ドイツのグスタフ・ロベルト・キルヒホフ(キルヒホッフ)は、ウィリアム・トムソン(ケルビン卿)と同じ年に生まれています。
高校物理では、今回扱う電気回路に関する「キルヒホフの法則」で知られていますが、黒体輻射(空洞輻射)の研究を行い、スペクトル分析による分光学の基礎を築いています。高温の物質から発光される光を見る研究のため、目を痛めています。
キルヒホフの法則を発表したのち、ハイデルベルグ大学に移りましたが、同大学のブンゼン、キルヒホフ、ヘルムホルツの3人の名はヨーロッパ中に轟き、「ハイデルベルグの3つ星」(ガンダムで似たようなのがあったなあ・・・あ、「黒い3連星」・・・)と呼ばれたそうです。
さて、このキルヒホフの法則ですが、高校の教科書に載っている表現は「閉会路を一周したとき、電池の起電力の合計と抵抗による電圧降下の合計は等しい」というものになります。
キルヒホフの法則はオームの法則を拡張したものといわれますが、実際には、回路中に成り立つ電位と電荷に関わる基本法則です。
高校教科書でのキルヒホフの法則の扱いには、難点が2つあります。
1つめは、教科書の構成が、合成抵抗→キルヒホフの法則、という順序になっていることです。
合成抵抗のルールは、キルヒホフの法則を習ってからなら、自明のルールとなるのですが、習う順序が逆なので、余分なルールを暗記しなくてはならなくなります。
2つめは、起電力の合計=電圧降下の合計という式が、扱いにくいこと。
というわけで、ぼくの授業プログラムでは、いきなりキルヒホフの法則から入ります。
コンデンサーのところで拡張したキルヒホフの法則をすでにやっていますので、その対比から入れば簡単です。
電荷の保存が電流の保存(連続の定理)、Q=CVがV=RIになっているだけで、電位の上り下りのところはそのままです。
「1周の上り下りの計=0」と「1周の起電力の計=電圧降下の計」は、ぼくの経験では、生徒のイメージしやすさは圧倒的に前者の方が優れています。
電池は+極の方が−極より高い。電流の流れる抵抗は川と同じで、上流の方が下流より高い。
この二つのイメージで、簡単に式をつくることができます。
少しだけ生徒よりの注意事項を書いておくと、最初に回路に流れる電流を想定して適当に電流の矢印を書き込んでから、キルヒホフの法則の式を立てるのですが、生徒はこの電流の向きと、回路を1周するときの向きを混同しやすいのです。
つまり、回路を1周する向きに、抵抗の電圧降下があると思いこんでしまうんですね。「回路の1周」はあくまでも「空想の旅」です。脳内で勝手に散歩しているだけだということを忘れないでおきましょう。抵抗の両端の電位差は最初に想定した電流の向きで決まってしまっています。いわば、最初に電流の矢印を書き込んだ時点で、回路の地形図が決定してしまっているのですね。
もちろん、最初の電流の向きが間違っていることもありますが、その場合は、計算結果で電流がマイナス値となりますから、すぐにわかります。
コンデンサーで一度やっているとはいえ、間違えやすいところなので、簡単なケースから、順番にやっていきます。
(1)〜(4)までは、ほとんどの人が間違えません。ただし、教科書の「起電力の計=電圧降下の計」で式を立てると、(4)は間違う人が続出します。
(5)はよいのですが、(6)はさきほど注意した罠にはまる人が間違えます。イメージ良く地形図が脳内に浮かんでいる人は間違えません。
では、書き込んだものを見ていきましょう。
(2)は直列回路、(5)は並列回路なのですが、いわゆる合成抵抗のルールは使わなくても、簡単に解けます。キルヒホフの法則が万能だからですね。
(4)〜(6)は電位の地形図を省略してあります。
(6)の(ア)の式の間違えやすいところに、赤字で「+」と書いてあります。
(ア)のコースで散歩する人は、4オームの抵抗の坂道を下から上へ登りますから「+」ですね。
プリントにあるように、電池や抵抗の両端に「上」「下」の文字を書いてから式を立てるようにすると、初心者は間違えにくくなります。
では、今回はこのへんで。
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コンデンサー<物理ネコ教室3年>
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