北海道全停電のこと | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 予定になかったのですが、今日の授業で触れることがあったので、少しだけ。

 

 例えば、今朝の中日新聞には「全域停電は苫東厚真(とまとうあつま)の停止により、道内音電力供給バランスが崩れたことで起きた。電力供給の周波数を一定に保てず、他の火力発電所も次々と緊急停止した」と書いてありますが・・・

 

 これだけの説明だと、なんだかよくわからないけど、次々に停止したんだな、くらいしかわかりません。(たぶん、記事を書いている記者もよくわかっていないのではないかしらん)

 

 だいたいこういうことかな、とは思ったのですが、念のため、今朝、問題の北海道電力株式会社のウェブサイト「ほくでん」を見てみました。

 

 ウェブサイトの中の記事【電気の品質「周波数」を一定に保つために】などに、今回の停電に関係する記事が書かれています。

 

 リンクを貼ると時期的にたいへんだと思うので、それはやめておきます。興味のある方は、検索ワード「電力」「周波数」「ほくでん」などで検索してみてください。

 

 そもそも、火力発電所や風力・水力発電所などは、すべて、タービンなどを使って、発電機(基本的にモーターと同じ構造の装置)をむりやりまわして、電力を得ています。

 

 発電機の中には、コイルと磁石のセットがあり、発電機の回転子を回すことで、コイルと磁石が相対的に動くと、電磁誘導によって起電力が生じます。これは交流発電機になるので、発電機の回転数に一致する振動数(周波数)の交流が生まれます。

 

 各家庭など、電力を使用するところで使っている電気機器は、交流をそのまま使う機器もありますが、ほとんどのものが交流を直流に変えて使っています。

 

 よく知られている有名な話ですが、関東圏では50ヘルツ、関西圏では60ヘルツの振動数の交流が使われています。なぜ東と西で違うのかというと、一番始めに電力会社をつくったとき、関東ではドイツ、関西ではアメリカから輸入したからです。ドイツ製のは50ヘルツで、アメリカ製のは60ヘルツで動く発電機でしたので、電力網が広がるにつれ、日本が真っ二つに分かれることになりました。

 

 昔の電気機器は、構造が単純でしたから、関東圏で売る機器と関西圏で売る機器は、それぞれ別に製作していました。わかりやすい例でいうと、今のDVDプレーヤーに相当する装置でレコードプレーヤーという装置がありましたが、関西圏で買ったプレーヤーを引っ越しなどで関東圏に持っていって使うと、回転数が遅くなり、音程が低くなると同時に、音楽自体も間延びして、とても聞いていられなくなります。

 少し高級な機器には、背面や側面に「50/60」というスイッチがついていて、手動で切り替えるようになっていました。これなら、引っ越しで機器が使えなくなるということはなくなります。

 ちなみに、現在売られている電気機器は、ほとんどすべて、内部に電気の振動数が50か60かを判別して自動的に対応する仕組みなど、さまざまな工夫がされていますから、国内なら、どの地域に持っていっても、問題なく使えます。

 

 とはいえ、電気機器は、使用する電気の振動数に合わせて働くようにセッティングされていますから、発電所から送られてくる電気の振動数が50や60からふらつくと、機器の性能が100%生かされません。それどころか、場合によっては、機器が故障したり、火災が起きたりといった事故が起きかねないんですね。

 

 だから、発電所はトラブルを未然に防ぐため、発電所から送る交流の振動数を一定に保つように、発電所相互でエネルギーを貸し借りする送電システムを作っています。

 

 最初に述べたように、発電機はタービンなどに力を加えて回しています。火力発電所や原子力発電所では、石油の燃焼や核反応で生じた熱を利用して、水を沸騰させ、そこで発生した水蒸気をタービンに当てて、タービンを回し、タービンに連結した発電機の回転子を回しています。

 

 水蒸気の圧力やタービンの質量や大きさなど、さまざまな要素でタービンの回転数が決まりますが、ここにもうひとつ、重要な要素が絡んできます。

 

 高校の物理でよくやる実験を見てみましょう。

 

 

 手回し発電機というおもちゃのような装置です。中にモーター(つまり発電機ですね)が入っていて、手でハンドルを回すと、発電機の回転子が回って、発電します。

 

 これをAのように電球につなぐと、電球が光りますが、このとき、ハンドルを回す手はほどよい抵抗を受けます。この抵抗に釣り合うような力で回せば、ハンドル(したがって、発電機の回転子)は、一定の回転数で回転します。

 

 さて、ここでBのように、端子間に抵抗のほとんどない導線をつなぐと、途端にハンドルが重くなります。とんでもない重さで、実験している人は回すのに四苦八苦します。

 

