謹賀新年。
ようこそのお運びで。なぜか色々な山に登っているのに、富士山には行ったことがない。なぜか京都の様々な寺社を訪ねているのに、金閣寺には行ったことがない。そこで初めて年末に訪れた金閣寺。思ったより瀟洒なお寺だった。
◎京都・金閣寺
お題
「をとめごも 神さびぬらし 天つ袖 ふるき世の友 よはひ経ぬれば」(源氏物語・少女)夕霧をめぐる歌⑤
◎五節の当日、源氏の出した舞姫(惟光の娘)は、評判が上々であった。源氏も参内し、舞を見物するうちに、昔の恋人・筑紫の五節を思い出す。
◎殿参りたまひて御覧ずるに、昔御目とまりたまひし少女の姿思し出づ。辰の日の暮つ方つかはす。御文の中思ひやるべし。
☆をとめごも 神さびぬらし 天つ袖 ふるき世の友 よはひ経ぬれば
年月の積もりを数へて、うち思しけるままのあはれをえ忍びたまはぬばかりのをかしうおぼゆるもはかなしや。
☆かけていへば 今日のこととぞ 思ほゆる 日かげの霜の 袖にとけしも
青摺の紙よくとりあへて、紛らはし書いたる濃墨、薄墨、草がちにうちまぜ乱れたるも、人のほどにつけてはをかしと御覧ず。
冠者の君も、人の目とまるにつけても、人知れず思ひ歩きたまへど、あたり近くだに寄せず、いとけけしうもてなしたれば、ものつつましきほどの心には嘆かしうてやみぬ。容貌はしもいと心につきて、つらき人の慰めにも、見るわざしてんやと思ふ。
・・・殿(=源氏)が宮中に参内なさって(五節の舞姫たちを)御覧になったところ、昔お目を留めなさった少女の姿をお思い出しになる。(舞の当日の)辰の日の暮方に(思い出した昔の五節の少女だった人に)手紙を送る。お手紙の内容は想像して下さい。
☆をとめごも 神さびぬらし 天つ袖 ふるき世の友 よはひ経ぬれば
歳月が積み重なったことを数えて、ふとお思いになったままの情を、胸のうちに秘めておくことができないという理由だけで書かれたお手紙であるが、(相手は)感興を覚えるというのもたわいないことよ。
☆かけていへば 今日のこととぞ 思ほゆる 日かげの霜の 袖にとけしも
青摺りの紙を上手に取り合わせて、誰の筆跡だか分からないように書いた、墨の濃淡のある、草仮名を多く散らしている御返事も、(相手の)身分のわりにはすばらしいと思ってご覧になる。
冠者の君(=夕霧)も、少女が目に留まるにつけても、思いを人に秘めてうろうろとなさるが、(舞姫の少女の世話をする女房たちは、少女の)そば近くにさえ寄せつけず、ひどく無愛想な態度をしているので、もの恥ずかしく思う年頃の心では、ため息を
つく以外何もできない。(舞姫の少女の)顔立ちが特に心に焼き付いて、恨めしい人に逢えない慰めとしても自分のものとできないかと思うのであった。・・・
源氏は筑紫の五節と歌を詠み交わし、往事を偲ぶ。筑紫の五節の返歌は、舞姫の着る「青摺りの唐衣」を連想させる青摺りの和紙を利用し、自分の手紙と源氏以外にはわからぬように筆跡を変えている。墨の濃淡を混ぜて優美で芸術的な筆跡、草仮名(万葉仮名を崩したもの)を散らし教養の高さを見せる見事なものだった。
夕霧は舞姫に近づきたいが、世話役の女房たちによそよそしく扱われ、溜息をつくばかりである。
青摺りの唐衣(白地に山藍の葉などで模様を青く型摺りにした衣)
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◎歌を取り出し、検討する。
源氏の歌
☆をとめごも 神さびぬらし 天つ袖 ふるき世の友 よはひ経ぬれば
・・・五節の舞姫だったあなたも年を取ってしまったことでしょう。古い昔の友の私も齢を重ねてしまいましたので。・・・
①「をとめご」・・・五節の舞姫のこと。筑紫の五節を指す。
②「神さぶ」・・・「古びている。神々しい様子である」。
☆『拾遺集』
「594 おほよどの みそぎいくよに なりぬらん 神さびにたる 浦のひめ松」
☆『周防内侍集』
「85 むばたまの かみさびまさる わが身かな はらひもあへず としのつもりて」
③「あまつ袖」・・・天女の衣の袖。
☆『平中物語』
「114 あまつそで なづるちとせの いはほをも ひさしきものと わがおもはなくに」
④「ふる」・・・「振る」と「古」を掛ける。
☆『源氏物語』
「85 から人の 袖ふることは 遠けれど 立ちゐにつけて あはれとは見き」
類例
☆『拾遺集』
「1210 をとめごが 袖ふる山の みづがきの ひさしきよより 思ひそめてき」(「振る」「布留」の掛詞)
筑紫の五節の返歌
☆かけていへば 今日のこととぞ 思ほゆる 日かげの霜の 袖にとけしも
・・・五節のことでお言葉を頂戴しますと、まるで今日のことのように思われます、あなたに打ち解けましたことが。
①「かけて」・・・「かけ」は「言葉に出して言う」意の動詞「かく」に取った。日陰のかづらを「掛けて」と掛ける。
②「日かげ」・・・「日影」(日の光)と「日陰のかづら」の「日陰」との掛詞。「日陰のかづら」は、神事の時に冠の左右に掛けて垂らすもの。青糸や白糸を組んで作る。もともとはヒカゲノカズラという蔓性のシダを用いていた。「日陰」と「掛けて」は縁語。
「日陰のかづら」コトバンクより
☆『拾遺集』
「 をみにあたりたる人のもとにまかりたりければ、女どもさかづきにひかげをそへていだしたりければ
1148 ありあけの 心地こそすれ 杯に 日かげもそひて いでぬとおもへば」
☆『仲文集』
「 ある女、りんじのまつりに、くるまにのりながらきて、ただいりにいれば、こいへにてはかくれあへで、ゆふ日のさして
いとあらはなれば
12 思ひきや かけてもかくは ゆふだすき けふの日かげに まばゆからむと」
③「袖にとけしも」・・・「袖」は源氏を暗示。「とけ」は「(日影に)溶け」と「(源氏に)打ち解け」の意を掛ける。「霜」「溶く」は縁語。
源氏は「をとめご」「神さぶ」「天つ袖」と五節の舞姫に関連する語を多用した歌を詠み、我が身を振り返って時の流れを実感し、懐旧の情を共有しようとする。筑紫の五節も「掛け」「日陰」と五節関連の語を使いながら、時は経ったが、二人の思い出の記憶が鮮明であると返歌する。
秋萩帖(伝・小野道風)・草仮名の代表作品
おまけ
医大プロジェクトチームの研究に参加して下さった被験者の皆様のご尽力と、
ネンタ医師の困っている患者様を何とかして救いたいという熱意と、
被験者様に集まっていただこうとして開設したこの拙ブログの存在も少しばかり貢献して実現した論文
国際科学雑誌 「PLOS ONE 」の論文
「Brain Regions Responsible for Tinnitus Distress and Loudness: A Resting-State fMRI Study」
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0067778
二報目
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137291