1917 命をかけた伝令(2019年)
1917
製作・監督・脚本 : サム・メンデス 製作 : ピッパ・ハリス、ジェイン=アン・テングレン、カラム・マクドゥガル、ブライアン・オリヴァー 製作総指揮 : ジェブ・ブロディ、オレグ・ペトロフ、イグナシオ・サラサール=シンプソン、リカルド・マルコ・ブーデ 脚本 : クリスティ・ウィルソン=ケアンズ 撮影 : ロジャー・ディーキンス プロダクションデザイン : デニス・ガスナー 衣装デザイン : デイヴ・クロスマン、ジャクリーン・デュラン 編集 : リー・スミス 音楽 : トーマス・ニューマン
出演 : ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、マーク・ストロング、アンドリュー・スコット、リチャード・マッデン、クレア・デュバーク、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ、ダニエル・メイズ、マイケル・ジブソン、エイドリアン・スカーボロー、ジェイミー・パーカー、リチャード・マッケーブ、ナブザン・リザワン
サム・メンデス監督と言えば最近の007シリーズなんだが、自分は何故か観ておらず、彼の監督作は「ロード・トゥー・パーディション」くらいしか観ていないのを白状しておこう。余談だが俺がガキの頃はみんな「ゼロゼロセブン」と言っていたが最近はしっかり「ダブルオーセブン」という正式名称が浸透しましたな(笑))。
そんな彼の演出の特徴なんてのは全くわからないのだが、今回は全編ワンカットという仕掛けには大いに興味をそそられての鑑賞だった。
長回しの演出は相米慎二の各作品や、最近だと「記憶にございません」をすぐに思い出すが、どれも役者の演技をじっくり見せるか、カメラをでん!と構えて「風景と共に画を見せる」という感じの印象だが、たまに「おお、どうやって撮ったんだ?」というくらいカメラが動き回るものがある。
第一次世界大戦の西部戦線を舞台に、まるで全編ワンカットかのような撮影方法をとった本作はまさにそれ。CGも使っているんだろうけど、切れ目のない映像で繰り広げられる戦場の様は、最初こそ「おおお!」と思ったものだが、いつしか制作側の目論見通りしっかり物語というか、その「場」に没入。オリジナルポスターに「TIME IS THE ENEMY」とあったが、その臨場感、緊迫感にいつも以上に鑑賞後は疲れてしまったよ(笑)。
全編1カットの長回しというとヒッチコックの「ロープ」くらいしか思い出さないが、あれも「1カット風」だったし。あと未見だが「バードマン」や、半分だけど「カメラを止めるな!」もあったな(笑)。まあ、いずれにせよ場所や役者がかなり限られてのこと。「1カット風」でも多くのリハーサルとカメラ技術がなきゃ絶対できないことは、その昔8ミリカメラで映画撮っていたから長回しの難しさはよくわかるのだ。
それを「1600人の味方の命がかかった重要な指令を届けるための伝令」ということで、主人公こそ限られてはいるものの、多くの名もない兵士も大量に画面に登場し、カメラは塹壕から戦場、放棄された敵基地、草原から街、森や川まで動き回る。加えて時間経過と共に昼から夜にそしてまた朝にと移り、爆発や銃撃まである戦場が舞台で、よくぞまあここまでやったものだと(あくまで1カット風だとは言え)素直に拍手を送りたい。
第一次大戦時を舞台にした映画は多いが、戦場そのものが舞台の戦争映画というと、すぐに浮かぶのは今回と同じ舞台の「西部戦線異常なし」や「ジョニーは戦場に行った」などの反戦もの。その昔小説も読んだりしたものだったな。あとは「レッド・バロン」や「ブルー・マックス」などの飛行戦ものくらいしかってみんなかなり昔の作品ばかりだが、これくらいしかすぐに思い浮かばないのだ。
大型火器が登場する第二次世界大戦と比べるとまだまだ肉弾戦的な展開が強いものの、機関銃や戦車などが初めて実用化された第一次大戦は、物量=大量の兵士の突撃と、それを防ぐ砲弾や機関銃の対決だったわけで、故にブレイクとスコフィールドが塹壕を一歩出たばかりのノーマンズランドに、点在するえぐれた土地と戦死者の酷い骸の数々はこれからの地獄を早くも予感させるのに充分だった。
有刺鉄線での傷。手を置いたらそこに死体。人として接しても次の瞬間には敵兵となるやるせなさ。ナイフが刺さる感触。たどり着いた岸辺に浮かぶおびただしい数の遺体…。
どんな時代のどんな戦争でも、つまるところ「殺し合い」であることが「一兵士」の視線で、俯瞰することなく描かれて、本当に息苦しくなるくらいだった。
まあ、後から「飛行機があるなら人が走って行くより早い伝達方法があったんじゃないか?」とか、途中合流する別部隊が車両移動しているのだから音がするはずで、あんなにギリギリまで気づかないものか?とか、上から狙っているのにちっとも当たらない敵狙撃兵に比べて、下から建物内を撃つ割に主役の弾はすぐ当たったなあとか、伏線としてはとても素敵だけど、そのミルク、衛生上赤ちゃんに与えていいのか?とか、泥にまみれ川を流されているのに紙の伝令文書は傷まないんだ?とか、ちょっとツッコミ入れたい箇所は多々あったのは事実なれど(笑)、最前線へ向かって戦場を駆け抜ける2人の若きイギリス人兵士とともに、綺麗事では済まない「戦場」の様を疑似体験させてもらったのは確か。
「映画を観る歓び」はこんな技術に出会えることもまた一つあるのだなあと、改めて思った次第。
「ジョジョ・ラビット」とは時代も舞台も全く違うのだけど、どちらも優れた戦争映画であり、反戦映画だった。オススメであります!