〇『良心の呵責』とは

「週刊ビッグコミックスピリッツ」2021年40号に載った読切漫画。浄土るる先生は短編漫画を発表している漫画家で、作品の前衛性と独自性により話題を呼んでいる。デビュー作は『鬼』という読切である。

 

 

〇本作のポイント

・主人公である「遠藤れん」と、主人公の友達である「清水古夏」がメインキャラクター。

 

・冒頭ページの「可愛い友達がいる。」「すごく可愛かった。」では現在形と過去形が使い分けられている。「可愛かった」と過去形なのは彼女が事故により顔を怪我したため。

 

・本作に限らず「週刊ビッグコミックスピリッツ」2021年40号に載っている漫画は吹き出しの中の文に読点・句点がついている。これは『BLEACH』や『NARUTO』などといったジャンプ漫画とは対照的。

 

・「そうだった ごめんね…」というコマでは一瞬、顔面全体が包帯のようなもので覆われているように見えるが、実際は目や口が描かれていないだけなのだろう。これは主人公が「もう許して…」と呟くコマでも同様。

 

・教師「授業、退屈だね。」主人公「はい…あッ、いや…すみません。」というコマなど、ギャグシーンとしてクスリと笑えるコマもある。

 

・主人公「はい…あッ、いや…すみません。」のコマ以降、読者はどこまでが作中における現実世界で、どこからが精神世界なのかを自ら判断する必要がある。

 

・「なんでそんなに、楽しそうなんだろう。」というコマではメインキャラ二人が宇宙の中に居て地球の上に乗っているかのごとく描かれているが、地球というモチーフは浄土るる先生初の単行本『浄土るる短編集 地獄色』の表紙でも採用されている。

 

・「ママ、プリクラが何か知ってるの?」というコマでは、主人公が眼鏡をかけているように見える。

 

・コマ割りでは縦線と横線だけでなく斜め線も使われている。デビュー作『』と比べて斜め線の使用率があがっているが、斜め線を使ったコマ割りは読者に緊迫感を抱かせる効果がある。

 

・一概に笑みと言っても、狂気や皮肉を孕んだ「影のある笑顔」と、「屈託の無い笑顔」とがあるが、本作では両方の種類の笑みが描かれている。そのことは、顔面の一部が包帯のようなもので覆われていても口を記号的に描く手法を使えばキャラクターの笑みを表現しやすいことと関係があるのかもしれない。

 

・浄土るる作品は『鬼』など毒親が登場するものが多い。だが、よく読むと主人公の親と清水古夏の親は毒親っぽさに差がある。前者はまだ常識的な言動の範囲内にとどまっているが、後者は自分の子供に対して直々に「勉強もピアノもスイミングも何も出来ないから要らない」と言い放つ異常性を漂わせている。

 

・「友人が一人しかいない者にとっての友人」と「友人が複数人いる者にとっての友人(の中の一人)」の差が本作におけるテーマの一つか。

 

・最終ページの最後のコマでは古夏が主人公を抱きしめている。古夏と主人公に大きな身長差があるのは、主人公の精神世界における古夏の姿が描かれているため。主人公と、小学生の頃のまま身体的変化が止まっている「(主人公の精神世界内の)古夏」との対比が見事である。

凄く凡庸な意見を述べるが、世の中には実体験を通して漸く(ようやく)納得できることがある。

私は中学の時に辞書でビール腹という単語を見聞きした。

この「見聞きした」というのは「意味を知った」という意味に過ぎず、要するに語感と意味を繋げられるほどの認識には至っていなかったということだ。

「砂糖水のような炭酸飲料をがぶ飲みして腹が出た体型になるのは分かるが、よりによってビールで腹が出るようなことはあるのか?」などと感じていたのを覚えている。

ビール好きな人に、そういう体型の人が多く、そういった事情により「ビール腹」という単語が成立したのかなと当時、考えていた。

ビールは中年が飲むアルコール飲料というイメージは既にあり、苦くて泡立ちが重視されるアルコール飲料という程度の知識はあったが、アルコール飲料全体で比較的アルコール度数が低いとされていることなどといった基礎的な知識すら当時はなかった。

自分の飲酒デビューは20歳の誕生日に祖母から氷で薄められた日本酒を出されたときだが、ビールの魅力に気づいたのは21歳頃になってからである。

それまでは、チューハイや日本酒をメインで呑んでおり、ビールは苦味になじめず余り飲んでいなかった。

しかし、度数が低く加糖されていないなどといった理由のため、最近ではビールを呑むことが増えた

ビールは一気に呑むのが爽快で、350ミリリットルほどのビールを一気飲みすると腹部が膨れる感覚となる。

そういった感覚を何度か経験するうちに、ビール腹という名詞の語感がしっくりくるようになった。

 

もう一つ例を挙げよう。私は小学生の時にクールビズという単語を知った。

その際「クールビズでは薄着やネクタイ外しが行われます」という説明を聞き、当時の私は疑問に思った。

「暑さ対策で薄着ってのは分かるけどネクタイ外しって余り意味なくない?」などと。

私はネクタイを着用したことがなく、ネクタイを「首からぶら下げる布切れ」としか思っていなかったのだ。

しかし、18歳ころに初めてネクタイを締めたときにクールビズでネクタイ外しを行う理由を察することが出来た。

 

人生には実体験を通して漸く納得できることが数多く存在するし、それによる気づきは貴重だと感じる。

〇『斬』の概要

『斬』は「週刊少年ジャンプ」2006年34号~52号に連載された少年漫画。作者の杉田尚先生はすぎたんという愛称でも知られ、2003年10月期十二傑新人漫画賞の最終候補作品『-青-』では久保帯人先生の講評を受けている。また、2004年8月期十二傑新人漫画賞の最終候補作品『忘れていたモノ』では村田雄介先生の講評を受けている。

全18話(全2巻)の打ち切り作品で、第1巻では一部の箇所で単行本修正が行われた。大半の打ち切り作品が世間で忘却されてゆくのに対して、『斬』は連載が開始された2006年以降、現在に至るまで、多数のファンを(主にネット上で)獲得し続けている。

 

 

〇『斬』に関するサイト

斬 (漫画) - Wikipedia

斬・批評 (archive.org)

『斬』2ch本スレテンプレまとめ (archive.org)

斬: 作品データベース[漫画] (sakuhindb.com)

 

 

 

〇全体的な解説

・『斬』を怒濤の文字量の漫画とイメージしている人は多いが、文字量が膨大なのは第1話(一太刀)くらいであり、最終話(十八太刀)に近づくにつれて1ページ当たりの文字数は通常の漫画と同程度になっていく。第1話の文字量が膨大なのは作者が真剣から研無刀への設定変更を強引に行ったためだと思われる。

 

・最終話(十八太刀)に近づくにつれて戦闘シーンの構図がどんどん巧みになっている。これは週刊連載を重ねるうちに作者の画力が向上していったためだろう。

 

・縦に角張って生えている髪型などキャラデザインは異質だが、「仲間がほしい」「強くなりたい」「夢」など作品の根幹となるテーマは王道のジャンプ漫画。

 

・現代の日本を基盤とした世界観であり、救急車やサラリーマンといった単語が散見される。男性の大半が帯刀していること、真剣勝負であれば殺人でも犯罪にならないことなどを除き、我々現代人の日常と似通っている。

 

・『斬』の全18話を読み通した印象では、女の子でありながら武士を名乗っている月島弥生(と花咲ユリ)を含む場合は武士に「ぶし」というルビがつき、含まない場合は武士に「おとこ」というルビがつくようだ。因みに、最終話の最後ページの最後のコマでは「僕はこれからも頑張っていきたいと思う…本物の武士(ぶし)になるために!!」と書かれている。この「僕」は主人公であり、月島弥生(や花咲ユリ)を直には含んでいない。そうであるにも拘らず「ぶし」というルビが使われているのは、第2巻p179の花咲ユリの価値観が影響しているのかもしれない。

