ベルソムラとデエビゴは、オレキシン受容体拮抗薬で(作用機序が同じ)兄弟分にあたるため、その基本的特徴はほとんど同じです。まずは、過去ログ『ベルソムラ(スボレキサント)*(5)*<まとめ>』を参照ください。

 

 

 

 さて、今日の本題、『デエビゴとベルソムラの違い』

 

 デエビゴ(レンボレキサント)は、2020年7月に発売された、最も新しい睡眠薬で、2014年に発売された、ベルソムラ(スボレキサント)の兄弟分(オレキシン受容体拮抗薬)にあたり、兄貴のベルソムラにはない特徴をいくつか持っています。その効果や使いやすさなど、臨床的な総合力では、デエビゴの方が上であると、おじいちゃん先生は考えています(個人差があるので、自分で確かめてみることが大切ですが)。

 その特徴について、ベルソムラ(15)1錠を服用したときと、デエビゴ(5)1錠を服用したときを比較してみると、その違いは?

 

①入眠効果が圧倒的に勝る

 ベルソムラは、入眠効果がほとんど期待できない睡眠薬でした(入眠剤としては使えない)。一方、デエビゴは入眠効果が十分にあり(ベルソムラの約20倍とも言われている)、入眠剤として使えるんです。

 海外で行われた、デエビゴ(5)1錠とマイスリー(5)1錠との比較試験では、1か月後にはデエビゴの効果が勝っていたという報告があります。

 おじいちゃん先生独自の臨床比較試験(自分が試してみた感触と、数十人のうちの患者さんへの処方経験から)でも、マイスリーに勝る入眠効果が、デエビゴにはあると感じました。<マイスリーは15~30分くらいで、自分では眠気をそれほど感じないで、ストンと入眠。デエビゴは、30~60分かけて、眠気が来たと感じながら入眠>というのが、おじいちゃん先生自身が服用している感想です。かつて、マイスリーからベルソムラへのスイッチが上手くいかなかった患者さんの多くが、マイスリーからデエビゴへのスイッチに成功しています。

 

②用量調整や保管がしやすい

 ベルソムラは、光、湿度の影響を受けやすいので、ドーム状の両面アルミ包装になっています。両面アルミ包装は見るからに仰々しく、「これは強い薬ですか?」と、不安そうに質問してくる患者さんが結構います。また、包装用量が大きいので収納・保管がやや面倒。錠剤自体も固いので、半分に割ることが難しい(下手な割り方をすると、どこかにぶっ飛んで行ってしまう)。一方、デエビゴでは錠剤として安定しているため、包装から取り出して、一包化処方などにも対応でき(老人にはありがたい)、管理がしやすい。

 

③併用禁忌(一緒に服用しては絶対にダメ)のクスリがない

 デエビゴは、他の薬との飲み合わせが比較的によい。ベルソムラでは抗生物質のクラリスと併用禁忌となっていますが、デエビゴは併用注意となっています。もっとも、どちらも併用に注意を要する薬がたくさんあるわけではなく、そんなに心配する必要はありません。

 

④中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害においても効果が勝る

 ベルソムラもデエビゴも、老人性不眠の特徴とも言われている、中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害に効果がありますが、ベルソムラ(15)1錠の効果に満足できない患者さんに対して、デエビゴ(5)1錠に置き換えて投与すると、だいたいの患者さんは、「こっちの方が効く」といいます。しかしながら、「ベルソムラのソフトな効きの方が私には合ってる」という患者さんもいて、微妙なところは自分で試してみないと分からない。

(注)よく似た薬の効果を比較する場合は、服用する条件の違いによって効果が異なるので、いろいろなバリエーションで何度か(少なくとも10回ぐらいは)試して比較する必要があります。寝不足状態でベルソムラを服用した場合と、十分に昼寝をしてデエビゴを服用した場合とを比較したのでは、比較にならないので、注意が必要です。

 

 さて、ちょっと話は飛んでしまうのですが、耳よりな、お役に立つ情報です。

 

