【前回のあらすじ】


土方と会えなくなって数日が経つ中、土方の配慮により主人公は土方と水野の補佐を担当することになった。いざ、仕事場へ向かった主人公の前に現れたライバル、新谷愛美。彼女との三角関係がスタートしてしまったのだった。


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【Toshi Hijikata】#15



「……いい加減にしろ」


ふと見上げた視線の先。

眉間に手を添えながら低く抑えたような声で、土方さんが呟いた。


(この響き、マズイ…。)


そう思った時にはもう、後の祭りだった。


土方さんは、裕樹くんに一声かけると、私の手を取り奥へと歩みを進めた。


「ひ、土方さんっ…」

「………」


裕樹くんと彼女の話し声が遠くなる中。

いつもよりも強引な態度に戸惑いながらも、導かれるままに歩いていくと、空いていたブースの中へと辿り着き。


重たいドアを閉め、体を預けるようにソファーへと腰を下ろす土方さんを見やる。


「あ、あの…良かったんですか…」

「ああ」


疲れきった視線を受け、その流し目に誘われるまま、お弁当の入ったバッグをテーブルの上に置いてゆっくりと近づいた途端、強引に腕を取られ土方さんの膝の上に腰を下ろす形になり、


「あっ…」


そっと受け止める抱擁。

いつものように、ギュッと抱きしめられるだけで身も心も温かくなり、穏やかな気持ちになって…


「ずっと、こうして貰いたかった…」

「…待たせて悪かった」


思わず零れた本音に甘い声で囁き返してくれる。


たった数日間とはいえ、私にとってはその倍以上に感じられて。しかも、土方さんも同じように感じていてくれたことが、やっぱり嬉しくて。


私は、久しぶりの優しい抱擁に身を委ねながらも、涼子と一緒に作ったお弁当を持参したこと。そして、これからの動向を尋ねた。


「さっきの、えっと…補佐の件なんですけど…」

「それもなんとかする」

「え…」

「お前一人で十分だからな」


(…こうやって、はっきり言ってくれるのは嬉しい…けれど、噂以上だった彼女。簡単に引き下がってくれるとは思えない)


そんな風に思っていた時、土方さんの携帯が鳴った。


それは、裕樹くんからのようで、土方さんは生返事を返して携帯を切ると、再び大きな溜息をつき眉間を押さえ込みながら言った。


「…戻るぞ」

「は、はいっ…」


──ガンッ。


「いったぁぁぁ…」


急いで立ち上がった瞬間、思わずテーブルに膝をぶつけ飛び上がりたくなるような激痛に声を殺しながら堪えていると、頭上でまた小さな溜息を耳にする。


「…先が思いやられるな」

「あ、あはは…」


ただ、苦笑いをする私に呆れたような、でも、どこか薄らと微笑みを浮かべる土方さんと共にその場を後にし、さっきのロビーに戻ると、


そこには、困ったように微笑う裕樹くんと、不機嫌そうにソファーに座り込んでいる愛美さんの姿があった。


少し、いや…かなり気まずい雰囲気に私は土方さんの背後でただ次の言葉を待っていた。そんな中、最初に口を開いたのは、愛美さんだった。


「…○○さんと私とで、お二人をサポートする。それでも駄目ですか?」

「って、言って聞かないんですよね」


真剣に話す彼女の一言に、裕樹くんが土方さんを見やりながら言う。


すると、土方さんは私と彼女を交互に見て、「考えておく」と、溜息交じりに言い放ち、先程出て来たブースの中へと戻って行った。


(…うぅ、ますます気まずい雰囲気に…)


「と、言うことだ。どうする?」

「どうするって…言われても…」


突然の問いかけにどぎまぎしていると、愛美さんはゆっくりと立ち上がり視線を私に向け言った。


「今の返事は、認めてくれたとみていいんですよね」

「え、あ…多分」


その視線を受け止めながらそう言って苦笑いを返すも、「改めて、これからよろしくお願いします」と、満面の笑顔を返され、なんだか宣戦布告されたような気持ちになる。


(…この笑顔が怖いなぁ…)


