「元ヤクザだかなんだか知らないけど、素人を前にして凄んでるんじゃないよ。いい歳をして、みっともないったらありゃしない」
「なんだと、このババア」
木島さんの顔が、怒気に包まれる。さすが、元ヤクザ。迫力がハンパない。
「ババアとは言ってくれるね。あたしゃ、まだ四十を幾つも過ぎちゃいないよ」
木島さん相手に、文江さんは一歩も引けをとっていない。やっぱり、文江さんも相当の修羅場を潜ってきたとみえる。
「いっとくけどね、あんたみたいな人生を歩んできた奴なんて、世間にはいくらでもいるよ。それにね、あたしみたいな商売をしていると、性質の悪い輩なんていくらでも相手にするんだ。あんたがいくら凄んでみせたって、蚊に刺されたほども感じないよ」
凄い啖呵だ。
俺は、文江さんの迫力に圧倒されてしまった。
木島さんも毒気を抜かれたみたいで、顔から怒気が消え、少し困った顔になっている。
元ヤクザとはいえ、木島さんは本当の悪人にはなりきれなかったのではないかと、俺は思った。その証拠に、野良猫を拾い、その猫のために足を洗っている。
いかん。俺も、かなりにゃん吉に影響を受けているようだ。猫好きイコールいい人といった図式が出来上がってしまっている。
「フン、ここで手を出さないとは、少しはましな人間みたいだね」
歯に衣を着せぬ文江さんの言葉に、周りの人々は、固唾を飲んで見守るしかないみたいだ。誰も声を出さない。
「手なんて出すかよ。自慢じゃねえが、俺はヤクザやってたときでも、女に手を上げたことはねえ」
「ほんと、自慢にならないね。それが、男ってもんだろ」
本当に、文江さんは怖いもの知らずだ。聞いているこっちが、はらはらする。
そこまで言われても、木島さんはただ苦笑いを浮かべているだけだ。
俺は、木島さんを凄いと思った。そして、ぐっと親近感を持った。
元ヤクザでなくても、女性にこんなことを言われれば、大抵は本気で怒るものだ。
「ま、あんたは、それなりのヤクザだったんだろうね。あたしにここまで言われても、怒鳴りもしないんだからね」
どうやら、文江さんも、木島さんのことを認めたみたいだ。
俺のみならず、その場の全員が、今の文江さんの言葉で息を吐いた。
「さっきは、あんなことを言ったけどね、あたしも、この猫を飼うのには反対しないよ。こういっちゃなんだが、この猫は、昔あたしが飼ってた、黒太郎にそっくりさ」
ええ~ 文江さんも猫を飼っていたのか。それも、黒太郎なんて、そのままじゃないか。風三郎といい、この二人は、どんなネーミングのセンスをしているんだ。
俺は呆れたが、よく考えるまでもなく、俺のネーミングセンスも似たり寄ったりだと思い、直ぐに二人に心の中で詫びた。
しかし、まあ、よくもこんな人間ばかりが集まったものだ。
「あんたも、猫を飼っていたのか」
木島さんの目が輝いた。
「ああ、そうだよ。あんたも身の上話をしてくれたことだし、あたしもひとつしてみるかね」
なんだなんだ、この展開は。
ここの住人は。一癖も二癖もありそうな連中ばかりで、きっと過去にいろいろあったんだろうが、そんなことは一切語らない人間ばかりだと思っていた。
木島さんがいい例で、結構壮絶な過去を持っていた。その木島さんが自分の過去を語り、今また、木島さんをも子供扱いする文江さんまでもが、自分の過去を語ろうとしている。
これは、にゃん吉の力なのだろうか、
事態は、俺の予想もせぬ展開になりつつある。
「あたしもね、あんたと似たり寄ったりなのさ」
文江さんが、木島さんの顔を見る。そして、文江さんが語った過去も、また壮絶なものだった。
