いつもと変わらぬ朝だった。

 今日も満員電車に乗って会社へ行き、いつもと変わらぬ仕事をして、帰りに同僚と一杯やって、風呂に入って寝る。

 判で押したような毎日になるだろう。

 と、思っていた。

 ところが違った。

 会社へ行こうとして玄関を一歩出たとき、地面が揺れた。

 地震かと思ったら違った。

 近くのビルが爆発し、それで地面が揺れた。

 一瞬、なにが起きたのかわからなかった。

 揺れが収まらないうちに、またビルが爆発した。

 上を見上げると、何発もミサイルが飛んでいる。

 いったい、どの国が?

 わけもわからないまま、呆然と立ち尽くして、ビルが破壊される光景を眺めていた。次々にミサイルが飛来し、その度にビルやマンションが破壊されてゆく。

 逃げようと思っても、足がすくんで動けない。

 たとえ動けたとしても、こうミサイルが飛んできたのでは、どこに逃げてよいかわからない。

 いつもの日常が、一瞬にして変わるなんて。もっと日々を楽しんでおけばよかったと思いながら、次々に飛んでくるミサイルを眺めていた。

 

「お前の演技も大したもんだったぞ」

 桜井が悟の肩を叩く。

「さて緒方、お前は本部に帰ってから、俺がとっくりと調べてやるから覚悟しておけ」

 ドスの利いた声で、緒方を震え上がらせた。

「待ってくれ、桜井さん。俺は、こいつに脅されていただけなんです」

 スコットを指差しながら、緒方が哀れな声を出した。

「何を言ってやがる。お前の話は全部聞いていたんだぜ。今更、どんな言い訳をしても無駄だ。国家の忠犬の俺が、とことん絞ってやるから覚悟しな」

 皮肉な口調で、桜井が言う。

「言っておくがな、情報官殿に泣きつこうとしたって無駄だぜ。高柳情報官は、潔く罪を認めた上、責任を取って自決しちまったよ」

 ヒューストンの前で、敢えて本当のことを言う必要もなかろうと思った桜井は、せめて最低限の面目を保つために、高柳が自決したことにした。

 カレンは何も言わず、ただ口元を綻ばせただけだ。

 それを聞いて驚いた緒方が目を見開いたが、直ぐにがっくりとうなだれた。

「スコット、お前は俺だ。覚悟しておけ」

 ヒューストンがスコットに向かって厳しい口調で告げた。

 その言葉が終わらぬうちに、冷たい声が聞こえた。

「やっと、茶番は終わったみたいね。あまり、長いこと待たせないでくれる」

 皆が振り返ると、口元に酷薄な笑みを浮かべたターニャが、入り口の扉にもたれて立っていた。

 その手には、短機関銃が握られている。

「ターニャやんか」

 気さくな口調で、悟が声をかける。

「まったく、あなたには緊張感ってものがないの。せっかく私らしく登場したのに、気勢がそがれるじゃない。あんまり、私のイメージを壊さないでくれる」

 悟の声を聞いて、酷薄な笑みを浮かべていたターニャが一転呆れ顔になり、それから調子が狂ったみたいで、今では苦笑を浮かべている。

 不思議なことに、ターニャも悟に対しては冷酷になれないようだ。

「よく、ここがわかったわね」

 ここへ来るまで尾行には気を遣っていたカレンは、絶対尾けられていないという自信があった。

 それで、ターニャの出現に少し驚いていた。

 大地が、揺れた。

 いや、揺れているのは俺か。

 それほど、衝撃を受けた。

 愛美の結婚報告に、「そうか、おめでとう」と言うのが、やっとだった。

 笑顔を作ったつもりだが、うまく作れたかどうかはわからない。

 俺と愛美は同い年の幼馴染で、家も隣同士だ。

 小さな頃から兄弟同様に育ってきたが、そんな愛美に恋愛感情を抱いたのは、高校生になった頃だ。

 しかし、好きだとは言い出せなかった。

「本当に、そう思ってる?」

 愛美が、俺をじっと見つめてくる。

「どういうこと?」

「私が、優くん以外の人と結婚してもいいいの?」

「いいも、悪いも、愛美が決めたことだろ」

「優しくんの本音を聞かせて」

 いつになく、愛美は執拗だ。

「ほんと言うとな、俺は愛美が好きだ。ずっと前から好きだったけど、言い出せなかった。好きだと言わなかったことを、今とても後悔してるよ」

 愛美が、俺の胸に飛び込んできた。

「それを聞きたかったの。私の結婚相手はね、優くん、あなたよ」