 

・尾田栄一郎『ONE PIECE』と作風がどこか似ている。「家族を救いたい」などといった具体的な目的に基づいて目標を掲げているのではなく、「かっこいいから」「ワクワクするから」などといった感情的な理由で夢を語る構図(第1巻p61で主人公が「剣豪」に憧れるシーンなど)は海賊王に憧れるルフィを彷彿とさせるし、トーンを多用しない画風も初期の『ONE PIECE』にそっくりである。また仲間を大切にするという姿勢が全面的に出ているのも『ONE PIECE』の価値観に沿っている。「金蔵一味」というネーミングも「麦わら一味」を連想させる。第1巻p165の主人公発言「死ななくて済むなら別に死ななくていいじゃないか!」は『ONE PIECE』で色濃い生命至上主義的価値観に基づいている。

 

・単行本第1巻には第1~8話が載っており、第2巻には第9~18話が載っている。第2巻p4~5の「登場人物の説明・前巻のあらすじ」ページのデザインは初期の『ONE PIECE』の単行本のものとフォントなどが似ている。

 

・ストーリーの展開は 「主人公とヒロインが登場する第1話」 「主人公とヒロインが自分の夢を強く意識し、後に主人公の親友となる貫木刃が登場する第2話」 「主人公と貫木刃が戦闘に巻き込まれる第3~6話」 「金蔵一味が登場し、金蔵一味がヒロインを狙っていることが明かされる第7話」 「金蔵一味と主人公サイドが校内でバトルを繰り広げる第8~13話」 「金蔵一味や主人公サイドとは別に生徒会という第三勢力が登場し、校内でのバトルが複雑になっていく第14~17話・第18話前半」 「校内でのバトルが終わって1か月が経ち主人公が怪我から回復して『僕はこれからも頑張っていきたいと思う…本物の武士になるために!!』と明るく宣言する第18話後半」 という7つのパートに分かれている。

 

※本記事で提示されているページ番号は筆者が「ebookjapan.yahoo.co.jp」経由で購入した電子版に基づいている。版によってはページ番号がずれている可能性があるため注意。

 

 

 

〇第1話の解説

・第1話の冒頭部で吹き出し内にオノマトペが描かれているコマがある。これはboketeのビッビーの先駆か。

 

・第1巻p16(第1話)の特異体質とは「普段は気弱で、研無刀を無茶苦茶に振り回すことしかできないが、危機に陥ると覚醒して研無刀を扱えるようになる体質」のこと。

 

・第1巻p27(第1話)では牛尾の子分である赤井という坊主頭のキャラが登場するが、p27~28ではイケメン風の外見なのに、p29ではマヌケ面として描かれている。いくら何でも急に外見が変わりすぎ…。

 

・第1巻p56(第1話)で、木下静夫が「立つ事すらままならない」と述べているコマがある。「ままならない」は「思い通りにならない」という意味なので、「立つことすら思い通りにならない(思い通りに立てない)」という意味だと分かる。事実、頭の周りに白線で体の震えが表現されており、木下が自分の思う通りには直立できていないことが描写されている。このコマを見て「立つ事すらままならないと言っているのに直立しているのはおかしい」と感じる人が後を絶たないようだが、実際は不自然なコマではない。

 

・第1話は主人公(村山斬)が木下静夫の暴走をとめるために覚醒するという展開となっているが、「悪役が登場し、主人公がヒロインを助けるために戦って勝利」というテンプレートを安易になぞっておらず、作者の独自性が窺える。凡庸な漫画家であれば木下静夫というキャラを登場させるという発想に至らないのではないかと思う。

 

・第1話では背景を白一色から黒一色に変更するという単行本修正が行われた。有無というサイトでは、「いつでもどこでも真剣勝負の恐れがある世界ってことで、より緊迫感を出す演出になった」と書かれているが、(少なくとも第1話の)背景のベタ塗りは緊迫感を出すためというよりかは、夜景であることを表現するためだと考えられる。

 

 

 

〇第2話の解説

・第2話はタイトルが「夢」となっており、主人公とヒロインがそれぞれの夢を意識するという回になっている。また、貫木刃という同級生も登場する。

 

・p69の「うっせぇなぁ!!!」は『ゾンビパウダー』第1巻巻頭ポエム(第1刷)と同じフォントが使われている。

 

・p72で主人公の顔の傷が三コマ後には消えているという現象が起きている。主人公は身体の回復力が高いのかもしれない。

 

・手合わせでありながら、貫木の台詞に影響され、木刀から真剣に持ち替えるヒロイン。『斬』の世界観において、それは真剣勝負を意味し、仮にその勝負で死傷者が出ても、刑事罰には問われない。p73で主人公が覚醒しているのは、その状況に対して危機感を抱いたため。

 

・p77でヒロインは恐怖のあまり体が不自由になっている。第1話でも同様の事態に陥っており、これを克服しない限り、武士への道はヒロインにとって険しいものとなりそうだ。

 

・「ヒロインが『早く帰って剣の稽古をしないと!』と述べているのに、主人公が『明日からガンバるぞぉ!!』と叫んでいるのは、自身の夢への本気度に差があるからだ」とツッコミを入れる読者がいるようだが、これは第3話の読解が不足しているし、何より「僕も明日から本格的に剣の稽古始めてみようかな」という台詞の「本格的に」という箇所を見落としている。

 

 

 

〇第3話の解説

・主人公は昨日の放課後、「剣術1 基本編」という本を購入していた。つまり、昨日の「明日からガンバるぞぉ!!」という台詞は「今日中に剣術のトレーニングの準備を済ませ、明日以降おもう存分トレーニングに努めよう」という意味。

 

・p88の2~3コマ目にある「剣術1 基本編」・あんぱん・牛乳が、7コマ目には姿を消している。これは、主人公が「剣術は本を読むだけではなく実際に刀を振るわないと覚えられない」と判断して本を(机やカバンとかの中に)しまい、あんぱん・牛乳の飲食も終えたことを示している。

 

・クラスでは「貫木は将来辻斬りになる」「貫木が教室に来ると雰囲気悪くなるから学校さぼったまま退学してくれればいいのに」などといった悪評が立っている。だが、ヒロインによると、貫木は態度が怖そうなだけで、根は悪い奴ではないようだ。ヒロインは主人公に「屋上にいるであろう貫木に何か言ってあげて」と提案し、主人公から離れて行ってしまう。

 

・主人公は「貫木君は一人ぼっちで僕と同じ。そうだ、もしかしたら貫木君は本当は友達がほしいのかもしれない」と考え、屋上に行くことを決める。

 

・ヒロインの見立て通り、貫木は屋上で横になっていた。貫木は屋上で不良学生らに絡まれていた女子生徒を救うが、余りにも雰囲気が悪人風だったため、女子生徒に泣かれる。

 

・貫木は不良学生に「テメェらそれでも武士(おとこ)か」と述べており、武士としての誇りを重視していることが窺える。

 

・余談だが、お世辞にも美人とはいえない顔面の女子生徒に「一緒に遊ぼうぜ」と誘っていた不良学生らは、異性の顔面偏差値を余り意識しない性格なのだろう・・・。

 

・貫木は最終ページで主人公のことを研無刀君と呼んでいる。つまり貫木は研無刀が上級者向きの刀剣であることに留意している。

 

 

 

〇第4~6話の解説

・「剣術1 基本編」に載っていた剣術を実践しようと試行錯誤する主人公。これは向上心の現れと言える。

 

・貫木は自分が忍武士(忍者ではなく、あくまで武術の一環として忍術を習得した武士)であることを明かし、手裏剣による攻撃を始める。忍武士なので、貫木は手裏剣や煙玉などといった道具を多数、隠し持っている。

