ジェームズ・ジュールの「成り上がり」物語は、この時代ならではのもの。エールや黒ビールを製造していた醸造所の家に生まれたジュールは、いってみれば「道楽科学者」。科学の本道からかなり離れた場所で、エネルギー変換(当時はエネルギーという概念はまだ生まれていなかった)の実験をくり返し、様々なエネルギー(くどいですが、エネルギーという言葉も定義されていない時代です。ここでは、現代の価値観で解説しています)が等価であることを示しました。
ジュールはエネルギー変換に関する実験結果の報告を、学会で行っていますが、正当な科学者ではないジュールには、短い時間しか与えられませんでした。
でも、この発表を聞いて、分かる人は分かる。
ウィリアム・トムソン(後のケルビン卿)は彼の発表を聞いて「考え方の多くは間違っているでしょうが、彼はきわめて重要な事実をいくつか発見したように思えます」と述べています。
これらの発表を契機に、ジュールの名前は徐々に知られるようになり、アマチュア科学愛好家だったジュールは、物理学会に受け入れられていきます。
このエネルギー変換の実験でもっとも有名なものが、有名なジュールの実験で、力学的エネルギーと熱エネルギーの変換率を確定しました。現在では、1カロリー=4.19ジュールとして知られている内容です。
ジュールはこのほかにも、様々なエネルギー変換実験を行い、電流の発熱もその研究の一つ。今、ジュール熱として知られている電流の発熱量を示す関係も、ジュールが見つけたものです。
今回は、この、ジュール熱の話です。
前回の続きで、電流現象をミクロレベルで考えています。
自由電子が電場から力を受けて移動するというモデルです。
このモデルは深入りすると非常に難しく、どこまで正しくてどこから間違っているのか、判別が難しい場合もあります。
ここでは、実際の電子の運動を詳細に追うのはやめて、ざっくりした終端速度の考え方を用いて説明しています。
つぎつぎに陽イオンと衝突することで、自由電子は加速と減速をくり返しますが、前回見せたビー玉の運動と同様で、個々の運動は複雑ですが、全体としてみれば、電気力と抵抗力が釣り合った一様な運動と見ることができます。
このやり方だと、いろいろな問題点をクリアして、最終的な結論に辿り着くことができるんですね。(これらの背景は、複雑になりますので、また後ほど書きます。理論的なことが気になるタイプの人は、もうしばらくお待ちください)
電気の世界は、工学と理学の研究者がそれぞれの思惑で英論文を訳してきた経緯があり、物理用語の統一が成されていません。
たとえば、「electric field」は、工学では「電界」、理学では「電場」と訳されます。
「電圧」は工学の言葉、「電位差」は理学の言葉ですね。
このくらいならまだ許せますが、明らかな誤訳のために、日本の高校生は無意味な混乱をしいられています。
「電力」「電力量」は、世界共通の正当な物理用語が、日本でだけ特殊な言葉に変わってしまった例の一つです。ヘンな言葉ですよね。この日本語で学習すると、誤解ばかりが積み重なります。
英語の原文なら、
電力量=electric energy(電気エネルギー)
電力=electric power(電気の仕事率)
ですから、誤解のしようがありません。
たぶん、「electric power」の「power」を「力」と訳したアホな人が昔いて、そのせいで「電力」という言葉が日本でだけ定着したんでしょうね。powerは「力」ではなく「仕事率」の意味の英語です。
科学と英語、両方に堪能な人が訳していれば、間違いなく「電力」でなく「電気の仕事率」と訳していたはずで、無意味な混乱が防げたはずです。
「electric power」を「電力」と訳してしまったせいで、「erectric energy」は電力を使った言葉にせざるを得なくなり、「電力量」という、なにがなんだかわからない特殊用語がつくられました。アホ×2ですね。
困ったことに、日本の教科書は、この誤訳をずっと使い続けているのです。
教科書には載っていませんが、この話は日本で物理の学習をする人にとっては、必須の知識ではないでしょうか。ぼくは、授業で必ずこの話をしています。無駄な混乱を事前に防ぐために。
では、書き込んだプリントをみていきましょう。
ミクロの理論で難しいのは、そのモデルが現実とどの程度マッチングしているのかという問題でしょう。
このプリントで紹介していないモデルだと、電子が電場から力を受けて等加速度運動をして、陽イオンにぶつかると速度がいったんゼロになる。その後また等加速度運動、停止をくり返すという過程を詳しく追いかけます。
ここでは詳しく論じませんが、このモデルには適用限界があり、あまりうまくいきません。(にもかかわらず、入試問題などにも登場しています)
さらに、自由電子と止まっている陽イオンとの衝突で抵抗が生じるという古典的なモデルそのものに問題があります。
電子は波動性も持っており、波と考えた場合、規則正しく配置している陽イオンは抵抗なくすり抜けてしまいます。抵抗が生じるのは、陽イオンがでたらめな熱運動をしている場合だけです。(この見識は、ずいぶん前に、岐阜物理サークルの石川先生から教えていただきました)
より正しく表現するなら、自由電子は陽イオンの熱運動と衝突して抵抗を受けるのですね。
前回の記事では書かなかったのですが、釘板モデルを見せるとき、ぼくはビー玉を落とした後、釘板を左右に振って、熱運動があると抵抗が増え、ビー玉が通過するのにかかる時間が増えることを見せています。(体力的に大変な実験ですが)
このプリントに書かれた一連の内容は、ほとんどそのままの形で(たまにさきほど述べた等加速度運動と停止のくり返しのパターンで)、大学入試に出題されます。
熱運動のミクロ理論と同様に、大学入試では定番で出題される問題ですね。受験生の方はよく練習しておきましょう。
P=VIは、日常の生活でも使えます。
家庭のコンセントは、系列ごとに最大電流値が決まっており、だいたいどこも20アンペアです。P=VIに当てはめば、家庭の電圧は100Vですから、P=100×20=2000ワット=2キロワットです。
同じコンセントにつないだ電気機器が2000ワットを超えると、ブレーカーが落ち、停電になります。
使用する機器の電力を見て、2000ワットを超えないように使いましょう。
最後の4は、家庭で使う電力量の単位です。電力会社からくる使用料金のお知らせには必ず書かれています。
これも、物理の本質には関係ない知識ですが、日常の生活には必要な知識ですね。
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