 うちの患者さんから、「私はこのまま睡眠薬を続けていいのですか」と、質問されることが多々あります。おじいちゃん先生は、頓服薬(週に1~2回程度まで)として限定して使えるのなら、レンドルミン(ブロチゾラム)でもマイスリー(ゾルピデム)でも構わないけれど、連用して使うのなら、依存性のより少ない薬に変えるのが良いと考えています(誰でもそう考える)。その考えに沿って、うちの患者さんへの睡眠薬処方を、レンドルミン(1988年発売)からマイスリー(2000年発売)へ、マイスリーからルネスタ(エスゾピクロン)(2012年発売)へ、ルネスタからベルソムラ(2014年発売)へ、ベルソムラからデエビゴ(2021年発売)へと、変更する努力をしてきました。例えばA子さんの場合(宝物より)。

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診療情報提供書  令和4年11月○日

担当病院 主治医殿 御机下

以下のとおりご照会・ご報告いたします。よろしく御高診のほどお願い致します。

○宮○子(女)昭和4□年生まれ(5△歳)

診断名:神経性不眠(入眠困難)、過敏性腸症候群

 

 当クリニックは近く閉院いたします。つきましては、○宮さんの今後のフォローをお願い申し上げたく、これまでの経過を報告させて頂きます。

 平成23年8月、母親のうつ病の介護と職場の多忙とが重なって、入眠困難をきたし、職場近くのクリニックより、ハルシオンやレンドルミンをもらって服用するようになっていた(母親は、平成23年10月当クリニック初診。抗うつ薬投与によって、平成24年8月には完全寛解し、現在は元気に過ごしてる)。

 平成23年11月○○日、当クリニック初診。マイスリー(5)1錠、メイラックス(1)1錠の頓用による処方を開始。平成24年2月でメイラックスは中止。

 その後も仕事が不規則で(透析病院勤務で早番と遅番がある)、入眠をうまくコントロールできず、マイスリー(5)1錠の連用を継続。平成29年9月にマイスリーによる、夜間の過食ブラックアウト(カップラーメンを食べた記憶がない)が起こったため、マイスリーからレンドルミンに戻りました。また、令和2年2月に、レンドルミンからルネスタへのスイッチにもチャレンジしてもらいましたが、「苦みが受け入れがたい」ということで、レンドルミンに再び戻っていました。

 ところが、令和4年10月、レンドルミン(0.25)1錠から、デエビゴ(5)1錠のスイッチにチャレンジしてもらったところ、「私には、こっちの方が合ってる気がします」と、レンドルミン以上の、入眠効果、熟眠効果、目覚めの良さが得られたようです。

 ○宮さんは、これまで一度も眠剤の過量服用はなく、きちんと自己管理できています。よろしく御高診のほどお願い申し上げます。

 

(現処方)

   デエビゴ(5)1錠   ビオフェルミン散 3.0

   眠剤×60日分     分三後×14日分(時々処方)

 

         ○○メンタルクリニック 医師 ○○ □

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 なお、デエビゴは、依存、耐性形成の少なさから、向精神薬指定がなく、2021年5月以降は処方日数制限なしの承認を受けています(それまでは新薬のため、14日分しか処方できなかった)。従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬は(マイスリーやレンドルミンなど)、現在も最高30日分までしか処方できません。

 そのような経緯もあって、精神科医以外の内科や耳鼻科などでも、患者さんに請われれば、ベルソムラやデエビゴを処方してくれる先生が増えているようです(依存症などの副作用を考えなくてもいいので)。○宮さんには、精神科をわざわざ受診しなくとも、他科でデエビゴを処方してもらえればと思い、診療情報提供書の宛先を、担当病院 主治医殿 御机下、としました。

 デエビゴがどうしても合わないひと以外は(悪夢、頭痛、持ち越しなどの副作用で)、現時点で、最も有用性の高い睡眠薬だと思います。ただし、うつ病や不安障害を始め、その他の精神障害を有する患者さんには、デエビゴ単剤での効果はあまり期待できません。本来の精神障害が軽快、もしくは治癒してから、単剤で使えるようになる薬であることは、お忘れなく。