 

・戦闘の最中に覚醒し、主人公は貫木を追い詰める。主人公は覚醒状態から目覚めるが、貫木は高い位置から降りるようにして背後から主人公を斬ろうとする。すると、虫が主人公の顔につきまとってくる。虫のお陰で、主人公は貫木の接近に気づき、防御に成功する。覚醒状態ではない主人公は虫から逃げだしてしまうが、結果的に貫木を上空へ吹き飛ばす結果となる。

 

・かぎづめ(手甲鉤のついた繩のこと)を屋上にひっかけることで墜落による即死を免れた貫木は、主人公に「殺せ」「見て分かんだろ」「お前の勝ちだ」「こいつは武士(おとこ)と武士(おとこ)の真剣勝負」「負けたからにはケジメをつけてぇんだ」「早く殺せ」と述べ、かぎづめを屋上から離すことで、直ちに自分を殺すよう話す。

 

・だが、自分が勝利したという認識すらない主人公は「武士(おとこ)と武士(おとこ)の真剣勝負に敗れた以上死ぬのが当然」と思い込んでいる貫木に「死ななくて済むなら別に死ななくていいじゃないか!」と語りかける。そして、友達がほしいと本音を漏らす。貫木は「武士(おとこ)と武士(おとこ)の真剣勝負に勝ったお前が言うなら、お前の友達にもなってやる」と主人公に宣言する。

 

・主人公は「小さい頃も前の高校でも無双高でもいじめに遭うなどして一人ぼっちだった」と語る。事実、第1巻p31では主人公がいじめに遭っている回想シーンが描かれている。

 

・p167の2コマ目の貫木は作画のタッチが『BLEACH』尸魂界篇あたりの久保帯人の絵柄に似ている。

 

 

 

〇第7話の解説

・数学の授業中、居眠りをする貫木。

 

p171で、主人公は友達になったばかりの貫木に「昼飯いっしょに食べようよ」と誘うべきか悩んでいたが、授業が終わった直後、貫木の方から「おっしゃ!メシ喰いに行こうぜ!」と誘いが来た。筆者はこの展開に「ご都合主義っぽさ」を余り感じないが、ストーリーが主人公に都合よく進みすぎていると感じる読者もいるかもしれない。また、ヒロインが「やっぱり村上君って凄い」と感じているのは、ヒロインが第2話以降、主人公の戦闘力を評価していることと関連している。

 

・p172で、ヒロインはラブレター風の封筒が入っていることに気づく。

 

・主人公が「お昼ゴハン一人で食べない事なんてはじめてだ」とワクワクしながら廊下を歩いていると、横柄そうな男(金蔵)と衝突してしまう。

 

・金蔵は三人の部下に「主人公をぶっころせ」と命じる。ピンチに陥る主人公だったが、途中から現れた貫木がピンチを救ってくれた。

 

・一連の騒動を密かに男一人と女一人が観察しているが、男の方の素性は第14話で明かされる。女の方の素性は第9話と第10話の間に挿入されたオマケ頁(第2巻p26)で描かれたのを最後に『斬』本編で登場しない。

 

・戦闘のあと屋上で横になる主人公と貫木。疲労により主人公と貫木は寝込んでしまう。

 

・放課後になっても教室に戻らない主人公を心配し、主人公の場所を探していたヒロインが主人公を発見する。ヒロインが来てくれたおかげで目を覚ます主人公。p183の4コマ目で、ヒロインはカアアアアアという貫木のイビキに呆れ果て貫木を強引に起こさせている。

 

・ヒロインに好意を抱いていない貫木と違って、主人公はヒロインに惚れている。貫木は「ヒロインに告白しろ」と主人公に呼び掛ける。

 

・そのころ無双高校の地下東側廃部室棟にある金蔵のアジトでは、金蔵の部下による暴行が行われていた。暴行の被害者は、金蔵ら(金蔵一味)による暴行被害を他言すれば命はないと警告される。

 

・第7話の最後のコマでヒロインはラブレター風の封筒を不安そうに見つめているが、この封筒自体は金蔵らによるものではない。

 

 

 

〇第8話の解説

・主人公と貫木は「校門前で待っていればヒロインが来るだろう」と判断し、放課後の校門前でヒロインが来るのを待つ。

 

・p191の1コマ目では両津勘吉が描かれている。4コマ目の貫木の表情や、5コマ目のキラーンというコミカル風の描写など『斬』は『BLEACH』の作画から影響を受けているようにも感じられる。

 

・貫木は主人公の覚醒状態について問うが、主人公は「わからないんだ」と打ち明ける。「やっぱり変だよね 僕…」などと自己肯定感の低い台詞を吐く主人公に貫木は「逆に凄いじゃねえか」「お前だけに許された一撃必殺技みたいじゃねぇか」と肯定的な見解を示す。

 

・ラブレター風の封筒の中身を読み、「まったく まぎらわしいわね」「何でラブレター風の包み方にしちゃうかな」と呆れながら、体育館裏に向かうヒロイン。封筒の送り主は第1話に登場した牛尾であった。ヒロインと牛尾は真剣勝負を開始したが、突然、横やりが入る。牛尾を介抱する子分の赤井。横やりを入れたのは金蔵の部下三人であった。三人は「金蔵坊ちゃんの命でキサマを連れていく」とヒロインに宣言する。ヒロインは抵抗するが、力およばず連行されてしまう。

 

・夜になっても姿を現さないヒロインに主人公は心配し貫木はイライラする。p204の2~3コマ目で描写されているように、ヒロインを待っている間、主人公は「剣術完全マニュアル」を読んでいた。つまり、主人公は第2話の出来事以来、向上心を持っていることが分かる。そのとき、赤井が牛尾の身体を校門前で引きずっている光景を目の当たりにした二人は、牛尾と赤井から事情をきいた。

 

・二人はヒロインを救出しに行こうと決心するが、校門をしめるよう命じられていた壊原(金蔵の部下の一人)が主人公らの前に姿を現す。

 

 

 

〇第9~13話の解説

・第2巻p8で、貫木は主人公に「目の前の敵は俺が倒すからお前は先(ヒロインのいる方)に行け」と話す。主人公は駆け足で地下東側廃部室棟へと向かう。

 

・主人公は廊下で刺々森(金蔵の部下の一人)と会い、真剣勝負を繰り広げる。

 

・ヒロインは金蔵と、主人公は刺々森と、貫木は壊原と真剣勝負を展開していく。

 

・p29で、ヒロインは金蔵に「あたしはこんなトコロで死ぬワケにはいかない!」「女だって武士をなのる資格があるって事を証明するまでは!!」と叫んでいるが、心中文ではなく発話を伴う台詞文となっているのがポイント。このように相手に知らせる必要性が特に見当たらないにも拘らず、自分の夢を相手に大きな声で宣言というのは『ONE PIECE』でも頻出するシチュエーションと言える。

 

・ヒロインと金蔵の真剣勝負の最中に、討条(金蔵の部下の一人)が「地下への侵入者が潜伏している可能性」に気づき、校舎内の見回りをするために金蔵のアジトから離れる。

 

・貫木は壊原を倒すが、主人公の「死ななくて済むなら別に死ななくていいじゃないか!」という価値観に影響され、壊原を殺さなかった。

 

・主人公は無崩篭と鋭斬刀の使い手である刺々森に苦戦する。それでも、刀と鞘の二刀流戦法を付け刃のように見出して健闘するが、剣筋が未熟だったため、殺されかける。だが、覚醒状態になった主人公に反撃され、刺々森は敗れる。

 

・刺々森は自分を殺すよう求めるが、主人公は殺す素振りを見せない。そして、主人公の精神の純粋さを目の当たりにした刺々森は心を動かされ、「俺はもうあの金蔵(クソ)の親衛隊は辞める」と宣言する。だが、間が悪いことに、ちょうど刺々森と主人公の近くに討条が来ていた。

