ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド | B級パラダイス

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

Once Upon a Time in Hollywood2019


監督・脚本・製作 : クエンティン・タランティーノ   製作:デヴィッド・ハイマン、シャノン・マッキントッシュ   製作総指揮:ジョージア・カカンデス、ユ・ドン、ジェフリー・チャン   撮影:ロバート・リチャードソン   プロダクションデザイン:バーバラ・リング   衣装デザイン:アリアンヌ・フィリップス   編集:フレッド・ラスキン


出演 : レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、ジュリア・バターズ、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、マイク・モー、ルーク・ペリー、ダミアン・ルイス、アル・パチーノ、デイモン・ヘリマン、レナ・ダナム、カート・ラッセル、ジェームズ・マーズデン、ラファル・ザビエルチャ、クリフトン・コリンズ・Jr、ロレンツァ・イッツォ、ニコラス・ハモンド、スクート・マクネイリー、ルーマー・ウィリス、ドリーマ・ウォーカー、リュー・テンプル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、マヤ・サーマン=ホーク


何だろう。観終わった後の、この多幸感。

タランティーノの映画を観てこんな気分になるとは思わなんだ。


虚と実がブレンドされ、映画の都で、映画と共に生きる人々へのタランティーノの視線の優しさが堪らない一本だった。


以下、いつも以上にくどく、勢いでネタバレ近い表現もあるので悪しからず(笑)


舞台は1969年。俺はまだ7歳のガキだ。

学生運動のニュースはうっすら覚えているし、アポロの月面着陸は大興奮した。

調べたらテレビでは「サザエさん」や「8時だよ全員集合」が始まった年だ。


当時の俺が夢中だったのは「ゲゲゲの鬼太郎」や「サスケ」、背伸びして「佐武と市捕物控」「妖怪人間ベム」などなど。

野球嫌いだったから、あれだけブームだった「巨人の星」はあまり見ていなかったが「タイガーマスク」は大好きだったな(笑)。


音楽で言えば由紀さおりの「夜明けのスキャット」やいしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」が好きだったし、新谷のりこの「フランシーヌの場合」、ピーターの「夜と朝のあいだに」、カルメン・マキの「時には母のない子のように」、千賀かほる「真夜中のギター」、トワ・エ・モア「或る日突然」、はしだのりひことシューベルツの「風」など、当時はアーチスト名や曲名など判然としなかったが、今でも口ずさめるのだからかなり好きだったのだろう。

こうして並べてみるとマイナー曲調が多いな(笑)


怪獣好きだったけど、「ゴジラ・ガメラ・ガバラ オール怪獣総進撃は何故か見送り、「ガメラ対大魔獣ギロン」は同時上映の「東海道お化け道中」と共に劇場で観た記憶がある。


そんな怪獣映画以外の「映画」に目覚めるのはもう少し先だ。

当時は映画は劇場公開から3年くらいしないとテレビ放映しなかったから、この年あたりの公開作はその後テレビでかなり観たことにはなる。


5年後の俺はマカロニウエスタンにはまり、ハマーの怪奇映画に震え上がり、アメリカンニューシネマの数々の映画に打ちのめされる。

クイーンを始めとする洋楽ロックに目覚めたのも同時期だ。映画で使われた様々な曲が洋楽の入口でもあった。


そんな想い出が後から溢れ出た一本。

そんな年のハリウッドの出来事。


俺の1969年自体は上記の通りだが、俺がさらにもう少し成長してから接した映画や音楽がそこここに散りばめられ、映画を通じて「アメリカ」という国に触れ、ワクワクしたあの当時の気持ちがよみがえる快感に酔った映画だった。


ピークを過ぎたTV俳優リック・ダルトン(デカプリオ)は映画俳優への転身がうまくいかず、キャリアのピークも過ぎ、焦る日々が続いている。そんなリックのスタンドインとして、スタントや付き人を兼ねるクリフ・ブース(ピット)。

