物理ネコ教室238電池の起電力と非オーム抵抗 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 またまた、オームさん登場ですが、今回のテーマは、理想的な電気回路の世界から、少しだけ現実の世界に近づいてみよう、ということです。

 

 力学でも、最初は空気抵抗や摩擦のない理想的な運動を習い、その後、空気抵抗や摩擦を一つずつ理解して、現実の運動に近づけていきましたね。電気の世界でも、それと同じ手順で、理想的で簡単なものから、徐々に現実の電気現象に近づけていくわけです。

 

 理想的な電池は両端の電位差(電圧)が回路に流れる電流量によらず一定です。また、理想的な電流計や電圧計はいかなる回路に連結しても、回路に流れる電流を正確に測ることができます。理想的な抵抗は、かける電圧に関係なく、かならず電圧と電流が正比例するオームの法則に従います。

 

 でも、現実の世界には、そんなものは何一つありません。

 

 電池には内部に抵抗があるため、回路に流れる電流が大きくなると、電池内部の抵抗での電圧降下のため、両端の電位差が小さくなります。実際の電流計や電圧計には回路から電流が流れ込みますが、やはり装置の内部に抵抗があるため、それらの測定器を使わないときの電流と、測定器を使ったときの電流では、わずかにずれが生じます。また、オームの法則に従わない抵抗もありますし、厳密にいえば、普通の抵抗も本当は近似的にしかオームの法則に従っていません。

 

 オームの法則に従わない抵抗のことを「非オーム抵抗」と呼びます。

 

 なんだかヴァン・ヴォークトの形而上学的なSF小説「非Aの世界」を思いだしてしまいますが(ぼくだけか?)、「非オーム抵抗」には形而上学的な意味はなく、単に「オームの法則に従わない非線形抵抗」の意味です。

 

「非線形」は数学の専門用語です。オームの法則V=RIをグラフに書いたとき、電圧Vと電流Iの関係は直線的になっており、これを「線形」といいます。だから、「非線形」はVとIのグラフが曲線になるものをさします。

 

 本当をいうと、すべての抵抗は「非オーム抵抗」です。電圧を上げ、電流がたくさん流れるようになると金属原子の熱運動が激しくなるため、自由電子との衝突が頻繁に起こるようになり、抵抗値が大きくなります。この場合、VとIは曲線になります。

 

 ただ、普通の抵抗は電圧がある程度変化してもあまり温度上昇を起こさないので、その範囲内ではVとIが直線的な関係になります。

 

 電球のフィラメントに使っている金属は少しの電圧変動にも敏感に反応して温度変化するので、VとIはどこでも曲線的な関係になり、これらを「非オーム抵抗」と呼んで、普通の抵抗と区別しているのですね。

 

 では、プリントを見て行きましょう。

1は、実際の電池の話です。

 内部に抵抗があるので、電池の両端の電圧は電流量によって変化します。電流量が0になる理想的な場合の電池の電圧を「起電力」と呼びます。これは「electro motive force」の直訳ですね。

 

 ところで、電流をあまり流さずに測れる電圧計で新品の乾電池の起電力を測定すると、電圧は1.5Vではなく、1.6Vです。

 これは、電流が流れると電池の電圧が下がるので、もともとの起電力を1.5Vにしてしまうと、電池を使っているときに測定した電圧が1.4Vくらいになってしまい、「新品を買ったのに1.5Vないぞ!」と、消費者から苦情を受けるのを防ぐためではないかしらん。(電池の会社に確認していませんが、たぶんこういう理由でしょうね)

 

 この起電力と内部抵抗を実際に測定する方法は、たいていの教科書に書いてあり、授業でも習うのですが、電池と装置だけ置いて「さあ、起電力と内部抵抗を測ってみて」という自由な実験をさせてみると、半分くらいのグループが正しい実験ができません。教科書で習うことと、実際に理解していることが、一致しない良い例でしょう。(これについては『いきいき物理わくわく実験3』の「エウレカ!エクスペリメント」に一連の実験授業の様子が書いてありますので、本をお持ちの方は読んでみてください)

