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Battle Day0-Day246までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 『BattleDay232-Day246あらすじ』Battle Day232-Day262までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)  ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが…リンクameblo.jp

 

BattleDay233~ここまでのあらすじ

結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。コオは、莉子が《自分で働いて、食べていく》ということを考えてないのではないかと恐怖し、父の永住型老人ホーム入居のための資金プランを考え直さねば、と考える。思ったよりも、実家の財政は深刻なのかもしれない、これは8050問題、7040問題とよばれるもなのでは?とコオは思い始めた。

 膨大なストレスにコオは体調だけでなく、メンタルの調子も崩しつつあった。

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 二度目は母が亡くなる前に一度脳梗塞で入院した時だった。

 命には別条はなかったものの、母は半身に麻痺が残り、リハビリのためしばらく入院することになった。

 

 コオは、この時一度も見舞いに行かなかった。

 行くべきだったのかもしれない。でも行かなくてよかったのかもしれない。今もそれはわからない。

 実際、長男・遼太の友達のお母さんの中には「何故いかないの?」「後悔するよ、一目会った方がいい」と、コオに言ってた人も一人ではなかった。

 コオは思っていた。

 会いに行って、何が起こるのか。母がコオに何を言うのか。

 それはコオにはコントロールできないことだ。

 だからコオはひどく恐れていた。

 母に立ち直るのが難しいほどの言葉をまた、あのときのように投げつけられることを。

 

 今でも、コオは次男・健弥を妊娠事を報告した時のことを、苦い思いとともに生々しく思い出す。

 恥ずかしくて、なかなか言い出せなかった事。

 でも、ワクワクとしていた事。

 妊娠そのものではなく、今度こそ母に『おめでとう』と言ってもらえる、とコオはワクワクしていたのだ。

 長男・遼太は、結婚前の妊娠だった。だからおめでとう、と言ってもらえなかったのは仕方ない。でも、今度は、きっとおめでとう、と言ってもらえる。

 

 「え?」

 

 母は絶句し、期待を裏切られたコオはがっかりし、逃げるように、莉子の運転する車に乗って遼吾のマンションに帰ったのだ。その後の細かい展開はもう覚えていない。でも、莉子が遼吾のマンションまで送ってくれて、帰る時、コオは思い切って莉子に言ったのだ。母に、莉子から伝わることも期待して。

 

 「お母さんに、おめでとうって言ってほしかった。」

 

 コオは莉子に言った。莉子の反応は思いがけなかった。

 

 「お母さんはね、お姉ちゃんの体を心配して、遼太生んだ後にあんなに体壊したのに二人目だなんて。・・・だから、何も言えなかったんだよ!お姉ちゃんはそれがわかんないの!?」

 

 そして、莉子は半泣きになりながら帰ったのだ。母は、私を心配してくれたのか?でもそれなら何故そう言ってくれないのだろう。コオは思った。その時遼太がどうしていたのかはよく覚えていない。家にいた?あるいは保育園だったろうか。

 衝撃的だったのはそれから1時間もしないうちに母が来たときのことだ。

 自分はバカだったと思う。マンションの玄関モニターを見て、母が、祝いの言葉を言い直しに来てくれたと思ったのだから。

 しかし母は、開口一番言った。

 

 「莉子ちゃんが泣いて帰ってきた!!いったいあんたは何を言ったの!?」

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BattleDay233~ここまでのあらすじ

結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。コオは、莉子が《自分で働いて、食べていく》ということを考えてないのではないかと恐怖し、父の永住型老人ホーム入居のための資金プランを考え直さねば、と考える。思ったよりも、実家の財政は深刻なのかもしれない、これは8050問題、7040問題とよばれるもなのでは?とコオは思い始めた。

 膨大なストレスにコオは体調だけでなく、メンタルの調子も崩しつつあった。

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 実家と縁を切ることで、ようやく得ていたコオの心の平安は、その後、2回ほど再びゆらぐ。

 一度目は母の、喜寿のお祝いをするから、来い、と父からの手紙が届いたとき。

 二度目は母が亡くなる前に一度脳梗塞で入院した時だった。

 