 

・討条は「主(金蔵)に逆らうのは武士道に反する。よって殺す」と宣言し、刺々森と主人公を殺そうとする。刺々森は討条に「武士だとか何だとか意地張ってないで あんたもあんなクソの下で働くのやめちまえよ」「俺はカネが必要な特別な理由があって働いていた」「汚い仕事は全てあんたが片付けてくれていたとはいえ」「もう俺はあんあクソの下で働くのはまっぴらだ」「だからあんたも(金蔵の親衛隊を辞めないか)」と説得するが、討条は「それは出来ない」「私とて坊ちゃんが悪なのはわかっている…が…善悪に関らず一度忠誠を誓った主についていく!それが私の武士道だ!」と述べる。

 

・主人公は「今は今!昔は昔!悪人と分かっている主に力を貸す(ような武士道)なんて絶対におかしい」と反論するが、討条は「雑談は終わりだ」と言い、刺々森と主人公に殺意を向ける。そのとき、貫木が来て、「こんな狭い所に大人数入り乱れるのは得策じゃねぇな」と語り、煙球を投げる。そのすきに刺々森と主人公と貫木は廊下から校舎内のグラウンドへと移動する。

 

・移動の最中、刺々森は傷から血を垂らしていた。血の跡から討条は刺々森らの居場所の見当をつける。

 

・第7話で登場した正体不明の男子生徒(絶山剣舞)が、後輩の女子生徒(花咲ユリ)と一緒に校門付近での戦闘の痕跡を眺めている。

 

・主人公は次第に自分の特異体質への理解をじわじわと深めていく。

 

 

 

〇第14話の解説

冒頭部(p111)は回想から始まる。絶山剣舞と花咲ユリは生徒会執行部のメンバーであった。

 

・扉絵のp112は討条が血の跡をたどることによって主人公・貫木・刺々森の居場所へと向かっているのを表現している。

 

・夜の校舎に入るのが初めてで幽霊とかが怖いと怯える花咲に絶山は「例のターゲットが地下に居るからお前一人で(地下へ)行け」と命じる。絶山は花咲の実力を認めているが故に一人で行かせるのだという。絶山は(討条同様に)廊下の血のしみを追うと話す。

 

・p117の6コマ目の「やっこさん」は三人称の人代名詞の一つ。「あいつ」などといった意味で、貫木は「討条が来た」と思って「やっこさんのご登場だぜ」と呟いた。

 

・しかし、実際に来たのは絶山剣舞であった。主人公・貫木・刺々森は絶山と面識がなかったようで、「誰だ こいつ」などと戸惑った。絶山は「用があるのはキサマだ」と言い、刺々森を殺そうとする。

 

・丁度その頃、花咲は金蔵のアジトに来ていた。花咲は金蔵に「あんた(金蔵)みたいなヤバンな悪は私達執行部が全て排除する」と宣言し、金蔵一味を皆殺しにすることを宣言する。

 

・金蔵は激怒し、花咲を斬殺しようとするが、花咲は体術(刀剣を用いない戦闘術)を使って金蔵を倒す。金蔵は刀で脅してヒロインを人質にすることによって花咲を追い詰めようとするが、花咲は「別にかっ斬っていいよ♪」と話す。花咲は「あんた月島弥生でしょ?ラッキーよねぇ こんなところに執行部のブラックリストに載っている奴がいるなんて♪」「どうせ殺そうと思ってたからちょうどよかった」と語る。

 

・グラウンドで、貫木は絶山に押され気味な刺々森に助太刀する。(真剣勝負に助太刀って大丈夫なのだろうか?)絶山は「これ以上このゴミに肩入れする様なら…キサマも悪とみなすぞ」と宣言するが、主人公と貫木は「もう刺々森君は金蔵一家を抜けたし今まで汚い仕事はしてないって言ってた!」「それでもまだ刺々森君を狙うっていうなら…仲間の僕らが許さない!!!」と刺々森を擁護する。刺々森はp115~117のシーンで主人公・貫木と仲間になっている。

 

・だが、絶山はそれでも「一度でも金蔵に加担したからには死の制裁を受けねばならない」と述べる。p129の5コマ目の台詞の主は討条である。

 

・主人公は自分らが絶山と討条の挟み撃ちになっていることに危機感を抱く。

 

・第14話と第15話の間にあるオマケ頁に第2巻の表紙のNGカットが載っているが、NGの方では刺々森が喫煙している。編集部が「少年漫画の単行本の表紙で未成年キャラが喫煙しているのは不味い」と判断したのだろう。

 

 

 

〇第15話の解説

・幸いにも、絶山は主人公・貫木・刺々森に目もくれず、ボス格の討条から殺そうとしている様子である。

 

・舞台は地下に戻り、「自分がブラックリストに入っていること」に驚くヒロイン。花咲は「ブラックリストに入っている理由は知らないし、そのリストを作っているのも自分ではない。いずれにせよ私はただそこに載っている悪を全員殺すのが役目だ」と話す。

 

・金蔵は死の恐怖におびえ、討条が近くにいないことを嘆く。それに対して花咲は「武士(おとこ)なら武士(おとこ)らしく いさぎよく死になよ」と言い放つ。

 

・ヒロインは金蔵の真剣を借り、花咲と真剣勝負することを決意する。だが、ヒロインは膝に傷があり、コンデションは不良である。ヒロインは「ハンデよ」と言い、「私は武士(ぶし)の名にかけて絶対に負けたりしない」と叫ぶ。

 

・グラウンドでは、絶山と討条の決戦が始まっていた。決戦が始まる直前に、主人公は「さっきの挟み撃ちの状況よりかはマシかもしれないが、勝った方(より強い方)と僕たちは闘わないといけないんだ」と覚悟する。絶山と討条の戦闘中に主人公・貫木・刺々森が逃げ出していないのは「勝った方(より強い方)と闘って勝利しない限りヒロインを救うことは出来ない」と考えているためだろう。また、絶山と討条の戦闘中にアジトへ向かわなかったのは、金蔵が恐怖のあまり戦闘不能状態に陥っていることを知らなかったから。

 

・決戦は討条の勝利で終わった。討条は一度だけ、凄まじい速度で剣を抜いていた。主人公・貫木・刺々森のうち、それが見えていたのは主人公だけであった。なお、p148~149の見開きで描かれている決着シーンは『BLEACH』の朽木白哉による千本桜のシーンと雰囲気が似ている。

 

 

 

〇第16話の解説

・主人公は自分に任せるよう言い、一人で討条に立ち向かおうとする。貫木が「こいつ(主人公)の背中…こんなに大きかったか?」と感じるほど、主人公をヒロインを助けに行くために勇気を振り絞っている。

 

・討条は、この勝負で自分の武士道と主人公の武士道の優劣を決めようとする。主人公も「望むところだ」と同調する。主人公が、討条との戦いに貫木と刺々森を助太刀させなかったのは、この真剣勝負を通して互いの武士道の優劣を決めるため。(助太刀があったら、仮に主人公が勝ったとしても、「主人公の武士道がより優れていたから戦闘に勝ったのではなく、単に仲間の助太刀があったから勝てただけ」という可能性も生じてしまう。)

 

・花咲に善戦するヒロインだが、花咲の体術は手ごわい。花咲はそろそろ仕留め時と考え、制服と背中の隙間に隠していた真剣を取り出す。

 

・ヒロインは「も もしかして あなたも女なのに武士を目指しているの!?」と驚く。それに対して花咲「? 別にぃっ」「だってあんなのただの肩書でしょ?それに目指すも何も自分自身 武士の心をしっかり持っていれば誰が何と言おうと女だって立派な武士なんじゃないの」と述べる。p159の2コマ目は第1話(第1巻p23の3コマ目)と同じ表現技法である。

