【前回のあらすじ】


愛美の意味ありげな言葉に惑わされていた主人公だったが、誤解も解けて土方の想いを再認識する。一方、沖田は亡くなった恋人と瓜二つな藍田に惹かれて行った。


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【Toshi Hijikata】#19


ふと、目覚めカーテンの隙間から漏れる朝の白々とした光に目を細めた後、ベッド脇のデスクに置かれた時計を見やった。


(まだ5時か。結局、あまり眠れなかったなぁ…)


優しい抱擁の後、逆に目が冴えてしまった私は土方さんの優しい温もりに包まれ、穏やかな寝息を聞きながら明日からのことを考えなかなか眠れずにいた。


編集も大詰めを迎え、二週間後にやって来るイベントの為に私が出来ることをやり遂げる。私は、それだけを考えていればいいのだと。


そう思うと同時に、涼子や裕樹くん。そして、相沢さんの言葉が頭に浮かんで来て、思わずすぐ傍の広い背中にそっと触れてみる。


(素直に…ありのまま…)


今度こそ、誰に遠慮することもない。


そう思った時、


(…えっ…)


不意に、こちらに向き直る土方さんの少しぼんやりとした視線と目が合った。


「…どうした」

「え、いや…何も。ごめんなさい、起こしちゃいましたか…」


当たり前のように包み込まれる右手。

無言でその手を不意に引き寄せられ、そっと肩を抱きしめられる。


言葉は要らない。

ただ、私は甘えるようにその胸に顔を埋めた。


(大好き……)


この手の温もりが、私を愛してくれている証なのだと思っただけで幸せな気持ちになれる。


「昨夜も言ったが……俺にはお前だけだ」

「…っ……」

「んなこたぁ、何度も口にすることではないが…」


その少し照れたような声にふと顔を上げると、土方さんは私の頬を包み込むようにしてその顔を近づけて来て、またとろけるようなキスをくれた。


「…んっ…」


やがて、零れる吐息を堪えることも、手を伸ばすことも躊躇せず上に覆い被さって来る土方さんを抱き寄せる。


「…好き……」


言わされるのではなく、私の方から素直な想いを告げたのは初めてかもしれない。呟く私の声に答えるように、ぎゅっと抱きしめてくれる土方さんに身を委ねた。


こういう時だけ口に出来る素直な想いもあり、それを伝え合う為に抱きしめ合う行為も必要なのかもしれない。


今までとは違う自分を見出せた気がして、私は時間ギリギリまで土方さんの温もりに甘えていた。



幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~




あれから、現場では少しずつその立場が変わりつつあった。


愛美さんとじっくり時間をかけて想いを伝え合った結果、お互いのことをほんの少しだけ理解し合えたことが一番の理由だった。


事態が良い方向へ向き始めたのは、相沢さんのおかげでもある。愛美さんの想いは未だ土方さんに向いたままだとしても、相沢さんが愛美さんの過去の話をしてくれなかったら、こんなに早く話し合う時間を設けようとは思えなかっただろうから…。


土方さんのはっきりとした態度は勿論のこと。


相沢さんの、誰からも受けられないような優しい言葉と抱擁が、疲れ果てた私の心を癒してくれたことが大きく影響している。


それからというもの、愛美さんが土方さんだけに着くことは無くなり、何かある度に二人で話し合いながら土方さん達をサポートするようになっていた。



「買って来た」

「ありがとう」


給湯室でコーヒーとお茶の用意をしていた私の背後。


コンビニの袋ごとこちらへ差し出す裕樹くんから、それを受け取るとすぐにそれぞれの受け皿に砂糖とミルクを足してゆく。


「…土方さんから聞いたよ。愛美ちゃんのこと」

「そう…」


苦笑しながら裕樹くんを見やる。


「あの子にそんな過去があったなんてな…」

「私も、相沢さんから聞いた時は吃驚した」


愛美さんの想いも理解したうえで、こちらの想いも伝えたことなどを話すと裕樹くんは伏し目がちに呟いた。


他人のことを100%理解することは無理かもしれないけれど、その人のことを知らないうちは無責任な発言は出来ないものだ、と。


確かに、その通りだと思う。


よく、私の何が分かると言うの?と、いう台詞をドラマとか漫画とかで耳にして来た。そんな言葉で、自分の殻に閉じこもるのは良くないと思いつつ、その人の苦労や哀しみを知らずに外見や言動だけで判断してしまいがちなのも事実なわけで。


