マクスウェルがファラデーの電場の理論を、数式で表すとともに、ファラデーが思いつかなかったポテンシャルという概念を導入して、電場の理論をより豊かなものにしてくれたおかげで、(古典物理学における)電磁気現象は非常にすっきりとした理論で議論できるようになりました。
マクスウェルの電磁方程式をイギリスのオリバー・ヘヴィサイドが有名な4つの美しい電磁方程式にまとめあげ、一方で、ドイツのハインリッヒ・ヘルツがマクスウェルの理論から予想された電磁波の存在を実験的に確認したことで、マクスウェルの電磁気理論の地位は不動のものになりました。
そのため、19世紀末の物理学者たちは、「もう物理学で研究することがなくなってしまった。この後の物理学者の仕事は新しい法則の発見ではなく、応用面で細かい仕事をするだけになる」と嘆いたといわれます。
それは、20世紀に入ってすぐに発見された光に関する2つの新しい理論により、幻想だとわかるのですが、その話は今回は関係ないので、後の機会に譲ります。
さて、電位すなわちポテンシャルの性質こそ、電気回路を考える上でもっとも重要な内容になります。
では、コンデンサーの複雑な回路について、広義のキルヒホッフの法則をどう用いるか、実例で見て行きましょう。
問題は単純です。一番上の回路で、問題にあるような手順で2つのスイッチを入れたり切ったりすると、コンデンサーの電荷はどうなるか?
ところが、この問題は、合成容量の考え方では、歯が立ちません。
そこで登場するのが、広義のキルヒホッフの法則。
前回登場したものですが、念のため、もう一度見ておきましょう。
1)コンデンサーの関係:各コンデンサーについて、Q=CVが成り立つ。
2)電位の上り下りの性質:回路に沿って一周すると、電位の上り下りの計=0となる。
3)電荷の保存:導線でつながれた2つのコンデンサーの極板に蓄えられている電荷の合計は保存さる。
の3つです。
この3つを適宜使えば、問題はあっさりと解けます。
授業では、この例題1をじっくり解説しますが、それほど難しいものではありません。
一度聞けば、すぐに応用できます。
プリントの残り半分は、練習用の問題です。
では、特に例題1について、詳しく見て行きましょう。
スイッチを入れたり切ったりする度に何が起こるかを明確にするために、同じ回路図がいっぱい描いてあります。
これは、考える順序を示すための図で、初めて学習するときはこういう順を追った説明にしないと混乱します。
慣れてしまえば、図をいちいち描き直さなくてもよくなります。
では、プリントの書き込みを見て下さい。
(1)スイッチS1を閉じる。
2つめの図を見て下さい。複雑な回路に見えますが、実際に電荷の移動が起こったのは、回路の左半分だけです。右半分は回路の一部が切れているので、不通の道路をクルマが移動できないのと同じで、電荷の移動は一切ありません。
したがって、左半分の回路だけ見ればいい。
1周分の電位上り下りの合計=0の式は、この回路では
+15ーV=0
となります。(簡単すぎますが、すべてをキルヒホッフの法則で説明しています)
また、コンデンサー1についてQ=CVが成り立つので、Q=1.0×15=15(μC)
コンデンサー2については、先ほどいったとおり、電荷は0、極板の電位差も0です。
(2)スイッチS1を開き、S2を閉じる。
3つめと4つめの図を見て下さい。
3つめは、(1)で出た結果を図に書き込んだものです。
4つめは、その後、スイッチS2を閉じた後に電荷が移動し、2つのコンデンサーの極板の電荷が、仮にQ1、Q2となったとした時の図です。
気をつけることは、電荷の正負。
コンデンサー1と2の極板にどのように電荷が溜まるのかは予測できませんので、仮の電荷を書き込みます。ここでは、図のように、1つめと2つめのコンデンサーの極板に、+−+−の順で電荷が溜まると仮定しました。ただし、1つめのコンデンサーと2つめのコンデンサーの電気量が等しいとは限らないので(実際、等しくありません)、1つめの電荷はQ1、2つめの電荷はQ2としてあります。
まず、電荷の保存から考えましょう。
3つめの図の青ペンで囲った部分の2枚の極板は、導線でつながれたひとつながりの極板で、電荷はこの範囲内でしか移動しません。したがって、3つめの図と4つめの図では、2枚の極板に載っている電荷の和は保存されます。図を見ながら電荷の和を式にしていくと、プリントの書き込みの通り、
(-15)+(0)=(-Q1)+(Q2)
となります。電荷の正負に気をつけて下さい。図では1つめのコンデンサーの青ペン内の極板の電荷は負ですから、勝手に正として和の式に入れてはいけません。
次に、電位の上り下り。回路に沿って、空想の散歩をちょうど1周分、行います。そのとき、散歩する道筋に沿って、電位の上り下りが起こりますので、その和を記録し、0に等しいという式を立てます。
この場合は、4つ目の図について、閉じた回路になっている右半分を1周します。
図の赤い矢印に沿って、空想の上り下りの散歩をすると・・・
電池で27(V)上り、コンデンサー1でV1(V)下がり、コンデンサー2でV2(V)下がりますから、
+27-V1-V2=0
となります。
最後にコンデンサーの式。
コンデンサー1について:Q1=C1・V1=1・V1
コンデンサー2について:Q2=C2・V2=2・V2
これで、未知数が4つ、方程式が4つとなりましたから、必ず解けます。
なお、コンデンサーの式からV1=Q1/1、V2=Q2/2として、電位の上り下りの式を最初から、
+27-Q1/1-Q2/2=0と書けば、電荷の保存の式と合わせ、たった2つの方程式で問題を解くことができます。
(抵抗の回路の問題で使うキルヒホッフの法則は、まさしくこの形式になっています)
あとは、連立方程式を解くだけです。
くどいようですが、この解答には直列コンデンサーに関わる式はいっさい登場しません。それは、この回路を直列コンデンサーと考えてはいけないからです。
2枚目の問題の例題2と例題3については、応用として、自分でやってみてください。慣れないうちはすぐに応用できない人も多いですから、書き込んだ答を載せておきます。
これで、高校生が物理でつまづくコンデンサー回路の複雑な問題も、すっきり解けることがわかりましたね?
では、また。
【追記】嬉しいことに、ぼくが努めている高校の図書館が、ぼくの本『いきいき物理マンガで実験』を購入してくれました。今日、ふと立ち寄ったら、届いた本が司書室に置いてありました。
せっかくだからサインをしたものを展示したいといわれ、本にサインを入れました。これが、ぼくにとっては、最初のサイン本になります(笑)
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