物理ネコ教室229コンデンサーの回路 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 アイルランドのウィリアム・トムソン(後のケルヴィン卿)は、高校物理では絶対温度の単位(Kケルビン)でしか知られていません。

 

 19世紀の古典物理学における巨人の一人。天才肌の理論物理学者です。

 

 ほとんど知られていませんが、ガリレオが解けなかった潮汐の謎も、独自の理論で解いています。

 

 アイルランドとニューファンドランドをつなぐ海底電信ケーブルの設置を行う大西洋電信会社の取締役として、事業を成功に導いたことで、当時の名声を不動のものにしています。電磁気に関する深い知識と洞察力抜きではなしえなかった事業ですね。

 

 現代の電磁気学の基礎となっているファラデーの場の理論を、最初に数学的に研究したのがこのトムソンで、それを引き継いでマクスウェルの方程式に至る深い研究をしたのが、スコットランドのジェームズ・クラーク・マクスウェル。

 

 マクスウェルがトムソンの弟分みたいな関係だったことは、以前にも少し触れました。

 

 エネルギーという概念を完成させたトムソン、そして、位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)との関係で、電位という概念を生み出したマクスウェル。

 

 この2人なくして、電気回路の理論を語ることはできません。

 

 さてさて、いよいよコンデンサー回路の理論に入りますが、前から何度か指摘しているように、高校の教科書や市販の参考書では、もっとも重要なコンデンサー回路の基礎理論が述べられていません。

 

 いわゆる合成容量を使って、問題を解答するのですが、後に述べるように、合成容量という発想そのものに適用限界があるため、複雑な問題になると、歯が立たなくなります。

 

 教科書や参考書のそれらの問題の解説を見ると、場当たり的に謎の関係式(じつは、これが回路の基礎理論の一部にあたります)を登場させて、しのいでいます。

 

 ここで紹介するぼくの授業プリントでは、教科書の合成容量から入るやりかたを採用していません。

 

 まず、回路の基礎理論とその物理的な意味を解説しています。

 

 つまり、広い意味でのキルヒホッフの法則から始め、それを直列、並列のコンデンサーに適用することで、結果的に合成容量の値が出てくるという構成をとっています。

 

 この方法は、物理コーチの方々にも参考になるでしょう。

 

 では、始めましょう。

 

 

 最初の「コンデンサーの回路の理論」が、広義のキルヒホッフの法則です。

 

 1)コンデンサーの関係:各コンデンサーについて、Q=CVが成り立つ。

 

 後に学習する抵抗回路の理論では、これに相当する内容がオームの法則V=RIです。

 

 2)電位の上り下りの性質:回路に沿って一周すると、電位の上り下りの計=0となります。

 

 これは、プリントの欄外に書いたメモのように、「高さ」(専門用語ではポテンシャル)という物理量の基本的な性質です。

 

 山の上の神社まで行って家まで戻ってくるとき、一周する間に上り下りした高さの合計は0になりますね。もとの高さの家に戻ってくるのだから、当然といえば当然ですが、電位についても、まったく同じ性質があるのです。

 

 抵抗回路の理論では、この2)の電位の性質と1)のオームの法則V=RIを合わせたものが「キルヒホッフの第2法則」と呼ばれています。

 

 この電位の性質は重力場や静電場では成立しますが、電磁気現象では一般に成り立ちません。電流が作る磁場や、電磁誘導現象によって生じる起電力には、この一周して上り下りの計が0になるという性質がないからです。したがって、この場合は電位(ポテンシャル)を正しく定義することができません。(高校のレベルでは、電磁誘導による起電力による電位も、無理矢理定義して使っていますが、本質的な理論で考えれば不十分なやりかたです。とはいえ、高校のレベルで学習する範囲では、これで十分なので、ぼくもこのやりかたで授業プリントを構成しています)

 

 3)電荷の保存:電気の大法則ですね。コンデンサー回路の場合には、導線でつながれた2つのコンデンサーの片側ずつの極板の間を自由電子が電流として行き来することで、極板に蓄えられている電気量が変化するのですが、当然ながら、この一つながりの極板2枚の電荷の合計は保存されます。

