短篇集 & アンソロジー「 来世の記憶 」、「 変愛小説集 」 | berobe 映画雑感

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「 映画 」と「 本 」の感想

残りの2冊。

 

 

「 来世の記憶 」  藤野可織

 

“奇妙な味” 系?の 短篇集。

 

全20編。

 

 

アンソロジーで読んだ 短編『 ファイナルガール 』

短篇集『 おはなしして子ちゃん 』が 面白かったので。

 

 

長篇『 ピエタとトランジ 完全版 』は フツー。

長いと「 話 」が散漫?になるような… )

 

 

という事で 結構 期待していたんですが、

 

抽象的な表現が多く、先の作品よりも「 エンタメ性 」は 少なく感じたし、

 

「 年齢 」や「 老い( 死 )」を感じさせる内容は 暗めで

ノリにくかったですね。

 

作品によっては 軽く「 SF 」要素が 入ってくるのも 気になったな。

 

それでも 好きな話もあったので 総じて “まあまあ” でしたね。

 

 

 

何篇か紹介。

 

 

 

「 眠りの館 」

 

女子の集まりの途中 眠ってしまった “私”

“私” が眠ったまま 人生は どんどん進んでいく……

 

みたいな話。

 

「 寝過ごして 時間を損した気分 」を思い出したり、

 

「 時の流れの早さ 」を感じたり( もう 2月終わりだぞ )で ちょっと ユーウツな気持ちになったけど キライじゃないです。

 

 

 

「 れいぞうこ 」

 

「 身体が腐る 」のを防ぐため「 冷蔵庫 」で眠るようになった少女……の話。

 

子供が感じる 漠然とした「 老いる 」事への恐怖?

 

以外にも「 家族思い 」の 優しい内容でもありました。

 

 

 

「 切手占い殺人事件 」

 

女子たちが「 切手 」に 夢中になり 男子たちへの 興味や 関心を

失くし……みたいな話。

 

外見しか見てない 男子が アホっぽい。

 

その外見すら 区別できなくなり「 識別に困る 」ところは

さすがに 憐れだったけど。

 

一方の 女子たちも 皆一様に「 切手占い 」に のめり込み、

 

互いに 孤立していくところも 近視眼的な “危うさ” がありましたね。

 

期待した「 殺人 」は 大した事なかったけど、

 

男子女子の コミュニケーション齟齬( 溝 )」の寓話

として 面白かったです。

 

 

 

「 キャラ 」

 

「 卵型 」の「 人工皮膚 」で覆われ「 外見が皆同じ 」になった 世界……みたいな SF系・ショートショート。

 

設定が良かった。

 

 

 

「 時間ある? 」

 

親友の結婚祝いに 植物・サンスベリア を送った “私”

電話をかけてくるのは いつも 親友からで……

 

というような 友情譚(?)。

 

親友の事を 何でも知っている “私”が チョット怖い。

 

てっきり ストーカー的な話かと 思ったら そうでもないし。

 

そんな「 話 」も良かったけど、オチも 好きなヤツでしたね。

 

“私” の真意が よくわからないので 意味は不明ですが。

 

でも、何となく あの顛末は「 “私” に気を遣っていた 」結果に思えたかな。

 

 

 

「 スパゲティ禍 」

 

「 人 」がいきなり「 茹で上がった スパゲティ 」になる 災厄が起こり……

 

という「 不条理モノ 」。

 

「 設定 」も 楽しいけど、「 パスタ( 食べれる )派 」と

「 反パスタ( 食べれない )派 」に 別れる展開も 良い。

 

 

 

「 鈴木さんの映画 」

 

健康管理室にある「 医療用AI 」の 3D:ホログラム の
“ニコラス・ケイジ”
 
時々 鈴木さんは 昼食時に その3D:“ニコラス・ケイジ”
一緒にいて……
 
みたいな話。

 

外見だけじゃなく、ちゃんと「 受け答え 」も ニコケイ なのが オモシロい。

 

3D:ニコケイの アドバイス、「 映画だと 思えばいい 」は

言いそうだな。

 

著者の「 ニコケイ 好き 」が 伝わってくる作品でしたね。

 

 

 

「 怪獣を虐待する 」

 

怪獣を虐待する 少女たち……の話。

 

少女たちだけではなく 男子たちも、あと 密かに 母親たち

虐待しているという、「 人の暴力性 」を描いた内容で、

 

自分が「 被虐者 」に ならないため 誰かを「 被虐者 」にする(?)という構図が ズッシリ重い。

 

それでも「 虐待 」描写が なかなか エグく「 寓意系・ホラー 」として面白かったです。

 

タイトルから 映画『 怪怪怪怪物! 』(17年)を想起したんですが チョット似てる感じもありましたね。

 

 

 

「 鍵 」

 

夜中、マンション前の通りを 歩く、赤い( Tシャツを着た )

おばあちゃん

 

帰宅時に 赤いおばあちゃん を怖がる “私” は……

 