ハリウッドで一線であり続けることに精神をすり減らし、情緒不安定なリックと、いつもマイペースで彼を見守りフォローするクリフ。

この「古き良きハリウッド」のままの2人が実に良い。ビジネスでもプライベートでもまさにパートナーとして支え合ってきたが、2人の居場所は時代と共に徐々に狭まっていく。


そんなリックの隣に新しい時代の監督ロマン・ポランスキーと新進女優シャロン・テート夫妻が引っ越してくる。


このシャロンを演じるマーゴット・ロビーの愛らしさときたら、もう悶絶もの。

彼女自身が出演している「サイレンサー/破壊部隊」を観客と共に鑑賞し、自身のシーンに観客がウケるのを嬉しそうに見回す表情の可愛さと言ったら!


しかし、我々はその後彼女に起こる痛ましい事件を知っている。


その後「ハリウッド」は俺を打ちのめした「アメリカンニューシネマ」の風にも晒されて一度崩壊する。


日本版ポスターのキャッチコピーはこうあった。


196989日、

事件は起こった。

この二人にも――

ラスト13分。タランティーノがハリウッドの闇に奇跡を起こす。


最初に「虚と実がブレンドされた」と書いた。

映画の素晴らしさを知るタランティーノは自作「イングロリアス・バスターズ」同様、火炎放射器で(笑)、映画の中で「事実」を「あるべき姿」に修正して物語を進めていく。

「昔々ハリウッドで」というお伽話のように。


その視線の優しさに驚きと共に感服した、まさに「夢の都の最後」を描いた一本。

描かれる映画の裏側が、流れる音楽が、愛おしくて愛おしくて164分があっという間だった。


S&Gの「ミセスロビンソン」。「いちご白書」にも使われたバフィー・セントメリーの歌う「サークル・ゲーム」。ホセフェシリアーノの歌う「カルフォルニア・ドリーミング」。ディープ・パープルの「ハッシュ」にヴァニラファッジの「キープ・ミー・ハンギング・オン」


今は亡きスティーブ・マックィーンにブルース・リー(グラサンとった素顔と描き方にはちと文句はあるが(笑))。

主人公リックが出たかもしれない「大脱走」。

街中に見える「トラ!トラ!トラ」の看板。

「ロミオとジュリエット」上映中の劇場。

そして「豹/ジャガー」のポスター!


そうなんだ。マカロニウエスタンの2人の「偉大なセルジオ」即ち題名の元にもなった「ウエスタン」(原題:Once Upon a Time in West)を監督したセルジオ・レオーネと、前述の「豹/ジャガー」の監督であり、リックが出稼ぎで主演する「ネブラスカ・ジム」の監督(という設定)、セルジオ・コルブッチ。


この2人が好きだという一点だけでも、同年代のタランティーノと一致する俺にとっては、あの時代から映画に触れ、見続けてきたこと全てが肯定されているような気持ちになったのだ。

若い方には申し訳ないが「ざまーみろ」的気分(笑)。


極東の島国の田舎町のガキだった俺にしてみれば、同じ時代にハリウッド通りを父親の車に乗せられて走ったというタランティーノが羨ましくてしょうがねえや(笑)。


町には立て看板に貼られた映画のポスターがあり、映画館の前には手書きの看板があった。

あの時代を全力で肯定してくれた、愛しい一本。


レオーネの「ウエスト」や「アメリカ」も、ロドリゲスの「メキシコ」も、ついでにツイ・ハークの「チャイナ」も「ワンス・アポン・ア・タイム〜」タイトルに駄作なし!(笑)


タランティーノの無駄話延々の語り口や暴力描写が苦手な方にも安心して?勧められるのも嬉しい、映画を好きな全ての方に観て欲しい一本。

是非!(観終わった後に喫煙者は、即、煙草が欲しくなることも追記しておきます(笑))