 

 こちらは、抵抗回路では回路中の分岐点に流れ込む電流の和とそこから流れ出す電流の和が等しいという「連続の法則」(保存則の一種だと考えていただいて結構ですが、厳密に言うと異なる法則です)にあたります。「キルヒホッフの第1法則」と呼ばれています。

 

 コンデンサー回路の問題は、後に登場する抵抗回路の問題より、考えにくく、誤解しやすいのですが、基本原理は抵抗回路と同じです。(広義の)キルヒホッフの法則さえ使えれば、どんな複雑な問題も簡単に解くことができます。

 

 教科書で教えられている「合成容量」という考え方は、定容範囲がせまいため、とくにコンデンサー回路でスイッチを入れたり切ったりする問題ではまったく無力です。

 

 そもそも複数のコンデンサーを合成した1つのコンデンサーと見なせるためには、最低限、その両端の極板の電荷が正負当量になっている必要があります。

 

 しかし、最初の状態で片方のコンデンサーに電荷が溜まっていると、(特に直列の場合)どう連結しても、両端の極板の電荷が正負当量になることはありえません。したがって、1つのコンデンサーと見なすことは不可能なのです。

 

 プリントの後半も見てみましょう。

 

 一応、このプリントでは、キルヒホッフの法則を用いて、直列・並列のコンデンサーの性質と各種の関係式を導く作業をしています。

 

 ・・・が、この結果は、重要ではありません。

 

 教科書の記述に合わせるために、このプリントではあえて「直列・並列のコンデンサー」の合成容量の式や他の性質を公式化したものを紹介しています。

 

 でも、実際に問題を考察するときには、これらの式は使う必要がありません。三つの基本法則さえ使えればいいのです。

 

 とはいえ、お話しだけではわかりにくいので、実際に3つのルールをどのように使うのかを、プリントの書き込みを見て、学んでいきましょう。(こういういい方は好きではないのですが、ここに記した広義のキルヒホッフ法則は、ぼくが独自に開発してきたものなので、「物理ネコ教室」オリジナルのやり方になります)

 

 

 1の例題は「電位の上り下り」と「電荷の保存」をどう使うかという実例を紹介しています。

 

 2は、いよいよ教科書に載っている「合成容量」をこの3つのルールで解説する内容。

 

 まず、「並列のコンデンサー」です。書き込みを見ていただけるとわかりますが、3つのルール以外、何も使っていません。

 

 3が「直列のコンデンサー」。やはり、3つのルールだけを使っています。

 

 いかがでしょうか。

 

 くどいようですが、これらの「合成容量」のまとめの式(合成容量の式と、電荷や電位の比を求める式)は、ある特定の条件でしか使えませんので、じゅうぶん注意が必要です。

 

 特に直列のケースは鬼門です。

 

 後に例題として登場しますが、電池なしで二つのコンデンサーをつなぐ場合、それを並列と考えればよいのか、直列と考えればよいのかで、迷ってしまうケースもあります。

 

 「直列・並列」というのは、勝手にそう考えているだけの話。物理現象として絶対的なのは、広義のキルヒホッフ法則にあたる3つのルールだけですから、迷ったら、基本に戻りましょう。

 

 では、次回は、高校教科書の「合成容量」のやり方では、手も足も出ないケースを扱います。

 

 

【つぶやき】

 

 ちょっと、他の人のマネをして、毎日ブログを更新することをやってみましたが・・・

 

 自分の生活リズムには合わないようです。

 

 文章をまとめたりするのも、日記とは違い、かなりの時間がかかりますので。

 

 ぼちぼち、やっていくことにしますね。

 

 では、また。

 

 知人からは『いきいき物理マンガで実験』に載せた自画像がいいといわれました・・・

 

 いつも眠たそうにしているのが、似てるんでしょうか・・・

 

 小3の娘には、朝、よくたたき起こされています・・・

 

 

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