今回は、<ベルソムラのまとめ>として、従来の睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系)とベルソムラとを比較しながら、その特徴についてお話します。

 

 これまで主として使われてきた睡眠薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系)は、脳の働き全般の機能を低下させて眠らせる(GABAニューロンを介して)のに対して、ベルソムラは、主に睡眠・覚醒領域に限定的に作用して(オレキシン受容体拮抗薬として)、眠らせてくれます。従来の睡眠薬は、脳の働き全般にその作用が及んでしまうため、ありがたくない副作用(筋力低下、記憶障害など)が出てしまうことがあるのです(必ず出るというわけではなく、臨床上は、むしろ出ない場合が多い)。ベルソムラにはそういう副作用がないといわれています。そして、何よりありがたいのは、長期にわたって連用しても、身体依存がないということです。

 

 それでは、ベルソムラの特徴をいくつか挙げてみましょう

 

(1)自然な眠気で入眠し覚醒する(自然な眠りに近い)

 従来の睡眠薬は、服用後に、眠くなる感覚が自分でもわかり、寝付くまでの時間がだいたいにおいて一定しています。しかし、ベルソムラの場合、ほとんどの患者さんで、眠くなる感覚(クスリそのものによる眠気)がなく、日によって、寝入るまでの時間にばらつきがあります。15分で寝付くこともあれば、1時間かかることもあります。これに不満を感じ、「ベルソムラは効かない」と即断する患者さんが多いのです。でも、前日の睡眠はどうだったか、昼寝をしたか、どんなスケジュールで一日を過ごしたか、心配事を抱えてはいないかなどで、寝床に入ったときの脳の状態は異なります。だから、日によって入眠までの時間が異なる、それが自然ということなんです

 さらに、ベルソムラは“外界の刺激に対しても適切に反応しうる”という特徴(動物実験)があります。つまり、ぐっすり眠っていたとしても、地震、目覚まし時計、配偶者のいびきなどに、ちゃんと反応して目が覚めるということです。従来の睡眠薬に比べて、「目覚まし時計の音に気づかずに寝過ごしてしまった」ということが、はるかに起こりにくいということです。

 

(2)入眠障害に対する効果は弱く、中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効

 従来の睡眠薬は、その効果に個人差がそれほどなく、ある程度確実に入眠させてくれるのですが、ベルソムラは、入眠作用はそれほど強くありません(個人差はある)。「夜中に何度も目が覚めて寝た気がしない」「一度目が覚めるともう眠れない」「再入眠するのにひどく時間がかかる」「眠っていると思うけど、ウツラウツラといった感じで、よく眠れたという感じがない」といった訴えに効果があります。「寝つきはそれほど悪くはないけれど、・・・」といった患者さん(老人に多い)に有効な睡眠薬です。

 *(要注意)症状が十分に改善していない、うつ病や不安障害の患者さんには、ベルソムラの効果は期待できません。不安抑うつ状態による過覚醒のために、オレキシンの働きを抑えただけでは眠ることが出来ないので、抗うつ薬や抗不安薬を使って十分な睡眠を確保することが優先されます。

 

(3)眠気が残る」「夢ばかり見る」「悪夢を見る」という副作用がある?

 「眠気が残る」という副作用は、夜型(宵っ張りの朝寝坊)の長眠者(必要睡眠時間が長い人)の方に多いようですが、服用量を減らすか、服用時間を早める(1~2時間前)ことで、ほとんど問題は解決します。それでも解決しないようなら、使用を諦めます。

 一方、「夢ばかり見る」という副作用は、ベルソムラの持っている、深いノンレム睡眠(脳が休まる深い睡眠)とレム睡眠(体が休まり、夢を見る睡眠)の、両方を増加させるという性質からくるものです。しかし、深いノンレム睡眠とレム睡眠のどちらも増えるということは、睡眠の質が上がるということです。「夢ばかり見るようになったのは、ぐっすり眠れてないからでしょうか」と訊いてくる人もいますが、<睡眠の前半で、しっかりとノンレム睡眠を取り、睡眠の後半でレム睡眠をとるというのが自然な睡眠です。以前服用していた睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)は、レム睡眠の量を減らすので(これも副作用)、自分ではぐっすり眠れたと勘違いするんです。長時間眠りすぎたり、夜中に頻回に目が覚めると、夢が増えたと自覚しやすい(記憶として残るので)という傾向もあります。まったく夢を見ないという睡眠が良い睡眠というわけではない。そういう人には睡眠不足の人が多い>と説明しています。

 現実的な失敗や、仕事の悩みなどを夢で見ることは仕方がないことですが(おじいちゃん先生もしばしばあり)、「繰り返し同じ悪夢を見る(過去のトラウマなど)」という患者さんには、ベルソムラは使えません。このようなケースは、うつ病や不安障害が根底に潜んでいる場合が多く、抗うつ剤や抗不安薬を正しく使って不眠を改善するべきで、ベルソムラの適用ではありません。

 

(4)ベルソムラだけでは十分な効果を引き出せない(効果を得るには努力がいる)

 ベルソムラは副作用が少ないものの、従来の睡眠薬のように、いつでも、どこでも、誰にでも効いて眠らせてくれる、というわけにはいきません。睡眠習慣を見直さないかぎり、ベルソムラの効果を引き出すことが出来ないんです。睡眠習慣ばかりでなく、生活習慣全般にも気を配って、不眠対策に取り組む必要があります(認知行動療法的アプローチ)。ベルソムラだけで眠れるようになれば、睡眠習慣も良くなっているので、睡眠薬を止められる日も近いということなんです。

警告!ムチャクチャな睡眠習慣(若者に多い)の人には、従来の睡眠薬も効きません。

 

(5)効果と副作用に個人差がある

 このことについては、ベルソムラ(3)でお話ししたように、オレキシンの分泌や受容体の個人差によるといわれています。臨床的には、短眠者(もともと睡眠時間が短くて済む人)よりも、長眠者に(もともと睡眠時間を必要としている人)、その効果が強く出る(効き過ぎてしまう)ようです。たとえば、「寝つきさえよければいいんです。それ以外は何も困っていません。いったん寝付いてしまえば、目覚ましが鳴るまで起きることはありません」という患者さんには、ベルソムラは向かない(眠気が残りやすい)かもしれません。

 効きが強すぎる(眠気が残る)場合は、服用量を減らすか、服用時間を早めることで調整します。しかし実際には、同じ量を飲んでいても、眠気が残ることもあれば、すっきり目が覚めることもあります。これは薬の問題ではなく、自分のコンディションの問題です。自分の状態と薬との関係を慎重に観察していると、その因果関係は見えてきます。

 

(6)老人に向いている

 ベルソムラが老人に適した睡眠薬である、ということはベルソムラ(4)で説明しました。従来の睡眠薬は、老人に対してせん妄や記憶障害を起こしやすくする、というやっかいな副作用があったのですが、ベルソムラにはそういう副作用がないという特徴があります。また、「長期的に見て、認知症の原因物質であるβアミロイドやタウ蛋白を減少させた」という報告もあります(本当かな?)。脳血管の動脈硬化やアルツハイマー認知症の予備軍である老人には、大いに期待される睡眠薬だということです。「もう年寄りですよ」とおっしゃる患者さんには、<私は、ベルソムラに切り替えましたよ。あなたもそろそろ切り替えましょうよ>とお誘いしています。

 

 

 以上、過去ログ、ベルソムラ(1)~(4)の内容と重複するところが多かったと思いますが、ベルソムラの特徴をまとめてみました。