会社が倒産し、自棄になっていた男の前に現れた一匹の黒い仔猫。
無二の友との出会い、予期せぬ人との再会。
その仔猫を拾ったことから、男の人生は変わっていった。
小さな命が織りなす、男の成長と再生の物語。
CIAが開発したカプセル型爆弾(コードネーム:マジックQ)が、内部の裏切り者の手により盗まれ、東京に渡る。裏切り者は、マジックQを赤い金貨という犯罪組織に売り渡そうとしていた。CIAの大物ヒューストンは、マジックQの奪回を、今は民間人の悟と結婚して大阪に住んでいる、元CIAの凄腕のエージェントであった、モデル並みの美貌を持つカレンに依頼する。
加えて、ロシア最強の破壊工作員であるターニャも、マジックQを奪いに東京へ現れる。そして、赤い金貨からも、劉という最凶の殺し屋を東京へ送り込んでいた。
その情報を掴んだ内調は、桜井という、これも腕が立つエージェントを任務に当てた。
カレンとターニャと劉、裏の世界では世界の三凶と呼ばれて恐れられている三人が東京に集い、日本を守るためにエリートの道を捨て、傭兵稼業まで軽軽した桜井を交えて、熾烈な戦いが始まる。
裏切者は誰か、マジックQを手にするのは誰か。東京を舞台に繰り広げられる戦闘、死闘。
最後には、意外な人物の活躍が。
歩きスマホの男性にぶつかられて、電車の到着間際に線路に突き落とされて亡くなった女性。早くに両親を亡くし、その姉を親代わりとして生きてきた琴音は、その場から逃げ去った犯人に復讐を誓う。
姉の死から一年後、ふとしたことから、犯人の男と琴音は出会うことになる。
複数の歩きスマホの加害者と被害者。
歩きスマホに理解を示す人と憎悪する人。
それらの人々が交差するとき、運命の歯車は回り出す。
2020年お正月特別編(前中後編)
おなじみのキャストが勢揃いの、ドタバタ活劇、第3弾。
2019年お正月特別編(前中後編)
おなじみのキャストが勢揃いの、ドタバタ活劇。
シャム猫の秘密の続編
2018年お正月特別版(前後編)
これまでの長編小説の主人公が勢揃い。
オールスターキャストで贈る、ドタバタ活劇。
大手の優良企業に勤めていた杉田敏夫。
将来安泰を信じていた敏夫の期待は、バブルが弾けた時から裏切られた。家のローンが払えず早期退職の募集に応募するも、転職活動がうまくいかず、その頃から敏夫は荒れて、家族に当たるようになった。
そんな時、敏夫は不思議な体験をする。
幻のようなマッサージ店で、文字のポイントカードをもらう。
そこに書かれた文字の意味を理解する度に、敏夫は変わってゆく。
すべての文字を理解して、敏夫は新しい人生を送れるのか?
敏夫の運命の歯車は、幻のマッサージ店から回り出す。
夜の世界に慣れていない、ひたむきで純粋ながら熱い心を持つ真(まこと)と、バツ一で夜の世界のプロの実桜(みお)が出会い、お互い惹かれあっていきながらも、立場の違いから心の葛藤を繰り返し、衝突しながら本当の恋に目覚めてゆく、リアルにありそうでいて、現実ではそうそうあり得ない、ファンタジーな物語。
ふとしたことから知り合った、中堅の会社に勤める健一と、売れない劇団員の麗の、恋の行方は?
奥さんが、元CIAのトップシークレットに属する、ブロンド美人の殺し屋。
旦那は、冴えない正真正銘、日本の民間人。
そんな凸凹コンビが、CIAが開発中に盗まれた、人類をも滅ぼしかねない物の奪還に動く。
ロシア最凶の女戦士と、凶悪な犯罪組織の守り神。
世界の三凶と呼ばれて、裏の世界で恐れられている三人が激突する。
果たして、勝者は誰か?
奪われた物は誰の手に?