日向(ひゅうが)真(まこと)は、中堅どころの食品メーカーに勤めるサラリーマンだ。

齢は32歳、結婚もしていなければ、彼女もいない。だからといって、ホモでもゲイでもない。

顔立ちは、イケメンとまではいかないが、性格の良さを反映してか、好感の持てる顔をしている。

真は、意志が強く、責任感も強いほうで、仕事も熱心だ。それに、周りに対して気も遣える。反面、曲がったことや理不尽なことは大嫌いだ。

 仕事で、無理や無茶は当たり前だと思っているが、理不尽なことを言ったり要求したりすれば、たとえ上司といえども、平気で楯をつく。それで馘になるのだったら、こっちから願い下げだと思っている。

 真は、人の価値を、学歴や職業や性別、それに年齢なんかで推し量ることはない。

学歴がなかろうが、たとえ年下であっても、そしてどんな職業についていようとも、自分が良いと思えば、素直に尊敬できる人と受け止める。

反対に、いくら高学歴であろうが、いくら権力の座に座っている人間でも、それを鼻にかけたり、思いやりがなく、他人を貶めるような人間ならば、尊敬することもしなければ、へつらうこともしない。 

損と言ってしまえば損なのだが、他人に媚びてまで自分がいい目をしようなどとは、露ほども思っていない。

そんな真だから、会社の中では、彼を好きな人間か嫌いな人間かの、どちらかしかいなかった。多くは、上司から煙たがられ、後輩からは慕われていた。

生まれながらの性格もあるだろうが、多分に親の影響もある。

真の父親は、ごく普通の、中堅どころの会社に勤めるサラリーマンで、家族を養うために、何があっても我慢するような男だった。

それはそれでいいのだろうが、その分、嫁、つまり真の母親に当たったり、真に、俺のような大人になるなと、酒を飲んではよく愚痴をこぼしていた。

そこまでしんどいのだったら、なぜ転職しないのかと、真は子供心に不思議でしようがなかったし、そんな父親の、情けない姿を見るのも嫌だった。

育ててもらった父親には悪いが、父親の愚痴を聞かされる度に、こんな大人にはなるまいと、いつも思っていた。

そんな幼い頃からの体験が、真の性格を育てていったといってもいいだろう。そして、その信念は、今でも変わっていない。

真は、独身が気楽だと思っているわけではない。健全な男子ゆえに、彼女がほしいと思っている。結婚して、幸せな家庭を築きたいとも思っている。

しかし、仕事が忙しいのと、気を遣い過ぎる性格のせいで、なかなか彼女ができないでいた。

 仕事で気を遣うのは当たり前だが、真は惚れた女性にも凄く気を遣う性格で、自分の欲望を押し殺し、親身になって彼女と向き合う。

 一見、男らしくみえるが、女性からしてみると、それが却って、男性としての魅力を損なわせているようだ。

 女性から言わせれば、いい人過ぎて、どこか物足りない。甘えたり、頼りにはしても、恋人としては心を惹かれないのだ。

 女性とは不思議なもので、結婚には安定や幸せを望みながら、どこか危険な匂いのする男に惹かれてしまう習性があるようだ。それが証拠に、真面目で固い男はモテないが、平気で浮気をするような男や、暴力を振るう男を好きになる女性は多い。

 真は、浮気や暴力、それにストーカーなんかとは、まるで無縁の男だ。

 仕事もそうだが、恋愛にも、いつも本気でぶつかる。

 もしかしたら、女性にとって、それが重荷になるのかもしれない。

 真は、そんな女性の心理を、ある程度はわかっている。

しかし、自分を変えるつもりはない。

無理をしても、続かないのがわかっているからだ。

 素の自分を受け入れてくれる女性が、どこかにはいるだろう。そう思って、恋愛でも結婚でも、焦る気持ちはなかった。

 とはいえ、この年齢になると、同僚や友人の大半は次々に結婚していき、その度に、どこか自分が置いていかれるような気持ちになることも、しばしばあった。

 そんな時は、どんどんと悪い方向に考えてしまうため、真は、仕事に打ち込むようにしていた。逃げるのではない。そう、自分に言い聞かせていたが、切ない気持ちは抑えきれなかった。それを押えるために、また仕事に打ち込む。悪循環の繰り返しだ。

 これでは、中々彼女ができるはずもなかった。

 

 

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