 思えば縁を切ってからも、コオは最初の数年は母の日などはプレゼントをしていたように思う。ただ、家に行くことはなく、実家の近所まで遼太や健弥を車で連れていき、届けてくるように頼んでいた。けれど、一度も『ありがとう』という言葉が返ってくることも、あるいは『ごめんね』という言葉もないことに、ひどくがっかりした。いや、コオは、苦しかった。

 そして、数年目。コオは手作りの、手芸品のカーネーションを作ってみた。とても自分でも良い出来だったと思う。その年の母の日、母は外の車で待つコオのところに、確か莉子と一緒に出てきたのだ。

 

 「これあんたが作ったの?」

 

 母の言葉はそれだけだった。コオはうなずき、黙って帰った。

 それ以来、コオは何もしなくなった。コオにとっては誕生日より大事なクリスマスも、母の日や父の日もすべて、遼吾の義理の両親にのみプレゼントを贈った。そして実家からの電話には一切出なくなった。コオは電話番号の表示はされない古いタイプのファックス電話だったから、電話は最初はなるべく子供か夫の遼吾に取ってもらう。もし実家からならコオは出ないし、そうでなければ代わってもらう。

 そんな時に父から、『電話がつながらないので手紙にした』という書き出しで母の喜寿のお祝いに出るように、という手紙が届いた。

 コオは歯を食いしばって泣きながら返事を書いた。

 

 『育ててくれたことには感謝しています。ありがとう。でも喜寿のお祝いには出られません。』

 

 もう、母の一言一言に、何故、どうしてど思いがっかりしたり悲しんだりするのは嫌だったから。

 

 

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結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。コオは、莉子が《自分で働いて、食べていく》ということを考えてないのではないかと恐怖し、父の永住型老人ホーム入居のための資金プランを考え直さねば、と考える。思ったよりも、実家の財政は深刻なのかもしれない、これは8050問題、7040問題とよばれるもなのでは?とコオは思い始めた。

 膨大なストレスにコオは体調だけでなく、メンタルの調子も崩しつつあった。

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 毒親、という言葉を知ったのはこの頃だったろうか。

 果たしてコオの両親が定義に入るのかどうかわからない。虐待もなく、教育にお金も出してくれた。けれど、確かに母はコオの心をある形で支配し捻じ曲げたことは確かだ。妹・莉子は父と母にとことんまで甘やかされていた。

 コオはそれを見るのが嫌で高校生になると家に寄り付かなくなった。

 やがてコオは、大学に入るのを機に家を離れ人より時間はかかったがようやく自分で食べていける職と給料を得た。

 

 そして、結婚・長男・遼太が生まれ、コオは期待をした。

 

 母と、今度こそ仲良くなれるのかもしれない。

 莉子にはいない子供が私にはいる。

 娘としては、あまり愛されなかったかもしれないけれど、今度こそ。同じ母親として、私は母と話ができるだろう。

 

 その期待が砕かれるには、数年はかかった。

 信じたかったし、期待も大きかったコオは、母の言葉を、時には聞かないようにし、時には冗談にしてしまおうとした。

 仕事に復帰し、長男・遼太の軽度発達障害、二人目の健弥の激しいアレルギーが発覚してからコオの負担は激増した。コオは助けを求めていた。

 

 けれど。

 

 子供の時と同じだった。

 母は、コオの助けを求めて伸ばした手を振り払う。

 

 コオは実家に行くたびに精神的なバランスを崩し荒れるようになった。

 やがて、夫・遼吾はとうとう言った。

 

 「もう、実家に行かなくていい。行くたびにお前はおかしくなる。そんな思いして、助けてももらえないのに何で行く必要がある?」

 

 コオは実家と縁を切った。自分は行かない。それでコオは一気に楽になったのだ。

 働く母たちが、どれだけ実家の母親に助けてもらっている人が多いか、コオは見ていたし、ひどくうらやましかった。ましてやコオの場合は実家はわずか2キロしか離れていない。でも、違うのだ。あの母親は、私の心のバランスを崩す。もう母とは会いたくない。ひどい言葉を投げつけられて、それを聞かなかったふりをするのも、泣いて次の日に心と体を引きずりながら仕事にいくのも疲れた。

 実家には遼太や健弥が行きたければ行けばいい。でも、『母さんは、行かないから、あんたたちで行ってきなさい』コオはそういって、正月でも、決して実家に行かなくなった。

 

 