自分のことしか考えていなかったことを悔やんだり、反省したりすることもある。


「人間関係を保つということは、そういうのの繰り返しなのかもしれないね」

「そうだな…」


お互いに微笑み合い、裕樹くんはコーヒーを。私はお茶とお菓子を用意し終わると、手分けしてロビーへと運んだ。


「あっ…」

「あれ?」


そこにいたのは、イベント当日まで会えないと思っていた相沢さんだった。運んできた物をそれぞれテーブルの上に置きながら改めて挨拶をすると、相沢さんはソファーに腰掛けたまま柔和に微笑んだ。


「急遽、この辺に野暮用が出来てね。気になって寄ってみたんだ」

「そうだったんですか、あの…宜しかったらコーヒーどうぞ」

「ありがとう。じゃあ、遠慮なく貰おうかな」


早速、淹れてきたコーヒーを差し出してそれを美味しそうに飲む相沢さんを見やる。


「それで、編集状況はどんな感じ?」

「はい、あの後すぐに壁にぶち当たってしまったんですけど、それもようやく解決しました。思っていたよりも、良いものに仕上がっていると思いますよ」


相沢さんに尋ねられるままに答える裕樹くんの横顔と、また美味しそうにコーヒーを飲む相沢さんを交互に見ながら二人の会話に耳を傾けた。


その裕樹くんの説明の最中、休憩し始めるプロデューサーやミキサーさん達が次々とブース内から出て来て、お茶やコーヒーに手を付け始める。


「お疲れ様です」


それぞれに声を掛けて、奥から出て来た土方さんと愛美さんにも労いの言葉を掛けると、愛美さんが少し申し訳なさそうに私を見つめ言った。


「お茶の用意、ありがとうございました」

「気にしないで、裕樹くんが手伝ってくれたから」


そう笑顔で返して、早速、ソファーに腰掛け相沢さんと話し始める土方さんにコーヒーを勧めると、いつものように「ああ」とだけ返って来る。


その内容は、裕樹くんが話してくれたこととほぼ同じだったが、やはり視点の違いなのか、価値観の違いが現れ始めた。


(さすが、土方さんだな…)


一番、携わっていたからというのもあるけれど、弁舌さわやかな土方さんに改めて尊敬の念を抱いた。





その後も、編集に追われる土方さんには今まで通り愛美さんについて貰い、私は裕樹くんのフォローをしながら、ロビーでタブレットと睨めっこしている相沢さんの世話も任されていた。


「コーヒー、お代わりお待たせしました」

「ありがとう。ごめんね、居座っちゃって」

「いえ、全然…気にしないで下さい」


新しく淹れて来たコーヒーをまた美味しそうに飲むその笑顔が、とても可愛くて。思わず微笑み返している自分に気づいて、慌てて視線を逸らした。


「あとは、土方くん次第だな」

「え?」

「スマイルだよ」

「ああー!例の…」


イベントでしかも、宣伝しなければいけない人間がムスッとした顔をしていては逆効果なので、個人的にも土方さんの笑顔に不安と期待を抱いていて…


「スマイルもそうですけど、あまりペラペラとお喋り出来る人では無いので…その、なるべく土方さんの重荷にならないようにして頂ければと…」

「俺も、無理に喋らせるつもりは無いけどね。彼には酷だと思うから」

「あ、あはは…」


(誰でもそう思うよね…)


