冒頭のイラストの人は、アイルランドのウィリアム・トムソン(後のケルヴィン卿)。マクスウェルを電磁気の研究に導いた人でもありますが、「エネルギー」という言葉を「仕事をする能力」として、物理学できちんと使った最初の人でもあります。(トムソン以前には「力kraft」という言葉が「相互作用としての力」と「保存量としてのエネルギー」の両方の意味に使われていて、エネルギーに関しての明確な理解がなかった)
エネルギー保存則の発見者は、ドイツのロベルト・マイヤー、イギリスのジェームズ・ジュール、ドイツのヘルマン・ヘルムホルツの3人ということになっています。でも、この3人は、エネルギーという量を明確に定義せずに研究していたので、現在使われている意味でのエネルギーという概念を理解し、定義したのはトムソンなんですね。
という前振りの後、今回はいよいよ静電エネルギーの実用面での代表格、コンデンサーのエネルギーを扱います。
コンデンサーを電池につなぎ、極板に電荷を与える(充電させる)と、コンデンサーは放電しきるまで仕事をすることができるようになります。
つまり、エネルギーを持つわけですね。
さて、ここで、質問。
コンデンサーが持つエネルギーは、当然、静電エネルギーなわけですが、このエネルギー、コンデンサーのどこに蓄えられているのでしょう?
正負の電荷がある極板でしょうか?
それは、いずれ明らかになりますので、そのときに。
では、プリントを見て行きましょう。
コンデンサーのエネルギーを云々する前に、まず、コンデンサーにエネルギーを溜めるとき、電池がどんな仕事をしているのか、調べる必要があります。
次に、コンデンサーに溜まるエネルギーを調べるのですが、本格的に調べるのは、数学の区分求積法が必要で、丁寧に説明するとそれだけでその日の授業が終わってしまいます(笑)・・・
電池のする仕事の説明のとき、W=QVがQとVを軸としたグラフ上で面積に当たることを示していますので、ここではその類推からコンデンサーの場合のQ=CVのグラフを描くことで、その面積からエネルギー量を導いています。
区分求積法で、きちんとエネルギー量を導くのは、後ほどの補助プリントをご覧ください。
電池のする仕事とコンデンサーに溜まる静電エネルギーが等しくならないのは、物理的に重要な内容を含んでいるので、わざわざ問題として提示しています。
次の耐電圧は、エネルギーの話とは直接関係ないのです。しかし、無制限にQ=CVの通りに電荷が溜まるわけではありませんので、どこかで耐電圧の知識を得ておく必要があります。
コンデンサーのエネルギーを理解するには、この2つの例題が不可欠です。
結果的には、コンデンサーの式Q=CVと、容量の式C=εS/d、電場と電位の関係E=V/d、そしてエネルギーの式Q=1/2CV^2、そして、すべてのエネルギーに通用する「エネルギーと仕事の関係」E+W=E'(ここではEはコンデンサーのエネルギーUに相当する)を組み合わせて、問題を解くことになります。
でも、もっとも大切なのは、回路のスイッチが切れたままコンデンサーの容量を変化させるときと、回路のスイッチを閉じたままコンデンサーの容量を変化させるときとで、物理的な条件がどのように異なるのかを理解することです。
では、書き込みを見ていきましょう。
1の電池のする仕事は、計算は単純ですが、その物理的な意味を理解しなくてはいけません。
電池は化学エネルギーを使い、つねに負極と正極の間に一定の電位差を作り出している装置です。
電池が電流を流しているときは、電池内部では(実際とはことなりますが、理論上)負極から正極に向かって、正電荷を運び上げる仕事をしています。
したがって、電荷を運ぶ仕事は静電気の法則の通りW=qVを用いて計算できます。この場合は、最終的にコンデンサーの電荷はQになるので、運んだ電荷はQですから、W=QVとなります。
これが、コンデンサーを充電するとき、電池のする仕事Wです。
ところが、2のQVグラフの面積から求めたコンデンサーのエネルギーUは、U=1/2QVとなります。
U=1/2Wで、電池のする仕事のうち、半分しかもらえていません。
(問)では、残りの半分はどこへ行ったのか?・・・
もちろん、理想的なコンデンサーも、理想的な電池も、理想的な導線も、実際には存在しません。そのどれにも、内部抵抗があり、そこでジュール熱(詳しくは、後の抵抗回路をご覧ください)が発生して、失われるんですね。
さて、耐電圧ですが、形だけ覚えても仕方がありません。
実用的なコンデンサーは、極板間に絶縁体(誘電体)が挟まっています。極板の短絡(ショート)を防ぐためと、性能を上げるためです。
でも、絶縁体だからと行って、絶対に電流が流れないというわけではありません。
日常でも、絶縁体のはずの空気中を、雷が走りますね。
高電圧をかけると、絶縁が「破れる」のです。
空気の場合は、以前、雷を扱ったときに見たように、電場の強いところで空気がイオン化し、それが移動することで電流が流れるようになります。
コンデンサーの場合も、これにわりと似た状況が起こり、高電圧をかけると、絶縁体の中で電気の通りやすいところに「落雷」が起こり、ショートしてしまいます。いったん「落雷」してしまうと、そこが電気が通りやすいところになってしまうので、もうコンデンサーとしては使えなくなります。
「落雷」を起こす手前の電圧が耐電圧です。
複数のコンデンサーを組み合わせた部品の耐電圧は、構成しているコンデンサーの一つでも壊れたら機能が失われますので、そこから割り出します。
このプリントの例題では、もっとも簡単で、直観的に予想できる問題だけを扱っています。
では、最後に、コンデンサーのエネルギーの典型的な例題を解いておきましょう。
プリントの欄外に書いてある「エネルギーと仕事の関係」は、最初に物理を習ったとき、力学分野で登場したものです。
でも、これこそが広い意味でのエネルギー保存則に当たる内容で、すべての物理現象で通用する大法則です。
したがって、これを忘れている人は、コンデンサーのエネルギーの問題は、いっさい解けません。
さて、回路のスイッチが切れているときと閉じているときの物理的な違いは何か、覚えているでしょうか。
そう、切れているときは電荷が一定となり、閉じているときは電位差が一定となるんでしたね?
でも、その理由は?
それを理解していない限り、結果だけ丸暗記しても無意味ですし、受験にも失敗します(笑)・・・
前にやった内容ですので、忘れた方は、前の方のコンデンサーの記事をご覧ください。ここでは説明を省略します。
なお、この例題のうち、(2)の方は、物理の指導者でもよく間違えることがあります。(今までも、他の先生方から、この問題についてよく質問を受けてきました)
外力のする仕事以外に、コンデンサーの電荷が変化する際に電池がする仕事の分を忘れてしまうと、この問題を正しく理解できないので、ご注意を。
この場合の電池のする仕事は、移動した電気量×電池の電位差ですので、(2)の場合は電荷Qだったのが2Qになり、新たに極板に運ばれた電気量が2Q-Q=Qですので、電池がした仕事WはW=qV=(2Q-Q)V=QVとなります。
このあたりが、物理を教える側でもよく混乱するところですね。
コンデンサーの基本的な話はこれでだいたい終わりですが、まだ大物が残っています。
そう、コンデンサーの回路ですね。教科書や参考書などで、きちんと理論が書かれていないために、高校生にとって鬼門となっているところです。
いよいよ、次回。
では、また。
追記:4の例題(2)について、物理教師も間違えやすい問題で、今までもよく教師の方から質問を受けましたので、問題の解説を少し詳しく、本文に追加しました。(22日16時)
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