イベント開催未定のまま今日は休み。雪の中、すっかり忘れていたホワイトデーのお返しを購入、かみさんと娘たちに送る手続きを済ませ、あとは身体を休めた一日。
おお、そう言えば先月は恒例マカロニレビューをアップしてなんだ。
ってことで、こちらに来たばかりの頃に観て、レビューできていなかったこいつをお蔵出し!(笑)
野獣暁に死す (1968年)
OGGI A ME, DOMANI A TE!
TODAY IT'S ME [米]
TODAY IT'S ME......TOMORROW IT'S YOU
監督・脚本トニーノ・チェルヴィ 脚本 : ダリオ・アルジェント 撮影 : セルジオ・ドフィッツィ 音楽 : アンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノ
出演 : モンゴメリー・フォード、仲代達矢、バッド・スペンサー、ウィリアム・バーガー、ウェイド・プレストン、ダイアナ・マルティン
自分の中の「声に出して読みたいカッコいい題名ベストテン」に必ず入る素晴らしい邦題だが、実は作品自体はあのダリオ・アルジェントが脚本ながら、今ひとつピリッとしないという難儀な一本(笑)。
5年ぶりに刑務所から出所したビル・カイオワ(モンゴメリー・フォード)。彼は先住民の妻を目の前で凌辱された挙句に殺され、その殺人の濡れ衣を着せられて投獄させられていたのだ。
出所時に「もう穏やかに暮らせ」と諭す刑務所長に「いや、あるのは憎悪のみだ」と一言を返すビル。
彼が復讐を誓う、真犯人である強盗団の首領エル・フェゴー。この悪党を演じたのが、なんと仲代達矢なのだ。
軍の幌馬車を襲って金をせしめるフェゴー仲代(笑)。
日本人とメキシコの混血児という設定はちと強引ながら、ご覧の通りなかなかの悪役ぶり。
ぎろりとした目は印象的だし、何よりイタリア人悪役たちに囲まれていても全く違和感がないんだよな(笑)。それを見るだけでも価値ある一本と言えよう(笑)。
監督のトニーノ・チェルヴィが黒澤明作品の仲代達矢に惚れ込み、出演を要請したそうな。
仲代がロケ地の空港に着いた時、出迎えに来た現地スタッフが彼を見て「なんだ、チョンマゲは日本に置いてきたのか」と残念がったというのはその筋では有名な話だったりする(笑)。
そもそもマカロニ・ウエスタンは黒澤明の『用心棒』をパクった(笑)セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演の『荒野の用心棒』のヒットをきっかけにブームになり、良くも悪くも「当たるためなら何でもあり」のサービス精神旺盛なジャンルなんで、本家「用心棒」で印象的な悪役卯吉を演じた仲代達矢にオファーが来ても不思議はないものの、よくぞまあ仲代も出演を受けたものだとも思う。
マチェーテみたいだが、「刀使い」ってのもいいよね(笑)。
ちなみに主役を演ずるモンゴメリー・クリフトは他のマカロニではあまり見かけたことがないが、彼はブレット・ハルゼイという名前のハリウッド俳優で、一本限りのつもりでイタリア映画に出演したが、この後十年以上イタリアを拠点にしていたそうで、調べるとマリオ・バーバのウエスタンの他、90年代までルチオ・フルチのホラー映画にも出ている。
そう、タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のデカプリオ演ずるリックのような、当時イーストウッドに続けとイタリアに渡った何人ものB級スターの一人だったのだ。
それでもマスクはなかなかにカッコいい。出で立ちも「続・荒野の用心棒」のフランコ・ネロすなわちジャンゴ のような黒のインバネスコートが似合っていて大変よろしい(笑)。
ビル自身もなかなかに腕は立つのだが、フェゴーの強盗団に対抗すべく仲間を集める。ここのところが仲代が出演していない「七人の侍」風で好み。こうした異能集団の仲間集めのくだりが大好物なので、つい点数が甘くなってしまう(笑)。
まず、怪力巨漢のオバニオン。演ずるはいつもの気の良いデブ(笑)、バッド・スペンサー。 テレンス・ヒルとの「風来坊」や「笑う大捜査線」をはじめとするコンビ作でおなじみだが、ジェームズ・コバーンの「ダーティーセブン」と同様、頼りになる主人公の片腕を演じている。
