「ほら、取り返してみろよ。おまえの大切なかあちゃんへのプレゼントだろ」

「僕は平和主義者で、争いは嫌いだ。だから、返してくれ」

 だけど、僕はそう言うのがやっとで、取り返す行動に出れなかった。

「山本、返してやれ」

 拳を握って震えている僕の後ろから、声がした。

「なんだ、成田。おまえ、こいつの肩を持つのか」

「いいから、返してやれ」

 空手部の主将の成田君の迫力に負けて、山本君は俺に包みを渡した。

「ありがとう」

 僕が、成田君に頭を下げる。

「礼なんかいらない。俺は弱い者い苛めをする山本が許せなかっただけで、おまえを助けたわけじゃない。俺は、おまえのような奴は大嫌いだ」

 成田君の言葉に、僕は立ち竦んだ。

「なにが、平和主義者だ。平和ってのは、時には力で守ることも必要なんだ。そうでなければ、大切な人やものを守れない。おまえは、ただ弱いだけだよ。自分の弱さを認めたくないから、平和主義者なんてほざいてるんだ。平和主義者を唱えて自分だけ平和になろうなんて甘いんだよ」

 僕は衝撃を受けた。確かに、成田君の言う通りだ。大切な母のプレゼントも守れないようなら、平和主義を唱える資格はない。

 強くなろう。そう思い、僕は成田君に頼んで空手を習うことにした。

 僕は、争い事が嫌いだ。

 平和主義に徹していたら、誰もなにもしないと思っていた。

 しかし、現実は違った。

 僕はなにもしないのに、ちょっかいを出してくる奴がいる。

 苛めてくる者もいる。

 いくらやめてと言っても、やめてくれない。

 それどころか、エスカレートするばかりだ。

 高校生のある日、大好きな母親の誕生プレゼントを買った帰り、いつも僕を苛めてくる山本君にばったり会った。

「おまえ、リボンなんか結んだ包みを持って、彼女にでも渡すのか」

 いたぶるような口調で、僕の持っている包みを指差す。

「ち、違うよ」

「まあ、おまえなんかに彼女なんているわけないか」

 そう言って山本君は、僕の手から包みを取り上げた。

「返せ! それは、母さんへのプレゼントだ」

「返してほしかったら、力づくで取り返してみな」

 山本君が、獰猛な笑みを浮かべる。

「僕が、山本君にいったいなにをしたというんだ」

 震える声でそう言うのがやっとで、僕はなにもできないまま拳をぎゅっと握った。

 山本君が、あざけるような笑みを浮かべる。

「おまえは、俺だけのものだ」

 そんな言葉を言われて嬉しがっていた私が呪わしい。

 今の私だったら、そんな言葉を吐くような男は信用しない。

 言われた瞬間、別れを告げるだろう。

 だが、あの頃は若かった。

 そんな言葉にころっと騙されて、言われるがままに身体を預け、おまけに貯金まで取られた。甘い言葉でおだてられた挙句、いろいろな理由をつけられて度々お金を無心された。

「親が病気で、今は転職したばかりだから金がない」

「企業する資金が足りない」

「成功する自信はあるから、そなれば絶対君を幸せにする」

 本当に馬鹿だった。

 その男は、幾つかの結婚詐欺の疑いで逮捕された。

 若いって、本当に怖い。

 今では、たいていの男の心は見抜ける。

 男に騙されないために、夜の世界に飛び込んで腕を磨いてきた。

 そして、昔の私みたいな女性のコンサルもしている。

 本物の男の見分けかた。

 言葉より、行動。

 それを伝えている。