スコットが言った通り、世界は大変なことになっていた。

 

時差の違いはあるものの、ほぼ同時刻に爆弾騒ぎが起こっていたのだ。

 

夜中や明け方の時間帯の国では、主にホテルが爆破された。

 

それぞれの国が、敵対国とみなす国々の仕業と思い、各国政府に緊張が走った。

 

それを打ち消したのは、敵対国でも同じことが起こっているということがわかったのもあるが、赤い金貨から声明が出されたからだ。

 

赤い金貨は、爆弾テロを止める条件として、莫大な金額を各国に要求した。

 

赤い金貨としては、本当はここまでの騒ぎを起こすつもりではなかった。

 

もっと小規模なデモンストレーションを行い、洗脳ソフトを、一番高値をつけた国に売りつけるつもりだった。

 

洗脳を解くソフトもあるので、それを別の国々に売りつける。

 

かくして、多額な金が赤い金貨の懐に入り、洗脳ソフトは無効化される算段だった。

 

いくら人命は金脈と謳っていても、人類が滅んでしまったのでは、なにもならない。

 

だが、赤い金貨の思惑は、見事に外れた。

 

志保が組織を出し抜いてどこかへ雲隠れし、暴走を始めたからだ。

 

洗脳を解除するソフトも、志保が持ち出してしまった。

 

赤い金貨の手元には、なにもない。

 

組織は、志保の行方を追いながら、金儲けをすることも忘れなかった。

 

主要国の政府や諜報機関には、赤い金貨に忠誠を誓った人間が、何人も潜り込んでいる。

 

これらの人間は、概要だけを知らされており、志保が裏切っていることは知らない。

 

ボスは、それをいいことに、各国に大金を要求した。

 

赤い金貨の要求に、激怒したのが中国だった。

 

噂通り、赤い金貨は中国の思惑を受けて組織されたのだが、生みの親も知らぬ間に、組織は変貌していた。

 

今のボスは、中国の傀儡であった頃とは別人になっている。

 

というより、この思惑があって、国家の傀儡になっていた。

 

もともと共産党の幹部だったのが、一党独裁の末路を見据えて、どこの国も手が出せない犯罪組織を作ることを夢見た。

 

赤い金貨のような組織を作る提案をしたのも、今のボスである。

 

彼の野望は、望み通りにいきかけていた。

 

それも、志保の裏切りにより、この先どうなっていくかわからない窮地に立たされている。

 

それでも、各国に大金を要求するというあたり、したたかなものである。

 

当の志保は、テレビを見ながら、満足げに頷いていた。

 

ほぼ思い通りに、プログラムが機能している。

 

これを三日も続ければ、世の中は混沌とするだろう。

 

ある国では暴動が起こり、また、ある国では他人が信用できなくなり、隣人同士でも殺し合いが始まるだろう。

 

政府が介入に乗り出して、騒ぎが少しでも鎮静に向かえば、また騒ぎを起こしてやればいい。

 

今の志保には、素人に爆弾の製造法をインプットすることなど、簡単にできた。

 

人は、ある程度まで操ることが出来ると、後は勝手に暴走してしまうものだ。

 

今の志保が、そうであるように。

 

志保の完成させたプログラムは、人の良心を無くしてしまう催眠効果が含まれている。

 

良心なんてものを持つのは、人間だけだ。

 

他の動物にはない。

 

ただ、生きていくためだけの欲と知恵があるだけだ。

 

悲しいことに、人は、生きていくためだけ以外の欲も持ち合わせている。

 

だから、良心というものを持つ。

 

それがなければ、とっくに自滅しているだろう。

 

地球と、そこに生きる者すべてを犠牲にして。

 

良心を無くした人間は、狂気を帯びる。

 

そうなると、人殺しの道具の作り方など、簡単に覚えてしまう。

 

人間というものは、どこまでも救われない生き物だ。

 

だが、果たしてそうだろうか?

 

人類を滅亡に追いやろうとしている志保だが、心のどこかでは悲鳴を上げていた。

 

(誰か、私を止めて)

 

志保は、人類が滅亡する前に、自分を殺してくれる者が現れるのを、心の片隅で祈っていた。

 

どんなことがあろうが、人間の良心というものは、そんなに簡単になくなるものではないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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おかしいでしょ!

