転院先がやっと決まったK子さん、昨日が最後の診察になりました。平成21年6月、当クリニック初診。前医には、7年間通院し、医師の面接のほかに心理カウンセリングも受けていました。

 

「長い間ありがとうございました。先生のおかげで、娘も大学に進学できましたし、夫とも別れることが出来ましたし、姉との葛藤も整理できましたし、この歳で再就職もできましたし、何時もゆっくり話を聴いていただいて・・・。でも、次のクリニックでは、こんなに長く診察時間取っていただけるんでしょうか?」

 

<それは無理だと思います。多くのクリニックは、再診(初診は時間を長くとっても)の診察時間は5分~10分で、15分なら長いほうだと考えた方がいい。私も、10年前は15分間隔で予約を入れていて、ぎっちり詰まっていましたよ。覚えていません?>

 

「そうだったでしょうか?」

 

<このクリニックは、私が年を取って、ゆっくりやろうと思うようになって(黄昏クリニック)患者さんの数を減らしたので、診察時間が伸びたんだと思う。それと、現実的な話になるんだけど、うちのクリニックは人件費が安いからね。医者一人、受付一人。受付の一人はただ働き(妻)、もう一人は有能なんで、一人で3役を(受付、ケースワーカー、カウンセラー、ときには医者の代わり)こなしてくれているからね。だから、私が患者数をこなして、収入を上げなくてもすんでる。精神科は、検査や管理料みたいな、診察しないで儲ける手段がないから、患者さんを、ここにたくさん座らせて収入を上げないと、下手をするとつぶれてしまうんだよ。もし、うちのクリニックが、もう一人、受付を雇ったら(ほかのクリニックはだいたい受付けは2人いる)、あなたの診察時間を、30分から15分に短くして、もう一人診察しなきゃいけなくなる思うよ。それに、ほらあそこ壁紙が剝がれたままでしょ?、うちは宣伝広告費がゼロだし(ホームページもない)、余分な経費が出ていかないよう工夫してるんだよ(笑い)。そういう裏事情を、患者さんの側からすると知るすべがないから、グーグルの口コミで、医者の診察時間が短い、と叩くんだよ。>

 

「えええー、本当ですか?」

 

<本当も何も、現実はそうなんだよ。別の患者さんにこの話をしたら、「そういうビジネスモデルなんですね」と言われて、大笑いしたよ。>

 

「私は運が良かったということでしょうか?」

 

<そう。運が良かったんだよ、おじいちゃん先生の黄昏クリニックで(笑い)。あなたが次に行く○○クリニックは、建物はきれいだし、受付も2人体制だよ。それに、自費でお金がかかるけど、カウンセラーもいるから、それを利用すればいいんだよ。そういうビジネスモデルのところが最近は多くなってるみたいだし、私のようなスタイルは時代遅れなんだよ。カルテもコレ(電子カルテ)だし、こんな手書きなんて、これからはありえないよ。ところで、あなた、前に通ってたクリニックではカウンセリングを受けてたよね。ここに、その紹介状があるよ。>

 

「でもあそこのカウンセラーとは合わなかった。話するたびに、気持ちが沈んできて、何のためにカウンセリングを受けているのかわからなかった。」

 

<確かに、カウンセリングは、医者以上に、相性みたいなものがあるのかもしれない。でも、この13年間であなたはずいぶん変わったよ。ほら、診療情報提供書のここに書いてあるでしょ。『姉と対等な立場で接することが出来るようになったり、娘に対して、完璧じゃなくてもいいし、娘にたしなめられることがあってもいい、など多くの気づきがあって、OCD(強迫)傾向や後悔モード(クヨクヨ)も減って、性格の発展があったように思います』と。ここまでくれば、カウンセラーの助けを借りなくても、自分で何とかなるんじゃないの。どうしても困ることが起こったら、せっかくカウンセラーがいるクリニックなんだから、相談すればいいんじゃない。合わなければ、カウンセラーを変えてもらえればいい(医者は変えられないということになっているけど)。>

 

「わかりました。そこのビジネスモデルに合わせてみます(笑い)。でも、先生に会えなくなるのは寂しいわ。」

 

<ありがとうございます。でも次のクリニックの先生は、私みたいな、おじいちゃん先生ではなく、若くてハンサムな先生かもしれなよ(笑い)。>

 

「それはないでしょ。アハハ!」

 

<それでは、長い間、通っていただいてありがとう。元気でね。どこかその辺で、ばったり会うかもしれないけれど>と。

 

(蛇足)

 “一人当たりの平均診察時間の長さ”を決める要素はいろいろあると思いますが、経済的な問題がいちばん大きいように思われます。

 ところで、私のクリニックでは、診察時間の長い患者さんは、診察時間の短い患者さんに助けられています(医者も)。診察時間が1時間の人がいても、診察時間が5分の人がいることで、精神科クリニックの経営が成り立っているということです。K子さんは、診察を終えた後はいつも、「長くなってすみませんね」と、待っている次の患者さんに頭を下げて帰られます。