困ったように微笑みながら言う相沢さんに苦笑を返した。その時、不意に相沢さんの携帯が鳴った。


「何かあったかな…」


ちょっとごめんね。と、言って玄関の方へ行く相沢さんを見送る。


(相沢さんも忙しい人だなぁ…)


ここに顔を出してから、何度携帯に呼び出されたことか。この件だけでは無いとしても、それだけ頼りにされているということなのだろう。


時々、こちらを見ながら未だ話しこんでいる様子の相沢さんが、ようやく携帯を手にしながらこちらへ戻って来るとしばらく何かを考えた後、満面の笑顔で私に言った。


「今夜は、みんなで飲みに行かないか?」

「えっ?」

「この後の会議が、明日の昼過ぎに延期になったんだ。勿論、有志だけど」

「たまには良いかもしれませんね。ただ、今日の編集が計画通りに進めばの話ですけど…」


土方さん達がこもっているブースの方を見ながら言うと、相沢さんはまたタブレットを手でスクロールし、メールをチェックしながら静かに口を開いた。


「こっから少しタクシーで移動するけど、いい店があるんだ。もしも、人数が確定したら連絡して予約を入れておくけど」

「じゃあ、次の休憩の時に聞いてみますね」


そしてまた、相沢さんは何やら書類を作成し始め、私も同じようにPCを開き雑用を熟し始めて間もなく。最初に沈黙を破ったのは、相沢さんだった。


「ところで、その後はどうなったのかな?」

「…あの件ですか?」

「秘かに気になっていたからね」


あの優しい瞳と目が合う。


あれから、土方さんとも愛美さんともしっかり話すことが出来たことを丁寧に話すと、相沢さんは穏やかな微笑みを浮かべながら、「良かったね」と、返してくれて…


「…相沢さんのおかげでもあります。ありがとうございます…」

「俺に出来ることはごく僅かだけど、これからも君が君らしく呼吸していければって思う」


(こんなに素敵な人が、どうして私なんかに……やっぱり分からない…)


「それにしても、どうして土方くんより先に出会えなかったんだろうな」


(…っ……)


さらっと言ってくれるけれど、何気にその言葉の意味は重たいわけで…


「あの、何て言うか……どうして私なんかを…」

「一目惚れだって言わなかったっけ?」

「そう聞きましたけれど…」

「人を好きになるのに、理由なんて無いと思うけど」


これまた、笑顔で言い放つ相沢さんを見やり、徐々に頬が熱を帯びてくるのを感じながら俯いた。


確かに、人を好きになるのに理由なんて無いかもしれない。私も、そういう経験をしたことがあるから分からなくはないし、理屈では片づけられないということも知っている。


それでも、何となく相沢さんが見ているのは私ではなく、違う誰かのような気がして。そんな思わせぶりな言葉さえ素直に喜べずにいた。




【#20へ続く】




~あとがき~


#19から何気に一ヶ月が過ぎていたんですねあせる

何やら、相沢さんにもいろいろありそうな…。


そして、もうお気づきかと思われますが…まだまだ、三角関係は続き…いずれ、相沢さんの想いも加わり、四角関係なんてことも…


余談ですが。

土方さん以外のキャラを、俳優さんに当てはめるとしたら…


水野裕樹は、成宮寛貴さんラブラブ


菊池涼子は、深津絵里さんが演じるさばさばとした女性な感じラブラブ!


相沢佑哉は、藤木直人さんとかのイメージだったりしてます音譜


しっかし、「ラストシンデレラ」の藤木さんは本当に格好良かった…。

三浦春馬くんと言い合うシーンは、ぐっと来てしまいました(笑)


新谷愛美は、古高由里子ちゃんとかをイメージしてますドキドキ


貴女のイメージはどないですか??にひひ


今回も、二人を見守りに来て下さってありがとうでしたきらハート


でもって、趣味ブログもアップしましたハート


【安藤早太郎と沖田総司】

↑今日は、TV局中法度!(安藤早太郎と沖田総司らの捕り物のシーン)と、私の理想の沖田総司などむふっ。