖田さん…彼女いたんですか?」


沖田さんは、驚愕する私を見つめ少し困ったように微笑うと、また静かに口を開いた。


「あの日は、彼女の三回忌で…」

「え…」

「彼とお墓詣りに行くところだったんですよ」


予想していなかった内容に言葉を失っていると、沖田さんは外を見つめたまま懐かしそうに目を細めながら、彼女との思い出を話し始めた。


「土方さんと、裕樹くんにだけは話したことがあるのですが…」


二人が出会ったのは、大学1年の春。幼い頃から剣道を嗜んで来た沖田さんは、大学に行っても本格的に剣道に挑戦し続け、それを陰で支えてくれた彼女の明るく元気な笑顔に惹かれていったらしい。



艶が~る幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~



「そして、お互いに想いを伝え合い、付き合い始めて間もなく。彼女の父親が経営するあのバーへも頻繁に訪れるようになって…」


でも、そんな中。


不慮の事故により、彼女は同時に両親を亡くし、兄妹二人だけの生活を強いられることになったのだった。


その結果、早くから独立してこのお店を営んでいたお兄さんが、あのバーを掛け持ちしようと考えたらしいのだが、兄の苦労を考えた彼女は、父親の代わりにオーナーとなって働くことを決心したのだそうだ。


「その頃からです。僕らの周りで不幸が続くようになったのは…」


彼女は大学を中退し、沖田さんは剣道の試合中に怪我をして一時、剣道から遠ざかってしまったりと、不運続きの最中。


彼女に不治の病が見つかってしまう。


「あと一年もつかどうか、医者からそう告げられた時は…彼女の残りわずかな人生に寄り添わずにはいられなかった…」

「すみません…」

「え…」

「そうとは知らずに、私ってば…」

「確かに、あの頃はどうしたら良いのか分からないくらい悲しかった。でも、今は彼女が残してくれた大切な思い出があるし、○○さん達のような素敵な人との出会いもあった…」


だから、気にしないで下さいと、いつもの微笑みをくれる沖田さんにぎこちない笑みを返す。


「お待たせしました」


さっきの店員さんにより運ばれてきた珈琲と紅茶の香りに包まれてすぐ、「ごゆっくり」と、言ってその場を去ろうとする彼を見送りながら、沖田さんは、「ありがとう」と、返してそのまま美味しそうに口に含んだ。


「私が土方さんと訪れた時、沖田さんがプロを目指すのを諦めたのは、怪我が原因だと聞いていたのですが…もしかして、本当の理由って…」

「いや、土方さんの言う通りです。直接の原因は、腕の怪我でした。でも、あなたの言う通り僕を支えてくれた彼女の為に、今度は僕が彼女を支える番だと思って自ら身を引いたんです」

「…………」


その後も、沖田さんは“一日でも長く彼女と一緒にいたい”と祈りながら、入退院を繰り返す彼女の傍で出来る限りのことをし尽くした。


けれど、そんな沖田さんの祈りが神様に届くことは無く…。


彼女は、沖田さん達に見守られながら、眠るように息を引き取ったのだそうだ。



「あの時の手の温もりも、最期の言葉も…一生忘れません」


そう言って、沖田さんはまた窓の外に視線を向けながら瞳を細めた。


「そして、大学卒業後、閉めていたあの店を再開したいと思うようになり…今に至ります」

「本当に彼女のことを愛していたんですね」

「多分もう、彼女以上に愛せる人は現れないのではないかと思うほど…好きでした」

「…………」


思わず黙り込む私を気遣ってか、沖田さんはまた明るい声で、「何だかすみません、しんみりさせてしまいましたね」と、言って照れたように微笑う。


「いえ、そんなこと…ないです…」


カップを手に冷めた紅茶を飲みながら、沖田さんと彼女に自分たちを重ねて考えてみる。


もしも、土方さんが突然、彼女のご両親のようにいなくなってしまったら。私も、沖田さんのような悲しい想いを抱えることになったとしたら…


沖田さんみたく強く生きて行けるだろうか?と。



(…こんなこと、今まで考えたことも無かった…)


「ところで、僕に聞きたいことって…」

「え、あ…今、全て聞かせて貰いました。私、どうして沖田さんがあのお店で働くようになったのか…疑問に思っていたので…」

「そうでしたか」


沖田さんはまた珈琲を一口飲んで、


「涼子さんと裕樹くんはもうお付き合いされているんですか?」

「あの二人もいろいろあって…」


二人のことを尋ねられ、あれから二人に起こった事柄を簡潔に話すと、沖田さんは少し眉を顰めながら、「やっぱり迷っているのかな…」と、呟いた。


「迷う?」

「本当は、個人の問題なので僕が話すのはどうかと思うのですが…」

「な、何ですか?!」

「彼も、僕と同じような悩みを抱えているんです」

「沖田さんと同じような?!」


首を傾げる私に、沖田さんは真剣な眼差しを浮かべ静かに口を開いた。


「あの二人なら大丈夫だと思うのですが、彼の場合はもっと深刻なので…」


その言葉の意味を理解するまでに、かなりの時間を要した。




PM:5:25


お店へと向かう沖田さんと別れ、買い物を済ませて家に戻って来た私は、夕飯の下ごしらえをしながらさっきまでのことを思い返していた。


(…いつも笑顔の沖田さんにあんな哀しい過去があったなんて…)


それと同時に、涼子なら裕樹くんのもう一つの想いに寄り添えるといっていた沖田さんの言葉を思い出して、独り納得する。


「さすが、沖田さんだな…。確かに涼子なら、きっと裕樹くんのその想いに寄り添えるはず」


土方さんの帰りを待ちつつ、さっきの沖田さんの言葉を思い出し、この後、話し合う予定の二人が上手く行くことを心から祈っていた。





【#12へ続く】





~あとがき~


やっとこ、沖田さんの過去を少しですが描くことが出来ましたキラキラ


このお話では、愛する人に寄り添い…最期を見送った沖田さん。


でもでも、わたすは沖田さんをこのままでは終わらせまへん(笑)でもって、裕樹と涼子の方も決着が。そして、野暮用に出かけた土方さんの方にも少しずつ展開が…。


ちなみに、たまに『裕樹』が、『祐樹』になっていることに気が付かないわたすだったりします(笑)


また良かったらこの物語も見守りに来てやって下さいラブラブ!


今回も遊びに来て下さってありがとうございました音譜