監督:テディ・チャン 製作:ピーター・チャン、ホアン・チェンシン 脚本:チュン・ティンナム、グオ・ジュンリ、ジェームズ・ユエン、ウー・ビン 撮影:アーサー・ウォン アクション監督:トン・ワイ、リー・タッチウ スタントコーディネーター:谷垣健治
出演:ドニー・イェン、レオン・ライ、ニコラス・ツェー、ファン・ビンビン、ワン・シュエチー、レオン・カーフェイ、フー・ジュン、エリック・ツァン、クリス・リー、サイモン・ヤム、チョウ・ユン、ワン・ポーチエ、メンケ・バータル、カン・リー、ジャッキー・チュン
辛亥革命前夜の香港を舞台に、清王朝打倒を計画する革命家孫文を、西太后が仕向ける500人の暗殺団から守るべく立ち向かう名もなき義士たちの4日間の物語。
豪華スターの競演で魅せる一大アクション、しかも大好きな「7人もの」的なものを期待していたのだが、良い意味で大いに違った一本。
しかし…泣けた!燃えた!傑作だった!
誤算の最たるものは、ドニー・イェン目当てで買ったのに、革命運動を金銭面で支援しつつも、一人息子にはそれに関わらせまいとする大商人リー・ユータンを演ずるワン・シュエチーの演技。これが本当に素晴らしかったのだ。正直全く知らない俳優だったが、引き込まれてしまったよ。
彼の友人で香港での革命運動の中心人物である新聞社社長チェン・シェオバイ(レオン・カーフェイ)もまた然り。チェンは友人であるユータンの願いを知りつつ、その息子チョングアンを孫文の影武者にせざるをえなくなるというのが哀しいところ…。
孫文が香港に来る前の3日間が映画の前半なのだが、この二人のそれぞれの立場を中心としたドラマがとにかく最高だったのだ。
ユータンの親として息子を守りたい心情。そして清朝への怒りを胸に息子を理解し、捕らわれたチェンの代わりに孫文の護衛=義士団を結成する姿。
チェンもまた清朝が差し向けた暗殺部隊の将軍(フー・ジュン)が、かつて教師だった時の教え子だと知り、その考え方の違いに苦悩する。
この2人の苦悶が根底にあるからこそ、集められた「孫文を守るための義士団」のドラマもまた引き立つのだ。
彼らのミッションは、孫文の影武者と共に囮となり、会談が終わるまでの1時間を500人の暗殺団相手に戦い抜くというもの。
彼らはいずれもほとんどが戦いのプロではない者たち。この時点で「7人もの」とは明らかに違うのだ。
そもそも「義士団」と言っても多くは孫文が一体誰なのか、どれだけ重要人物なのかさえわかっていない。
彼らはただ「自分の信じるもの」のためにだけ、闘いに身を投じるのだ。
※以下ネタバレ多し!ゴメンなさい!
