ベンゾジアゼピン抗不安薬の実践経験(1)の続き

 BZD系抗不安薬では、半減期(飲んだ薬の半分が体から出て行くのにかかる時間)を考えて処方することが大切である。半減期が短いものほど依存ができやすく、半減期が長いものほど依存ができにくい。<できやすい>、と伝えるか、<できにくい>、と伝えるかで、患者さんの不安のレベルは大きく変わる。もちろん、<できにくい>ことを伝えるのが良い。現在最もよく使われている抗不安薬をあげてみると

    

    短時間型 デパス(エチゾラム)         半減期:6時間 

    中時間型 ソラナックス(アルプラゾラム)   半減期:6~14時間

    長時間型 メイラックス(ロフラゼプ酸エチル) 半減期:60~200時間

 

 この表からすると、長期連用した場合、最も早く依存ができるのが、デパスで、最も依存が生じにくいのが、メイラックスということになる。それゆえ、長期に連用する際には、長時間型のメイラックスが使われる。短時間型のデパスや中時間型のソラナックスを使用すると、せいぜい2~3年で、治療は必ず頓挫する。デパス依存やソラナックス依存を作り出してしまう。不安障害やうつ病の治療が、2~3年で終了することは、まずありえない。5年、10年先を見越して治療に当たらないといけない。ところが、患者さんにこのことを説明すると、「メイラックスは強い(怖い)くすりですね」と返ってくることが多い。精神科以外の診療科では、「軽い薬を出しておきましょう」と言って、デパスやリーゼ(昔からあるクスリなので最近は減った)が処方され、そのまま血圧の薬と一緒に、何年も処方されたままになっているのを、たびたび見かける。(効いている時間が長いものは、副作用も強い、という患者さんの感覚的な反応であろう)<長く効いているクスリが、副作用が強いわけではなく、長く効いてくれるクスリの方が、クセになりにくく、止める時も止めやすい>と最初に必ず伝えておく必要がある。不安障害の患者さんには、“クスリ恐怖”(かぜ薬さえ怖くて飲んだことがない人もいる)の人が多いので、ここからすでに精神療法がはじまっている。“クスリ恐怖”のひとに副作用の説明をするに際しては、ものすごい繊細さが要求される。ああそれなのに、調剤薬局で、その苦労を水の泡にされてしまうことが時々ある。ほんとうに頭に来る。(八正道の正語に反する言葉ですが、ご理解を)

 不安障害やうつ病の治療として、抗不安薬を長期連用する場合に、私はメイラックスしか処方しない。転院してきた患者さんが、レスタス(フルトプラゼパム)などの、長時間型の抗不安薬を長年服用していて、本人が変更したくない場合は、そのままの処方を続けることもあるが、それは例外中の例外。抗不安薬を使うに当たっては、抗うつ薬や抗精神病薬とはちがって、多種類の使い分けに習熟することより、1種類をどのように使っていくかに習熟すべきだと思う。20年以上私がメイラックスしか処方しないのは其の為である。次回は、メイラックスをどのように使っているかお伝えします。

                 ベンゾジアゼピン系抗不安薬の実践経験(3)につづく