 

2〜4は、電流計と電圧計の具体的な仕組みです。

 電流計も電圧計も本体は同じ物で、コイルと磁石の組み合わせです。コイルにはわずかながら抵抗がありますので、これを無視することはできません。

 

 電流計は回路を切って、そこに連結して使いますので、内部抵抗が大きいと、回路に流れる電流値が大きく変わってしまいます。したがって、電流計の内部抵抗は小さければ小さいほどよいことになります。

 しかし、電圧計は、回路中の電位差を測りたい2か所にそれぞれ端子を接触させ、そこから電流の「おすそわけ」をほんのちょっぴりいただいて、その電流によって端子間の電圧を測る仕組みになっています。したがって、おすそわけしてもらう電流は小さいほど、回路への影響は少なくなります。ということは・・・電圧計の場合、内部抵抗が大きいほどよいのですね。

 

 これは意外に勘違いしやすいことですので、よく理解しておいてください。

 

 何年も前に、愛知県の公立高校の理科入試問題で、これに関わるミスがありました。

 

 問題文の中に「内部抵抗が無視できるほど小さい電流計と電圧計を使って」というような表現が使われていたのですね。内部抵抗が小さい電圧計を使うと、大変な事になります。問題解答が不可能。これは「回路の電流に影響を及ぼさない内部抵抗の電流計と電圧計を使って」などとすれば、なんの問題もなかったのですが・・・(ちなみに、このとき、教育委員会はこのミスについては公にしていません。事なかれ主義で不誠実だと思いますが、実質、中学レベルの受験生に対しては、影響はほとんどなかったでしょう)

 

 中学校の先生方も塾の先生方からも声は上がらなかったと記憶しています。(見落としていたら、ごめんなさい)

 

 採点に当たった高校の先生たちは、あっちでもこっちでも不平たらたらで、たぶん何校も、教育委員会に問い合わせがあったと思います。

5は非オーム抵抗。これはオームの法則の代わりに、電流と電圧の特性曲線が与えられます。

 この曲線と、キルヒホフの法則を使って立てた電位の上り下りの式から、回路に流れる電流と抵抗にかかる電圧を見つけることができます。

 やり方は簡単ですが、その意味がわかりにくいので、ぼくはいつも補足的な説明を付け加えることにしています。こちらは、書き込みの方をご覧ください。

 

 3と4の分流器、倍率器は基本的な内容です。書き込みプリントをよく見てください。10倍の値が見たい場合は抵抗値の比を1:9にするなど、10でなく9を使うところを勘違いする人がいます。原理がわかれば間違えませんね。

 

 非オーム抵抗では、グラフの交点から回路の電流・電圧値を読み取ります。

 うっかりしていると、自分が何をしているのか分からないまま授業が終わってしまうところでもありますね。「なんでグラフを書いているんだろう・・・」なんて。

 

 (2)の問題で、電球を例えば5Ωの抵抗に変えたとします。

 すると、キルヒホフの法則は、書き込みと同様、+1.0ー12.5iーv=0(a)ですが、抵抗が非オーム抵抗ではないので、もう一つの式としてv=5i(b)という式が書けます。

 この2つの式を連立方程式として解けば、当然、電流iも電圧vも出すことができます。

 これは、いままで、ふつうにキルヒホフの法則で解いてきた、+1.0ー12.5iー5i=0の式を解くのと同じ事ですね。

 

 さて、高校の数学の授業では、連立方程式を代数的に解くことと、二つの式に相当するグラフを描いて、その交点を調べることが、同等であることを習っているはずです。

 

 この場合、グラフ(a)は\形、グラフ(b)は/形になります。交点はもちろん×の交差している点ですね。

 

 非オーム抵抗を使った場合、グラフ(b)が/でなく、図にある特性曲線になっているだけです。この場合は、式を連立して代数的に解くことができないので、グラフの交点を求める方法しか使えないんですね。

 

 なぜ、グラフを描いて交点を求めているのか、おわかりいただけたでしょうか。

 

 では、今日はこのへんで。

  

 

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