次に保安官に収まっていたジェフ・ミルトン(ウェイド・プレストン)に交渉。
彼はご覧のようにマックィーンの「拳銃無宿」での通称「ランドル銃」、つまり銃身を切り詰め、近接戦での使い勝手がいいようにカスタムされたメアズ・レイグの使い手。これをホルスターに納めてるのが何気にカッコいいのだ。
実はアメリカ映画ではプロップとは言え銃の改造が厳しいらしく、映画の中での発砲はあまりなかったようなのだが、イタリア映画では規制がゆるかったらしく、マカロニウエスタンでは頻繁に撃ちまくられてますな。因みに演ずるウェイド・プレストンもアメリカ人。
その他、女好きの二丁拳銃使いバニー・フォックス(フランコ・ボレーリ)
ギャンブラーでナイフも得意なモレノ(ウィリアム・バーガー)など腕ききのガンマンを金で雇っていくのが異例(笑)。
最後の2人はいつ裏切るかとか思う顔つきだし、特に最後に仲間になるのがウィリアム・バーガーで、仲間になるまでの尺も一番とっているんで、これはさては…とちょっと心配になってしまったよ(笑)。
フェゴーを追いつつ、一度は捕らえ痛めつけられてしまうカイオワとオバニオン。絶体絶命の場面でもしっかり仲間が助けに来てくれ(笑)、迎えるクライマックス。
風吹き荒ぶ荒野や寂れたゴーストダウンでもない晩秋の森での対決っていうのはこれまた異例。
フェゴー仲代、銃も使えば刀も使う(笑)
これに撃たれても斬られても死なないオバニオンはちょっと笑ってしまうが、斬った瞬間のこの残心はやはり日本人なんだよねえ(笑)
そしてこの後の主人公との対決で、最後はしっかりと悪役の末路を辿るのである。
こうして書くと見どころ多そうなのだが、書いたように出来は今ひとつ(笑)。
無茶苦茶、面白いかといわれればさほど…というのが正直なところなのだ。
こういう並びの画が大好きなんだけどねえ。
特に残念なのがせっかく集めたこの4人の仲間。惜しいかな、彼らの個性(得意技)の描写が今ひとつなんだよなあ。また、主人公が腕ききの彼らの存在を昔の仲間から聞きつけて集めに行くのだが、その技量を確かめるでもなく、さっさと金で雇っていくあたりがちょっとあっさりしているところと、彼ら同士の会話等で互いの腕を認め、信頼感が増していく様の描写が乏しいのが残念なのだ。まあ名前の売れている凄腕を集めたって設定なんで省略しちゃったんだろうが、ここが俺のマカロニ採点ポイントを稼げない大きな点なのだ(笑)。
あと音楽ね。「復讐」がテーマなのに緊迫感が無いのよ。音楽そのものは決して悪くはないのだが、マカロニっぽさがなくてアメリカ西部劇的なちょっと呑気なテーマスコアが今ひとつなのだ。とにかく「哀愁のメロディ」のカッコよさがないのは、俺のマカロニ採点の中では大きなマイナス点なのだ。
監督は別名アントニオ・チェルヴィ。あのベルトリッチの「殺し」やミケランジェロ・アントニオーニの「赤い砂漠」などを手掛けたプロデューサーだったそうだ。そんな彼がなんでまたマカロニウエスタン の監督したのかな。まあ、柳の下のドジョウを狙って一儲けしたかったのは明白なれど(笑)、黒沢リスペクトで仲代をオファーするあたりはなかなか冴えてるけど、アクション演出としては、ちょっとモタモタしているのが残念だ。
そんなわけで仲代達矢の悪役出演に、ジャンゴ風出で立ち(そう言えば妻の名前も「マリア」だったな)のカッコいい主人公はともかく、「殺された妻の復讐」&「昔の仲間に裏切られて無実の罪で投獄」や「仲間集めで強盗団に対抗」なんていう、どこかで見た(でも充分面白くなりそうな)プロットを集めたわりに、今ひとつ燃えないのが残念な一本なのである(ってこれは脚本のダリオ・アルジェントのせいなのか?(笑)
日本版ポスターでも大きく扱われているのは当然仲代。観る前はてっきり主役と思っていた。
「無法!仲代が5人の殺し屋(プロフェッショナル)に射ちこむ極悪のガン」という惹句も、正しいことは正しいが紛らわしいな(笑)。
ちなみに仲代は本来主役のカイオワ役が予定されていたが、スケジュールの関係で悪役をこなすことになったらしい。
ああ、日本人が出るマカロニと言えば先日NHK BSでやっていた丹波哲郎が出ている「五人の軍隊」を録画依頼し損なったのは失敗だったなあ。
確かあれもダリオ・アルジェントが脚本を書いていたな。これもまた観てみたいものである。
ではイタリア版予告編をどーぞ。