カレンに掛かってきた電話はCIAからで、赤い金貨が組織のトップの殺し屋を送り込んで、神戸に遊説に来る日本の首相を暗殺しようとしているとの連絡だった。

 今の首相は、本当に日本のことを考えており、行動力もある。

 そんな政権が続けば、赤い金貨が日本から駆逐されかねないし、バックについている大国もなにかとやりにくい。

 その情報を掴みながらも、日本国内ではCIAは表立って動くことはできない。

 それで、カレンに頼んできたのだ。

 今の首相が暗殺されれば、同盟国であるアメリカも困ることになる。

 せっかく敵対する国に強固な壁として使える日本が、また軟弱な頼りない国に戻ってしまうからだ。

 だから、首相の暗殺はなんとしても食い止めたい。

 カレンが、一歩前に出る。

 ウーの攻撃は素早かった。いつの間に抜いたのか、大型ナイフをカレンの喉元に突き立てる。

 だが、紙一重でカレンが躱した。

「ふん、少しはやるじゃない」

 カレンの、鋭い蹴り。

 ウーが躱し、ナイフがカレンの喉笛を切り裂こうとする。

 躱しざま、カレンの肘がウーの脾腹を打つ。

 カレンとウーの一進一退の攻防が続く。

「サトル、出かけるわよ」

 どこへとも訊かず、悟は立ち上がった。

 おおよその察しはついている。

 カレンがこんな嬉しそうな顔をするときは、とんでもなく危険なところに向かう時だけだ。

 やれやれと心の中で思いながら、それでも悟は笑顔を崩さない。

 カレンが向かった先は神戸港の貨物船が停泊している場所だ。

 深夜、沖合に停泊している貨物船から、一艘のゴムボートが岸壁に近寄ってきた。

 人気のいない岸壁に停めると、ボートから大柄の男がのっそりと降りてきた。

「待ってたわよ」

 カレンが陽気な声をかけると、男はぎょっとしたように立ち竦む。

「ウーね」

 ウーと呼ばれた男は、無言で拳銃を引き抜いた。

 刹那、カレンの右腕がしなる。

 ウーの手にした拳銃が宙を舞う。

「そんなものでケリをつけるのはもったいないわ。楽しみましょ」

 カレンの声は弾んでいる。

 街灯に照らされたウーの顔は、非常に凶悪な顔をしている。

 カレンを睨みつけるウーの目が、不気味に光っている。

 並みの人間なら恐怖でへたり込む目に睨まれても、カレンは平然としている。

「つまんない」

 カレンが口を尖らせる。

 ここ最近、平穏な日々が続いている。

 いいことなのだが、カレンにとっては退屈だ。

 深夜の物騒な場所にヤクザや半グレや不良外国人を狩りに出かけても、近頃はめっきりそういう連中には出会わない。

 無理もない。

 暇つぶしの狩りで、そういった連中をことごとく潰してきたのだ。

 今ではカレンを恐れて、そういった連中は深夜に現れないようになっている。

「自業自得やな」

 言った悟を、カレンが睨んだ。

「あんなことくらいで鳴りを潜めるなんて、実に弱っちい奴らね」

「いや、違うやろ」

 即座に、悟が突っ込む。

 世界の名だたる凶悪な連中を相手にしても軽くあしらうカレンにかかっては、どれだけ強くも所詮素人連中にとっては蟷螂の斧なのだ。

「あ~あ、なにか面白いことが起きてくれないかな」

 カレンが嘆いたとき、スマホが震えた。

 電話の向こうの声に耳を傾けるカレン口角が、みるみる上がっていく。

 通話を終えたカレンの表情は、実に嬉しそうだ。