ユータンを乗せる人力車の車夫アスー(ニコラス・ツェー)がその最右翼。
「信頼する旦那様の役に立つなら」という理由だけで参戦する無学だが誠実なこの男。
彼が戦いの前に写真屋の娘と結婚したいと相談すると、ユータンがすぐに仲人にたつところなど、単なる大商人とその使用人の関係を超えた信頼関係がいい。或いは万が一のことがあるかもしれぬこの使命に、自分のために無償で身を差し出す若者へのユータンの想いが溢れジーンとする。
予告編では人力車をうまく使っていたので武術家なのかと思っていたが、全くそんなことはなく、彼の戦法はひたすら泥臭い。敵う訳ないラスボスにしがみつくだけってのが泣かせる。殴られ蹴られ踏みつけられ、でも必死で時間を稼ぎ使命を全うする彼の愚直さが、その前のドラマと相まって心を打つのだ。
そのアスーが親しくなる薄汚い巨漢“臭豆腐”ことワン・フーミン(メンケ・バータル)もまたいい。彼が戦いの準備のために頭をそり上げると、あの特徴的な少林寺のお灸が現れる。それだけで彼の辿ってきた平坦ではなかったであろう半生が垣間見える憎い演出。
実際にバスケ選手だというメンケの体躯を活かした闘い方も面白いのだが、大きな身体故に真っ先に狙われるのが悲しいところ。それでも「ここは俺に任せて先に行け」的な展開には涙を禁じ得ないのだ。
元清朝将軍で劇団に身をやつしつつ復活の機会を伺う父親(サイモン・ヤム)にずっと反発していた娘ファン・ホン(クリス・リー)。彼女も暗殺団に父を殺されたことで、その意志を継ぐべく義士団に参加する。父親を殺した“小指のない男”への復讐を果たしつつも、他のメンバーを守るために「親不孝をお許しください!」という台詞と共に果てるとこなんざ、もう娘を持つ身としては胸が詰まるわな。
父親の妻を愛してしまったがために2人を死なせ、家を没落させた罪の意識から、路上生活者に落ちぶれているユーバイ(レオン)。自分を認め家宝の鉄扇を取り戻してくれたユータンの気持ちに応え、戦う相手も意味も問わず「一番大変なところを受け持とう」と二つ返事する男っぷり。
義士団ピンチのところに現れ、すっくと立つその姿の美しくも雄々しいこと!終わらない日々を終わらせる喜びとともに闘い抜く姿に、また身が震えるのだ。
そしてドニー・イェン演ずる清朝暗殺団の手先となりスパイを働くわ、博打で身を持ち崩し妻に愛想尽かされるという下衆警官シェン。彼の別れた妻は今はユータンの後妻。今のままだと、娘にあなたが父親だととても言えない。だからユータンを守って欲しいという元妻の依頼と、愛する娘への罪滅ぼしから、金で自分を釣った暗殺団に反旗を翻し、義士団とは別行動でその戦闘スキルを発揮してフォローするという役どころ。
彼の裏切りに暗殺団も最強の相手チェンシャン(カン・リー )を送り込んでくる。こいつがシェンを追うところが最高。雑踏の向こうで悲鳴と共に人が飛ばされている。こいつが前にいる連中を文字通り蹴散らし、ぶっ飛ばし迫ってくるのだ(笑)。追われるドニーは パルクールで軽々と障害物を避けて行く。この対比がまた鮮やか。
そして2人の対決。これがまた激しい!濃い!痛い!でも何度でも見たくなるアクション。ここのシーンだけはドニーが盟友 谷垣健治と演出したらしいが納得の出来だ。
そして満身創痍でチェンシャンを仕留めたドニーもまた…の最後が泣かせるのだが、こうした群像劇にもしっかりと馴染めるドニーは、やはり役者としても上手いと思うのだ。
その他の登場人物とその関係性も含め、本当に一人一人の境遇、エピソードが細やかに描かれた素晴らしい作品だった。
特に戦いの前夜、自ら鍋を振りアスーたち若者に食事を振る舞うユータンの姿。その視線の向こうに若者たちの無邪気とも言える笑顔があるところなど、セリフが無くとも語るべきところをしっかり語っていて痺れてしまったよ。
クライマックスに「戦艦ポチョムキン」の有名シーンのオマージュがあったり、ほんとセンスがいい監督だなあ。
父の理解に喜びを感じながらも言いつけを守らず、恐怖と戦いながら影武者として使命を全うするチョングアン。彼を挟むユータンとチェンの姿がまた哀しいのだが、こうした名も無き者たちの犠牲もあり孫文の辛亥革命は成し得て行くのだなあ…というラストも余韻があって本当に良かった。
それにしても敵側も含めここまで全員が「語るべき物語」を持つ魅力的な存在感を放つ映画も珍しい。
アクションを期待して購入したのに、ドラマにノックアウトされた嬉しい誤算の群像劇の傑作でしたなあ。
最初のDVDジャケットより断然このオリジナルポスターの方が映画そのものを表している。
未見の方、是非!