GET OUT
製作・監督・脚本 : ジョーダン・ピール 製作 : ショーン・マッキトリック、ジェイソン・ブラム、エドワード・H・ハム・Jr 製作総指揮 : レイモンド・マンスフィールド、クーパー・サミュエルソン、ショーン・レディック、ジャネット・ヴォルトゥルノ 撮影 : トビー・オリヴァー プロダクションデザイン : ラスティ・スミス 編集 : グレゴリー・プロトキン 音楽 : マイケル・エイブルズ
出演 : ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、キャサリン・キーナー、スティーヴン・ルート、リルレル・ハウリー、ベッティ・ガブリエル、マーカス・ヘンダーソン、レイキース・スタンフィールド、エリカ・アレクサンダ、ジェラルディン・シンガー、リチャード・ハード
情報シャットアウトしたまま観て良かった!すこぶる面白く、先日観た「パラサイト」みたいに思っていたのと全然違う「怖さ」のスリラー映画だった。
人種問題っては本当に根深いと思うのだが、ここ日本にずっといるとなかなか実体験としてはわからないもの。それでも数々の映画でも垣間見た様々な黒人差別を「知識」として背景にしながら観ていたのだが、予想の斜め上をいく展開に浸ってしまった。
ニューヨークに暮らす黒人のカメラマンクリスは白人の恋人ローズがいる。彼はローズの実家に行くことになっているが、彼女の両親は娘の恋人が黒人であることをまだ知らないという。
「オバマに3期目があったら支持するような両親よ」とローズは言うがクリスはどこか不安を持ったまま彼女の家に向かう。
いざローズの実家アーミテージ家に着いてみると、心配ないというローズの言葉通り、家族みんなクリスを温かく歓迎してくれた。
医者である父親ディーンと臨床心理士の母親ミッシー、ちょっと荒っぽい弟ジェレミーも含め、心配した「偏見」は無いようだ。
だが庭の管理やメイドなど使用人として働いている黒人の姿がある。
昔の南部のように白人が黒人を使用人として使っていることに対し、親の時代からの使用人でそのまま雇っていると説明する父親。
同じ黒人なのに自分だけ「客」として招かれていることにも居心地の悪さはあるのだが、それだけでは無い「違和感」を抱くクリス。
涙目で「No No No…」と繰り返すメイドは怪しさいっぱい。
この辺りのちょっとした会話の間や登場人物の視線で「不穏な空気」を醸し出して行くのが上手くて、観ているこちらも、クリスと一緒に次第に粗探しのようにこの一家と使用人たちの怪しいところをチェックし出してしまう(笑)。
その夜。眠れなかったクリスは外でタバコを吸っていると、窓の外をガラスに写った自分の姿をぼーっと眺めるメイドや、遠くから猛然と走ってきてクリスの目の前で曲がっていく庭師に遭遇する。やはり何かが変だ。この「実害があるわけでもないのだがなんだか物凄く不穏」という空気感がすごく良い。
この深夜のダッシュ、怖かったな〜(笑)。
家に戻ると母親に呼ばれる。昼間、喫煙者であるクリスに母親は禁煙できるセラピーを受けないかと誘っていたが、クリスはやんわり断っていた。
だが、今度は断りきれずにソファに座ると、幼い頃母親が轢き逃げされ心配になっても何もできなかった過去を語ると共に、暗闇に落ちて行くような催眠に引き込まれてしまう。
この辺りまでは「黒人がこの催眠術などで洗脳され、徹底的に支配されて虐められてしまうのか?」と思いながら見ていたのだが、そんな予想は簡単に覆されてしまうのだ。
翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティが開かれ、多くの招待客が集まる。裕福な白人ばかりに囲まれるがやはり皆、黒人を誉めこそするが、差別する者もいない。
居心地の悪さを感じるクリスだったが、その中に白人の夫人に連れられた黒人青年を見つけ話しかけるのだが、この青年、穏やか…と言うには「何か」が違う。クリスのグータッチに握手を返してくるなど「黒人のノリ」が無いのだ。
スマホで彼を撮影した際に誤ってフラッシュを焚いてしまった瞬間、その青年が急に暴れ出しクリスにつかみかかって「出て行け!」と叫ぶ…。
母親の催眠療法なのか、落ち着きを取り戻した青年はパーティを辞し、残った皆が父親の音頭で「ビンゴゲーム」に興じる間、クリスはローズと散歩と称して外出し、家を発つことにするのだが…。
以下毎度ながらネタバレ近いこと記しているので申し訳ない!
ここからの展開は、それまでのジワジワ感からアクセルが入るが、とにかく脚本が上手い。
出て行く準備をしているときに見つけた「過去の写真」の衝撃。
こちらの予想を簡単に覆すとんでもない真相がわかると、これまでの「違和感」の謎が解けるとともに、伏線回収と言うより「裏の意味」がどんどんわかる後半は、スリラーというよりホラーに近くなる。
禁煙を勧める両親の言葉も、パーティの客がクリスの才能を称え、黒人の身体能力を褒め、身体を確かめるように触る様も、「うわ、そう言うことだったか!」の連続なのだ。
差別はある意味、恐怖の裏返しと聴いた。
今のコロナウイルスだって、最初は日本で中国人に対して、世界的にはアジア人に向けての差別もいくつも報道されていた。
この映画では、黒人差別がその身体能力の高さへの憧れが裏側にあることが興味深い。
前半、実家に向かう途中で、鹿をはねてしまう事故があった。運転もしていないクリスに身分証を求める警官にローズは毅然と抗議をする。
黒人であるクリスの謂れのない差別に対して抗議するローズのスタンスをしっかり描写しているとしか見えなかったのに。
パーティを抜け出しての散歩の時もまたしかりで、クリスはこの子がそばにいてよかったよなあと思っていたのに。
これらも全部「別の意図」のためだったのか!とわかるのは中々にショックだった。
そして題名でもあり、黒人青年の発した「Get out!」の意味もまたしかり。
この間の「へレディタリー 継承」同様、身体を「容れ物」として乗っ取られるってのは、ほんと怖いよなあ…。
前半の鹿も、轢かれて死んだクリスの母親の話と重なったり、「殺してくれてありがとう。増えすぎて邪魔だ」とローズの父親が言っていたが、鹿そのものがラストの「反撃」にも絡むとなると「黒人」を指しているようにも見えるのも印象的だった。
クリスの反撃と共に、映画冒頭の事件や、黒人使用人の違和感含めて、これらの「すべての意味がわかる」クライマックスは、二重の意味のカタルシスで、映画としてかなり気持ちよかった。
どうやら別のラストを撮影したものの、あまりの救いのなさに今のラストにしたとのことで、その辺りはやはり「アメリカ映画」だなあ、とは思う。だが、勉強不足で全く知らなかったが人気コメディアンだと言うジョーダン・ピール、監督デビュー作で、この出来栄えは凄いよなあ。
ただ、後から一点だけ気になったことがある。
催眠術で意識が封じ込められたのならともかく、父親の手でアレを丸々入れ替えてしまったら「意識」は封じ込められることもなく、そもそも無くなっちゃうじゃないかと思うのだが…(笑)。ここだけは後から非常に引っかかってしまったのだ。どなたか説明つきますかね?(笑)
あ、あと「持つべきものは良き友人」と言うことも大事なポイントで、ここは笑いと共に花丸をあげたいぞ(笑)。
さて、次は「アス」もチェックしなくては!