ポーランドのワルシャワで開催されている、第18回ショパン国際ピアノコンクール(公式サイトはこちら)。
10月4日は、1次予選の第2日。
ちなみに、第18回ショパン国際ピアノコンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(第18回ショパン国際ピアノコンクール 予備予選出場者発表)
(第18回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選が4月から9月へと延期)
(第18回ショパン国際ピアノコンクール 予備予選免除の出場者発表)
(第18回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選が2021年4月から2021年7月へと延期)
以下、曲はいずれもショパン作曲である。
1. Miyu SHINDO (Japan, 2002-04-26)
- Nocturne in C minor Op. 48 no 1
- Etude in G sharp minor Op. 25 no 6
- Etude in C major Op. 10 no 1
- Ballade in A flat major Op. 47
ピアノはスタインウェイ 479。
一音一音に内なる情念を込めた、魂の演奏(それも、メロディのみならずバスや内声も含めた全ての音に)。
技巧面でも、彼女の得意曲op.25-6(その記事はこちら)、それからop.10-1、ともにわずかなミスはあるが美しく弾けている。
2. Talon SMITH (United States, 2002-02-14)
- Nocturne in C minor Op. 48 no 1
- Etude in G flat major Op. 10 no 5
- Etude in G sharp minor Op. 25 no 6
- Ballade in F minor Op. 52
ピアノはスタインウェイ 300。
ノクターン、先ほどの進藤実優の暗い情念のこもった音とは対照的な、明るく澄んだみずみずしい音(特に中間部)。
エチュードやバラードも、技術的に完全とは言えないものの、彼のさわやかな音楽性を邪魔しないだけの技巧は持ち合わせている。
3. Kyohei SORITA (Japan, 1994-09-01)
- Nocturne in B major Op. 62 no 1
- Etude in C major Op. 10 no 1
- Etude in B minor Op. 25 no 10
- Scherzo in B flat minor Op. 31
ピアノはスタインウェイ 479。
力強さと繊細さとが同居した演奏。
ノクターン、先日の予備予選と同様(その記事はこちら)、幾種類もの音の色合いを自在に使い分けるコントロールとイマジネーションに唸らされる。
この色彩感は、さすがのショパンコンクールでも他に例をみない。
エチュードもうまく、特にop.25-10の畳みかける迫力は彼ならでは。
スケルツォも、第1日のHao RAOの若々しい勢いとはまた違った思慮が感じられる。
4. Szu-Yu SU (Chinese Taipei, 1998-03-14)
- Nocturne in B major Op. 62 no 1
- Etude in C major Op. 10 no 1
- Etude in A minor op. 10 no 2
- Fantasy in F minor Op. 49
ピアノはスタインウェイ 479。
ノクターン、反田恭平の後では分が悪いが、自然な感じのする、これはこれで悪くない演奏。
一方、エチュードop.10-1は反田恭平に一歩も譲らぬ見事さ、op.10-2もかなりの安定感。
幻想曲も、面白みにはやや欠けるがオーソドックスで安定している。
5. Hayato SUMINO (Japan, 1995-07-14)
- Nocturne in C minor Op. 48 no 1
- Etude in C major Op. 10 no 1
- Etude in B minor Op. 25 no 10
- Scherzo in B minor Op. 20
ピアノはスタインウェイ 300。
ノクターン、朗々とした歌は上記の最初の2人とは違った良さがある。
エチュードop.10-1もうまいし(余裕の反田恭平、勢いのSzu-Yu SU、正確さの角野隼斗といったところか)、op.25-10も反田恭平のデモーニッシュな曲づくりとはまた違ったストレートな迫力がある。
彼の得意曲スケルツォは(その記事はこちら)、尖っていた旧解釈でなくやや丸くなった新解釈による演奏で、こちらも良い。
6. Yutong SUN (China, 1995-09-28)
- Ballade in G minor Op. 23
- Nocturne in C minor Op. 48 no 1
- Etude in C major Op. 10 no 1
- Etude in E minor Op. 25 no 5
ピアノはスタインウェイ 479。
バラードにノクターン、ショパンの悲哀や葛藤をそのまま体現するというよりは、少し距離を置いているような感触。
感情よりも洗練を重視した、人工美といった感じの演奏。