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結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。コオは、莉子が《自分で働いて、食べていく》ということを考えてないのではないかと恐怖し、父の永住型老人ホーム入居のための資金プランを考え直さねば、と考える。思ったよりも、実家の財政は深刻なのかもしれない、これは8050問題、7040問題とよばれるもなのでは?とコオは思い始めた。

 膨大なストレスにコオは体調だけでなく、メンタルの調子も崩しつつあった。

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 「ねぇ、パパ、莉子にちゃんと言わないと。施設のこと。パパが、このままがいい、っていうんだったら私は別にそれでいいんだよ?ただ、移りたいなら、もう莉子に話さないと。もう、いつでも移れる、って状況にしておかないと、ホームに移りたいって言ったときに、いつでも移れるわけじゃないんだよ?入りたくて待ってる人がたくさんいるんだから.。空きました、って言われてからじゃあ、これから相談します、なんてできないんだよ?」

 「そんなにいっぺんに言われても、俺の脳は壊れてるんだ!!」

 

 父はコオの言葉に怒り出すこともあった。

 あるいはときに心細そうに言う。

 

「莉子ちゃんもなぁ、考えてくれてると思うんだよ?」

 

 そして父は、引き出しから、薄手の青いセーターを取り出してみせる。

 

 「パパの誕生日だからって、これを買ってきてくれたんだ。かなり高そうなセーターだろ?」

 

 (でも、そのお金は、莉子がパパの口座から引き出したんじゃないの?)

 コオはその言葉を飲み込んだ。

 確証もない。莉子のことだから、自分の稼ぎから買ったのかもしれない。そして、足りない自分の生活費を父の口座から出しているのかもしれない。

 いや、コオの知らない貯金がある可能性がゼロでない。ゼロではないのだ。

 コオは自分に言い聞かせながら、それにかけていたのかもしれない。

 

 今もコオ自身が自分の気持がよくわからないのだ。

 コオが家族を失うことになった半年前の莉子との最後の争い。

 その際に莉子がコオを罵った言葉。それがきっかけでコオが失った家族。

 でもその言葉に見合うことを莉子がやっていなかったのなら、彼女の言葉にコオがダメージを追うこともなく、ましてや遼吾や子どもたちと別れて住むことにもならなかったはずなのに。

 

 わからない。わからないのだ。

 莉子を憎んだ。憎みながら、自分が家族を失った正当な理由がほしかった。たとえそれがコオ自身を攻めるような内容だったとしても。

 
 父への問いかけ、得られない明確な答えの中で、莉子への嫌悪と期待、自責と別れた家族の思慕などのなかを、コオの思いはまるでは賽の河原で石を積むように、あるいは山頂に岩を運び続けるシジフォスの神話のようにただぐるぐると回り続けていた。

 

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結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。コオは、莉子が《自分で働いて、食べていく》ということを考えてないのではないかと恐怖し、父の永住型老人ホーム入居のための資金プランを考え直さねば、と考える。思ったよりも、実家の財政は深刻なのかもしれない、とコオは思い始めた。

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 8050問題。あるいは7040問題。

 言葉としては知っていた。80歳代の親が50代の子供の面倒を見る。あるいは70歳代の親が40歳代の子供の面倒を見る。本来は一家を支える年齢であるはずの40代、50代が、引きこもりなどで無職のまま、あるいはアルバイトなどがせいぜいで、おもに親の年金にぶら下がっている状態だとコオは思っていた。

 莉子は引きこもりではない。引きこもりではないが・・・一人暮らしができないで実家にいる、というのは、これは働き盛りが親に面倒を見てもらっているのだから、やはり8050/7040にあたるのではないだろうか。

 コオは、父がまだ現役の時に、莉子の年金に不可年金をつけるために父が支払っている、と言っていたのを思い出した。親に年金も払わせていたのだ。コオは二十歳の時から、一度だって親に年金の納付だけはさせたことはなかったというのに。

  父も母も、莉子にはとことん甘く、コオにはとことん、自立し、”長女らしく”, 妹の面倒を見ることを求めた。 

 