 

・グラウンドにて対峙する主人公と討条。主人公は「討条は刀が非常に長く、剣速もハイスピードで、迂闊には攻撃を仕掛けられない」と冷静に分析する。

 

・主人公は必死で覚醒状態になろうとするが、なかなか覚醒状態になれない。そのため、討条の「秘剣 居合い返し」という攻撃を受けて倒れてしまう。だが、それにより、主人公は覚醒状態になれた。p171では、<変身条件の中に「自分の身が危険になったトキ」っつうのも入ってるとはな>とある。つまり、自分の身体が危機に瀕しているときに「武士(おとこ)らしく」と意識すれば、主人公は覚醒状態へと変身できるのだろう。

 

 

 

〇第17話の解説

・p175の1コマ目で、貫木が「急がないとまずいかもな」と言ったのは「討条と主人公の一騎打ちが討条の勝利で終わった場合、(主人公より弱いと見られる自分一人で討条に立ち向かうのは無理があるので)自分と刺々森の二人で討条と闘う必要が出てくる。そのときヒロイン救出は今以上に絶望的になる。今のうちに自分か刺々森かのどちらかがヒロインを救いに行った方がヒロインを救える可能性は高い」と判断したためなのだろう。「今のうちにヒロインを救わないと、ヒロインが金蔵に殺されて手遅れになってしまうかもしれない」と判断したためである可能性もある。

 

・p175の5コマ目の「ここは俺に任せて」は「討条と主人公の一騎打ちが討条の勝利で終わった場合、無理があるとはいえ、自分一人で時間稼ぎなどのあがきを行うから、この場に関しては俺に任せてほしい」という意味。

 

・p175の7コマ目で、討条が「待て 刺々森!!」と叫んでいるのは、「主に逆らってはならない」という討条の武士道に基づく。p176の1コマ目で、主人公に視線をそらしている討条に対し、主人公は「俺を忘れちゃこまるぜ」と注意喚起をする。

 

・p176の3コマ目で、討条が「ちっ」と遺憾そうな態度を示しているのは、「主人公のせいで刺々森が自分の思い通りにならないこと」を不快に思っているため。

 

・刺々森はヒロインを救いに地下へ向かう。満身創痍の絶山は携帯電話を介して花咲に「作戦は一時中止だ」「かなりダメージを負っちまった」「グラウンドまで向かいに来てくれ」と伝える。花咲は「残念だけど勝負はいったんおあずけ」「それじゃあね月島さん」「また今度勝負しようね」と言い残し、アジトを去る。花咲が絶山と通話している隙に、ヒロインが花咲を攻撃しなかったのは、疲労がたまっていて思うように体が動かなかったためか。

 

・花咲が去った直後、刺々森がヒロインを迎えに来く。p180の4コマ目は『BLEACH』のルキア救出シーンを彷彿とさせる。

 

・p181の1~3コマ目で、金蔵は恐怖のあまり錯乱し、狂人のようになっている。

 

・グラウンドで討条と壮絶な真剣勝負を繰り広げる主人公だったが、討条に左目を斬られ、右目しか使えなくなってしまう。

 

 

 

〇第18話(最終話)の解説

・刺々森に連れられ、グラウンドに到着したヒロインは、傷だらけの主人公に「あたしは助かったんだしもう闘う必要はないわ!」と言うが、主人公は「月島…」「…これは真剣勝負だ…」「武士(ぶし)として ここで決着をつけず相手に背を向けるワケにはいかない…」と呟く。

 

・勝つためには、いま、このタイミングで一撃技を決めねば体がもたないと悟った主人公は知力の限りを尽くして一撃技を決める。p202の作画は文字情報を全く用いずに、主人公が討条に勝利したことを表現しており、文字量が膨大だった第1話とは真逆である。

 

・討条は「キサマの武士道…その剣でしかと見せてもらった」と呟き、倒れる。主人公も「お前の武士道も悪くなかったぜ」と呟き、ニヒルな笑みを浮かべる。

 

・村山斬(『斬』の主人公)は、『ONE PIECE』のルフィ同様に敵を殺さないというポリシーを有している。だが、戦闘を通して相手の信念を砕いていくルフィとは対照的に、村山斬は相手に勝利した後であっても相手のポリシーを全否定せず、「お前の武士道も悪くなかったぜ」と告げる。

 

・体力がつき、主人公は倒れる。出血量の多さに驚愕する貫木。救急車を呼ぶヒロイン。主人公は「みんな…ありがとう」「みんなと友達になれて…本当に良…かっ…た」と言い残し、意識を失う。

 

・一か月が経ち、討条と壊原は学校を後にする。貫木と刺々森は屋上で会話をしているが、貫木は刺々森を「ハダカ」と呼び、刺々森は貫木を「野獣」と呼んでいる。ヒロインが屋上に現れ、刺々森の喫煙を注意する。丁度そのとき、怪我から回復した主人公が学校にやってくる。主人公が「ただいま みんな!」と三人に言い、「僕はこれからも頑張っていきたいと思う…本物の武士になるために!!」と締めの台詞を遺して『斬』は完結する。

 

・カラー絵だとオレンジ色の髪ではなく茶髪なので余り気にならないが、白黒の絵だと刺々森の顔が黒崎一護に似ているように見えてしまう…。耳のピアスなど相違点はあるが、全体的な雰囲気は似ている。

 

・生徒会に命を狙われていた刺々森が(生徒会の監視が続いているとはいえ)退学せずに済んでいるのは、刺々森が汚い仕事には手を染めていなかったことが影響していると思われる。仲間となった主人公・ヒロイン・貫木が学校側に刺々森の退学処分を辞めるよう懇願した可能性もある。

 

・無双高校の校長が単に進学校を目指しているのなら、金蔵一味を退学させれば済むだけの話なのに、何故「皆殺し」にこだわったのかは作中で明言されていない。校長は「金蔵銭太郎の父親は日本有数の金持ちなので金蔵銭太郎に退学を強要するのは現実的ではない」と判断したのかもしれない。その一方、『斬』の世界観では、真剣勝負であれば殺しても世間からの非難が来ないので、校長は世間からの非難を避ける目的で生徒会執行部に皆殺しを命じたのではないか。

 

 

 

〇最後に

『斬』は萌え豚や腐女子の需要を満たせるような漫画ではない。しかし、熟読すればするほど面白さを感じ取れる漫画だと筆者は考えている。未読の方はネット通販や「ebookjapan.yahoo.co.jp」などで読んでみてはいかがだろうか。

昨晩、サッポロ生ビール黒ラベル、アサヒスーパードライ、キリン一番搾りを飲み比べてみた。

缶の口は黒ラベルと一番搾りがやや大きめで、スーパードライはやや小さめといった外見である。

黒ラベルと一番搾りは缶の色が銅色じみていて、スーパードライは銀色じみていた。

一番搾りの味と香りはオーソドックスで、黒ラベルは僅かにフルーティーな風味だった。

黒ラベルは、「沖縄」と缶に書かれていたオリオンの生ビールと風味が近いような印象もある。

黒ラベルは缶に「丸くなるな、星になれ」と書かれていたが、苦みは自分の舌ではそこまで強く感じられなった。

スーパードライは風味が淡麗だった。

 

今回、私は缶のまま飲んだため、容器に注いだときの泡立ち具合などは比較していない。

以前は生ビールを余り飲んでいなかったのだが、最近は飲む機会が増えている。

個人的には、どの生ビールも何らかの魅力があるのかなと思う。

むかしむかし、或る国には最高裁国民審査という制度があった。

これは、有権者が政治家を決める選挙のついでに、最高裁判事の国民審査を行うという制度である。

「この判事をやめさせたい」という希望があれば、その判事に×をつけて用紙を提出し、希望がなければ何も書かずに用紙を提出するという仕組みで、×が半数を超えた判事は不信任多数となり、最高裁判事の資格を失うことになる。