 

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「どうしたの?」

 

いつもと違う悟の様子に、カレンが心配そうな顔を寄せた。

 

「なあ、カレン」

 

悟の声は、暗い響きを帯びている。

 

「裏切者は、許さへんのやろ」

 

「そうよ」

 

戸惑の表情を浮かべながらも、カレンはきっぱりと答えた。

 

「なら、ヒューストンも、許さへんつもりやんな」

 

「何が言いたいの? 言いたいことがあるのだったら、はっきりと言ってくれない」

 

悟の回りくどい言い方に、カレンからは戸惑いが消え、苛立った顔つきになっている。

 

「なら、はっきり言うわ。どうせ、ヒューストンも殺すんやろ。俺、もう、人が死ぬのは見とうないねん。東京に来てから、何人、俺の目の前で死んでいったんや。俺、もうこんなことはうんざりや」

 

カレンを見る悟の顔は、これまでに見たことのない苦悩が浮かんでいる。

 

「わたしを、裏切る気?」

 

カレンの形相が変わった。

 

殺気を帯びた眼で、悟を睨む。

 

何で、そんな話になるんや。俺は、ただこれ以上、人が死ぬのを見とうないと言うてるだけやないか」

 

「今更、何を言ってるのよ! あなたは、わたしの夫でしょ」

 

「まあ、待て、カレン」

 

カレンが尚も尚も言い募ろうとしたとき、スコットが割って入った。

 

いいか、カレン。サトルは民間人なんだぞ。ここまで耐えてきたこと自体が、凄いことなんだ。よく、これまで正気を保ってこれたもんだと思うよ」

 

私と一緒に居るのだったら、これくらい、慣れてもらわないとね」

 

宥めようとするスコットを、カレンはにべもなく撥ねつける。

 

悟は、カレンの顔を見ようともせず、俯いて唇を噛みしめている。

 

そうは言うが、これ以上は酷というものだ。どうだろう、今回はサトルを置いていった方がいいと思うんだが?」

 

カレンが、宙を睨んだ。

 

暫くそうやっていたが、やがて、肩の力が抜けたように、ため息を漏らした。

 

スコットに向けた顔は、穏やかになっている。

 

確かに、東京へ来てから、気の休まる暇もなかったし、サトルも精神的に参っているのかもね」

 

「参らないほうがおかしいんだよ」

 

「そうね」

 

カレンが、寂しげな笑みを浮かべる。

 

でも、そうなると、誰がサトルを守るというの?」

 

いつもの悟なら、このようなカレンの言葉を聞けば、自分の心を殺してでもカレンに従うのだが、今回はいつもと違う。

 

何も言わず、俯いたままだ。

 

私が、付いていよう」

 

俯く悟を見ながら、スコットが力強く言った。

 

あなたが? わかった。今回は私一人で行くわ」

 

カレンが、寂しげな表情で悟を見る。

 

「ごめんな」

 

ぶっきらぼうに悟が謝る。

 

これまでカレンに対して、悟がここまで逆らったこともなければ、冷たい態度を取ったこともない。

 

多少の文句は言っても、いつもカレンの好きなようにさせてきた。

 

確かに、カレンと出会ったとき以上に、今回は多くの人が死んでいる。

 

だが、カレンと一緒にいればいつかはこうなることは、悟には十分わかっていたはずだ。

 

いいわ、私も少し言い過ぎたし。サトルは、スコットと一緒に待ってて」

 

カレンが、無理に作った笑顔を悟に向けた。

 

悟は、それに応えることなく、静かに頷くのみだった。

 

そして、また俯く。

 

「ヒューストンの居場所はわかっているな」

 

「ええ」

 

俯く悟を見ながら、カレンが心ここにあらずといった様子で答える。

 

「ことが片付いたら、連絡をくれ。私は、悟と一緒に待っているよ」

 

「わかった」

 

カレンはもう一度悟を見ると、吹っ切るように背を向けた。

 

そんなカレンを見ようともせず、俯いたままの悟の肩に、スコットの手が置かれた。

 

「私たちも、行こうか」

 

優しく言うスコットの言葉が、悟には悪魔の囁きに聞こえたが、そんなことはおくびにも出さず、悟は黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

プリティドール(続き)

 

 

プリティドール(最初から)

 

 

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