みたいな話。

 

「 ユーモア系の ホラー 」(?)で 読んでいて 面白かった。

 

時空を超える 意外な オチは チョット切なかったり。

 

ちょっと『 ファイナルガール 』に 似た要素があったかも。

 

 

 

「 誕生 」

 

帝王切開で 赤ちゃんを産んだ “私”

病院の外では 頻繁に 救急車が走っていて……

 

みたいな話。

 

「 外は どうなっているのか… 」が すごく気になる

「 不条理モノ 」で こちらも 好みの作品でした。

 

 

 

「 いつかたったひとつの最高のカバンで 」

 

行方不明になった 非正規雇用の 長沼さん

 

長沼さんは「 生涯たったひとつの カバン 」を見つけたら 荷物をそれに入れて どこにでも行くと 言っていたらしい。

 

彼女の部屋にあった「 大量のカバン 」は 会社のエントランスに 運ばれ……

 

みたいな話。

 

それぞれ「 自分のカバン 」を見つけて旅立っていく 非正規雇用の女性たち…という内容は たぶん前向きなんだけど、

 

「 死の匂い 」も 感じられ ちょっと 不穏な空気感も。

 

 

 

 

「 変愛小説集 日本作家編 」

編:岸本佐知子

 

著 : 川上弘美多和田葉子本谷有希子村田沙耶香

吉田知子深堀骨木下古栗安藤桃子

吉田篤弘小池昌代星野智幸津島祐子

 

 

“変”愛アンソロジーの第2段。

 

『 変愛小説集 海外編 』に続く「 日本作家編 」で 全12編。

 

とりあえず「 初読み作家 」が 多く読めたのは 良かったですね。

 

 

 

「 形見 」  川上弘美

 

「 動物由来の人間 」が「 工場 」で作られている世界……を

舞台にした、たぶん「 SF系 」の話。

 

どうやら 人類の存続だけではなく、他の動物の遺伝情報も

残す(?) みたいな設定らしいけど、よくわからない。

 

人類の「 生殖 」や「 家族 」の形が変わっても 人は人を愛する…みたいな感じで「 変愛 」要素は あまり感じなかったかな。

 

 

 

「 韋駄天どこまでも 」  多和田葉子

 

生け花 教室 」に通っている 東田一子

 

彼女は 同じ教室に通う 束田十子が 気になっていて お茶に誘うが……。

 

 

主人公東田と 気になる女性・束田の名前の「 字面 」からも 分かるように、

 

漢字を使った「 言葉遊び 」が 特徴的な内容で

文章も ウィットに富んでおり 楽しく読めました。

 

まさかの「 予言 」から「 地震 」へ、

 

「 避難 」から「 愛撫( エロ )」の 目まぐるしい展開にも

驚きましたよ。

 

特に「 名前 」が ほぐされていく「 愛撫 」描写は すごく良かったですね。

 

 

 

「 藁の夫 」  本谷有希子

 

タイトル通り「 藁(わら)で出来た 夫 」の話。

 

「 眼 」や「 口 」がないのに 普通に 人間っぽく生活している 藁夫が シュール。

 

主人公・女性の「 車の雑な扱い 」から「 夫婦間のギスギス 」が起こるんだけど、その絵面を想像すると なかなか愉快。

 

藁夫の 落ち込み「 がっくし 」が 何故か「 がっくり 」に

替わっているなど、無駄に 細かい描写も 結構ツボでした。

 

「 変愛 」度数も 高くて 面白かったです。

 

 

 

「 トリプル 」  村田沙耶香

 

「 カップル 」ではなく 3人で付き合う「 トリプル 」が 若者の間で流行して……みたいな話。

 

自分たちの考えを 受け入れてほしいと思っているが その反面、

他者のは 受け入れられない、という「 ダブスタ 」問題。

 

 

 

「 ほくろ毛 」  吉田智子

 

何となく 誰かの視線を 感じる、ファミレスで働く女性

 

「 吉兆 」だと 思っている「 ほくろ毛 」が生えていた事もあり 女性は それが 誰なのか 気になり始め……。

 

 

という「 “主人公を想っている” のは誰か 」というような話。

 

主人公・女性の 何気ない「 人間観察 」や「 心情 」の描写が

妙に可笑しく 結構 面白く読めました。


「 変愛 」要素も 申し分なし。

 

 

 

「 逆毛のトメ 」  深堀骨

 

天才人形師・ゼペット爺さん(日本人)( ←こういう表記 )が 詩人の依頼を受けて 作った「 コルク抜き 」の機能がある 西洋人形・“逆毛のトメ”

 

美しい 逆毛のトメ は オークションに出されるが……。

 

 

初読み作家なため、本作だけで 断定は 出来ませんが、方向的には 平山夢明の「 微狂い※ 作品 」( ※ ビチガイ と読む )や、

 

筒井康隆の「 ブラック、ナンセンス 作品 」を思わせる、

 