さっきは、私一人で十分だと言ってくれたけれど、やはりお得意様の気持ちを無下に出来ない土方さんの立場も考えなくては…。


土方さんと共に動けることは嬉しいけれど、彼女と協力してやって行かなければいけないという重圧を背負わされ、今後の展開を想像するだけで気勢を殺がれた。


 ・


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*沖田SIDE*



──PM:4:25


「いつの間に、こんなに開花したんだ…」


店へと向かう途中の桜並木も、見事に咲き誇っていた。


幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~


ここは、近所で有名な桜並木だが、僕にとっても特別な場所で。


(もう一度、一緒に歩くことが出来たら…)


思わず彼女を懐かしんだその時、前方から歩いてくる女性に目を奪われた。


「あれは…」


その姿は、まるで彼女に生き写しだったから。


何かの暗示にかかったように目が逸らせなくなり、どんどんこちらに近づく女性に心臓がこれ以上無いほど高鳴り始め、


「あの、すみません」

「え、」


突然、声を掛けられ初めてハッとして、視線を逸らした。


「ちょっと、道をお尋ねしたいのですが…」

「あ、はい…」


その行先を聞いて、今度は唖然とする。


「そこは…」

「この近くですよね?」

「え、ええ。何ていうか…そこは僕の店です…」

「えっ、そうだったんですか?!」


同じく唖然とする彼女に微笑むと、彼女は急に嬉しそうに笑って言った。


「あの、私、先日アルバイトの件でお電話した、藍田理紗と言います!」

「貴女がそうだったのか…」

「はいっ」



三日ほど前のこと。


新しくバイト希望の連絡を貰っていたことを思い出し、彼女がそうだったのかと気づいた次の瞬間、満面の笑顔がこちらに向けられ…


「良かったぁ。私、方向音痴なもので…時間通りに辿り着けるか心配だったんです…」


そう言って、苦笑する藍田さんに改めてあの頃の彼女を重ね見てしまう。


(…似ているなんてもんじゃないな)



そんな風に思いながらも、藍田さんを店へと案内し、早々に面談を済ませた。


隣町に住むという彼女。

ここまでは、原付で通うとのことだった。


「それじゃ、明日からお願いします」

「はい、こちらこそよろしくです!」


椅子を丁寧に戻し、改めて僕に微笑みながら小さく一礼すると藍田さんは店を後にした。


「ふぅ…」


緊張しっぱなしだったからか、思わず零れる溜息に自ら苦笑する。


この世には、自分と似た人間が数人いるなどと言われているが、彼女に瓜二つの女性を目にすることになろうとは…。


彼女が戻って来てくれたような、そんな不思議な出会いに喜びと躊躇いが綯交ぜになっていた。


 ・


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──PM:7:17


あれから、無事に持参したお弁当を二人に食べて貰い、彼女が頼んでしまっていた豪華高級弁当を夕飯に回して、とりあえずの休憩を得ていた。


相変わらず、愛美さんは誰よりも先に土方さんの身の回りの世話をきちんと熟し、笑顔を振りまいている。


「おい、今の段階では負けてるぞ」

「う、うん…」


裕樹くんの囁き声に答えて、また俯きながら苦笑する。


本当は、彼女のように土方さんだけについていたいと思う。でも、手の足りている土方さんよりも、裕樹くんや他の方々も同じようにサポートが必要だから、どうしてもそちらへと目が行ってしまうのだった。


「俺達のことはいいからさ」

「ううん、そうはいかないよ。涼子からも頼まれているし、それになにより…誰一人として欠けてはならないんだから、少しでも私が動いて休んで貰わないと。なんの為にここにいるのか分からなくなるから…」

「…まぁな」


苦笑しながら言う私の肩をマッサージするようにして、「お前も無理するなよ」と、言ってくれる彼の優しさに感謝する。


彼女が土方さんに寄り添う度に心が痛くなるけれど、涼子や裕樹くんの言葉を思い出し、ただ土方さんを信じて見守るだけ。


こうして、土方さんの働く姿を見ていられるだけで幸せだと思うようにしていた。




それから、4時間後。

ようやく今日の分の編集が終わった。


疲れきった様子のスタッフたちにお茶を配り、それぞれにお疲れ様でしたと声を掛ける。


土方さんにも同じようにしてお茶を手渡そうとしたその時、反対側からすっと伸びて来たコーヒーを目にして、思わず手を止めた。


(あっ…)