 これは、単純なエネルギー保存の問題です。

 

 Aの電球より、Bの導線の方が、電気抵抗が小さいのは、おわかりでしょう。この場合、発電機につないだ電球や導線を、専門用語で「負荷」といいます。この負荷では、流れる電流がジュール熱と呼ばれる発熱を生じて、供給されたエネルギーを使うのですね。

 

 「物理ネコ教室」のオームの法則のあたりの記事を読んでいただければより詳しいこともわかりますが、かんたんにいうと、電気抵抗の小さい導線の方が、電球より大きな電流が流れます。一方で、ジュール熱は電流の2乗に比例するので、電流が大きくなると、発熱量はさらに大きくなります。(電流が2倍なら発熱量は4倍)

 

(註:より正しく書くと、抵抗が半分になると、発熱量は電流の2乗×抵抗値になるので、電流が2倍、抵抗が半分になるため、発熱量はもとの2倍になります。念のため)

 

 導線の方がたくさんのエネルギーを消費するので、それに見合うようにエネルギーを供給するには、手でハンドルを回す仕事も大きくならないといけません。より強い力でハンドルを回さなくてはいけなくなります。

 

 Bの導線の場合、Aの電球に比べると、ハンドルが受ける抵抗は非常に強くなりますから、BのハンドルをAのハンドルのような速い速度で回すことはできなくなります。回転数は激減することになります。これが交流発電機なら、発電の振動数が非常に小さくなることになります。

 

 一方、Cのように、端子に何もつながないときは、ハンドルを回すときの抵抗はほとんどありませんから、非常にかろやかに回すことができます。理由はもうおわかりですね。

 

 端子になにもつないでいないので、ジュール熱は発生しませんから、余分に仕事がいりません。手はほとんど仕事をすることなく、抵抗を受けずに、速くハンドルを回せるのです。

 

 B、Cは極端な例ですが、手回し発電機につなぐ負荷の大小で、負荷で消費するエネルギー量が変化し、その結果、発電機の回転子を回すときに受ける抵抗が変わります。そのため、同じような蒸気圧でタービンを回した場合、負荷側のエネルギー消費量が増減すると、それにともなって、回転数が少なくなったり多くなったりすることになります。

 

 これで、発電機の交流振動数(周波数)が、発電機側が供給するエネルギーと負荷側が消費するエネルギーとのバランスで決まることがわかりますね。

 

 手回し発電機の場合は、 発電機の回転子を一定の回転数にする場合は、手で回す力を調整することで調整できます。本物の発電機の場合も、タービンに当てる水蒸気の圧力を変えればある程度は回転数を制御できます。

 

 が、それよりも、供給側と消費側のエネルギーバランスを一定に保った方が、より簡単に回転子の回転数を一定に保てますね。

 

 これで、ようやく、「ほくでん」のウェブサイトに書いてある内容に入れます。

 

 要約して、書いてみましょう。

 

・電気は周波数を一定に保って供給することが大切。周波数が変動すると、産業用機器の使用などに不具合が生じる。

・周波数を一定に保つためには、電気の消費(需要)と発電所の出力(供給)のバランスをとる必要がある。

・北電では、周波数が一定になるように、需要の変動に応じて、火力発電機や水力発電機の出力を調整している。

・需要と供給のバランスを崩す要因になるのは、発電量の変動が大きい風力・太陽光発電である。

・発電機相互に電力移送のネットワークをつくっており、互いに電力を渡し合って、電力の需要と供給のバランスをとっているが、東日本の電力規模は4100万キロワット、西日本の電力規模は5500万キロワットであるのに対し、北海道は360万キロワットと小さい。

・本州とは現在、60万キロワットの電力移送ができるラインがあるが、これでは足りないので、2019年3月に90万キロワットに増設する予定である。(ひろじ註:これについては、今回の停電の場合は、想定外の事態で、電力移送自体が北海道側の停電で不可能になったため、仮に増設してあっても、うまくいかないはずです)

・バランスが崩れたときは、発電機が停止(停電)するようにセットされている。

 

 だいたい、以上です。

 

 一言で言うと(ここまで詳しく書いたので、一言で締められます)、中心になる大電力の発電所が停止したため、北海道内の発電機ネットワークでは交流の振動数を50ヘルツに維持できなくなり、緊急回避として、すべての発電機が停止したわけです。

 

 授業ではさすがにここまで詳しく話せませんでしたので、あとで読む人もいるだろうと、記録としてまとめておきました。

 

 では、また。

 

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