op.10-1も独特のテンポ感だが、これだけ弾ければ大したもの。
op.25-5は、彼の人工的な要素がシニカルな曲調に合っている。
7. Aleksandra ŚWIGUT (Poland, 1992-01-21)
- Nocturne in C sharp minor Op. 27 no 1
- Barcarolle in F sharp major Op. 60
- Etude in E minor Op. 25 no 5
- Etude in F major Op. 10 no 8
ピアノはファツィオリ F278。
独特の粘り気のある歌が特徴で、ファツィオリの華やかな音色も活かされており、ノクターンや舟歌は味がある。
ただ、エチュードop.10-8がかなり転びがちなのが残念。
8. Rikono TAKEDA (Japan, 1993-12-12)
- Nocturne in E flat major Op. 55 no 2
- Etude in C sharp minor Op. 10 no 4
- Etude in A minor Op. 25 no 4
- Ballade in F major Op. 38
ピアノはスタインウェイ 300。
ノクターンやバラード緩徐部分のたおやかで慎ましい情感が印象的。
エチュードop.10-4はやや危ういが、op.25-4はかなり鮮やか。
バラード急速部分はおとなしめだが、その分コーダの和音連打は速いテンポで攻めている。
9. Shunshun TIE (China, 2000-05-07)
- Nocturne in B major Op. 62 no 1
- Etude in C minor Op. 10 no 12
- Etude in E minor Op. 25 no 5
- Ballade in G minor Op. 23
ピアノはスタインウェイ 300。
ルバートや左右の手のずらしを多用した耽美的な様式と、硬質な音による明瞭度の高い奏法とが同居した、今風のキメラ的な演奏。
洗練された技巧を持ち、どの曲も隙がない(ただしバラードのコーダの途中に2小節間、左手がバスのオクターヴだけ弾いて裏拍の内声和音を省いている箇所があって、些細なことだがビート感を削いでいる)。
10. Sarah TUAN (United States, 2002-07-29)
- Etude in G sharp minor Op. 25 no 6
- Etude in C minor Op. 10 no 12
- Fantasy in F minor Op. 49
- Nocturne in B major Op. 62 no 1
ピアノはスタインウェイ 300。
軽めのタッチによる優美な演奏。
ノクターン、反田恭平の確固たる演奏とは違った浮遊感があって、こちらも悪くない。
エチュードでは音外しがちょこちょこみられるが、概ね許容範囲か。
11. Tomoharu USHIDA (Japan, 1999-10-16)
- Nocturne in D flat major Op. 27 no 2
- Etude in A flat major Op. 10 no 10
- Etude in C minor Op. 10 no 12
- Fantasy in F minor Op. 49
ピアノはヤマハ CFX。
一つ前のSarah TUANのくぐもった音とは対照的な、ぱっと広がるような存在感のある音を持ち、ノクターンやエチュードop.10-10にみられる六度の和音の鳴らし方が美しい。
そして、夢見るような情感のみならず、ときに力みさえ感じるほどの激しい表現もみられ、品は良いがきれいごとになっていない。
一音の存在感、また音楽のドラマを捉えた表現、これらの点で(音や性質は違えど)反田恭平と良い勝負になってくるのかもしれない。
12. Zitong WANG (China, 1999-02-03)
- Nocturne in C sharp minor Op. 27 no 1
- Etude in C sharp minor Op. 10 no 4
- Etude in C major Op. 10 no 7
- Fantasy in F minor Op. 49
ピアノはスタインウェイ 479。
予備予選で大きな感銘を受けた彼女の演奏も(その記事はこちら)、牛田智大のすぐ後に聴くといささか霞んでしまったのは否めないところだが、それでも彼女の弱音主体の卓越した表現力は健在だし(特に幻想曲を面白く聴かせることにかけては随一)、エチュードでのテクニックも大したもので、上位に進むべき一人だと思う。
13. Zijian WEI (China, 1998-04-27)
- Etude in F major Op. 10 no 8
- Etude in G sharp minor Op. 25 no 6
- Nocturne in B major Op. 62 no 1
- Ballade in F minor Op. 52
ピアノはスタインウェイ 300。
エチュードはやや足取り重く、また疵もちょこちょこみられる。
ノクターンやバラードではメロディラインをけっこう大きな音で鳴らすのだが、その鳴らし方があまり繊細とは言えない。
バラードのコーダ直前の和音は力強いが、コーダ自体はややぼてっとしていて迫力に欠ける。
14. Marcin WIECZOREK (Poland, 1996-07-12)