「淹れたてコーヒーどうぞ」

「………」


両方からお茶とコーヒーを差し出され、土方さんは迷わず私からお茶を奪い取り口に含む。


「えっ…」


愛美さんの戸惑いの声が聞こえてすぐ、土方さんは一気にお茶を飲み干して私に手渡すと、「お疲れ」と、言ってブース内を後にした。


次々とその場を後にする人達にも挨拶をしながら、気が付けば彼女と二人きり。


「ぶぅ、せっかく美味しいコーヒーを淹れて来たのに。今は、お茶の方が良かったのかな」


お盆の上のコーヒーカップを見ながら呟く愛美さんを、私はやっぱり逞しいと思ってしまう。


もしかしたら、本当にコーヒーよりお茶のほうが良かったのかもしれない。でも、決して自分のしたことに対して、めげない性格は…見習いたいなどと思ったりして…。


「○○さん、お疲れ様でした」

「え、あ…お疲れ様でした…」


不意に、愛美さんから話しかけられ少しすっとんきょうな声で答えると、彼女は真剣な眼差しで私を見つめ言った。


「今夜は大人しく帰ります。でも、私…土方さんのこと諦めませんから…」

「えっ…」

「どうしても土方さんが……土方さんじゃないと…」

「愛美…さん…」


短くも長い沈黙。


「…失礼します。お疲れ様でした」

「お、お疲れさま…でした」


少し哀しげな表情でブースを後にする彼女を見送り、速まる動悸を抑え込みながら空のコーヒーカップなどを片付け始めた。


(…い、今のって…やっぱり…)


と、その時。


「とうとう、宣戦布告されたな」

「ゆ、裕樹くん!聞いてたの?」

「聞こえてきたんだよ。忘れ物を取りに来ただけなんだけど…」


もう一つのドアから入って来た裕樹くんが、あった、あったと言って、私の隣にあるデスクへと歩み寄り、乱雑になっていた書類を手にしながら、ニンマリとした笑みを浮かべた。


「面白がってない?」

「いや、それは無い。あの子の言動には俺も手を焼いているから……でも、あの子の根性は買いたいと思うよ。なんか、はたから見たらあの子のほうが土方さんの彼女みたいだしな」


(…やっぱ、そう見えるよね…)


「土方さんがお前以外に行くなんてことは無いと思うけどさ。あの子、本当に土方さんのことが好きなんだなって、思う時もあるんだよな…」

「………」

「彼女とはいえ、うかうかしてると本当に取られちまうぞ」

「キツイ一言、ありがと…」


(それに、涼子とおんなじこと言ってるし…)


でも、その通りだ。


彼女は可愛いし、素直に自分の想いを口に出来るし、頭の回転が速くて補佐としての役割以上の働きを見せている。


それに、土方さんのことを語っていた時の彼女の眼差しは真剣そのものだった。


付き合っているとはいえ、将来を約束している訳でもなく…。

このままでは、本当に土方さんを取られかねない。


だからと言って、これからどうしていけば良いかなんて解決策がある訳でも無く。


私はただ、途方に暮れたまま、手伝うと言ってくれる裕樹くんに甘えながら、とりあえず片づけなければならない目の前の仕事を熟した。





【#16へ続く】




~あとがき~


なかなか、彼女がいる人を好きになってもここまで言い寄る人って少ないと思うんですがあせる


どうやら、始まってしまった三角関係w

沖田さんの方も、急展開あせる


これから、どないなるのか!

盛り上がって参りましたww


(* ̄Oノ ̄*)


余談どすが、最近…スーツ姿の男性や女性に目を奪われてしまいます;


後ろ姿なんて、特にww


パパも私も自営で私服なので、余計に。


何でかは分かりまへんがwww


でもって、今日は…電車内で20代前半くらいの男性が袴姿で立ってるのを見て、きゅんきゅんしたことは言うまでもありまへんww


やっぱ、ええどすなぁ。


男性の袴姿もラブラブ!