夢を見ていた。
自分が、病院のベッドに横たわっている。
右腕には点滴の針が刺され、頭には真っ白な包帯がぐるぐると巻かれている。
傍には心電図の装置が置かれており、そこに映し出される波長は、もの悲しいほどに弱々しかった。
そんな痛々しい姿の自分を、直上から眺める自分がいた。
何故、自分はこんな夢を見るのだろう?
どうせ見るなら、もっと楽しい夢がいいのに。
そう思っていると、急に体が浮き上がり、あっという間に天井に届いた。
病室全体が視界に入ったとき、横たわる自分の周りに、家族が悲しそうな顔をして立っているのが見えた。
いくら夢でも、縁起が悪すぎる。
早く醒めてほしい。
そう願ったとき、ふいに思い出した。
そうだ、自分は車に撥ねられたのだ。
これは、夢ではない。
幽体離脱といういうやつなのだろう。
魂だけが、身体を抜け出したのだ。
早く戻らねば。
焦る思いとは裏腹に、身体をじたばたさせても、一向に下へ降りることが出来なかった。
そのうち、ベッドに横たわる自分の身体が透け出した。
いや、違う。
意識が遠のいていっているのだ。
死にたくない。
それが、最後に思ったことだった。
心電図の波長が、直線になった。
会社が倒産し、自棄になっていた男の前に現れた一匹の黒い仔猫。
その仔猫を拾ったことから始まる、男の成長と再生の物語。