- Etude in C major Op. 10 no 1
- Etude in A flat major Op. 10 no 10
- Nocturne in E major Op. 62 no 2
- Scherzo in B flat minor Op. 31
ピアノはスタインウェイ 479。
エチュードop.10-1は弾き飛ばすような感じで緻密さに欠ける(op.10-10のほうはまずまず悪くないが)。
ノクターンの歌わせ方も良く言えば素朴、悪く言えばぶっきらぼう。
ただ、スケルツォは速い走句に勢いがあって意外と良い。
15. Andrzej WIERCIŃSKI (Poland, 1995-11-21)
- Nocturne in B major Op. 62 no 1
- Etude in A flat major Op. 10 no 10
- Etude in A minor Op. 25 no 11
- Scherzo in B minor Op. 20
ピアノはスタインウェイ 300。
ノクターン、前半は悪くないが後半のトリルのムラが目立つ。
エチュードop.25-11は、フレーズのつなぎ目で「一休み」とでもいうようにテンポをいちいち緩めるのが勢いを削ぐ(op.10-10のほうはまずまず悪くないが)。
ただ、こちらもスケルツォは速い走句に勢いがあって意外と良い。
16. Victoria WONG (Canada, 1997-02-15)
- Nocturne in C sharp minor Op. 27 no 1
- Etude in G sharp minor Op. 25 no 6
- Etude in C minor Op. 10 no 12
- Fantasy in F minor Op. 49
ピアノはスタインウェイ 479。
ノクターン主部はなかなか良い音が出ているが、中間部は盛り上がりに欠けるか。
エチュード2曲もいっぱいいっぱいな感じで、鮮やかとは言えない。
幻想曲も悪くはないがあまり盛り上がらず、全体として地味目の印象。
17. Yuchong WU (China, 1995-12-28)
- Nocturne in E flat major Op. 55 no 2
- Etude in C major Op. 10 no 1
- Etude in E minor Op. 25 no 5
- Ballade in F minor Op. 52
ピアノはスタインウェイ 300。
明快な音づくりが特徴で、こういうショパンも面白い(op.25-5の中間部のまったりした味わいなどなかなか)。
ただ、強豪の多い中どこまで評価されるかは分からない。
また、技巧的問題としては、op.10-1に危うい箇所が散見される。
18. Lingfei (Stephan) XIE (China, 2000-10-12)
- Nocturne in B major Op. 62 no 1
- Etude in A flat major Op. 10 no 10
- Etude in A minor Op. 25 no 11
- Ballade in F minor Op. 52
ピアノはスタインウェイ 300。
上記の同い年のShunshun TIEに似た、明るく耽美的な演奏(ただし音そのものの美しさはこちらのXIEのほうが上か)。
技巧的洗練の点でも近しい印象(エチュードop.25-11で少し音を外しているが)。
そんなわけで、第2日の演奏者のうち、私が2次予選に進んでほしいと思うのは
1. Miyu SHINDO (Japan, 2002-04-26)
2. Talon SMITH (United States, 2002-02-14)
3. Kyohei SORITA (Japan, 1994-09-01)
4. Szu-Yu SU (Chinese Taipei, 1998-03-14)
5. Hayato SUMINO (Japan, 1995-07-14)
6. Yutong SUN (China, 1995-09-28)
8. Rikono TAKEDA (Japan, 1993-12-12)
9. Shunshun TIE (China, 2000-05-07)
10. Sarah TUAN (United States, 2002-07-29)
11. Tomoharu USHIDA (Japan, 1999-10-16)
12. Zitong WANG (China, 1999-02-03)
18. Lingfei (Stephan) XIE (China, 2000-10-12)
あたりである。
次点で、
7. Aleksandra ŚWIGUT (Poland, 1992-01-21)
14. Marcin WIECZOREK (Poland, 1996-07-12)
15. Andrzej WIERCIŃSKI (Poland, 1995-11-21)
17. Yuchong WU (China, 1995-12-28)
あたりか。
第2日はきわめてハイレベルで、あまり絞り込めなかったので、結果的に最終日の絞り込みに苦労しそうである。
次回(10月5日)は1次予選の第3日。
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