歯科医師の皆さんも、そうでない皆さんも是非安全な車に乗って下さい。
具体的に安全な車を計る指標として、世界には10ほどのNCAP(新車評価制度)がありますが代表的なのは、厳しい順に米国の「IIHS rating」・欧州の「Euro NCAP」・日本の「JNCAP」であります。
<各国のNCAPで試験方法に違いがあります。>
安全性の測定には、衝突安全性能・予防安全性能・事故自動緊急通報装置(事故後に自動でコールセンター等に繋がる)などの項目がありますが、それぞれの評価項目や試験項目は対象地域の交通事情や交通事故発生状況によって異なります。
<近年では、予防安全も重要な採点項目となっています。>
最も厳しい安全基準を求められる米国では本格SUVと大きなセダンが多く売れております。
<米国ではフルサイズの本格SUVが良くみられます。>
一方で、アウトバーン(速度無制限区間のある高速道路)を高速走行し長い耐用年数と社会環境に厳しい欧州では空力に配慮したクーペSUVや5ドアハッチバックが主流です。
<欧州は社会環境の基準も厳格です。>
一方、最もゆるい安全基準の日本は、軽自動車やミニバン、SUVチックな車が人気です。
<このように、Bピラー(真ん中の柱)ごと開いてしまうのは、側面衝突時に大変危険です。>
まず日本限定の規格である軽自動車ですが、安全性は大変低いことが指摘されています。
なぜならば、日本の「JNCAP」においても軽自動車は特別に低い安全基準を満たせば良い事になっているのです。
具体的には、軽自動車の「JNCAP」による側面衝突試験の台車の重量は、一般車1300kgに対し950kgで試験されています。
<JNCAPにおける一般車の衝突試験の方法。>
従って、「JNCAP」で星が多いと評価がされていても、軽自動車は試験方法が異なりますのでアテにならないと言えるのです。
<一般車は側面衝突では1300kgの台車が時速55キロで衝突します。>
又、日本の「JNCAP」においては前面衝突試験も静止した壁に車が衝突しますが、実際の事故においては重い車と軽い車が衝突した場合、軽い車が受ける衝撃の方が大きくなります(運動量保存則)。
<軽自動車(上)と一般車(下)で車体の損傷具合が大きく異なります。>
どうしても駐車スペースや経済的な問題で軽自動車しか購入できない場合は仕方がありませんが、ここまでお読み頂ければ安全性に関しては軽自動車と一般車では別物であり積極的に購入すべきでないことがお判りいただけたと思います。
<軽自動車の後部座席は、最も危険なシートである事を知って下さい。>
ちなみに、最新の「JNCAP」の試験結果では、1位レヴォーグ(スバル)・2位アウトバック(スバル)・3位ハリアー(トヨタ)・4位ヴェゼル(ホンダ)・5位アウトランダーPHEV(三菱)となっております
<ドライバーモニタリング装置も次第に装備車が増えています。>
では、一般車ではどの車が安全性が高いのでしょうか
これはそれぞれのNCAPで試験方法が異なることをまずは理解しなければなりません。
例えば、オフセット前面衝突試験ですが、日本の「JNCAP」では静止した車に相手車両に見立てた台車を時速64キロで衝突させますが、欧州の「Euro NCAP」では車も台車も走行状態で衝突させますので、より現実の事故に近い試験であると言えます。
<車も台車も走行状態で衝突させる「Euro NCAP」の試験。>
側面衝突でも日本の「JNCAP」では1300kg(軽950kg)の台車を衝突させますが、米国の「IIHS rating」では1500kgの台車を衝突させます。
この側面衝突試験で優秀な結果を残したのがスバルのアウトバックで、世界的な富豪投資家であるウォーレン・バフェット氏が乗っている事でも有名です。
また、日本の「JNCAP」には横転時のルーフの強度の規定も無ければ、欧州の「Euro NCAP」で規定されている側面にポール(電柱や街灯の代替)を衝突させる試験も実施されておりません。
<欧州の「Euro NCAP」で行われるポールへの側突試験。>
さて、トータルで見て安全な車ですがメーカー別でいうならば輸入車はボルボ、国産車ならスバル(ダイハツ製造のOEM車を除く)を買っておけば間違いないことが各国のNCAPの結果から明らかだと言えます。
<スバルは社内独自の衝突安全基準を持っています。>
まずはボルボですが、「Euro NCAP」において最高得点をたたき出しており、現行の全ての車で8.5割以上の点を得ているのはボルボのみであります。
<ボルボのフルラップ前面衝突、セーフティゾーンが変形していません。>