  この頃からコオは、父と永住型の施設を見学に行って以降の記憶が、あいまいになっていく。膨大なストレスに、体調とともにメンタル的にも調子を崩していった。。

 にわかに姿を現してきた莉子の経済問題。父の施設移動問題。更に大切な、自分の家族、遼吾を失ったストレス。実際、コオは自分の家族で味方であると信じていた遼吾が、話せば話すほど、遠くなっていくことが何よりも辛かった。『母さん帰ってきて』と次男が言ってくれないことも辛かった。それに加えて、事故を起こした同僚ソフィのケアも、未だ尾を引いていた。そして、ある意味コオをここまで支えていたはずの仕事。コオの会社の部署が、閉鎖されることになり、コオはこの先の選択を迫られる、という強烈なストレス化にさらされることになった。

 

 

 

 

 

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結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。コオは、莉子が《自分で働いて、食べていく》ということを考えてないのではないかと恐怖し、父の永住型老人ホーム入居のための資金プランを考え直さねば、と考える

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 莉子の、収入がいくらだったのか正確なものはコオは知らない。けれど、ピアノ講師をやっていた時からそうだが、莉子の時間的に楽な働き方(あくまでコオから見ると)からすると、そしてあくまでも一人暮らしは不可能だ、と主張するところから想像するに、決して多くはない。自宅にいて、家賃や光熱費がかからないから余裕があるくらいの額。ちょっと趣味や、旅行に出も行けば、すぐに吹っ飛んでしまうような額だろう。

 コオは、自分の試算が、少なすぎる、とは思わない。逆に多すぎる可能性の方が高い、と考えていた。

 だとすると、莉子から月々の施設の費用の援助を期待するのは無理かもしれない。

 コオは父からの断片的な情報から、そう考え始めていたのだが、

 

 「莉子ちゃんが、家を売って中古のマンションに移りたい、っていうんだよ。」

 

 それは、父が2回目の入院をしたときにも、出た話だ(Day136-Day141-(1) 参照)。あの時、コオは(何くだらないこと言ってるの)くらいに思い、流していた。

 しかし

 

 「うちの住宅地も、うちとおんなじ時期に立った家が、今ぽつぽつ売りに出て、チラシが入ってくるんだよな。ーまぁ、莉子ちゃんがそれみたんだ。で、中古マンションの小さめのやつ買えば、少なくても500万はお小遣いになる、っていうんだよ。けど、中古っていったって、買って終わりじゃないし。」

 「・・・当り前じゃない。管理費とか、修繕積立費とか・・・バカにならない額が月々かかってくるよ・・・住宅取得税だって・・・」

 

 コオはうめいた。父が語る言葉がすべて本当なのかはわからないが、今回は前よりもずっと具体的で、やはりまるきり現実を見ていない。いや、現実を見ていないのは父ではなく莉子だろうが。

 

 「しかも、マンションなんて買ったその日から価値が落ちていくだろ?今の家にいれば、少なくとも家賃はかからないし、土地があるけど。」

 「わかってる・・・チラシの額何て・・・全部が手に入るわけないじゃない・・・」

 

 やはり、莉子の言葉なのか?計算してないところも莉子らしい。確かに戸建ては光熱費などのコストパフォーマンスは悪いだろう。しかし、安定した収入なしに、住宅を購入するのはあまりにもリスクが高すぎる。しかも、父の家は築40年を超える。チラシに乗っている価格は、業者の取り分がのっているし、売って住宅をつぶす手数料、書類手続きの手数料なども入っている可能性が高い。

 500万?もし単純にチラシの価格から、莉子が購入しようとしてる中古マンションの価格を引いてるだけなら・・・そんなもの、ほとんど残らないだろう。もって2年で食いつぶしてしまうだろう。

 莉子は・・・まるで寄生虫だ。内側から食い荒らしている。

 

 コオは寒気がした。

 父の言葉がすべて事実を語っているのかどうかわからない、莉子は自宅にいた利点を生かして、貯金をかなり作った可能性だってゼロではない、と自分に言い聞かせながら、コオは自分の知ってた(と思っていた)妹が、にわかに得体のしれない怪物になったような、そんな気がしていた。

 

  

 

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結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。コオは、莉子が《自分で働いて、食べていく》ということを考えてないのではないかと恐怖する。

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 莉子は、自分の生活、食べていくことに責任を持つ気がない。