最高裁国民審査という制度が始まって70年以上もの年月が経っているにも拘らず、この制度によって失職した最高裁判事はいない。

 

その国には流般(るぱん)という政治家がいた。

流般は祖父の代から続く世襲議員で、親の政治基盤をもとに与党ナンバーツーの立場を得ていた。

彼は改革というワードが大好きで、何か大きな制度改革は出来ないだろうかと毎日のように考えていた。

そんな或る日、彼は金融業を題材にした漫画を読んだ。

その漫画には「最高裁国民審査の制度を不信任の判事に×を付ける方式から、信任の判事に〇を付ける方式に変更すべき」との主張があった。

彼は「なんて抜本的な改革なのだろう」と感嘆し、実際に最高裁国民審査のスタイルを×を付ける方式から〇をつける方式へと変更させた。

そのニュースは新聞やネット等で大きく報じられた。

 

そして、4年後、国政選挙が行われ、方式変更後初となる最高裁国民審査が行われた。

その結果は驚くべきものとなった。

なんと、最高裁判事全員が不信任となったのであった。

どの判事も信任票は3割ほどあったのだが、誰一人5割を越えなかったのだ。

 

この珍事は世界的に話題となり、大手メディアは発生原因を探るべく街頭インタビューなどを行った。

調査の過程で、「最高裁国民審査の方式変更は確かにマスコミ等で大々的に報道されていたものの、政治経済に関心のない有権者の大半はそのニュースをそもそも知らなかったり、正確に理解していなかったりしていた可能性」などが浮上した。

また、「どの判事が信任になろうが不信任になろうがどうでもいいけど、十数人に対して、いちいち〇を書くのはめんどくさかったから、何も書かないまま用紙を提出した」とニュース番組の取材者に言い放った人もいた。

 

聞くところによると、この珍事の影響で流般は有権者からの支持を少し失ってしまったそうである。

 

 

(完)

 

〇楽曲

赤い鳥 『竹田の子守唄』  (歌詞つき

 

 

〇歌詞 (赤い鳥1971年シングル版)

守りもいやがる 盆から先にゃ
雪もちらつくし 子も泣くし

盆がきたとて なにうれしかろ
帷子(かたびら)はなし 帯はなし

この子よう泣く 守りをばいじる
守りも一日 やせるやら

はよもいきたや この在所(ざいしょ)越えて
むこうに見えるは 親のうち

 

 

〇歌詞を不自然と主張する声

森達也の『放送禁止歌』などで取り上げられているように、「竹田の子守歌」には「歌詞が不自然である」との意見が存在する。

たとえば、「旧暦の盆は新暦7月(もしくは8月)中旬ごろなので、東北地方や北海道などなら兎も角、雪というには時期が早すぎる」という声や、「この歌詞の主人公である守り子が『向こうに見える親の家に帰りたい』というのは不自然だ」という声などがある。

 

 

〇私見

だが、この2つの意見は適切ではないように思われる。

まずは一つ目から。歌詞には「盆から先にゃ」とある。月遅れ盆(新暦8月15日)も過ぎれば、秋が来て、気温も当然下がっていく。

肌寒さを感じる日が増えてくれば、寒さの象徴ともいえる雪の情景がちらつくようになるのも自然なことである。

また、二つ目に関してだが、在所を『明鏡国語辞典 第二版』にあるように「住んでいる所」という意味で捉えるなら、「早くいきたいな、いま自分が住んでいるこの場所を越えて」という意味になる。「むこうに見えるは親のうち」という箇所も、「親のうち(家)は向こうに見えるものの、子守奉公の期間が終わるまでは親の家に行けない」という意味や、「実際は目視出来ないほど遠くの距離にある親の家が向こうに見えてしまうほど、親の家への思いが強い」という意味などで捉えれば、不自然な歌詞とは言い難い。

 

 

〇歌詞の解釈の一例

守り子も嫌がる盆の時期より後になると
次第に気温が下がり 雪の情景がちらつくようになって子も泣く

 

盆が来たとして 何か嬉しいことがあるだろうか
夏用の単物も 高価な着物を整えるための帯もない

この子はよく泣く 守り子をいじめる
守り子も一日で やせてしまうのではないか

早くいきたいな いま私が住んでいるこの場所を越えて
向こうに見えるのは 親の家

〇初めに

2021年7月、西村博之(ひろゆき)氏は小島剛一(F爺)氏に対してレスバトルを仕掛けた。本記事では、それに伴う騒動をputain騒動と呼ぶことにする。

 

 

〇putain騒動に関する詳しい時系列

時系列が載っている記事があったので、紹介します。

論理破綻王ひろゆきと小島剛一氏(F爺氏)の騒動に関するまとめと各種所感|wing-x|note (魚拓

 

 

〇考察

西村氏は日本人なので差別を受けている側の人間なのに何故か差別発言をしたサッカー選手を擁護していた。このように、西村氏はputain騒動で複数回、常軌を逸した言動に及んでいる。

 

挙句の果てに、西村氏は「(自分の主張に賛同しない人は)みんな間違っている」とまで言い放った。

 

筆者は「なぜ西村氏は自分の主張の苦しさをこんなにも認めようとしないのだろう」と感じ、彼のポリシーや価値観を探るべく「ひろゆき切り抜き動画」をわざわざ検索して何本か視聴した。

そのときに初めて見た動画と既に見ていた動画の両方から分かったのは、西村氏は「世の中には正面から向き合うに値する人間と値しない人間がいて、値しない人間は蠅のように軽くいなせばいい」と考えていることである。また、西村氏は「頭がいい」「頭が悪い」が口癖であることも分かった。

 

西村氏が自分の主張の苦しさを認めようしない最大の理由は、西村氏は持説を確信しているとき、持説と異なる見解の人を「頭が悪い」とみなし、内心では蠅のように扱っているからではないだろうか。

 

西村氏とラテン語さんの論争(魚拓)でも、西村氏はラテン語さんの指摘を正面から受け止めようとしていない。

実は西村氏は以前から「英語は簡単な言語である。だから、世界共通語になった」という持論を書籍・テレビ・ネットなどで述べていた。

そのゆえに、西村氏はラテン語に詳しいラテン語さんに無謀ともいえるレスバトルを仕掛けてしまったのだろう。

 

「頭がいい」「頭が悪い」を口癖にしている中年男性に対して筆者が言いたいのは「大した根拠もなく或る分野のエキスパートの方に論戦を仕掛けるのは狂っているのではないか」ということだ。

「エキスパートだって間違えることがある」と言う人もいるかもしれないが、エキスパートが自分の専門分野について述べるのと、素人が述べるのとだったら、どう考えても前者の方が後者よりも間違える可能性が低い。

もちろん(特にフェミニズム界隈で多いのだが)或るジャンルの専門家であっても明らかに不適切なことを述べていると分かるケースもある。その場合は「専門家だから正しいのだろう・・・」などと鵜呑みにするのではなく、確かな情報源に基づいて批判なり反論なりを行うべきである。

 

 

〇補足

「或るジャンルの専門家であっても明らかに不適切なことを述べている状況」の具体例として、「スポーツ・ルールにおける平等と公正」という論文を挙げる。

私はこれを読み、「これ書いた人って正気なの?」と即座に感じた。この文章には<クラウディオ・タンブリーニという研究者は、子どもの頃から男女混合方式で競技が行われれば、スポーツ選手は性別に関係なくほぼ同じ競技レベルに到達するだろうと主張する>という内容が書かれているが、身体的な性差がスポーツの競技レベルに影響しないはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨今、ひろゆき動画がYouTubeで流行しているが、その動画は主に西村博之氏のLIVE動画からの切り抜きである。