また、有名な逸話として「スバルは、Bピラー(真ん中の柱)があまりに強固すぎてレスキュー隊が使う油圧式カッターで切れなかった」というものがありますが、スバルは極超高張力鋼を使っているのに対し、ボルボはBピラーを含むセーフティゾーン(キャビン)はその1.5倍の強度のボロン鋼を用いています。
<クレーンで吊るし落下させたボルボの車、セーフティゾーンが守られています。>
さらに、ボルボはクラッシャブルゾーンのみが潰れてセーフティゾーンに変形が無くても、シートがリクライニングしてしまっては意味がないので、その関節部にもボロン鋼を使ています。
<シートベルトで命が助かった人達の事故後の身体。>
なお、国産車のセーフティゾーンは基本的に超高張力鋼を使っていればいい方で、今頃になって高張力鋼(ハイテン)を採用したとか宣伝する会社もあるのが国産車の現状です。
強度:ボロン鋼>極超高張力鋼>超高張力鋼>高張力鋼
<バスと衝突してもボルボのセーフティゾーンは守られている。>
さらに、ボルボは世界で最初に三点式シートベルトや自動ブレーキ、歩行者エアバックを採用したメーカーでもあり、その後をスバルが追従している構図となります。
<ボルボとスバルが搭載している歩行者エアバック。>
ここまで、ボルボとスバルを中心に述べてきましたが、意外にも後方からの追突事故に対しては欧州の「Euro NCAP」では規定がなく、日本の「JNCAP」と米国の「IIHS rating」では後面衝突試験が行われています。
<米国「IIHS tating」による、後面衝突試験。>
この後面衝突試験においても米国の「IIHS rating」の試験が最もシビアであり、「70%オフセットで時速80キロで後突時に燃料漏れしないこと」と規定されております。
<燃料漏れは一瞬で大変危険な状況となります。>
この後突試験では日本に多い3列シートの小型ミニバンやハッチバックの様な後部のクラッシャブルゾーンが少ない車は不利でありますが、好成績を収めた3列シート車が二台あります
<日本に多い小型3列ミニバンの、3列目の人の頭はリアガラスと隙間数センチ。危険です。>
一台目が、ボルボの3列シートSUVであるXC90です。
この車は、「身長170㎝までの乗員なら、3列目シートでも安全性はほかのシートと同等」と宣言しており、ボディ構造以外の追突時の安全性を高めるデバイスとしては、追突の可能性がある際のハザードランプの素早い点滅。
さらに追突が避けられないと判断した場合の1から3列目シートのシートベルトプリテンショナーの作動、最大の力でのブレーキ圧の保持がなされるように設計されています。
<3列目にもシートベルトプリテンショナーが採用され、安全性の高いボルボのXC90。>
もう一台が、日本における3列シートを持つSUVへの注目を高める火付け役となったマツダCX-8であります。
日本車としてはおそらく初めて「追突された際の3列目シートの衝突安全性も充分に確保されている」と宣言した画期的なモデルであると言えますが、最近のマツダ車(旧型CX-5以降)は安全性にも十分に配慮されています。
具体的には前述した米国「IIHS rating」の追突された際の安全基準のクリアに加え、社内独自テストでその際の生存空間の確保も確認されています。
<マツダCX-8は後突試験後も後部ドアに変形が無い。>
ここまで各国のNCAP試験結果を中心に安全性能の比較をしてきましたが、まとめるとメーカーとしてどの車種でも安全性が高いと言えるのがボルボとスバルということになりますが、この二つのメーカー共に言えるのが小規模メーカーでありフルラインナップでないという事であります。
従って、トヨタ・日産・ホンダ・メルセデスベンツ・BMW・アウディ・フォルクスワーゲン等のフルラインナップ大規模メーカーはAクラスサイズの小型車や国内専売車(「JNCAP」がギリギリクリアできる)に足を引っ張られているだけで、比較的大きなサイズの車や米国に輸出されているモデルは「IIHS rating」の基準をクリアしているわけですから、充分に高い安全性を持っていると言えます。
特に、ベンツのSクラスやレクサスLS、ロールスロイスファントム等は大変高い安全性能を有しておりますので、誤解のない様にお願いいたします。
なお、国産メーカーでも最近のマツダ車や最近の三菱車等は必要充分な安全性能を持っておりますが、ダイハツやスズキといった軽自動車メインのメーカーは全体に「JNCAP」においても安全性能は不十分であると言わざる負えません。
以上、「安全な車に乗ろう」のお話でした。