 その考えは、コオをイライラさせるよりも凍りつくような気持ちにさせた。

 父の、北寿老健での期限、3ヶ月が過ぎた。 が幸い、更に3ヶ月はいられることになり、コオは少しだけ安堵するとともに、なんとか父を安定した施設に入れたいと、思った。

 でも、そのためには莉子が。キーパーソンがきめなければ、つぎには進めない。

 しかも・・・

 考えたくはないが、もし莉子が、コオが思いついたとおり《自分で暮らせる分を稼ぐ気はない》のならば、一体父の財政状況はどうなってるのだ?そもそも、もしかして、父の年金に彼女はぶら下がって生活している形になっているのだろうか?いや、まさか。

 コオの考えでは父の年金で施設費を払う。目安は施設の費用の7割から8割。残りはコオと莉子が出す。すると父の年金は、コオの非常にラフな計算では、少し余るはずだ。

 それを、少しずつ積み立てる形にし保険代や家の固定資産税に当てる。

 定年までしっかり勤め上げた父だから、退職金や、貯金もあるだろうから急な病気などがあればそれで対処すればいい。

 ・・・それが、コオのラフスケッチだった。しかし。

 

 「パパ、あのさ、施設のことがあるから聞きたいんだけど、ぶっちゃけ、貯金とかってあるのかな。前金とかはどっちにしても私が出すからいいんだけど、一応、聞いておきたい。」

 「全然・・・わからない。証券会社の分があるけど、それは俺の分はもう全然、ほとんどない。株の運用は莉子ちゃんの名義でしてたんだ。でも、あの子がピアノを辞めたときに、パイプオルガンを始めるから、それを買うのに使わせてくれって言われて。多分使っちゃったんじゃないかなぁ・・・」

 

 それは前も聞いたよ。とコオは思ったが、黙ってうなずいた。全く呆れる。何度聞いても。

 

 「それだけ?N証券の分だけ?」

 「うーん、後はお母さんに任せていたからなぁ・・・」

 「そもそも、N証券でやってた株だって彼女の名義で運用してても、もとはパパのお金じゃないの。」

 「いや、そうなんだよ。それで莉子ちゃんが車を4台目に買い換えるときに、もう出せない、って俺は言ったんだ。そしたら、お母さんが、自分が出すって。」

 

 コオは前よりもさらに呆れはてると同時に

 (父の貯金はゼロ、と考えて施設にかかるお金を試算し直したほうがいいかもしれない・・・どちらにしても、やはり年金学のチェックは必要だな)

 と考えていた。

 しかし、父から出る言葉は更に衝撃的なものだった。

 

 

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結局、妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空き部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させる。その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。そして父の誕生日がやってきて、父はケーキを持ってきたコオに、莉子は母と同じ、料理学校に通ったことがあること、それも続かず、アロマテラピーの資格を取ろうとしていたことを話す。

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 コオは俄かに、焦りを覚え始めていた。

 今までコオは、収入が少ないながらも彼女がアルバイトをしている、と考えていたし、パイプオルガンも、いぶかしく感じつつも以前ピアノ講師をやっていたつてで、本当に仕事としてやっていけるのかもしれない、と思っていた。けれど。

 パイプオルガン。

 アロマテラピー。

 料理学校。

 いずれも・・・学校。収入を得る以前に、莫大なレッスン、授業料がかかるのは容易に想像できる。実際料理学校だけでも、最初は生徒として入学し、講師になるためにどれほどたくさんのコースを取り、生徒として授業料を払うことになるか。母が料理学校の講師になる前を、コオはうっすら覚えていた。

 しかも父の話だと、現在進行中のパイプオルガンも含めて、どれ一つ稼ぐ手段に放っていない。

 莉子は、本当に仕事をしているのか?

 莉子は、本当に自分の収入で食べていく気があるのか?

 

 焦っていた(ようにも聞こえる)彼女自身の迷い、わからないではない。

 コオもひどく逡巡し、迷った経験がある。あるけれど・・・

 父の話は、断片的だ。脳出血のせいで、本当に忘れてしまったのかもしれないし莉子が本当のことを言ってないだけかもしれない。それを差し引いても、莉子の職の探し方は、コオには、まったく危機感も何も感じられなかった。

 

 莉子は引きこもりではない。でも・・・

 これは・・・世間でいうところのの7040,8050問題ではないのか?

 莉子は・・・莉子の頭の中には、《自分の食い扶持を自分で稼ぐ》という言葉は、無いのではないだろうか?

 

 それは莉子を責める、というよりも、恐怖に似た感覚だった。