LIVE中に送られてきたスパチャ(投げ銭コメント)は西村氏に読まれるものもあれば読まれないものもある。

この読まれなかったスパチャに注目するというのはどうであろうか。

「何故このスパチャは読まれなかったのか」や「どういった性質のスパチャは読まれやすいのか」などを分析する動画をYouTubeに出せば、もしかしたら伸びるかもしれない。

 

 

※参考記事

エッセイ 西村博之氏のputain騒動での醜態を考察する

2005年、小泉政権は郵政民営化の是非を有権者に問う選挙を行った。

この選挙は小泉政権サイドの圧勝に終わったが、彼らは『郵政民営化を進めるための企画書』を利用していた。

この企画書の表では「D層」とは直に書かれておらず、「名無し層」や「命名無し層」といった扱いになっている。

 

一方、この企画書におけるB層という用語を社会分析に援用した哲学者、適菜収氏は『ゲーテの警告』にて、表にD層という語句を明記した上で「負け組、ひきこもり、ニート」といった例示を行った。(ただし、書籍の本文ではなく帯に書かれた表なので、適菜氏本人ではなく編集者が書いた表である可能性もある。)

 

ただ、この例示は正確とは言えない。

「負け組」はA層の「(財界)勝ち組(企業)」との対比であろうし、特に問題はないが、「ひきこもり」や「ニート」は「不況によって職を失ってやむを得ずそのような境遇になった人」も含む。また、「ひきこもり」や「ニート」の中には構造改革に肯定的な人も或る程度いるはずである。

そのため、D層は企画書の一部を引用し、「既に失業などの痛みにより構造改革に恐怖を覚えている層」と定義するのが無難かと思われる。

(表で「既に失業などの痛みにより構造改革に恐怖を覚えている層」のIQが低めに位置づけられているのは、「IQが高ければ失業を回避できたはず」という前提に基づいているためかもしれない。ただし、実際は優秀で実績も出していた社員が人員整理の影響で解雇されるなど、個人の努力やIQが報われない形で失業してしまうケースもあるので、その前提は必ずしも成り立たない。)

 

 

余談だが、この『企画書』、大儀よりも大義の方が自然な漢字表記なのでは。実際、適菜氏の本では大義となっている。

 

〇『グラビティー・フリー』とは

2021年7月26日発売の『ジャンプGIGA2021 SUMMER』に載った読切漫画。作者の石川理武氏にとっては初の『GIGA』掲載作品となる。前作『炎眼のサイクロプス』と異なり、原作(脚本)も作画(絵)も全て石川理武氏が担当している。

 

 

〇あらすじ(ネタバレあり

大統領夫人が高級車に乗っている。

自分の多忙さを嘆く夫人。

夫人は目的地に到着し、車から降りようとするが、主人公アキラが夫人を制止させる。

アキラは拳銃の引き金をひき、夫人の命を狙っていたテロリストに向かって発砲する。

直ちに拘束されていくテロリストたち。

夫人は命を救ってくれたアキラに感謝するが、アキラは「礼には及びません」「大統領とその家族を守る我々大統領護衛(シークレットサービス)の使命ですから」と述べる。

妻の命を救ったアキラの功績をたたえる大統領。

大統領はアキラを別荘に連れていく。

その別荘は(アメリカの)都心から離れた森の中にあった。

アキラは「まるで人目を避けるような場所だ」と感じる。

別荘に入ると、大統領の娘アシュリーがいた。

アシュリーは無重力状態であり、室内で空中浮遊している。

大統領は「5週間前に突然こうなった」と話す。

 

大統領によれば、以下の3点のみが分かっているとのこと。

①アシュリーは遺伝子の一部が変異している

②浮遊対象には重力の歪みによる光の屈折輪が発生する

③浮遊対象はアシュリー自身と彼女が手で触れたもの

 

それ以外は原因も浮遊メカニズムも一切が不明であり、詳細は血液検査の結果が出るまで分からないと話す。

 

大統領はアキラに「血液検査の結果が出る一か月後までアシュリーの無重力能力を世間に秘匿せよ」と命じる。

アキラは「了解(イエス・サー)」と答えるが、アシュリーは「あっかんべー」の表情をアキラに向ける。

こうしてアキラとアシュリーの共同生活が始まった。

アシュリーは最初はアキラに向かって「パパに電話して!アジア人が世話係なんてイヤ!」と語っていたが、やがてアキラに対して心を開いてゆく。

血液検査の結果が一週間ほど後に出る段階になると、アシュリーが「夜中に一人でノートPCで作業をしているアキラ」に会いに行き、「今週末にあるパパの誕生日、パパがこの別荘に来てくれるって話が入ったから、パパにサプライズでお祝いがしたい」と自分の本心を打ち明けるほど二人(アキラとアシュリー)の関係は良好になっていった。

 

パパ(大統領)の誕生日が迫り、アシュリーとアキラは大統領に向けてサプライズの準備をしている。

その最中、アシュリーは「今の大統領夫人はアシュリーの実の母親ではなく、実の母親が亡くなってすぐ家に入り浸るようになった大統領の恋人に過ぎない」と話し、「あの人(夫人)にとって私はどうでもいいみたい」「見てればわかるわ私に興味ないって」「ここだって一度も来ていない」「わかってる きっともうパパとは暮らせない」と自分の境遇を泣きながら呟く。

実際、何日か前に大統領夫人が別荘に電話をかけてきたことがあったのだが、電話主が夫人と知るや否やアシュリーは強い不快感を示していたのだった。

更に「自分が無重力になってから、パパの様子が明らかに変わってしまった」と話すアシュリー。

アシュリーは「無重力のせいでこのままずっと世界でひとりぼっちなんだ」と嘆くが、アキラは「宇宙行こうぜ」と励ます。

 

アキラ「宇宙行こうぜ」「宇宙ならみんな無重力だ」

アシュリー「・・・宇宙なんか行けないもん」

アキラ「今はな」「でも必ず来る・・・『宇宙が普通になる日』が」「海外に行くように宇宙に行くんだ」「そう遠い未来じゃない」「きっとアシュリーが俺の年齢になる頃さ」「宇宙ならパパも俺もアシュリーと『同じ』さ」「場所さえ変われば『同じ』になる」「無重力(そのチカラ)はそんな些細な『違い』だよ」「アシュリーはひとりぼっちじゃないよ」「ここの暮らしもずっとじゃない」「パパは必ず迎えにくる」「大丈夫だ」

アシュリー「・・・・・・」「ありがとアキラ・・・」

 

(「パパは必ず迎えにくる」という台詞はフラグとも取れる。)

 

そのときアキラのスマホに一本の電話が入る。

電話主は大統領だった。

大統領は「いま血液検査の結果が来た」「これからアシュリーを別荘ごと燃やす」「彼女(アシュリー)は用済みだ」「世間にバレる前に消したい」とアキラに話す。

アキラは「仰ることが理解できません」と話すが、大統領は「事故に見せかけ殺すんだ」「命令だ すぐ戻れ」と告げる。

 

アキラ「断る」

大統領「やれやれ日本人は情に流されやすくてダメだな」「部隊に連絡 そのまま突入しろ」

 

戦闘部隊が別荘を襲撃し、別荘を破壊していく。

大統領の「アシュリーの能力はすばらしい」「輸送コスト削減 エネルギー問題解消」「間違いなくこの国に技術革命をもたらす」「しかし私の娘では困るのだ」「血縁者に遺伝子異常の異能者など」「私の遺伝子に問題があると思われたら大統領の名声(イメージ)に傷がつく」という音声がアキラのスマホを介してアシュリーの耳に届く。

 

銃弾が足に当たり、足が使い物にならなくなるアキラ。

辛うじて自分の部屋に到着するが、「この足では助けられるのはアシュリーだけ」と判断し、「アシュリー 窓から逃げろ」「キミだけなら気づかれず脱出できる」と告げ、自分の命を犠牲にアシュリーを逃がそうとする。