ちょっと「 頭オカ 」な内容で すごく 好みの話でした。

 

逆毛のトメ も ちゃんと「 意志 」を持っていたり、

オークションが「 地獄絵図 」になったり、

 

さらには「 首チョンパ 」もあるなど 楽しい要素が 満載の内容

なんですが、

 

ヘンな人 ばかり出て来るので 若干、人を選ぶ作品でもあります。

 

一応「 人形愛 」という「 変愛 」の要素はありますが、

あの内容だと どうでも よくなりますね。

 

他の作品も 読みたくなりました。

 

 

 

「 天使たちの野合 」  木下古栗

 

4人での飲み会のため「 人待ち 」をしていた 山中誠一

近くにいた女性に「 ○○さん 」と 人違いの言葉を掛けられる。

 

その後 ひとりと合流、2人で店に行くが 先に来ていた ひとりは 席を外していた。

2人を待つ間の会話で 声をかけてきた 女性の話になり……。

 

 

先が読めないというか、結末が “訳がわからん” なんですが、

すごく 面白かったですね。

 

少し「 ネタバレ 」になりますが、「 クリームパン 買い食い 」から始まり、店での「 2人の下世話な会話 」になるんですが、

 

それが まさかの「 死亡フラグ 」なんですよ。

 

「 野合 」( 政治じゃない方 )の意味を考えると( 調べた )、

 

あの顛末は「 正式ではない 死 」みたいな意味合いなのかな?

 

 

 

「 カウンターイルミネーション 」  安藤桃子

 

ある部族の村にたどり着いた 白人の探検家の男

 

村に受け入れられた は 村の外れに住む 若い女性と関係を

持ってしまうが……。

 

 

原始的( 土着 )な暮らしをする部族の「 思想 」や「 信仰 」

( 星の信仰 )に 魅了された男の話…かな?

 

しかも「 タイトル 」と「 男の心情 」」から察するに

「 星 」( イルミネーション )ではなく「 暗闇 」の方。

 

強く影響を受けて ちょっと狂ってしまう「 異文化モノ 」として 面白く 読めました。
 

 

 

「 梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる 」  吉田篤弘

 

夜中、美術館の電球を交換していた「 電球交換士 」の男

 

は そこで 声をかけてきた 女性と親しくなるが、彼女

「 口から “風景” 」が出て来る 病気に罹っていた……。

 

 

「 あらすじ 」で 少し「 ネタバレ 」しちゃったかも。

 

「 “死” が入っている “夜の箱” 」とか

「 生と死の狭間 」とか出て来て 雰囲気がある話でしたね。

 

幻想的な「 変愛 」としても 良かったです。

 

 

 

「 男鹿 」  小池昌代

 

結婚していた時、海外での「 靴屋 巡り 」が好きだった 女性

ある日、デパートの「 靴売り場 」で店員に声を掛けられ……。

 

 

いろいろな「 靴 」で 少しずつ 自分を「 開放 」し、

そして「 死 」に向かっていく…みたいな印象を受けた話。

 

あと、女性と「 靴 」だけではなく、靴売り場の店員との

「 愛 」( 靴と共に ピッタリ )の話でもあったのかも。

 

それと タイトル から「 男鹿( おが )半島 」が舞台なのかと

思っていたんですが 主人公の「 名字 」でした。

 

ちなみに 内容と 関係ありませんが、山形に「 女鹿( めが )」という所もあります。

 

 

 

「 クエルボ 」  星野智幸

 

定年退職した 初老の男

 

に付き合うも 居場所がなく 閉じこもり気味の だったが、

ある日、カラスが 気になり始め……。

 

 

「 定年退職した男が 居場所を得る 」…みたいな話なんですが、かなり奇抜な( 好きな )展開で 面白かったですね。

 

先の2作『 ほくろ毛 』『 男鹿 』と チョット傾向は似てるかも。

 

ちなみに「 クエルボ 」は スペイン語で「 カラス 」の意味らしいですよ。

 

 

 

「 ニューヨーク、ニューヨーク 」  津島祐子

 

息子から「 元妻の話 」を訊く 元夫

元妻は「 ニューヨークのことなら 何でも聞いて 」が 口癖だったようで……。

 

 

元妻の「 暮らしぶり 」が 徐々に明らかになっていく事で

元夫が 後ろめたさや 後悔を 感じ始める…みたいな話。

 

「 ニューヨーク( 行き )」が 生きる支えだったかも…というのが 切なくて 寂しい。

 

そのまんま「 ニューヨーク 愛 」の話だと 思ったんですが、

 

かつての への「 愛 」が 別の何かに「 変 」わった、という

話( 愛変 )も 後から 思い浮かびましたね。

 

 

 

という事で 「 変愛 」要素は 薄かったけど、一番 面白かった

( 好きな )のは『 逆毛のトメ 』『  天使たちの野合 』

 

「 変愛モノ 」としては『 藁の夫 』が 良かったかな。