しかし、「二度と、ひとりぼっちにはなりたくない」と叫ぶアシュリーにアキラは心を動かされる。

 

アシュリーはアキラを抱きしめ、その瞬間アキラはアシュリー同様に無重力状態となる。

無重力となった二人は部隊の兵士全員を負傷・失神させる。

 

部隊が全滅したという報せを知り、「役立たず」と激高する大統領。

大統領が立っている部屋に窓から侵入する二人。

アキラは大統領に「受話器を置きな」と言い、顔面を殴打する。

アキラは「本当は八つ裂きにしてやりたいが アシュリーの決めたことだ」「俺達を探すな 関わるな 要求は以上」と叫ぶ。

大統領は「・・・私が追わなくなったとしても!いつか能力がバレて迫害されるぞ!」と告げるが、アシュリーは「何も問題ないわ」「『宇宙が普通になる日』が必ず来るから!」と述べ、大統領を窓の外へ突き落した。(ただし大統領の胴体に光の屈折輪があることから、大統領が転落死することはないと思われる。)

アキラは「ああ約束するぜ アシュリー!」「もう二度とひとりぼっちにはさせないよ」と述べ、二人は大空へ飛び出していった。

 

 

 

 

 

〇本作の素晴らしい点

★景情一致

景情一致とは作中での景色と作中の登場人物の心理を合わせる技法のことで、『雨の日ミサンガ』でもこの技法は駆使されている。本作の最後ページの最後のコマでは、背景が光でいっぱいとなっていて、底なしの明るさを読者に感じさせる。

 

★キャラデザ

青年アキラも無重力少女アシュリーも男女両方から不快感なく受け入れられそうなキャラデザであり、奇をてらっておらずオーソドックスな雰囲気が漂っている。

 

★無駄のないキャラクター

本作では「ストーリーを展開させる上で省いても差支えのないキャラクター」が見受けられず、キャラクターの人数が妥当であるように感じられる。本作におけるメインキャラクターは主人公アキラ、無重力少女アシュリー、大統領(アシュリーの父)、大統領夫人の4人である。

 

★ディテールのデッサン力

総じて細部(ディテール)のデッサンは緻密で正確。

 

★立体感のある作画

「娘のアシュリーだ」という吹き出しのあるページなどで顕著だが、キャラを立体的に描いているコマが多く、石川理武氏の画力の高さをうかがわせる。

 

★緊張と緩和

石川理武氏は緊張感のあるコマ(写実性の高いコマ)と脱力感のあるコマ(コミカル寄りのコマ)の使い分けが巧み。因みに、石川氏は脱力感のあるコマでは、キャラの目を点で描くことが多い。

 

 

例、『雨の日ミサンガ』の一コマ

 

 

 

例、『グラビティー・フリー』の一コマ

 

 

 

★読者層の広さ

語彙は難し過ぎず、また暴力描写もそこまで激しいものではないので(死者はゼロ人)、老若男女が普通に読めるような読み切りといえる。

 

★日本語の丁寧さ

大統領が主人公アキラに「彼女と我々は遺伝子レベルで違う生き物だ」と述べているが、普通の父親は自分の娘のことを「彼女」とは呼ばないはずである。この「彼女」という呼び方だけでも、大統領がアシュリーに距離感を持っていることを暗示している。ただし、この違和感は英訳してしまうと、消えてしまうものであり、日本語だからこそ表現できたことだと言える。

他にも、大統領夫人の「調子どお?アシュリーちゃんの浮く?病気?治ったー?」という台詞は、アシュリーの「あの人(夫人)にとって私はどうでもいいみたい」「見てればわかるわ私に興味ないって」「ここだって一度も来ていない」「わかってる きっともうパパとは暮らせない」という発言とマッチしているが、これも石川氏の日本語のセンスの高さを示している。

 

★表現力の高さ

漫画ではデッサン力以上に表現力が大事である。ここでいう表現力とは、絵だけで読者に或る状態を伝える能力のことである。

ネットでこの画像が揶揄されているのは、本来銃撃のシーンでは読者に迫力を感じさせねばならないのに、そういった迫力の表現が巧みとは言えないからである。

一方、石川氏は主人公がハンバーガーを作るシーンで、そのハンバーガーの美味しそうな感じを、言葉に頼らずに表現しているなど、表現力が凄く高い。

他にも、アシュリーの寂しそうな表情など、絵だけでキャラの内面や物体の状態を表現できているコマが多い。

『雨の日ミサンガ』の頃より表現力の高さに磨きがかかっているようにも感じられる。

 

 

★キーワード

本作のキーワードは「ひとりぼっち」(孤独)である。

これは現代社会でも取り上げられることの多いトピックであり、政治色が強くない作品であるにもかかわらず、本作は強い社会性を含んでいる。

主人公が自分の生命を犠牲にアシュリーを救おうとしたときに、自死を躊躇わせたのも、アシュリーのかつてのように「ひとりぼっち」となりたくないという願いであった。

 

 

★適切な長さの過去編

少年漫画のなかには過去編(回想シーン)が長すぎたり複雑すぎたりするものがあるが、こういった過去編は読者を不必要に混乱させてしまう。

本作の過去編は一面(2ページ)の半分ほどで終わっており、シンプルかつ無駄のない過去編だといえる。

 

 

★ストーリー展開の丁寧さ

アシュリーが主人公に心を開いていく過程が丁寧に描かれている。

最近の漫画では、こういった過程を省いてしまうものが多いのだが、石川氏はキャラの心理の変化を雑に扱っていない。

 

 

★少女の心の清らかさ

あくまで筆者の空想の域を出ないが、本作は久保帯人氏の『BAD SHIELD UNITED』に影響を受けている可能性がある。

BAD SHIELD UNITED』のレイチェルとマディの構図と、本作のアシュリーと大統領の構図はよく似ている。

後半の方で、戦闘部隊が別荘を襲撃するシーンがあるが、そのときに破壊されていく別荘の部屋の壁は、父を愛してやまなかったのに、その父に殺されかけているアシュリーの悲劇性を物語っている。

(Thank You Daddyの文字やウサギのイラストが銃弾によって破壊されていくのはあまりにも悲し過ぎる。)

 

 

 

 

 

 

★世界観

コカ・コーラ(と思しき瓶)やハンバーガーなどアメリカ社会を反映した作品であり、世界観に無理がない。

 

 

 

〇改善すると良いかもしれない点

ほぼないが、2点ほど挙げられるかもしれない。

 

★ページ数がもう少しあれば良かった

二人がホワイトハウスに侵入し、大統領を殴りにいくという展開が最後の数ページで描かれているが、これは幾ら何でもホワイトハウスのセキュリティーを軽視し過ぎている。恐らく、ページ数の制約により、やむを得ずこういった強引な展開となってしまったのだろう。

宇宙が普通になる日とはどういったものなのか、アシュリーを殺害しようとした大統領の今後など、もう少し続きが読めれば最高だった。(もっとも、ページ数に関しては『GIGA』の誌面の問題だろうので、石川氏には何の非もないとは思われるのだが。)

 

★絵のスケールの大小

このコマ(水色で囲まれているのが主人公アキラ)などで顕著だが、重要なキャラが小さめに描かれているコマが幾らかあった。私などのように『GIGA』を電子版で読んでいるのなら、拡大すればよいだけなので、そこまで読む上で支障はないが、アナログ版の読者だと、読みにくさを感じてしまう人もいるのではないか。(ただし、そういったコマを除けば本作は全体的に凄く読みやすい作画だった。)

 

 

 

〇私見

宇宙開発という未来志向の話題がキーワードとなっており、底なしの明るさをクライマックスに持っていくという構成は見事だと思う。

今後も石川理武作品が発表されれば、レビューしていく予定である。